東名300km電費検証【13】テスラ『モデルSプラッド』~120km/h巡航でも500km超の航続距離

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第13回はテスラ『モデルS』のプラッド(Plaid)グレードで実施した。0-100km/h加速2.1秒、最高速322km/hを誇るハイパワーEVは、電費性能でも圧倒的な実力を見せつけた。

東名300km電費検証【13】テスラ『モデルSプラッド』~120km/h巡航でも500km超の航続距離

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

1020馬力のBEVセダン

現在、日本で発売中のモデルSはデュアルモーターAWDと今回テストしたプラッドの2グレード展開で両グレードともに左ハンドルのみ。デュアルモーターAWDは前後に各1基のモーターを搭載した最大出力670馬力、0-100km/h加速3.2秒のAWD、プラッドは前1基、後2基の3モーターで最大出力1020馬力のAWD。プラッドの一充電走行距離(WLTP)は600km、価格は1566.9万円だ。

計測する季節のタイミングを揃えることができなかったのが心残りだが、今年4月に計測したメルセデス・ベンツ『EQSセダン』(関連記事)と比較すると、ハイパワーすぎるモデルSが電費では不利になるのかどうかも興味深い。

100km/h巡航で約587kmの航続距離性能

カタログスペックである一充電走行距離600kmを、EVsmartが把握しているバッテリー容量の100kWh(テスラではバッテリー容量を公表はしていない)で割った目標電費はジャスト6km/kWhになる。7月某日、計測日の外気温は最高35℃、電費検証に臨んだ深夜は29℃~32℃だった。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。

【今回の計測結果】

※電費はテスラ車で表示されるWh/kmをkm/kWhに換算している。

目標電費を超えたのは、往路のAとD区間、復路と往復のBとC区間の計6区間だった。往復では80km/hが6km/kWh台、100km/hと120km/hが5km/kWh台と、これまでに計測してきた車種で最も数字の開きが少なかった。つまり高速走行してもさほど電費は悪化しない。

【巡航速度別電費】

各巡航速度の電費は下表の通り。「航続可能距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、600kmとするカタログスペックの一充電走行距離に対しての達成率だ。80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って求めている。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続可能距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h6.78678.4113%
100km/h5.88587.698%
120km/h5.16515.986%
総合5.87587.298%

総合電費の5.87km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続可能距離は約587kmになる。100km/h巡航もほぼ同値の約586km。80km/h巡航であればカタログスペック(WLTP)の一充電走行距離を超える約678kmを走り切れる結果になった。

各巡航速度の比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げても電費の悪化はこれまでの計測で過去最小の13%にとどまった。100km/hから120km/hはEQSセダンの11%に次ぐ12%だった。この数値からもモデルSは高速化しても電費の悪化が小さいことがわかる。ここまできたら(公道では無理だが)150km/hや200km/h巡航電費も計ってみたいところだ。

120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.3倍(132%)も伸ばすことができる計算になるが、この132%も過去最小だった。速度を落としてもあまり電費が良くならないというよりも、やはり高速化しても電費が悪化しないと読み取るべきだと思う。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h87%
120km/h76%
100km/h80km/h115%
120km/h88%
120km/h80km/h132%
100km/h114%

それではEQSセダン(EQS 450+、333ps、RWD、1563万円)と比較するとどうなのだろうか。検証した時期が異なるため外気温に差がある(モデルS:27〜32℃、EQSセダン:18〜20℃)し、本来は駆動方式とパワー的にはEQS 450+ではなく、「メルセデスAMG EQS 53 4MATIC+」(AWD、761ps、2375万円)と比べるべきなど、ツッコミどころはあるが、とりあえず比較しておく。

モデルSEQSセダン電費差
km/kWh
航続可能距離の差
km
80km/h電費6.787.49-0.71
航続可能距離678.4806.9-128.5
100km/h電費5.886.15-0.27
航続可能距離587.6662.8-75.2
120km/h電費5.165.50-0.34
航続可能距離515.9592.7-76.8
総合電費5.876.28-0.41
航続可能距離587.2676.9-89.7

電費と航続距離は80km/h巡航時に0.71km/kWhと128.5kmと最も差が大きくなったが、速度が上がると差は縮まり、総合では0.41km/kWhと89.7kmの差になった。モデルSが3モーターのAWDで出力もEQSセダンの3倍であることを踏まえると、十分に健闘していると思う。なお、BEVで重要視されるCd値は、モデルSが0.208、EQSセダンが0.20で互角だ。

オートパイロットで感じた2つの残念

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航する。そのため巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用する。さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意している。

モデルSのACCはオートパイロットの設定画面で2種類の機能を選択できる。「トラフィックアウェアクルーズコントロール」と「オートステアリング(ベータ版)」だ。「トラフィックアウェアクルーズコントロール」はいわゆるACCで、先行車がいる場合はその速度に合わせて走行する(車速のみを制御する)。「オートステアリング(ベータ版)」はそれに加えて車線維持とステアリングアシストも制御してくれる機能だ。両機能ともに「ハンドル」を握っていることが条件。

オートパイロットは、ステアリングホイール右スポークにあるスクロールボタンをクリック(押す)すると起動する。

速度調節はスクロールボタンを上下に回す。1回転で1km/hごとに、3回転くらいを一気に回すと5km/hごとに調節できる。先行車との車間距離設定はセンターディスプレイでレベル2から7の6段階で設定できる。

オートパイロットは「ある2点」以外は完璧だった。速度調節もコーナリングもクルマに任せておけばスムーズに行ってくれる。自動車線変更機能は「タイミング」がキモだった。ウインカーを出して3回点滅のタイミングでステアリングが車線変更側にわずかに軽くなるので、そのタイミングで少しステアリングを切ると無事に車線変更を完了できる。それよりも早くても遅くてもNGだった。

「ある2点」の1点目はステアリングを持っているのに、「ヨークステアリングを回す方向に小さな力をかけて下さい」の警告が最短12秒ほどの間隔で出ること。この警告を無視し続けるとオートパイロットが作動しなくなる。この点はBMWやメルセデス・ベンツのように、ステアリングに接触センサーを採用して、無意味な警告が出ないようにして欲しい。

2点目はACCの停車からの発進が「ぐわっ」とかなり強いものであること。停車は完璧な滑らかさなので、発進とのギャップが大きすぎる。この点はモデルYもモデル3も同様だったので、これが「テスラ流」だと思うが、例えば発進の仕方をコンフォート、ノーマル、スポーツなど3種類くらいから選択できるようになれば、個人的にはありがたい。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は2~3km/hだった。実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を102km/hに合わせる。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
82102123
ACC走行中の
室内の静粛性 db
707067

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hと100km/hが70dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hは67dBだった。Cd値が0.208と優れているため、どの速度でも風切音はさほど気にならないが、前265mm、後295mm幅のタイヤから発せられるパターンノイズが大きい。

最大254kW出力で、15分で約40kWhを充電

プレコンディショニング開始時の外気温は30℃。炎天下の車内に乗り込んで、エアコンの冷房を最大にした時と同じようなファンの回転が始まる。この時の車内は49dB、フロントナンバー下では72dBとなかなかの音量のファン作動音だった。5分後にファンが停止し、プレコンディショニングが完了した。

モデルSの充電は、電費検証走行の終点である東名川崎ICを出てすぐのスーパーチャージャー東名川崎で行った。まずはより効率的な充電にするため、バッテリーのプレコンディショニング機能をオンにする。走行中は電費を悪化させるため同機能は使用しなかった。

スーパーチャージャーによる急速充電を開始すると、すぐに充電器と車両の充電性能(250kW)をわずかに上回る出力254kWを確認。その後は30分後の58kWまで出力を下げながら充電し、結果として57kWhをチャージした。チャデモ規格の急速充電器とテスラスーパーチャージャーと条件が違うので単純な比較はあまり意味がないものの、「30分で57kWh」は、EQSセダンの49.218kWhを超える過去最高の結果だ。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「車内表示充電電力量」は車内のディスプレイで確認した電力量。

航続距離表示は328km増えた。検証結果の総合電費である5.87km/kWhでは約335km分、80km/h巡航の6.78km/kWhであれば約386km分を補給できたことになる。

もっと細かくみていくと、今回は充電開始から15分時点で約40kWh(総合電費で約235km走行分)をチャージした。他社は「30分」で26〜49kWhなどの結果であるため、充電開始直後に最大出力で充電を開始し、短時間でなるべく多くの電力量を充電するというスーパーチャージャーのメリットを実感した。

さらに言えば、テスラは「15分以内に最大322km走行分の充電が可能」と謳っている。WLTCの目標電費である6km/kWhでも240km。322km走行するには15分で約53.7kWhの充電が必要になる。条件が異なればまだまだもっと早い充電を実現できるのだろう。

また、今回は実験的に充電開始から30分後のSOC87%の状態から100%までの出力の変化と時間も観察してみた。そうすると100%まではプラス25分かかり、終了間際の出力は11kWだった。

充電量をまとめると最初の15分で40kWh、続く15分間で19kWh、さらに25分間かかって13kWhと、当然ながらSOCの上昇に応じて充電量も下がっていく。テスラ車をスーパーチャージャーで充電する場合は、「30分」や「SOC80%まで」などとこだわらず、必要な分をチャージできたら、充電をやめた方が時間とコストを節約できそうだ。

充電中のドライバーディスプレイ。右上に254kWの出力表示が見える。モデルSはSOCと航続距離の同時表示はできない(モデル3ハイランドも同様だった)ので、両方を確認するには、ディスプレイ設定の「エネルギー表示」でパーセントと距離を切り替える必要がある。

タイヤ・ホイールは21インチ

タイヤとホイールは66.6万円のオプションである21インチの「アラクニッド」ホイールにハイパフォーマンスカーの承認タイヤにも指定されているミシュラン・パイロットスポーツ4Sの組み合わせだった。

【装着タイヤ】
メーカー/MICHELIN
ブランド(商品名)/PILOT SPORT 4S

タイヤサイズはフロントが「265/35R21」、リアが「295/30R21」。空気圧は前後ともに276kPaだった。製造週年はフロントが左右とも「1423」、リアが左右とも「0923」。製造週年は「1423」の場合、2023年の14週目に製造されたことを意味している。

運動性能はスーパーカーだけど電費はコンパクトSUV並み

モデルSプラッドは総合で5.87km/kWhの電費を記録した。これはここ最近の検証結果からするとメルセデス・ベンツ「EQA250 +」の5.75km/kWhに近い(関連記事)。それでありながら、踏めば0-100km/h加速2.1秒のとてつもない速さを実現している。

ちなみに0-100km/h加速で3秒未満のICE車はフェラーリやランボルギーニ、マクラーレン、日産GT-Rといったスーパーカーが並ぶ。これらのクルマが、例えばGLAと同じ燃費を実現するのはなかなか難しいだろう。

つまりBEVはスーパーカーの運動性能とコンパクトSUVの電費を両立させることができる。これはBEVだからこそ実現できる、BEVが自動車の歴史上に刻むブレークスルーではないだろうか。

しかし、モデルSプラッドが打ち立てたこの記録は、進化し続けている同じBEVのライバルにいずれ抜かれることにもなるだろう。中国からはシャオミがSU7でハイパフォーマンスBEV乗用車のトップの座を狙っている。

日本メーカーからも高性能なBEV車種がさまざまに登場することを期待したい。

ひとまず現時点では日本で検証できる車種の中で、圧倒的な運動性能と良好な電費を記録したモデルSプラッドは、ハイパフォーマンスBEVの頂点に立つ一台であると確認できた。

テスラ モデルSプラッド主要スペック
全長(mm)4970
全幅(mm)1990
全高(mm)1445
ホイールベース(mm)2960
最低地上高(mm)126
車両重量(kg)2190
前後重量配分48.4:51.6
乗車定員(人)5
一充電走行距離(km)600
EPA換算推計値(km)480
モーター数3
モーター種類永久磁石同期モーター
最高出力(PS)1020
バッテリー総電力量(kWh)100
急速充電性能(kW)250
駆動方式AWD(全輪駆動)
フロントサスペンションダブルウィッシュボーン/エア
リアサスペンションマルチリンク/エア
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前)265/35ZR21
タイヤサイズ(後)295/30ZR21
荷室容量(L)798
フランク(L)89
0-100km/h加速(秒)2.1
最高速(km/h)322
Cd値0.208
車両本体価格 (万円、A)1566.9
CEV補助金 (万円、B)52
実質価格(万円、A - B)1514.9

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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