テスラ2021年Q4決算を発表~営業利益は前年同期比354%を記録

テスラ社は現地時間の2022年1月26日に、2021年第4四半期(10月~12月)および2021年通年の決算を発表しました。出荷台数が前年比で87%増になったのをうけて通年の売上が過去最高になったことと同時に、通年の営業利益率が12.1%に達しました。決算の概要をお伝えします。

テスラ2021年Q4決算を発表~営業利益は前年同期比354%を記録

【参照資料】
テスラ社 2021年会計年度第2四半期の決算報告
※PDFにリンクします
※記事中写真などはPDFから引用。

通年の売上高は記録的な数字に

テスラ社は今回の決算発表で、通常の決算報告と併せて今後の製品ロードマップの概要を発表しました。ここではまず、決算報告をお伝えします。製品ロードマップについては別記事で詳しく紹介します。

テスラ社が発表した2021年会計年度第4四半期の総売上高は177億1900万ドルで、過去最高だった前期の137億5700万ドルを更新しました。前年同期比では118%増です。営業利益は26億1300万ドルで、前年同期比では354%という記録的な増加になりました。

倍々ゲームという言葉はよく聞きますが、現実に見ることはほとんどありません。テスラの伸びは、数少ない実例でしょう。

驚異的なのは利益率です。自動車部門では前期に続いて30%を超える30.6%になったほか、営業利益率も前期に続いて14%超の14.7%を維持しました。自動車部門の利益には、温室効果ガスの排出取引に関連する規制クレジットの3億1400万ドルが含まれていますが、これを除いても利益率は29.2%です。

基準が同じではないので比較するのは微妙ですが、自動車業界の巨人トヨタの営業利益率が8%前後です。フォルクスワーゲングループは、電動化によって営業利益率の向上を目指していますが、目標は8~9%です。テスラ社の数字がいかに突出しているか、わかると思います。

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四半期決算と同時に発表された2021年会計年度(1月~12月)の総売上高は538億2300万ドル(約6兆2090億円)で、前年比71%増でした。また純利益は、前年の7億2100万ドルから55億1900万ドルと、約7.6倍(665%増)になりました。倍々ゲームどころではありませんでした。

サプライチェーンがEVの市場競争力を左右

こうした決算の結果についてテスラ社は、決算報告書で次のようにコメントしています。

「2021年はテスラ社にとって画期的な年でした。電気自動車(EV)の成長力と収益性に、もはや疑いの余地はありません。2021年の出荷台数は87%増加し、最新のデータに基づけば、全ての量産車メーカーの中で最高の四半期営業利益を達成しました。これは、EVが内燃機関(ICE)の車より収益性が高いことを示しています」

EVは、やり方によっては儲かるということです。儲かれば雇用の創出にもなるし、経済の好循環につながります。

ところで決算報告書では、利益率に悪影響を与えたものとして、2018年のCEO賞に起因するSBC費用が2億4500万ドル発生したことのほか、原材料や流通のコスト増、リコールコスト増などを挙げています。一方で、車両の納車台数増やリースを含めた事業の収益性が改善したことが、営業利益率を押し上げたとしています。リコールについては、2021年末に67万台のリコール届けがあったので、次期決算での影響が気になるところです。

それにしても、以前の決算発表の記事でも触れましたが世界的な半導体不足の中で生産台数を増やし続けているのは特筆すべきことでしょう。これに関連してテスラ社は、「私たちは、EV市場の競争力はサプライチェーンや製品生産のキャパシティーを増やす能力によって決まると信じています」とコメントしています。

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またニューヨークタイムズ電子版(2022年1月26日付)は、「テスラは他の自動車メーカーの車よりも多種多様なチップを使用できる」ため、入手しやすいチップに切り替えることで影響を緩和できたと指摘しています。

4680バッテリーの搭載車両を今季から納車

テスラ社が進めるバッテリーの多様化(リン酸鉄への変更や4680の搭載など)も、この流れに沿ったものかもしれません。チップだけでなく、EVの場合は平時でもバッテリー確保が極めて重要です。

テスラ社でパワートレインおよびエネルギーエンジニアリングを担当するアンドリュー・バグリノ上級副社長は、決算発表の電話会議で新しい4680バッテリーについて触れ、「最初の4680搭載の車が2022年の第1四半期に納車される」と述べています。

またイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、テキサス工場で4680を搭載した『モデルY』の生産を始めていることを明らかにしています。前期の決算発表では4680の搭載時期を明確にしていなかったのですが、量産試作が順調に進んだようです。

ただしチップの確保は容易ではないようです。マスクCEOは「チップの不足は昨年よりは改善しているものの、依然として問題だ。サプライチェーンには複数の課題がある」という認識を示しています。また決算報告書では、サプライチェーンの制約によって、テスラ社の各工場の稼働は生産能力を下回っていると述べています。

とは言え、マスクCEOは「2022年には、2021年から50%を超える大幅な成長が見込まれる」と見通しを述べていて、影響回避に自信を見せています。実際、コロナ禍真っ直中で業績を伸ばし続けているので、不安材料が今より増えることはないと言えそうです。

2022年末には新工場の場所を発表か

ではその他の内容をざっと見ていきます。まず第4四半期のフリーキャッシュフローは27億7500万ドルで、前期の13億2800万ドルから倍増しています。

通年で見ると、フリーキャッシュフローは50億1500万ドル、現金および現金同等物は175億7600万ドルでした。2021年の現金および現金同等物は193億8400万ドルなので少し減っています。

一方で車両とエネルギー製品の融資を除いた債務総額は、2021年第4四半期の62億9000万ドルから着実に減らし、今期は13億9000万ドルにまで減少しました。いい感じで健全体質をキープしているようです。

設備投資額は、前期より900万ドル減りましたが、18億1000万ドルと引き続き堅調です。通年での設備投資額は64億8200万ドルで、2020年の31億5700万ドルから倍増しています。

決算報告書では、「オースティンとベルリンの新しい工場での生産を増やすだけでなく、フリーモントと上海の既存の工場からの生産を最大化することによって、できるだけ早く生産を増やすことを目指す」と述べています。

さらに、マスクCEOは今後も生産能力を拡大していくとし、「今年の終わりには新しい(工場の)場所を発表できると思います」と述べています。引き続き大きな設備投資が続きそうです。

なお、ベルリン工場は、許可を巡る当局との折衝が長引いていると報道されていて、2021年中の稼働はできませんでした。2022年中の稼働開始を目指しています。

テスラ社の生産能力は現在、カリフォルニア州フリーモントで60万台、上海で45万台以上となっています。これに、まだ生産能力は非公開ですがベルリンとテキサスが加わると、勝手な臆測ですが150万台以上はいきそうです。世界でも上位に入る自動車メーカーということになります。もう、ほとんどそうなってるようにも思いますが。

研究開発費は伸びています。直近1年間の四半期ごとの金額を以下に示します。利益が上がれば研究開発に回すという感じでしょうか。

2020年第4四半期 5億2200万ドル
2021年第1四半期 6億6600万ドル
2021年第2四半期 5億7600万ドル
2021年第3四半期 6億1100万ドル
2021年第4四半期 7億4000万ドル

なお、2022年に投入すると株主総会で言及していた『サイバートラック』は2023年に延期になりました。

新車が少ないことについてマスクCEOは、「新車を投入すると生産台数が減少してしまう」と述べています。理由は、サプライチェーン、とくにチップの制約があるために新車を投入しても生産量を増やせないほか、「追加の製品の複雑さが増し、実際に納車される車両が少なくなるため、多くの注意とリソースが必要になる」からだそうです。なるほど、一理ある気がします。

こうしたことからマスクCEOは、「今年(2022年)は新しいモデルを導入しない」ことを明らかにしました。

ただ、来年(2023年)は『サイバートラック』、『セミ』、『ロードスター』、それにヒューマノイドロボットの『Optimus(オプティマス)』の生産を始めるとも述べています。

そんなこんなのテスラ社の決算報告発表でした。2022年の見通しについて、ザッカリー・カークホーン最高財務責任者(CFO)は、現状の生産量が生産能力を下回っていることを踏まえて、「2022年の成長のペースは再びサプライチェーンとロジスティクスによって決定されるが、これを私たちが予測するのは非常に困難だ」と述べています。

でも同時に、「ボリュームを増やし、営業レバレッジを改善するにつれて、営業利益率は引き続き高くなる」という見方を示すとともに、「長期的には、マージンの拡大については非常に楽観的だ」と話しています。

テスラ社の勢いはまだまだ続きそうです。これからベルリンやテキサスの工場から出てくるEVが世界をどう変えるのか、楽しみが続きそうなのであります。

(文/木野 龍逸)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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