生産は減少、納車は増加、株価は上昇
電気自動車(EV)メーカーのテスラ社は2024年7月2日に、2024年第2四半期(4~6月)の生産台数と納車台数の速報値を発表しました。
生産台数は、『モデルS/X他』が2万4255台、『モデル3/Y』が38万6576台で、合計41万831台となり、前期の43万3371台から約5%減少しました。前年同期比では約14%減です。
納車台数は、『モデルS/X他』が2万1551台、『モデル3/Y』が42万2405台、合計44万3956台で、前期比14.8%増になりました。前年同期比では4.8%減でした。
発表を受けて、というよりはそれ以前の6月10日頃から、速報の発表が予定されていた7月2日に向けてテスラ社の株価はジリジリと値を上げていました。
発表直前、6月24日の182.58ドルが7月1日には209.86ドルになり、発表当日の2日には218.89ドルまで上げています。今年1月中旬の水準に戻っています。
生産台数が前年同期を下回ったことについて、テスラ社はとくに説明をしていません。
生産台数推移
納車台数はアナリスト予想以上に増加
今期の納車台数速報値は、おおむねアナリスト予想を上回ったようです。
ロイター通信は、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)がまとめたアナリスト12人の予想を43万8019台と伝えています。またブルームバーグは、アナリスト予想平均を43万9302台としていました。
ロイター通信によれば、アナリストらは、予想を上回ったのは米国と中国での販売台数が寄与したと指摘しました。
記事の中で、テスラの株主でもあるマホニー・アセット・マネジメントのケン・マホニー最高経営責任者(CEO)は「苦戦を強いられた第1四半期と比べ、米国内販売および中国での販売が好転しつつあるのは朗報」と述べています。
またCFRAリサーチのアナリスト、ギャレット・ネルソン氏はロイター通信に、納車台数が予想を上回ったことで「EVの需要低迷を巡る懸念が大きく和らぐ」という見方を示しました。
納車台数が増加したことについてニューヨークタイムズは、一部市場での値下げと、『モデルY』の金利を1%に設定した低金利ローンによる影響と推察しています。
筆者の個人的な考えですが、これらの影響のほか、前四半期で製造と納車のミスマッチによる在庫増があったことを考えると、販売数とは別に出荷が進んだ可能性もあります。
前四半期で納車が減った理由についてテスラ社からは説明がありませんが、世界的に海上輸送が滞っていたので、もしかするとバックオーダーが増えていたのかもしれないと思いました。
もしそうだとすると、第2四半期決算では在庫減により、前期で減少したフリーキャッシュフローが今季に増加するというテスラ社の見通し通りになりそうです。
とは言え、生産台数の減少は販売減に伴うものなので、楽観視できる状況ではないかもしれません。
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サイバートラックは何台売れた?
前期から、テスラ社は「モデル3/Y」と「それ以外」で台数を集計しています。「それ以外」には『サイバートラック』が含まれていますが、具体的な数は公表していません。
ただNHTSA(米道路交通安全局)が6月19日に公表した、サイバートラックに関わる2つのリコールでは、2023年11月から2024年6月までに生産されたサイバートラック、約1万1000台に影響があるとしています。
ということはこれ以上の生産台数があったと思いますが、今はまだ全体数にはあまり影響しなさそうな数です。
ちなみにリコールは、ワイパーモーターの不具合で視界が悪くなるというものと、荷台の装飾トリムが落ちてしまう可能性があるというものでした。これらの問題による事故は報告されていません。
モーターの不具合は、過負荷により故障する可能性があるという内容です。正確な原因は不明ですが、サイバートラックのワイパーブレードはとても長いから負荷が大きかったのではないかという報道もありました。実際はどうなのでしょうか。
中国メーカーの低価格攻勢
地域別の販売台数は、テスラ社からの公式発表はありませんが、ロイター通信は中国では前年同期比17%減、欧州では5月だけで36%減だったと報じています。
またニューヨークタイムズは、市場調査会社コックス・オートモーティブが米国での販売台数は前年同期比16%減の17万5000台と推定したことを伝えました。
ところで、中国のBYDは7月1日に、6月のEV販売台数が前年同期比15.7%増、プラグインハイブリッド車(PHEV)は40.7%増になったと発表しました。台数は、EVが14万30台、PHEVが19万9194台です。
月別の発表を足し算すると、第2四半期(4〜6月)はEVが20.4%増の43万7353台、PHEVが68.9%増の57万7392台です。
EVの四半期別販売台数では、テスラ社の44万3956台を猛追していることがわかります。
さらにニューヨークタイムズは、テスラ社は4月、欧州でのEV販売台数が、フォルクスワーゲン、ボルボとポールスターを傘下に持つ吉利汽車、ステランティス、BMWに次ぐ5位だったとしました。シュミット・オートモーティブ・リサーチの調査です。
そして今年、2024年は、GM、ホンダほかの自動車メーカーが新型EVを発売するため、テスラ社のEV市場シェアは50%を下回るとしています。
とはいえ、これはEV市場全体のボリュームが大きくなっていることの現れでもあります。テスラ社はたいへんかもしれませんが、EV普及の観点からは歓迎すべき状況だと思います。
競合他社があってこそ盛り上がる
マスクCEOもかつて、一社だけよりも競合他社があったほうが市場の活性化にはプラスだという趣旨の発言をしていました。
市場を盛り上げるなら競争があることが必須です。韓国ドラマ「梨泰院クラス」では、商店街を盛り上げるために主人公が他店を支援する場面がありました。
もちろん、競合他社に負けてしまっては元も子もないですが、そこを乗り越えれば長期的な成長が見込めるのではないでしょうか。
なお、長期的という部分では、ニューヨークタイムズは、テスラ社が毎年公表している「インパクトリポート2023」(5月23日公表)で、従来、記載していた2030年までに年間2000万台を納車するという目標を削除したと報じました。
なお、2030年までに年間1500GWhのエネルギー貯蔵を導入するという記述は、2000万台と同時の2021年に登場し、2022年にはなくなっています。2024年第2四半期の導入量は9.4GWhでした。
2030年までに2000万台という目標は、2022年4月の四半期決算発表の時にマスク氏が言及しました。うかつにもこの数字がインパクトリポートに出ていたとは気がついていませんでしたが、さすがに決算報告書に記載はなかったので、気持ち的に「目指したいところ」という意味だったのでしょうか。
2000万台はともかくとして、市場活性化の中でテスラ社がどんな位置を占めるのかに、世界の目が注がれていると思います。テスラ社が出てくるまで新規参入がなかった欧米の自動車産業は100年以上の歴史を持ち、おそらく今後も続くでしょう。
テスラ社も、気候変動対策を大目標に掲げているのだから、2030年と言わずさらに長期的な未来像を見せてくれるといいなあと思います。
そのひとつがロボタクシーなのかもしれませんけども、個人的には手頃な価格のモデルに心を引かれます。薄利多売ではない形で出てくることを願っています。
ということで、テスラ社の第2四半期決算は、7月23日発表予定です。お楽しみに。
文/木野 龍逸
投稿ではありません。
EUやアメリカの中国製電気自動車に対する関税が話題になっています。聞くところによると100%という凄まじいものもあるようですが、理由として中国政府が消費者だけではなく、電気自動車メーカーにも奨励金を出しているということになっています。また、EUはテスラ車も中国製造には関税を上げるようなことも伝え聞きます。回り回って、自分の首も絞めかねない貿易戦争の勃発のように見えますけど、本当のところはどうなっているのでしょうか。中国市場とは切っても切れないテスラの記事でしたのでお聞きしたかったまでです。何かの機会に記事化していただけると勉強になるのですが。