テスラ2022年Q3決算を発表〜株価下落も業績は堅調

テスラ社は現地時間の2022年10月19日に、2022年第3四半期(7~9月)の決算を発表しました。上海工場がコロナ禍の影響から受け出しつつあることなどの好材料もあり総売上高は過去最高の約214.5億ドルを記録しました。純利益も過去最高と同等まで回復しています。決算の概要をお伝えします。

テスラ2022年Q3決算を発表〜株価下落も業績は堅調

【参照資料】
テスラ社 2021年会計年度第3四半期の決算報告
※PDFにリンクします
※記事中写真などはPDFから引用。

総売上高が過去最高を更新

日本ではあまり景気のいい話は聞こえてきませんが、テスラ社は相変わらず業績が堅調というか、目標に向かって伸びているようです。

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テスラ社が2022年10月19日(現地時間)に発表した2022年第3四半期の決算では、総売上高、営業利益、フリーキャッシュフローがそれぞれ過去最高を記録しました。

また当期純利益は32億9200万ドルで、今年の第1四半期に達成した過去最高の33億1800万ドルとほぼ同等になりました。

総売上高:214億5400万ドル(前年同期:137億5700万ドル)
営業利益:36億8800万ドル(前年同期:20億400万ドル)
純利益:32億9200万(前年同期:16億1800万ドル)

なお自動車部門の売上高は186億9200万ドルで、これも過去最高額でした。このうち規制クレジットの収入は2億8600万ドルです。

前年同期の規制クレジットは2億7900万ドルと同程度だったので、自動車部門の売上高に占める割合は年々、少なくなっていることがわかります。

マスク氏は壮大な年末になることを期待

決算報告書では、フリーキャッシュフローが過去最高の約33億ドルに達したことも強調しています。2022年度の1~9月まででは約61億ドル、過去12か月間では約89億ドルを超えています。

利益率は、自動車部門は前期と同じく27.9%、営業利益率は前期の14.6%から17.2%に上昇しています。自動車部門の利益率は2022年第1四半期に32.9%を記録しているので、若干ですが落ちてはいます。

原材料費の値上がりが続いていることや、テキサス、ベルリンの工場の新規立ち上げ、4680セルの開発や新たな生産工程の立ち上げなど、コストの上昇要因は幅広い分野にわたっています。

それにもかかわらず、高い利益率を維持し、多くのフリーキャッシュフローを確保していることには目を見張ります。テスラの車の値上げが断続的に続いていることが利益率維持の要因のひとつなのは間違いないのですが、需要が大きく落ちたわけでもありません。もし値上げがなかったらどうなっていたんだろうと思います。

イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はオンライン説明会で、第4四半期についても「記録的な数字になることを期待している」とし、“knock on wood”とおまじないの言葉を口にしつつ「私たちは壮大な年末を迎えることができそうだ」と強気の姿勢を崩していません。

アナリスト予想を下回り株価下落もマスク氏は強気

一方で今期の業績は、アナリストの予想を下回ったこともあるためか株価は発表前の222.04ドルが、発表翌日の10月20日には206.22ドルに下落しました。ただ、テスラ社の株価は2021年11月4日の409.97ドルをピークに上下動を繰り返しつつ下がっているので、もはや短期の業績とは別の要因で動いているのかもしれません。

また、テスラ社が今年の目標を生産、納車ともに約140万台に設定していたのに対し、生産は目標に届きそうですが納車が微妙に届かない可能性が出てきています。原因は、生産が四半期の期末に集中しているため、輸送手段の確保が困難になっていることです。

この点についてザッカリー・カークホーン最高財務責任者(CFO)はオンライン説明会で、輸送時期の偏りによって「特に上海から欧州への船便と、米国と欧州の一部の地域内のトラック輸送で(遅延が)発生している」ため、できる限り平準化したことを明かしました。決算報告書では、第3四半期には輸送能力の問題が深刻化し、生産と納車の地域間格差を是正する方向で動いていると説明しています。

今期の業績に関しては、納車台数の伸びに鈍化が見られたという見方のもと、もしかして需要が落ちているのではないかという疑問も出ていたようです。

それでもマスクCEOはオンライン説明会の冒頭説明で、「ここ数週間、需要について多くの質問が寄せられている」としつつ、「第4四半期の需要は非常に好調で、将来にわたって生産するすべてのクルマを販売できると考えている」と、目標達成に自信を見せました。

バッテリー価格は1kWhあたり70ドルになる?

では少し細かく見てきます。まず自動車生産関連です。すでに前期の時点で、テスラ社の年間EV生産能力は、最大で190万台に達していました。内訳は、カリフォルニア州が65万台、上海が55万台、ベルリンが25万台、テキサスが25万台です。このうちベルリンとテキサスは『モデルY』だけを生産しています。

これに加えて、12月からはネバダ州で『テスラ・セミ(Semi)』の生産が始まる予定です。マスクCEOは生産開始に合わせてネバダ州の工場を訪れる予定だそうです。

当初計画からだいぶ遅れている『サイバートラック』は、テキサスの工場で生産設備の準備をしているそうです。生産開始は来年半ばを予定していますが、本格的に大量生産に入るのはもう少し時間がかかりそうです。

アメリカの工場のうち、カリフォルニア州フリーモントとテキサス州の工場では、新世代の4680セルを生産していて、テキサス州の工場には第2世代の製造装置があると、マスクCEOは話しています。このほかベルリン工場でも、年内に構造型バッテリーパックを導入する予定になっています。

これらの工場から生まれる4680セルは、第2四半期から第3四半期にかけて3倍に増えたそうです。マスクCEOは、4680の生産は「指数関数的に」増えていて「今後数か月で自動車への搭載が始まる」とし、テキサス工場で作られる車の大部分を占めるようになるだろうと述べています。

なお今のところ、『モデルY』に4680が搭載される予定で、『セミ』に載せる予定はないそうです。

ドイツのベルリン工場(ベルリン-ブランデンブルク)は2170セルを搭載した『モデルY』を、決算発表の前日までの1週間で初めて、週2000台のペースで生産しました。初期調整に少し時間がかかっているような印象ですが、テスラ社にとってはマイルストーンであり、テキサス州のオースチン工場や、ギガテキサスもすぐに週2000台に届く見込みです。

必要があれば採掘もやる

オンライン説明会では、テスラ社がリチウム精錬所を建設中であること、4680の生産量は当面、週に1000台分になりそうなことなども触れられていました。

今後についてマスクCEOは、「アメリカで年間1000GWhの生産能力を確保するため、精製、陽極、陰極(の生産を)垂直統合するためトップスピードで動いている」とし、計画している生産体制が整えば、バッテリー価格は「1kWhあたり70ドルになる道が見える」と期待を込めて話しました。

さらにマスクCEOは、アナリストから「鉱業を垂直統合することは考えるか」と聞かれ、「必要なことは何でもやる。制限される要因がなんであれ、私たちはやる。(中略)どうしても採掘しなければならないのあれば、採掘する」と回答しています。

日本では、EV化が進むと水平分業になるという見方が一般的で、確かにティア1のメーカーがeアクスルなど主要部品を供給していたりするので一面では間違いはないのですが、視点をテスラに移してみると、バッテリー、半導体、ボディー生産のプレスから、リチウムの精錬所のようなものまで垂直統合をしつつあり、それがコストダウンの武器になり、リサイクル工程の確立にも寄与しそうです。

まずは自社で手がけてみないことにはわからないことはありそうで、この点、日本の自動車メーカーがどうしていくのか、気になるところであります。

加えて、マスクCEOは、これまでの車種の開発から学んだ知見を生かして、次世代モデルの開発に取り組んでいることを明かしました。次世代モデルのプラットフォームは『モデル3/Y』よりも低コストになるのは確実ですが、マスクCEOは「いま、『モデル3』を1台作るのにかけている労力で、どうやって2台作るか」に取り組んでいると述べています。

そして、この車ができれば、「他のすべての車両を合わせた生産量を超える」と言います。そりゃあそうでしょう。

EVでムーアの法則でも実現するつもりでしょうか。なんというか、先の先の、その先まで見通してる感じがします。

そんな車が中古車試市場に出てくれば、筆者にもEVを買える時代が来るかもしれないなあと思いました。

FSD、エネルギーストレージ、スーパーチャージャーなど

FSDに関しては、すでに「AI Day 2022」で発表があったので、決算発表時にはあまり技術的な新しい話は出ていません。

【関連記事】
テスラ「AI Day 2022」翻訳&解説レポート【Part.2】完全自動運転の現在地とは?(2022年10月8日)

ただマスクCEOから、年内に「完全な自動運転のソフトウエアをリリースする予定」という説明があったため、アナリストから「それ(完全な自動運転)はレベル4やレベル5のような定義を意味するのか」と補足質問がありました。

マスクCEOは、「(レベル4や5の定義という)この議論は、1マイルあたりの安全介入はどうなるかというようなもの。私たちは誰も、ハンドルを握らなくなる準備が整ったとは言っていない。制御装置やコントローラーにほとんど触れる必要がなくなるということ」だと述べ、次のように続けました。

「『誰も乗っていない状態でも運転できる』と確信できるまでに、いくつの“9”の信頼性が必要なのかという、マーチ・オブ・ナインと呼ばれるさらに長いプロセスがある。必要とされる“9”の数は主観的なものだが、今年の終わりには、誰も乗らなくても大丈夫なくらいの9を獲得できるところまで来ていると思う。そして私の頭の中では、来年には間違いなくそれがある。また来年には、自動車が平均的な人間よりもはるかに安全であることを規制当局に示すことができるよう、アップデートを行うことになると思う」

自動運転に関しては、いったいどのような道路状況で、1km走る間に車がどんな状態であればいいのか、その時の安全率はいくつに設定するのかなどまだまだ議論が必要です。テスラ社のFSDは、その議論のベンチマークになるのかもしれません。いったい、どんなFSDを見ることができるのでしょうか。

テスラ社の事業のもう一つの柱であるエネルギー部門でも進展がありました。第3四半期のエネルギーストレージ導入量は、前年同期比62%増の210万kWhになりました。これもまた過去最高です。

需要は旺盛で、テスラ社はカリフォルニア州ラスロップにあるメガパック専用工場の生産能力を40GWhから拡大しています。マスクCEOは、「定置型ストレージは自動車よりもはるかに早く、年間150%から200%成長する」という見方を示しています。

決算報告書ではスーパーチャージャーの設置台数にも言及があります。有償のスーパーチャージャーは前年比で3倍以上に増加していて、さらに数を増やしていく予定です。

なおスーパーチャージャー全体の数は、ステーションが4283カ所(前年同期3254カ所)、コネクター数が3万8883個(前年同期2万9281個)です。

単純平均で、ステーション1カ所につき9個のコネクターがあることになります。日本と比較するにはレベルが違いすぎますが、急速充電設備の規模の小ささはもちろん、EVの普及に対する姿勢や考え方の違いがよく出ているように感じます。

ここ1年半ほどのテスラの決算発表の中に大きな不安要素は見当たらないように思います。半導体の問題やcovid-19災害、地政学的なこと、規制からの影響などはテスラに限らずどこの自動車メーカーにも関係することです。

もちろん、EV専業というのは特殊事情ですが、現状でEV専業であることがマイナスになる環境も具体化していないと思います。

しいて指摘するとすれば、数を売る中で出てくるリコール対応でしょうか。これについて決算報告書に記載はありません。

例えば『モデルY』は、2022年1月以降、アメリカで大小合わせて7回、のべ約317万台がリコール対象になっています。最近では9月に、パワーウインドウの障害物検知システムがうまく動作しない可能性があるとして、約110万台がリコールになりました。

車の種類が少ないため、リコール1回のボリュームは大きくなる傾向があります。今後、さらに生産台数が増えたときにどうなるか、気になると言えばなります。

そんなことも含めて、テスラ社の動きから目が離せません。はたして年間の生産台数は目標に届くのか、納車台数はどうなるのか、バッテリーはどうか、来年に向けてロジスティックの問題はどのように解消するのか等々、次回、2022年通年の決算発表に注目です。

(文/木野 龍逸)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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