アウディ『e-tron スポーツバック 55 クアトロ』で長距離ドライブ〜カタログ値より電費がいい!

アウディジャパンが日本で初めて導入した電気自動車(EV)の「e-tron スポーツバック 55 クアトロ」でロングドライブテストに繰り出してみました。東京から福島県郡山市までの往復574kmで垣間見た、プレミアムEVの実力をお伝えします。

アウディ『e-tron スポーツバック』で長距離ドライブ〜カタログ値より電費がいい!

性能も価格もとにかくプレミアムなe-tron

これまでEVsmartブログでは、試乗記や欧州での発売時のニュース速報などで何度かe-tronのリポートをお送りしてきました。

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今回は高速道路を含む長距離を走ってみて、充電の様子や電費の状況などを中心にお伝えしたいと思います。

10月12日の午後、まずは東京都の品川駅から少し歩いたところにあるアウディジャパンまでe-tronをお借りしに行きました。地下駐車場に鎮座したe-tronを初めて見た印象は、「デカ!」です。すでに大きさについては記事で見ていたので想像はしていましたが、間近で見るe-tronの大きさは迫力ありました。

話は逸れますが、アウディジャパンはe-tron導入に合わせて自前の急速充電器を設置しました。確かにバッテリー容量が95kWh(実質86kWh)もあると、3kWや8kWの普通充電で充電していると場合によっては満充電まで10~20時間以上もかかってしまいます。それと同時に、安い買い物ではない急速充電器をわざわざ設置したところに、アウディジャパンの意識を見た思いがしました。

駐車場に自前の急速充電器を設置。最大出力50kWのタイプです。

乗り心地はマックス「気持ちいい」

さて、この日はアウディジャパンを出て山手通りから五反田駅を過ぎ、首都高速に入りました。目指すは約250km先の郡山市近くにある、磐梯熱海温泉です。外気温は24度くらいで、お昼過ぎには気持ちよく晴れていました。

走り出してすぐ感じたのは、試乗記で御掘直嗣さんが書いていたように、意外に大きさを感じないことでした。全長4900mm、全幅1935mmありますが、車両感覚をつかむのにそれほど苦労はありません。

言わずもがなのことですが、e-tronは高級車です。しかもアウディジャパンが日本に導入したモデルは、今のところe-tronの中でも最も高性能な「スポーツバック 55 クアトロ」だけです。価格も税込み1327万円と、かなりハイグレードです。

このくらいアッパーな車になると、普段は小さな車しか乗っていない筆者にはEVとか内燃機関(ICE)の車だとかは関係なく、乗り心地については「気持ちいい」という以外の表現方法を思いつかなくなってしまいます。

パドルシフトで3段階の強弱調整ができる回生ブレーキも、強弱の調整がごく自然で、とにかく運転がしやすいのです。回生ブレーキのコントロールは、街中でも高速走行時でも重宝します。

一方で、どうしても慣れなかったのがバーチャルミラーでした。以前に「ホンダe」に乗ったときにも感じたのですが、バーチャルミラーのモニター位置や、光の方向によっては反射で画面が見えなくなることもさることながら、老眼になってきた目にはモニターの距離が微妙に合わず、画像がよく見えないのです。

普通のミラーは、映っている物体までの実際の距離に応じて焦点が遠くなるので、ミラーと目の距離はあまり関係ありません。だから目の前にあるルームミラーでもちゃんと見えます。

ところがバーチャルミラーになると、モニターと目の距離がそのまま焦点距離になるため、モニターが目に近いと画像が見えにくくなってしまいます。おまけに遠近両用メガネは上部が遠くを見る度数なので、バーチャルのルームミラーだと情けないくらい見えません。

もちろん、雨の時や夜などはバーチャルミラーの明るさが便利だし、老眼でなければ見えるので、感じ方は人によります。だから筆者としては、バーチャルミラーと普通のミラーを併用できればいいのなあと思ってしまいます。時と場合に応じて使い分けるという感じでしょうか。ルームミラーは併用になっているので、外のミラーもそうだといいなあと思いました。

ドライブモードはEfficiencyを選択。

カタログ値より電費がいい!

首都高速は渋滞もなく、e-tronは順調に走り続けました。環状線から東北道に入って少し車が増えましたが、流れが妨げられるほどではありません。アクセルのレスポンスが少し緩い方が個人的にはラクなので、ドライブモードは「Efficiency」にしていました。

高速を90~100km/hくらいで走りながらe-tronの電費計をながめていると、ほぼ4.6~4.8km/kWhで推移していました。カタログ値の電費は3.85~4.57/kWh(WLTP)なので、リアルワールドの方がだいぶいいことになります。WLTPの走行モードに比べると日本の高速道路は条件が緩いので、当たり前と言えば当たり前かもですが。

「おや?」っと思ったのは、速度域が変わっても、電費にあまり影響がないことでした。また、福島に向かう中では勾配のきついところもあるのですが、登坂途中に4.5km/kWhくらいになることはあっても、平たんになればすぐに4.7km/kWh程度に戻ります。

もともと車重が2.5トンあるので、相対的に速度アップの影響が少ないのかもしれません。それに欧州で走ることを考えると、100km/hを超えて電費が極端に悪くなるようでは悪評が立ち上りそうです。

もう少ししたら、東北道や常磐道などで最高速度が120kmの区間が増えそうなので、他のEVも含めて速度域でどのくらい電費が変わるのか試してみたいと思いました。

急速充電はらくらく

東京から3時間ちょっと走り、残りの走行可能距離と目的地までの距離を考えて、安積パーキングエリアで充電することにしました。ここまでの走行距離は238.2kmで、残り走行可能距離は123kmです。出発前の走行可能距離は324kmだったので、予想より40kmほど長く走ることができる計算になります。ちょっとうれしい感じです。

ちなみにバッテリー残量は、実は出発時に表示方法がわからずデジタル値を確認しそびれてしまっていました(泣)……。ただ、100%になっていないのはインパネのメーターから確認できました。およそ85~90%くらいだったと思います。それが、安積PA到着時には29%になっていました。

安積PAで停まったのは、急速充電器が50kWだということもあります。e-tronの55クアトロは、欧州では150kWの急速充電器に対応しています。バッテリー容量が少ない50クアトロでも120kW対応になっています。

こうした大出力の急速充電でも効率を落とさないために、e-tronはバッテリーの温度管理にも力を入れています。だから日本の50kWなど、お茶の子さいさいのはずです。

さて、結果はどうかというと、確かにお茶の子さいさいでした。急速充電器の表示は、充電開始時には397V/113A(44.8kW)で、充電中に少しずつ電圧が上がり、終了時には413V/113A(46.6kW)になっていました。充電終了時の外気温は、メーター表示で21.5度でした。あとは夏場の気温の高い時に充電したらどうなるのかも、そのうち試してみたいところです。

バッテリー容量と電費の関係を改めて考えることに

30分の充電でバッテリー残量は56%に回復しました。充電量は22.8kWhだったので、1kmあたり4.7kWhとして約107km分になります。

そんな計算をしていたら、うーん……と考え込んでしまいました。

要するに、スタート時に満充電になっていれば当初の走行可能距離は長くなりますが、それ以上に距離を伸ばそうとすると、急速充電器の出力がe-tronのバッテリー容量に追いついていないため追加される走行距離が短く、徐々に充電回数を増やさざるを得なくなってしまうのです。

この問題は、欧州のように大出力で充電ができれば解消します。他方で、システム全体の効率が落ちるようなことになると、気候変動対策という観点からは本末転倒になってしまいます。

この翌週に「リーフe+」で長距離を走った時には、高速道路で6.1km/kWh程度、街中では6.9km/kWhくらいの電費になっていました。e-tronの長距離ドライブでは帰路、渋滞を含む中で電費は5km/kWhまで増えましたが、平均するとe-tronとリーフでは、30分の急速充電で追加できる走行可能距離が数十キロというか、1.5倍ほども違ってくる可能性があります。

バッテリー容量から考えた航続距離は似通っていても、電費によって実用上の違いが出てくるわけです。効率の差が大きいことを改めて思いました。

もちろん、日本と欧米では道路事情や充電インフラ事情が大きく違います。だからバランスをどう考えるかは難しところですが、80年代~90年代に日本車が注目された燃費の良さがEVでも実現できれば、後からでも市場を取ることができるのかもしれない、なんてことも思いました。

まあこんな愚考も、1日に数百キロも走るなら電車で行った方がラクだよね、とか、往復500km程度の今回の試乗距離であれば実のところ電費の違いはあまり気にならなかったんですけどね、という話をすると議論が根本からひっくり返ってしまうので、視点次第かなぁとも思います。

帰路は余裕をもって充電&仮眠

そんな小難しい事を考えたのは数日後に原稿を書きながらなので、話を長距離試乗に戻します。なんだかんだで目的地の磐梯熱海に着いたのは夜の7時。トータルの走行距離は265km。急速充電1回で、バッテリー残量は48%でした。もともと満充電になっていないうえ、出発時の残量を確認できなかったので、全体状況は帰路で改めてチェックすることにしました。

翌日の天気は曇り。出発時の気温は19.5度。ある意味でEV日和です。

午前9時半過ぎに出発して郡山市内で別件の取材を済ませ、午後1時頃に郡山中央スマートインターチェンジから東北自動車へ。

この時の気持ちの中では、帰りに安積PAでもう一度50kWを試してみようと思っていたのですが、「あ」と思ったら通り過ぎていました。仕方ないので次の那須高原SAで充電することに。

那須高原SAでは、充電開始時のバッテリー残量は27%。急速充電器の出力40kWですが、充電器の表示では終了間際に約36.2kWが出ていたのが最大でした。

終了時の残量は49%。総容量に対して22%の充電量です。走行可能距離は98kmから181kmになりました。ほぼ、前日の充電時の増加量と符号しています。

とはいえ東京までの残り距離を考えると少し不足気味なのと、ものすごい睡魔におそわれたこともあり、充電器が空いていた都賀西方PAで仮眠&追加の充電をすることに。20分で起きるように目覚ましをセットしました。

ここでの充電時間は約23分。バッテリー残量49%まで回復したので、楽々、東京まで戻れます。

帰りは渋滞に巻き込まれ自動運転をテスト

けれども道中は楽々とはいかず、長い渋滞でノロノロ運転を強いられました。と、ここでEVsmartブログの寄本編集長から「自動運転を試せ」との指令が入電です。

そういえばここまで、前方追尾のクルーズコントロールは使っていましたが、レーンキープのドライブアシストは使っていませんでした。

なぜかというと、クルーズコントロールのレバーにドライブアシストのボタンが見つからなかったからです。でもこんな高級車にアシストが着いてないわけがないと思い直し、ゴソゴソとレバーを触ってみました。

すると、見つかりました。ウインカーレバーの先端に着いていたのです。試しにスイッチを押してみると、自動運転ができました。当たり前ですね。

あくまでも個人の感触ですが、レーンキープや前方追尾は、かなりいい感じでした。渋滞の中の停止・発進でも不安はなく、高速走行時も、自分の感覚と車の速度調整や減速のタイミングに違和感はほとんど感じませんでした。レーンキープもしっかりできていたと思います。

ところで、後でアウディジャパン広報の方に自動運転のスイッチを完全に分けている理由を聞いてみると、誤操作防止のためらしいとのことでした。つまりアウディは、従来のクルーズコントロールと、ステアリング操作を含む自動運転を別物と考えていることになります。

なるほど~、と思いました。レベル4くらいの自動運転が可能になるまで、便利さと誤操作防止、手動運転と自動運転をどう両立させるのか難しいテーマで、試行錯誤の中にあることが透けて見えた気がしました。

そんなこんなで、東京に帰着したのは午後6時過ぎ。総走行距離は574km、急速充電回数3回で、帰着時のバッテリー残量は20%ということになりました。前述したように東北道で渋滞に巻き込まれたこともあって電費がだいぶ回復し、ラスト113.5kmは平均5.0km/kWhになりました。

わずか2日の長距離テストでしたが、e-tronの基本能力の高さは十分に実感できました。と同時に、電費をバッテリー容量でカバーする場合は急速充電器の能力が上がらないと性能をフルに発揮できないことも、今さらですが実感できました。

テスラの場合はスーパーチャージャーがあるので気にならないのですが、これから日本でも大容量バッテリーのEVが増えてくると、ポテンシャルがあるのに使い勝手がイマイチ……というケースが増えてしまうかもしれません。

CHAdeMO自体は大出力規格にも対応しているので、早く出力が上がるといいのですが、いちどインフラを整備してしまうと変更が難しいのも事実。一筋縄ではいかない問題ではあります。

とはいえ、前述したように今回くらいの走行距離だとそれほど制約は感じなかったというのが実感でもあり、それよりもEVの進化のスピードに改めて目を見張った秋の1日だったのでした。いや、お世辞を言っているわけじゃないんですよ、本当に。

(取材・文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)1件

  1.  etron、良いですね。でも、私には買えないので車自体についてのコメントはないのですが、筆者も書かれているバーチャルミラー(そういう名称だということを初めて知りました。)の見え辛さ、私もHONDAe試乗時に強く感じた事です。私も遠視があり、いきなり目の前に写真を出されたような気がしてとても危険な思いをしました。普通の鏡で構わないのに、なんでここまでディスプレイ使うんでしょうか。
     Enron 同様、HONDAeも高額所得者がターゲットだそうですが、そうした層には年配者も多く、開発の際気を使うべきでしょう。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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