テスラ2022年度以降の製品ロードマップ速報〜2万5000ドルEVは発表せず

日本時間1月27日早朝に、テスラの2021年第4四半期の決算発表と製品ロードマップの説明がありました。決算発表の内容は世界的な半導体不足や新型コロナウイルスの流行にもかかわらず非常に好調なものでしたが、本記事では製品ロードマップに絞って考察したいと思います。

テスラ2022年度以降の製品ロードマップ速報〜2万5000ドルEVは発表せず

各国ギガファクトリーの飛躍的な進歩

テキサスとベルリン、どちらの工場も操業を開始。特にテキサスは「構造バッテリー+4680セル」を採用した車両を生産していて、車両の認証が取れ次第、2022年第1四半期に納車を開始します。構造バッテリーとは、これまでシャシーにバッテリーを搭載していた方式から、バッテリーそのものがシャシーの一部になる仕組みです。

4680という数字は、これまでのモデルに搭載していたものよりも安く、性能が高い新型バッテリーセルです。4680セルは2022年の需要に対して十分な量を確保できているとのことなので、パイロット生産ラインの開発が着実に進んでいるものと思われます。パイロットラインが完成したら各国ギガファクトリーに本格的な生産ラインを作り、大量に4680を生産すると予想されます。

構造バッテリーと大型鋳造部品。

テキサス工場はアメリカ東海岸向けの車両を生産するので、当面は旧型のバッテリーを搭載した西海岸仕様と、最新バッテリーとシャシーの東海岸仕様という棲み分けになりそうで、これまで何でも最新鋭のモデルを享受してきたカリフォルニアのユーザーは複雑な気持ちではないかと思います。

また、2022年中に米国内でもう1カ所、工場の候補地を定めて、早ければ年末に発表します。他メーカーの工場の居抜きや各州の優遇制度、そしてテスラがよく売れる州までの距離などを考えるとデトロイト(ミシガン州)やテネシー、ノースカロライナ辺りではないかと勝手に予想しています。下図はテスラだけでなく全EVの販売台数を週ごとに見た表ですが、ニューヨークやフロリダが東海岸ではよく売れる州です。

出典:AFDC 州ごとのEV販売台数

一方ですでに稼働しているフリーモント工場と上海工場も生産能力をさらに引き上げ、2022年はこの2拠点で140万台を生産する見込みです。サラッと報告されていましたがこれもすごい数字だと思います。特に上海の伸びが底知れないですね。中国の第2工場については、今回言及がありませんでした。今後は工場の数も増え、毎年50%以上生産台数を伸ばしていく計画です。

新型車の発表について

2021年は半導体を始めとしたサプライチェーンの問題で、どのメーカーも思うように生産ができませんでしたが、テスラでは2022年も入手可能な半導体で既存車種の生産を継続することにエンジニアのリソースを割り振ることに決定しました。新型車を開発しても生産できないなら意味がないので、工場のツールの準備は進めつつ、サイバートラックやトレーラーヘッドのSemi、ロードスター、「2万5000ドルの車」など、実際のローンチは2023年以降になるようです。

また、これらの車種については決算発表で一言二言説明するようなものではなく、きちんとしたイベントを用意して発表したいそうです。サイバートラックについては少しだけ情報が出て、「現在は新機能とコストのバランスが課題。年間25万台を狙う」とのこと。

その他新製品

車ではありませんが、テスラの人型ロボット「オプティマス」は、優先的に開発するらしく、まずは工場内の荷物の搬送など、単純労働に従事させるそうです。

株主からの代表質問で「家庭用エアコン事業に参入するのか」というものがありましたが、その回答として、「EVやソーラー、定置型蓄電池、給湯器、エアコン(HVAC)を1つのパッケージにまとめられたら魅力的な商品になるだろう。今も我々はスペースが限られたクルマというプラットフォームにこれらの要素を押し込んでいる。家ならラクラク完成度の高いパッケージが作れるよ」と述べています。

テスラでは独自の自動車保険プログラムも持っており、現在アメリカの5つの州で展開しています。この保険はテスラ車のテレメトリー(急加速、急ハンドル、車間距離など)をリアルタイムで評価して保険料に反映しているのですが、安全運転をするほど保険料が安くなるため、テキサスでの過去3ヶ月の実績を見ると事故率が下がって、テスラもオーナーもWin-Winの関係だそうです。年末までに米国内のテスラオーナーの8割をカバーできるよう、各州の規制に対応していく予定です。アメリカの次は欧州に展開する予定で、日本にはまだしばらく来ないようです。

テスラアプリの安全評価画面。項目別に細かく評価されます。

メガパック(商業用定置型蓄電池)について

2021年は家庭用・商業用の定置型蓄電池へのリソース(主に半導体)を自動車に回したため、業績は振るいませんでした。しかし、前述のエアコンと共に今後は導入する家庭が増えると予想され、ゆくゆくはテラワット時レベルの事業になると予測。この量になるとニッケルが足りないため、リン酸鉄(LFP)バッテリーに進化していくとのこと。

最後に、「どうしてこれほど画期的な商品を大量に打ち出せるのか」とアナリストから質問があったのですが、その回答が、テスラではアイデアは山のようにあり、その中からどれを作るか決めてすばやく開発サイクルを回していくというものでした。R&Dセンターと工場を物理的に同じ場所に置くことで、設計者は製造プロセスを最適化できると述べています。この辺は日本のメーカーもすでに取り入れていらっしゃる所も多いと思いますが、是非とも追従していただきたい姿勢です。

完全自動運転(FSD)

会見では結構な頻度でFSDについて触れられました。現在はベータプログラムの加入者が数万人おり、そこからデータを吸い上げて自社のスパコンで学習をしています。イーロン・マスクによると、2022年末までにFSDが完成するだろうとのこと。この場合の「完成」とは絶対事故らない完全無欠のプログラムという意味ではなく、事故は様々な要因でどうしても起きるため、99.9999%のように、どこまで100%に近づけられるかがポイントになります。

その一つの指標として、平均的な人間の運転手の何倍安全か?をみるのですが、人間と同じでは意味がないので、100倍~1000倍を目指します。仮に100倍安全だとしても、いつかは事故を起こして不幸にも1人の生命が失われることがあるでしょう。その際に「自動運転で死亡事故!」と新聞に大きく書かれるのでしょうけど、その裏で99人は亡くならずに済んだのだという観点も持つべきだと思います。

マスク氏がとくに強調していたのは「FSDが完成し、ロボタクシーが現実のものになると、計り知れない経済効果を生み出す」ということです。現在、車は平均して1日90分ほど稼働しています。残り22時間半はずっと駐車場に停まったままです。資産の活用率としては1日の6%ほどですが、ロボタクシーがある世界線では1日の7割近く車は走り続け、収益を生み出すようになります。

ロボタクシーの料金は公共交通機関と比較しても安くなり「よほどの理由がない限りバスに乗ることはなくなるだろう」とマスク氏は言います。3~4年前から販売しているテスラ車両は全て、ソフトウェアをアップデートするだけでFSDが使用できるようになり、一夜にして人々のモビリティの環境が変わる「人類史上最大のソフトウェアアップグレードになる」とのこと。

そのためアナリストの「毎年50%ずつ販売台数を増やす? しかも2万5000ドルの車なしで?」との問いに対して、「FSDが完成すれば車の価値が上がる、もしくは稼働時間あたりのコストで見た時に激安の車を買ったのと同義だ」と一蹴し、作った分だけ全て飛ぶように売れるだろうと強気の姿勢を見せました。

来月にはベータプログラムもバージョン11に移行し、年末にはアメリカの広い道路で「完成」を迎えるとされるFSD。YouTube等でベータテスターの動画がたくさん投稿されていますが、今から楽しみで仕方がありません。

以上、駆け足で各製品のロードマップをカバーしましたが、当初予測していた具体的な新型車の情報が一切なかったため、少し肩透かしを食らった気分です。でも、今年は半導体等の状態が安定するのを待ち、来年以降に溜めた力を爆発させるのだと理解しました。

(文/池田 篤史)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 今回の決算QAでは、イーロンは回答する際に、多少イライラしながら回答している場面があったので、そこも興味深かったです。今回の決算を踏まえて、もっと中長期の視点でテスラを見てくれよという感じなのか、単純にその日の機嫌が良くなかったのか?(笑)

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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