フォードが自社EVの急速充電でテスラスーパーチャージャーを利用可能に/日本はどうなる?

日本時間の5月26日早朝、フォードのCEO、ジム・ファーリーがツイッターのSpaceという機能を使ってテスラのイーロン・マスクと共に、北米におけるテスラのスーパーチャージャー網をフォードに開放すると発表しました。2024年モデルからアダプターを提供。2025年からNACS充電ポートを装備します。

フォードが自社EVの急速充電でテスラスーパーチャージャーを利用可能に/日本はどうなる?

発表内容は消費者だけでなく業界にとってもメリット

Twitter Spaceのアーカイブ。会話は1分30秒くらいから始まります。

ファーリーCEOは「テスラの協力を得て、2024年初頭に既存のフォードオーナーを含めテスラがもつ全米12,000基のスーパーチャージャー(SC)が利用できるようになる。また、その1年後の2025年初頭から発売するフォードの第2世代EVにはNACS充電ポートを備える」と述べました。NACSとはNorth American Charging Standard (北米共通充電規格)の略で、つまりはテスラの充電システムを意味します。

現在もごく少数のSCで、テスラアプリを使うことで他社EVオーナーも充電ができるのですが、今回の発表ではテスラのAPIも連携させることで、フォードユーザーはフォードの純正アプリを使って充電ができるようになるそうです。テスラ車のようにケーブルを挿すだけで充電から課金が自動的に行われるかは不明です。

テスラのNACS充電網は立地もよく、故障率が極めて低く、コネクタも軽量で扱いやすく、すごい勢いで数を増やしています。2025年からテスラ方式の充電ポートを備えたフォード社は、テスラの低速充電網、デスティネーションチャージャーも利用できるものと推測されます。もちろん、フォードがこれまで築き上げた1万基の急速/普通充電器も利用可能です。

テスラの故障率の低さは機器の作りの堅牢さに加え、故障を検知するシステムと、すぐに派遣できる人員がいることで成り立っています。

現在のフォード車は北米ではCCS規格の充電ポートを採用しているため、こうした車両のユーザーはテスラが来年初頭に生産を開始する予定のアダプターを使って充電することになります。日本のテスラ車がアダプターを使ってCHAdeMO充電器を利用するのと同じ仕組みですが、イーロン・マスクは「アダプターは数万円程度で販売予定。充電速度はアダプターに制約されず、車両やバッテリーが受け取れる最大速度で充電できるようにしたい」と言っています。

少し気になるのが、テスラの急速充電器は発熱しないよう液冷ケーブルを利用していることです。アダプターにはそうした機構がないため、どこまで充電性能が約束できるか不明です。

参考までにテスラのCHAdeMOアダプターは50kWが最大となっており、最近増えてきている150kW級のCHAdeMO充電器はフルに性能を発揮することができません。以下の写真は、科学的な実験と呼べるものではありませんが、夏の暑い日にアダプターや充電器側のケーブルに氷水を散布して充電性能が上がるか試したものです。結論から言うと、効果が全く見られないわけではありませんが、中を冷やさないと、外側から頑張っても、まさに焼け石に水でした。

画像をクリックすると拡大します。

料金についても、フォードはサブスクリプションを含め、多様な支払いオプションを用意するそうで、単価も現実的なものにするそうです。ファーリー氏は車両のソフトウェアのアップデートにも言及し「ソフトウェアのアップデートはとても難しい。テスラのOTAはよくできている」と言っていることから、恐らくNACSシステムを使う上でテスラ側からアップデート対応が必須要件として突きつけられているのではないかと推測します。

マスク氏も「今後は充電網だけでなく、ソフトウェアでも、まるでAndroidがスマートフォンメーカーの基礎となっているように、各社をサポートできるならしたい」と言っているため、今後はテスラOSが普及するのかも知れません。

一方でデメリットとなる業界も

今回、テスラのNACS規格を採用するにあたり、ファーリー氏は「フォード社内で議論はあったが、ユーザーの目線からメリットのある決断だと判断した」と言っています。フォードオーナーとEVのサプライチェーンは恩恵を受けるのですが、NACS充電網の性能があまりに良いため、今後多くのメーカーがNACSにシフトすると、既存のCCS充電網や、それを設置した施設は利用率が下がり、施設維持もままならなくなり、衰退することが予想されます。

さらに、このトークイベントでは北米の中古車ディーラーの方が質問をするのですが、フォードは「顧客が価格の透明性を求めているため、来年初頭には(テスラと同じ)オンライン販売方式と、値引き交渉のない一律価格の販売モデルに移行する」としており、乗用車セクターにおけるディーラーの役割が減ることを示唆しています。ただし、商用車はメンテナンス等も頻繁に必要になることからディーラーの存在は不可欠です。

日本への影響

日本もテスラ車はNACS規格を採用しており、今後フォードだけでなく欧州や中韓EVメーカーもNACSを米国市場でサポートするようになれば、必然的に日本にもNACSモデルが輸入されるでしょう。テスラ充電器の利用率が上がり、ますますSCの数が増えると予想されます。

ただ、現在テスラのSCは高速道路のサービスエリア(SA)には設置されておらず、一度高速道路を降りて、充電器まで走っていく必要があります。私が聞いている話では「SAに設置する充電器は公共性が求められ、テスラ1社しか使えないものは設置を許可できない」という理由付けですが、より多くのメーカーが利用できるようになると、今後はSA内に設置できるようになるのかも知れません。

日本メーカーがNACSに乗り換えることがあればCHAdeMO充電網が陳腐化するため、この話題は今後も注視が必要です。また、NACSブームが来るのであれば、商業施設などは誘致合戦に突入することになるため、条件が良い今のうちにテスラに相談して(窓口はこちら)SCを設置するのもアリかも知れません。

文/池田 篤史

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 充電インフラを自前で構築したテスラに先見の明があったという事でしょうか?米国で1位(テスラ)と2位(フォード)のEVメーカーがタグを組むという事は、他の自動車メーカーにとっては厳しい選択になりそうですね!日本の自動車メーカーは、北米でのEV戦略の大幅見直しが必要だと思います。優れた充電ネットワーク無しには、EVビジネスは絶対成功しないと思います。

  2. 日本では昨年の有識者会議資料を見ると、一部の委員から急速充電はCHAdeMOを義務付けるべき?というようなトンデモ発言の記載があったくらいですから、益々日本だけ独自の道を歩む可能性があります。

    この調子で官僚主導の充電器整備をやっていても補助金の無駄+益々後進国化するだけなので政治判断又は日本自動車工業会各社でNACSを全面的に採用するくらいの思い切った事しない限り一生あのゴツいケーブルと馬鹿げた認証システムに日本のEV利用者(テスラ以外)は付き合わされる事になるでしょうね。

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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