次期コンパクトEVをいち早く手に入れる方法は? テスラ「2023 Investor day」徹底解説【03】

2023年3月2日に開催された「Tesla’s 2023 Investor Day」を翻訳者でテスラオーナーの池田篤史氏が3回に分けて徹底解説。最終回はQ&Aセッションを紹介。さらに、池田さんならではのEVsmartブログ恒例「トリビア」情報をお届けします。

次期コンパクトEVをいち早く手に入れる方法は? テスラ「2023 Investor day」徹底解説【03】

Q&A/次期PFで複数セグメントの車種を!

この日プレゼンを行った各部署の責任者が壇上にずらりと揃い、まずは記者に聞かれる前にイーロン・マスクから正式にギガメキシコ工場のアナウンスがあります。位置的にはギガテキサス工場から南に約600km、ヌエボ・レオン州のモンテレーという街になります。この工場で得た知見をブラジルやアルゼンチンのギガファクトリーに展開するのでしょう。

ヌエボ・レオンには自動車工場が多く、またこちらのサイトによると、上海の工場労働者の平均年収が127万円なのに対して、ヌエボ・レオンは99万円のため、非常に魅力的な立地です。

ここからQ&Aが始まるのですが、私が面白いと思った質問だけを抜粋しています。

Q/色々な新技術を紹介したが、いつ実戦投入するのか?

既存の工場のラインを止めるより新しい工場で新技術を投入したい。ここ2~3年で急速に展開していく。

補足/つまり、モデルYは工場によっては作りが異なる(統一しない)ということと、ここ2~3年で他のギガファクトリーの発表もされるということのようですね。

Q/採掘事業など、昔から何も進化していない業種に型破りな発想を持ち込む予定は?以前、泥からリチウムを取り出す特許を取っていましたね?

ボトルネックになっているところは改善したい。でも業界を乗っ取りたいのではなく、変化が遅い部分を解決して、その技術は我々のサプライヤーと共有したい。

Q/次期モデルとしてコンパクトカーとワンボックス的なものが見えたが、今後はどういうモデルを優先的に出すのか? そしてそれがモデル3/Yより50%安いのなら、自社の他の製品の売上を奪ってしまうのではないか?

テスラの需要は無限だ。安い車を作れば作っただけ売れる。そんな心配より、実際に量産できるかを考えた方がいい。次期モデルのプラットフォームは複数のセグメントに利用できる。

補足/つまり次期モデルはフィアット500のようなAセグから、VWゴルフのCセグぐらいまで幅を持たせられるということでしょうか。その中でさらにハッチバックやクーペ、ワンボックスなど、バリエーションを持たせてくれるとありがたいですね。興味深い発言でした。

Q/自動運転のソフトについて、例えばモービルアイのREMと何が違うのか?(新型モデルS/Xに搭載されている)ハードウェア4についてコメントできることはあるか?

(REMもクラウドソーシング型だが)我々は高精度地図を作るのではなく、自動ラベリングを行うのが主目的だ。テスラは世界最大級のニューラルネットトレーニングシステムを持っており、年末までにその能力を10倍以上に引き上げ、さらに来年末には100倍以上に引き上げる予定だ。

Q/バッテリーのドライ電極の開発状況はどうなっているか?

順調に進んでいます。お金や設備を無駄にしてしまっても構わないが、時間を無駄にするな、とイーロン・マスクはチームに何度も声をかけてくれている。おそらく、今年中に「大量」生産にこぎつけるだろう。

補足/「時間を無駄にするな」というのがいかにもベンチャー企業を複数起業してきたイーロン・マスクらしいですね。日本の会社はどうしても決断が遅い。サプライヤーが絡むとさらにスピードダウンする。そういった部分を改善できれば日本の勤勉さを生かして巻き返せるのかもしれません。

EVsmartブログ恒例のトリビアコーナー

おなじみのトリビアコーナーに、今回は私の勝手な意見や考察も含めてみました。

日本はエネルギー自給率100%を達成できるのか。

連続解説企画第1回の本文中にある「ソーラーや風車を設置する土地も陸地面積のたった0.2%しか必要ありません。日本に当てはめると約756平方キロで、福島県郡山市と同じサイズですね」という文章ですが、郡山市を全部ソーラーに置き換えるのは現実的じゃないので、試算してみました。

東京都では2025年4月から新築にソーラーパネル設置が義務化されますが、仮に日本中のすべての建物にソーラーを付けたとしたらどうでしょう? 日本の戸建住宅は全部で6000万戸、平均床面積90平方メートル、全て2階建てと仮定すると屋根面積は45平方メートル、つまり日本の総屋根面積は2700平方キロ。屋根の30%がソーラー設置可能面積として、810平方キロのソーラーパネルを確保できます。

あとは商業施設や工場などの屋根を足せば1000平方キロぐらいあると思われます。豪雪地帯は冬の発電が期待できないので、全体の25%が発電不能と見積もっても756平方キロ分の発電面積は確保できそうです。そこに風力や潮力、水力発電も足せば、平地面積が少ない日本でも再エネだけで自給自足できそうですね。

生産台数世界一位のトヨタを随所で意識

例えばエネルギー効率の話で、カローラより4倍効率がいいと比較対象に持ち出したり、次期モデルは乗り出し価格でカローラより大幅に安いと言ったり、最近トヨタの幹部がモデルYを分解研究して「芸術的なエンジニアリングだ」と称賛した話をしたり、年間1000万台を販売するトヨタよりも自社が優れていることを猛アピールしています。

Optimus君の使い道

直接イベントと関係ないのですがOptimus君のスケーラブルな使い道を思いつきました。自動運転の配達トラックの後ろに2~3体Optimusをくっつけて、人手不足の物流業界に投入するのはどうでしょう? 複雑な地形は人間に任せて、簡単な家だけでもロボットが24時間休まずに配達してくれたら楽ですよね。Optimusなら荷物を投げないし。

48Vアーキテクチャ

いわゆる補機類のシステム電圧を従来の12Vから48Vに上げるアイデアが示されました。電圧を上げることのメリットはイベントの中で説明されたとおりです。一方で、電圧を上げると感電リスクが高まります。一応、死亡事故のリスクを避けるギリギリの線を攻めてきていますが、夏場で汗をかいていたりすると12Vとは比べ物にならない痛い思いをすることになります。整備士学校でもそろそろEV科を作って、エンジンのことを一切知らなくても電気やソフトウェアに強い生徒を育ててください。

次期モデルにも搭載される標準テクノロジー?

無線充電はWiTricity社の磁気共鳴方式がすでにホンチー(紅旗)E-HS9やジェネシスGV60、北京汽車(BAIC) ArcFox、IM Motors L7といったモデルに採用されており、将来的には車載充電器(OBC)の一部を充電器側に持たせることで車両を軽量化することも可能です。他にも走行中の非接触給電が可能な日本発のベンチャー、パワーウェーブ社の電解結合方式などもあり、場所や使い方に応じて特徴の異なる充電方式が社会実装されていくと考えられます。

本当に$25,000の車なんて実現できるのか?

イーロン・マスクはモデルSを発表する際に「5万ドル未満のセダンEVを作る!」とぶち上げて話題を作り、蓋を開けてみれば60kWhバッテリーを40kWhに制限し、かつ、コネクティビティやスーパーチャージャーまで有料のとんでもないグレードを$49,900で売って「約束は果たした!」とお茶を濁しました。

モデル3の時も、性懲りもなく「$35,000ドルの大衆EVを作る!」といって、今度こそエントリーグレードを$35,000で販売しようとしたのですが、どうしてもあと数千ドル届かなくて、仕方なく布シートにセンターコンソールなしの「誰が買うの?」というようなグレードを作り、「約束は果たした!」と言ってすぐに幻のグレードの販売を終了しました。

さて、今度は$25,000の車を作るのか、それとも実際のエントリーモデルは3万ドルで、そこにFSDを足すと$45,000になるのかな?

ギガメキシコ竣工記念パーティー

ギガテキサスのイベントテーマはカウボーイでしたが、ギガメキシコの演出テーマはどうなるのでしょうか? 80年代サブカルが好きなイーロンなら、The Three Amigos (邦題:サボテンブラザーズ)のコスプレをして登場するのではないかと想像しています。

Amazon.co.jp より引用。

また、おそらく次期モデルの予約もこのタイミングで同時に始まると思うので、予約合戦がヒートアップするのは間違いありません。モデル3の価格帯ですら最初の24時間で20万台の予約があったそうです。いち早く手に入れたい方はイベントにリアルタイムで張り付いて、受付開始と同時に最上位グレードを購入し(下位グレードは納車が後回し)、納車時期が近づいてきたらメキシコに、テスラアカウント上の住所を移すことです。

最後に、イベント前の期待値として、多くの方がModel 2(?)の発表を待ち望んでいましたが、結局詳細は一切公表されず、イベント後に株価も大きく下落したほどです。

しかし、彼らの話を聞くと、人類の持続可能なエネルギーへの転換を切望しており、自分たちのできることは全てやり尽くし、利益度外視でサプライヤーを助けたり、自分たちで新技術を開発したりしているのです。そうしたビジョンに共感できる人たちは、できる範囲でテスラのInvestorになってくれと頼んでいるように感じたイベントでした。

文/池田 篤史
※記事中の画像はTeslaのPDF資料やアーカイブ動画から引用。

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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