中国・四国地方における充電インフラの実態を体感
テスラ『モデルS』における夏シーズンの長距離走破性能や中国地方の充電インフラの実態を体感するため、これまでの遠征史上最も遠方の中国地方や四国地方にまで足を伸ばしました。
前半のレポートでお伝えしたように、走行ルートは座間市(神奈川県)から新東名自動車道経由で愛知県一宮市のFLASH MARK5へ。その後東名自動車道/中国自動車道経由で鳥取市街へ抜けて目的地の出雲大社で折り返し。瀬戸大橋を渡り高松市街(香川県)を経由して、検証用車両の返却場所である長野市街へ戻るコース(所要時間はおよそ50時間)です。
改めて確認しておくと、モデルS AWDのバッテリー容量は100kWh。一充電航続距離はWLTPモードで723km(EPA基準では653km)。デュアルモーターのAWDで、0-100km/h加速は3.2秒。最高時速は250km/hというスペックです。
後編のレポートでは出雲大社からの復路の様子を中心にお伝えします。
中国地方のテスラ スーパーチャージャー
出雲大社を出発する前に、中国地方における急速充電ネットワークの現状を確認しておきましょう。まずテスラスーパーチャージャーは、現在中国地方では鳥取、岡山、倉敷、広島という4か所に設置されています。
ネットワークは構築されつつあるものの、課題は設置密度でしょう。島根県には設置されておらず、今回訪れた出雲大社は関西・九州圏から自動車で訪れる人も多い主要な観光スポットでありながら、近隣のスーパーチャージャーまでかなり離れている(鳥取や広島まで各150km以上)ので、鳥取のように経路充電兼目的地充電のような機能を果たす「出雲スーパーチャージャー」の設置が待望されます(HP上では現在「開発中」と記載されています)。
さらに個人的に気になるのが山口県、特に中国自動車道沿いの経路充電スポットです。現在関西から九州に向かう際、経路充電として利用可能なスーパーチャージャーは北九州くらいであり、インターからかなり距離のある岡山、倉敷、広島スーパーチャージャーは経路充電として利用するには不向きです。いずれにしても広島か山口ジャンクションあたりのインター近隣にスーパーチャージャーが設置されると、関西=九州間の移動における安心感が格段に向上すると感じます。特に公共のチャデモ急速充電器を使用できない新型モデルSやXであれば尚更です。
公共のチャデモ急速充電インフラは?
次に公共の急速充電スポットの普及状況を確認しましょう。
まずこのマップは中国地方の90kW級以上の急速充電器をフィルタリングしたものです。この通り、中国地方の高出力急速充電インフラを支えているのは日産ディーラーであることが見て取れます。ほとんどの日産ディーラーは24時間365日開放しており、長距離ドライブのルート上に低出力の充電器しかなくて困るケースはあまりないだろうという密度です。
ただし、問題であると感じるのが経路充電としての高速道路上の充電ネットワークの脆弱性です。上のマップは高速道路SAPAの90kW級以上の急速充電器をフィルタリングしたものですが、この通り、中国地方にはほとんど設置されていないのが実情です。特に関西と九州を結ぶ山陽自動車道沿いに90kW級以上がほとんど設置されていないのは、EVの長距離ドライブの利便性を確保するためには死活問題であるとすら感じます。
ところが40kW級以上の急速充電器に範囲を広げてみると、この通り、山陽自動車道をはじめ、中国縦貫自動車道沿いにも急速充電器が一定間隔で配備されています。つまり中国地方における充電インフラの脆弱さというのは、「高速道路上の90kW級以上の急速充電スポット」であり、例えば広島の宮島SAなどの基幹SAPAに90kW級以上を複数基設置することが急務であると感じます。
【編集部注】e-Mobility Powerが発表している計画(関連記事)では、2025年までに宮島SAを含む複数のSAPAに90kW以上の複数口設置が発表(参考マップ)されています。
出雲大社から四国経由で長野県を目指す!
出雲大社を出発して瀬戸大橋経由で四国に上陸し、香川県高松市内の高松スーパーチャージャーに到着しました。
【区間①】出雲大社→高松スーパーチャージャー(250kW級急速充電器)
●走行距離:278km
●消費電力量:56.2%→0.23%
●平均電費:176Wh/km(5.68km/kWh)
●外気温:35℃
走行距離は278km。特に充電残量を気にして速度を落とすなどはしなかったものの、SOC表示は「0%」とギリギリで到着しています。鳥取で98%までしっかり充電しましたが、車内で仮眠を取って市街を散策、その間もエアコンやセントリーモードを常時ONにしながらという運用方法だと、さすがに高松到着はギリギリというイメージです。
人生初の香川県訪問なのでしっかりうどんを食べました。合計8人前を平らげて、後半の長距離走行に備えます。
残量予想の正確さに注目
香川県高松市から、車両返却先である615km先の長野県長野市を目指します。さすがの新型モデルSといえども、経路充電が必要となりますので、ほぼ中間地点であり東名自動車道のインター近隣に位置する岐阜羽島スーパーチャージャーを経由地に設定。長野まで走るにはSOC26%分足りないと表示されていますが、はたして長野到着時にどれだけ電力を消費したのか、テスラの充電残量予測の正確性に注目です。
【区間②】高松市街→岐阜羽島スーパーチャージャー(130kW級急速充電器)
●走行距離:342km
●消費電力量:100%→32.1%
●平均電費:180Wh/km(5.56km/kWh)
●外気温:29℃〜32℃
経路充電スポットである岐阜羽島スーパーチャージャーに到着しました。例によってややハイペースで走行していますが、注目するべきは充電残量予測の増減率を示すエネルギーのグラフです。
途中、淡路島付近はパラパラと雨が降ってきたり風が強かったことから下振れするのではないかと踏んでいたものの、結果としては1.2%ほどの上振れで到着。また、岐阜羽島スーパーチャージャーに到着した段階で、最低何分充電すると、目的地の長野スーパーチャージャーに到着できるのかも表示されています。これであれば私のようなモデルSに乗り慣れているユーザーだけでなくとも、どれくらい充電すればいいのかが一目瞭然です。こうしたUIの分かりやすさという点もテスラの長距離走破性能を支える長所だと感じます。
【区間③】岐阜羽島スーパーチャージャー→長野スーパーチャージャー(130kW級急速充電器/ゴール)
●走行距離:274km
●消費電力量:60.5%→6.27%
●平均電費:177Wh/km(5.65km/kWh)
●外気温:26℃〜29℃
ついに長野スーパーチャージャーに到着しました。この後長野市街などで用事を済ませているので、総走行距離は1800kmオーバーと、遠征企画史上最長距離を走破したことになります。
最後に改めて注目するべきは充電残量予測の移り変わりを示すエネルギーのグラフです。この通り、今回も0.8%の上振れと、ほぼ正確な充電残量予測であった様子が見て取れます。また、高松から長野までの消費電力量はSOCベースで122%だったことから、高松時点での消費電力量予測である126%と比較しても、4%の誤差に留まっています。直近の走行データから、私の運転スタイルが飛ばし気味であるという点、外気温や天候、空調の使用状況、標高差(長野市街までは登り)、車内の電装系の使用状況などを総合した、テスラの充電残量予測の驚異的な正確性を容易にイメージできると思います。これはテスラが早くからEVを発売し続けて蓄積した膨大なデータによって実現できるものであり、EVを早くから発売している強みがいかんなく発揮されているわけです。
いずれにしても、新型モデルSは絶対的な航続距離の長さ、0-100km/h加速3.2秒という動力性能と電費性能を高い次元で両立、スーパーチャージャーネットワーク、なんといっても、それらを安心して運用するための高いソフトウェアの完成度によって、1800kmを超えるようなロングトリップでもかなり余裕を持って走破することができました。
ただし、新型モデルはチャデモ規格の公共の急速充電器を使用することができないという点。その上で、一部地域においてはスーパーチャージャーの密度が低いために、やや充電に不安が残る地域も存在するということは懸念点として挙げられると思います。
スーパーチャージャーの設置最新動向については今後も期待しながら注目していきたいと思います。
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取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)