テスラ2022年Q2決算〜上海ロックダウンを克服して着実な成果を強調

テスラ社は現地時間の2022年7月20日に、2022年第2四半期(4~6月)の決算を発表しました。生産台数、納車台数が前期から減少した影響で総売上高が5期ぶりに圧縮されましたが、前年同期比では大幅なプラスになっています。決算の概要をお伝えします。

テスラ2022年Q2決算〜上海ロックダウンを克服して着実な成果を強調

【参照資料】
テスラ社 2021年会計年度第2四半期の決算報告
※PDFにリンクします
※記事中写真などはPDFから引用。

上海のロックダウンで利益が前期比マイナスも前年同期比では大幅増

いったいどこまで成長が続くのかと思われたテスラ社にとって、思わぬ壁になったのが新型コロナという自然災害と中国政府のゼロコロナ政策でした。とはいえ前年と比べると実績は伸びていて、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、今年も年率50%の成長になることを疑っていません。

テスラ社の2022年第1四半期の決算は、上海のロックダウンの影響が顕著に見られる結果になりました。まず総売上高は169億3400万ドルで、前期の187億5600万ドルから10%減でした。ただし前年同期比では42%増になっています。

営業利益は24億6400万ドルで、前期の36億300万ドルから32%の大幅な減少になりました。ただしこれも、前年同期比では88%の大幅増となっています。

続けて当期純利益は22億5900万ドルで、前期の33億1800ドルから32%減ですが、前年同期比では98%と、ほぼ倍増しています。

この結果についてマスクCEOは電話会見でこう述べています。

「第2四半期は、上海工場の長期閉鎖により、テスラにとってユニークな四半期だった。しかしこれらの課題にもかかわらず、私たちの歴史の中で最も強力な四半期のひとつになった。最も重要なことは、6月にフリーモントと上海の両方で生産記録を達成したことで、その結果、今年の下半期は記録的な結果を出す可能性がある」

そしてマスクCEOは、課題を克服し生産量を復活させた上海工場のスタッフに「多大な感謝を捧げる」と話しました。

利益率は高水準を維持しつつビットコインの多くを売却

基幹部門の自動車事業は、売上高が146億200万ドルで、前期の168億6100万ドルから13%ほど落ち込みました。今期の納車台数は約18%減少しているので、売上高への影響は相対的に低くなっています。

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次にテスラ社の特徴となっている利益率を見てみます。まず自動車部門の利益率は27.9%と高水準を維持しています。前期の32.9%からは圧縮されていますが、1か月にわたる上海工場の停止を考えると影響は抑えられていると言えそうです。

同じく営業利益も前期の19.2%から14.6%に落ちていますが、2期前の2021年第4四半期は14.7%なので、大幅に悪化したとも言えなさそうです。むしろ前期が突出していたと言えます。

自動車部門に含まれる規制クレジットの売上は3億4400万ドルでした。自動車部門の粗利益は40億8100万ドルなので1割弱を占めていますが、これを抜いても高い利益率になっていることがわかります。

収益に影響を与えた要因について決算報告書では、平均販売価格の上昇、納車台数の増加などのプラス要素とともに、原材料や流通などのコスト上昇、上海のロックダウンによるコストの高止まり、ビットコインの価値の減損などのネガティブ要素があったとしています。

決算報告書でテスラ社は、第2四半期末に、保有しているビットコインの75%を売却し9億3600万ドルの現金を確保したことを明らかにしました。

減損がどの程度になっているかは明記されていませんが、ブルームバーグは2022年6月21日の記事でテスラ社のビットコインに対する投資額と売却額、現在の保有額から、「ビットコインの減損が4-6月期の収益性を悪化させた」と評価しています。

他方、マスクCEOは電話会見でビットコインの売却理由について、中国の新型コロナ規制がいつ緩和されるかについて確信が持てず流動性に対する懸念があり、キャッシュを最大化することが重要だったと説明し、「ビットコインに対する評価と見るべきではない」と話しています。

またテスラ社は、現金および現金同等物、有価証券で189億ドルを確保していて、手元資金の不安はないと言えます。

バッテリーはリン酸鉄が主流になる?

では、この他のポイントを見ていきます。現在の各地の工場の生産キャパシティは、上海の年間75万台以上を筆頭に、ベルリンとテキサスが各25万台以上、カリフォルニアが65万台以上となっていて、合計すると190万台の生産能力になります。

新設したベルリン工場は第2四半期に稼働率が大幅に向上し、1週間で1000台以上の『モデルY』を生産し、今後も改善が予想されるとしています。

テキサス工場では、従来のバッテリーパックと、新たに採用した「構造バッテリーパック」のいずれかを搭載できる柔軟性を備えた製造ラインを構築しました。新しく搭載する4680バッテリーの製造ラインも試運転を開始しています。

ところでバッテリーに関しては、電話会見の中で興味深い話が出ていました。

まず原材料コストの上昇に関して、パワートレインとエネルギー・エンジニアリング担当のアンドリュー・バッリーノ上級副社長が電話会見の中で、以前は1kgあたり11ドルだったリチウムの価格が80ドル以上になっていると述べています。

このためマスクCEOは改めて、リチウム精製事業への新規参入を呼び掛けています。マスクCEOは、バッテリー供給のネックになるのは原材料不足ではなく、リチウムを精製する設備の不足だと考えています。電話会見でマスクCEOは、必要な設備は巨大であり、「リチウムを超高純度のバッテリーグレードの水酸化リチウムや炭酸リチウムに精製することは非常に困難」だと指摘しています。

そして今後については、「おそらく、バッテリーの3分の2はリン酸鉄か、マンガンを含むリン酸鉄になるだろう」という見方を示しました。

すでにテスラは、中国工場ではCATLのリン酸鉄(LFP)バッテリーを採用していますが、マスクCEOの見通し通りなら、ほかの工場でもLFP搭載モデルを生産する可能性があります。それにしても3分の2をLFPにするとなると、バッテリー市場の大転換になります。もちろん価格も安いわけで、航続距離は減るもののユーザーが自分の最適解を持つようになれば、EV普及が加速する可能性があります。

このほかにもバッリーノ上級副社長は、バッテリー供給の問題は「来年、または2年以内に発生するわけではない。しかし10年先を見据えると、成長のためにはもっと多くのことをする必要がある」と述べています。

テスラ社は、EVとの二本柱になっているエネルギーストレージ部門でも大量のバッテリーを必要とします。激化するバッテリー確保競争をどうやって勝ち抜くかは、テスラ社にとって極めて大きな課題であり続けると思われます。

新しいソフトウエアとFSDの値上げ、好調なエネルギー部門

決算報告書ではFSDについても触れています。北米では10万人以上のユーザーがFSDのベータ版を使用し、トータルで3500万マイル(5600万km)を走行したそうです。今年末までには北米の全てのユーザーに向けてリリースされる予定であるほか、ヨーロッパやほかの地域でも規制当局の承認が得られれば、「リリースできることを願っている」(マスクCEO)とのこです。

FSDが特別なシステムであることは明らかですが、マスクCEOは、「FSDの価格は今年後半に、値上げする予定」であることを電話会見で明らかにしました。マスクCEOによれば、FSDは本来の価値が理解されていない、ほんとうは非常に重要なシステムだということですが、価格が上がることでユーザーの幅がどうなるのか、欧米ほどお金がない日本から見ると気になるところです。

最近のFSDに関しては、開発部門で大規模なリストラをしたことが話題になっていましたが、開発をリードしてきたアンドレイ・カルパシー氏が退任したことが、決算発表の直前、7月13日に発表されました。

そうした中での値上げ予定発言です。FSDの価値は非常に高いと言い続けているマスク氏は次にどんな手を打ってくるでしょうか。

ところでテスラ社のFSDについては、アメリカの道路交通安全局(NHTSA)が調査を始めたことが報じられています。調査完了の見通しは不明ですが、これもまた気になる動きです。

自動車の生産技術に関しては、ボディーの製造工程で使用しているロボットの数が、『モデル3』を生産し始めた頃と比べて容積あたり70%以上減少したことが特記されました。これだけ減ればコスト削減に大きく寄与したことが、素人目にもわかります。

生産技術についてマスクCEOは、『サイバートラック』の生産ではさらに進んだ技術が投入されると述べています。どんな技術なのかは、今はまだ言えないそうです。そして『サイバートラック』は、2023年半ばに生産が始まる可能性があることが明らかにされました。いよいよ出てきますね。

自動車事業と同じくらい重要なエネルギー関連部門では、太陽光発電の導入量が第2四半期に106MWと、四半期ベースでは過去最高になりました。他方、エネルギーストレージは、半導体不足の影響で第1四半期から11%の減少でした。ただしメガパックの需要は旺盛で、専用工場での生産を拡大する方針です。

以上、駆け足で決算報告書を見てきました。半導体不足で多くの自動車OEMが苦しんでいる中で、テスラ社は、生産減はあるもの高収益性を維持しているのは特筆すべきことだと思います。

そして生産技術については、マスクCEOが電話会見で何度か言及していて、大きな自信を持っていること、非常に重要視していることがうかがわれます。『サイバートラック』でどんなことをしてくるのか、とても楽しみです。

(文/木野 龍逸)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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