【テスラ最新動向解説】新型モデル3パフォーマンス登場も競合車続出で収益性悪化の懸念?

テスラの販売台数拡大を支えてきた車種である新型モデル3にパフォーマンスグレードが登場。一方、中国市場ではライバルとなる最新EVセダンが続々デビュー。上海ギガファクトリーの稼働率低下などが懸念されます。はたして、テスラは大丈夫か? モデルYオーナーでもあるEVネイティブ氏の考察&解説です。

【テスラ最新動向解説】新型モデル3パフォーマンス登場も強力な競合車続出で収益性悪化の影響は?

世界一の中国市場にはモデル3のライバルが続々登場

テスラがモデル3の新型パフォーマンスグレードの正式発売をスタート、北米や中国市場において納車も開始。動力性能を向上させながら、モデル3としては初となる電子制御サスペンションを導入しました。一方で、はたしてこの新型モデル3パフォーマンスが強豪の最新EVセダンと比較して、どれほどの性能を実現してきているのか。また、テスラが主要マーケットである中国市場において直面しているモデル3の販売台数の低下という懸念点についてなど、最新のテスラ動向を解説します。

まず確認しておきたいのがテスラモデル3の最新モデルの概要です。テスラでは2023年9月から、新型モデル3ともいえるアップグレード版(いわゆるハイランド)を発売し、日本国内では2023年12月から納車がスタートしていました。ただし、新型登場当初は、RWDグレードとロングレンジグレードのみしかラインナップされておらず、最上級グレードであるパフォーマンスグレードはラインナップされていませんでした。

とはいえ、中国や北米において、繰り返しテスト車両が目撃されていたことから、一時販売停止しているパフォーマンスグレードの登場が近いのではないかと噂されていました。しかも通常グレードと発売時期が異なることから、パフォーマンスグレードについては、よりパフォーマンスに特化させたグレードとして、特殊な装備内容などが搭載されるのではないかという期待が高まっていたわけです。

2024年4月、追加設定されたパフォーマンスグレードには、推測通り数々の特長が与えられました。まずエクステリアデザインが通常グレードと少し異なります。フロントバンパーの形状が違い、より空力を意識したフォルムになっています。サイドに目を移すと、20インチの専用ホイール「ワープホイール」を採用しながら、今回モデル3としては初めてスタッガード(前後でタイヤサイズが異なる)タイヤを採用。前輪側が235/35R20、後輪側が275/30R20と、先代モデルと比較してもリア側のタイヤサイズがかなり太くなりました。またリア側も、先代モデルよりもさらに大型なリアスポイラーが搭載されていることで、空力性能を改善しています。

そして、リア側のモーターには「4D2」という第四世代のモーターを新採用。先代モデルと比較してもピーク出力が32%アップ、ピークトルクも16%アップしています。また、空力性能についても抗力が5%改善しているなど、動力性能のテコ入れを行ってきていることが見て取れます。

さらに、トラックモードの最新バージョンである「V3」を初導入。モーター、サスペンション、パワートレインの冷却、およびVDC制御を一括に統合制御することによって、より安定したトラック走行を可能にします。特にV3トラックモードでも統合制御されているサスペンションシステムは、モデル3として初めて電子制御サスペンションを導入。いわゆる連続可変ダンピングコントロールに対応することで乗り心地を改善しながら、ハンドリング性能の向上にも寄与します。

インテリアに関しても、モデルSのPlaidグレードと同様に専用のスポーツシートを導入。ただし通常グレードと同様に、シートヒーター、シートクーラー、および8方向シート調整、4方向ランバーサポートに対応し、日常的な機能性を維持しています。

先代モデルからどのように性能が向上したか

それでは、今回の新型モデル3パフォーマンスについて、先代モデルのパフォーマンスグレードと比較してどれほど性能が向上しているのかを簡単に比較しましょう。

まず初めにバッテリーは、これまで通り韓国LGエナジーソリューション製の78.4kWhバッテリーを採用してきていることから、航続距離については日本WLTCモードで610kmと、先代モデルと比較してもほとんど改善はされていません。

EPAサイクルベースだと、これまでは507kmという航続距離を実現していたものの、新型パフォーマンスは476kmと、むしろ航続距離は悪化(2024年モデルからのEPAサイクルの計測方法の変更も要因の一つではあります)しています。

リアスポイラーや車高を引き下げたことによる空力性能の改善、新世代モーターの採用による効率性は改善したものの、おそらく問題は装着タイヤです。Pirelli P ZERO 4 Electを装着しているものの、リア側が275/30R20と極太化していることで、それらの改善点が相殺されてしまっている模様です。

とはいえ、リア側に新モーターを採用していることから、最高出力は461kW、最大トルクも730Nmと向上。0-100km/h加速も3.1秒と、先代モデルから0.2秒タイムを縮めてきました。また先代モデルとは異なり、通常グレードと比較してサスペンションを低めており、全高が10ミリ下がっています。

そして値段設定は、日本市場で725.9万円からとなりました。実は先代モデルと比較してもほとんど値上げされていません。ちなみに現時点においては、政府からの補助金を適用できるのかは不明です。おそらくRWDグレードと同様に65万円が適用可能になるはずですが、6月の納車スタートの段階から補助金を適用可能になるのかについては現時点で不透明であり、購入の際には注意が必要です。

ミッドサイズEVセダンにはBMW i4、およびまもなく発売されるBYD Sealなども存在しています。

中国市場のライバル車種と比較

さて、この新型モデル3パフォーマンスが、世界の、特に競争が激化する中国市場における最新EVセダンと比較してどれほどの魅力を実現できているのか。テスラがEVテクノロジーのリーダーとしての存在感を示すことができているのかを、シャオミSU7、ファーウェイLuxeed S7、Zeekr 007、そしてIMモーターL6と比較してみたいと思います。

まず注目するべきは航続距離という指標です。中国CLTCモードのデータに着目すると、特にシャオミSU7は810kmという圧倒的な航続距離を実現しています。しかしながら最も重要なのは電費性能という観点です。今回の新型モデル3パフォーマンスは14.4kWh/100kmという電費性能を実現しているものの、Luxeed S7は14.2kWh/100kmと、モデル3の電費性能を超えています。

シャオミSU7は4月3日から納車をスタート。

さらにIMモーターL6 Maxパフォーマンスも13.8kWh/100km。そしてシャオミSU7 Maxには13.7kWh/100kmと、すでにモデル3を凌ぐ電費性能を実現してしまっている状況です。テスラは効率性に大きな強みがあったわけであり、それを考えると、パフォーマンスグレードに関しては、すでに多くの競合EV車種に負け越してしまっている様子が見て取れます。

Luxeed S7は4月11日から大規模納車をスタート。

それでは、肝心要のパフォーマンス性能についてはどうなのかというと、今回のモデル3については0-100km/h加速が3.1秒、最高速は時速261kmを実現しています。

この点も、SU7は0-100km/h加速が2.78秒、最高速は時速265kmに到達。さらにL6に至っては、0-100km/h加速が2.74秒、最高速も時速268kmと、新型モデル3パフォーマンスはすでに発売済みの競合EVよりも動力性能は低いわけです。また、これらのEVより電費性能も低いことから、効率性もパフォーマンスも見劣りしてしまっているのが現実です。

Zeekr 007は1月から納車スタート。全グレード800Vシステムを採用。

それ以外にも、Zeekr 007は専用のスポーツシートを導入していたり、今回のモデル3の目玉機能でもある電子制御サスペンションについても、競合車種については全車種標準装備されているのは当然として、SU7、S7、L6などはさらにエアサスペンションも搭載していることから、乗り心地という点でもさらなる快適性を追求しています。

なかでもL6に関しては、4輪操舵機能まで採用することによって、最小回転半径も5メーター以下を実現。さらに一歩進んだシャシー性能を実現するなど、中国のEV市場においては、新型モデル3パフォーマンスのインパクトは小さいと言わざるを得ません。

IM L6は5月13日に正式発売開始。緊急回避性能を示すエルクテストで時速90.96kmというテスト結果からも、そのシャシー性能の高さが見て取れます。

ちなみに詳細には説明しないものの、標準装備内容を比較してみても、特にEV性能や値段設定で似通っているLuxeed S7と比較すると、S7ではスマホのワイヤレス充電は50Wと急速充電化。レッグレストやサイドサポート、シートマッサージ機能も完備。後席についても背もたれ調整が可能、後席にもシートヒーターだけでなくシートクーラー機能も装備。全ドアに対してソフトクローズ機能を採用。フレグランス機能や冷蔵庫も装備。V2L機能についても最大6kWに対応。連続可変ダンピングコントロール付きのエアサスペンションが標準装備など盛りだくさん。

装備内容で最も優れているのはS7。高速NOAだけでなく市街地NOAにも対応可能。すでに中国全土で利用可能。モデル3はまだ中国国内で市街地NOAに相当するFSDは未解禁。

何と言ってもファーウェイの自動運転システムであるADS2.0を利用可能。高速NOAについてはソフトウェアも無料利用可能であり、テスラの場合は高速NOAだけでも3.2万元、約68万円ものソフトウェアのアンロック費用が必要であることから、ADASのコスト競争力も雲泥の差です。

そしてこれほどまでに装備内容で差がついていながら、S7の方が安価に購入可能であり、SU7 MaxやZeekr 007パフォーマンスに至っては、日本円換算で70万円以上も安価に購入可能。IM L6に至っては100万円以上も安価に購入可能です。

モデル3パフォーマンスインテリア
シャオミSU7インテリア
Luxeed S7インテリア
Zeekr 007インテリア
IM L6インテリア

月間登録台数でもライバルの後塵を拝するモデル3

そして、モデル3が該当する20万元程度以上(約435万円以上)のミッドサイズEVセダンセグメントの直近の月間登録台数を確認すると、特に最新データが判明している4月(カッコ内はQoQの2024年1月の販売台数、増減率)が現状を示しています。

●テスラモデル3:5065台(9969台、-49.2%)
●Zeekr 001:11267台(5272台、+113.7%)
●シャオミSU7:7058台(0台、–%)
●Luxeed S7:5012台(604台、+729.8%)
●Zeekr 007:3827台(5853台、-34.6%)
●Avatr 12:3733台(0台、–%)
●IM L6:1291台(0台、–%)

このように、これまでプレミアムセダンEVセグメントで王座に君臨していたモデル3の販売台数は、4月はZeekr 001とシャオミSU7に負け越してしまっている状況です。直近の四半期1ヶ月目である2024年1月と比較してもおおむね半減していることがわかります。

問題は、モデル3は2023年第四四半期からモデルチェンジを行なっていることから、想像以上にモデル3の需要が伸びていない様子が見て取れることです。今後はSU7とS7の生産体制がさらに拡充されていき、SU7は6月中にも月間1万台の納車台数を目標に設定。一部報道では生産体制を大幅拡張して月間2万台の生産能力にまで拡張する可能性も出てきています。その上モデル3包囲網の一角を構成するL6の発売がスタートし、すでに1万台以上のロックインオーダー数を獲得済み。

いずれにしても、今回の新型モデル3にパフォーマンスグレードが追加されたことで、中国市場でモデル3の販売台数が伸びていく可能性は限りなく低いと推察するしかありません。むしろ新型モデル3パフォーマンスの性能や価格を知ることで、多くのユーザーに、モデル3ではなくシャオミSU7やLuxeed S7などの競合EVセダンの納車待ちを決心させた可能性すらあると感じます。

ギガファクトリーの稼働率低下で収益性悪化?

そして、新型モデル3の販売減少によって最も大きな影響を懸念されるのが、上海ギガファクトリーの稼働率低下という観点です。今後もモデル3の需要が回復しない場合、テスラ最大の自動車生産工場の稼働率が低下することで、テスラ全体の収益性にも悪影響を及ぼす可能性が否定できません。

最近のテスラは、EV単体に対する投資から、FSDとそのAIトレーニングコンピューティング、さらにはオプティマスと称するロボティクス分野への投資に移行を示唆してきています。とはいえ投資規模を確保するという意味で、現在のテスラの収益性を支える自動車事業が揺らぐと、その将来の投資にも悪影響が出てくるわけです。

よって、テスラでは現在グローバル全体で大規模なレイオフを行っていることが伝えられています。主にスーパーチャージャーチーム、中国国内の営業チームや工場の従業員、さらには独自の情報ソースから、テスラジャパン内でのレイオフもかなりの規模感で行われた模様です。

テスラは8月8日にも、FSD事業の中核をなすロボタクシー「Cybercab」の初お披露目を行う方針を示しています。これらの将来のテスラに期待される新規事業の最新動向については非常に期待可能であるものの、それと同時に、懸念するべき足元の自動車事業の動向については、その販売台数や決算内容とともに定期的に情報をアップデートしていきたいと思います。

文/髙橋 優EVネイティブ ※YouTubeチャンネル)
※テスラ画像提供:Tesla Inc. /その他車種は各社公式サイトから引用

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