上野動物園にBYDの電気自動車小型バス『J6』が国内初導入〜突撃試乗レポート

東京都は2020年7月23日に、恩賜上野動物園の東園と西園の移動用にBYDの小型電気バス『J6』を導入しました。BYDジャパンによれば、J6の日本導入はこれが1台目になります。東京都に経緯を聞くとともに、上野動物園の電気バスを見に行ってみました。

上野動物園にBYDの電気自動車小型バス『J6』が国内初導入〜突撃試乗レポート

モノレールの代わりに電気バスを導入

上野動物園では、1957年に開業した日本初のモノレールが東園と西園を結んで来園者を運んできました。けれども60年以上の年月を経て経年劣化が進んだことから、2019年10月いっぱいで運行を休止し、その後は一時的にCNGバスが代わりを務めていました。

それから約9か月を経て導入されたのが、BYDの電気バス「J6」です。電気バスの導入を決定した東京都建設局公園緑地部公園建設課に電話で話を聞いてみました。

【参考資料】
恩賜上野動物園の東園⇔西園連絡バスに電気バスを導入します(東京都公式 2020年7月17日)

役目を終えたモノレールの車両。

Q)どうして電気自動車(EV)のバスを導入することになったのでしょう?

「もともと上野動物園にはモノレールがあったのですが、運行を休止することになり、代わりにCNGのバスを走らせていました。東園と西園をつなぐ通路には長いスロープがあるので、車いすやベビーカーの利用者、子ども連れの方など、歩くのが大変な方のためです。モノレールを休止にした時には、準備ができれば電気バスにすることが決まっていました。電気バスにしたのは、大気汚染物質を出さないことや、静かなこと、低振動だからです」

Q)コストはどのくらいだったのでしょうか。

「およそ2000万円です。バスの大きさからすると少し高く、初期費用はかかりますが、行政としては環境配慮を優先しました」

Q)充電はどうしてるのですか。

「充電する設備を新設しました。満充電まで約3時間です。でも、J6は150kmくらいは走れる仕様ですし、実際に走る距離は片道300mほどなので、充電の回数は多くないです。あまり充電しすぎるとバッテリーが劣化しますから」

では、上野動物園ではどういう使い方をしているのでしょうか。上野動物園に問い合わせると、メールで回答がありました。

まず運行スケジュールは、基本的には11時から16時で、1日に24往復しているそうです。トータルの走行距離は10km程度。そのため数日間なら充電しなくても大丈夫なので、必要に応じて夜のうちに充電しているとのことでした。1日の利用者は100~130人程度だそうです。

このくらいの走行距離なら電気バスで十分ですね。それに動物園という場所を考えると、静かで排ガスのない電気バスの方が動物たちにもよさそうです。東園側のバス乗り場は動物医療センターのすぐ横なので、なおさら静かな電気バスにメリットがありそうです。

ベビーカーでも乗りやすそうな低床バス

なにはともあれ、EVが走っているのなら乗ってみたくなるのが人情というもの。筆者も、10年以上前に海外で、コンバートした電気バスや乗り合いタクシー、トローリーバスなどに乗ったことはありますが、こんなに新しいのは初体験です。

ということで上野動物園に取材の申し込みをしてみたのですが、あいにく新型コロナの影響もあって取材対応はできないとのこと。仕方がないので、一般客として乗りに行ってきました。

10月上旬、筆者にとってはウン十年ぶりになる上野動物園です。入口を入ると、パンダを見るための長い列ができていましたが、目的は電気バスのJ6です。パンダ行列を迂回して、まずモノレールの東園駅へ行ってみると、役目を終えた車両が人気のない駅舎の中にたたずんでいました。

モノレールの駅から少し入口方面に戻って猿山の横の道に入り、ホッキョクグマを見ながら坂を下った先に、バス乗り場がありました。ちょうどJ6が停まっていて、これから出発する様子です。

室内の乗客も少なかったので、これはラッキーと思ったのですが、係員さんに止められてしまいました。なんと、今は新型コロナ対策で、いちどに乗せる乗客は6人に制限しているのでした。次の出発は20分後です。バス停のすぐ横の大きな水槽を悠然と泳ぐ、カリフォルニアアシカを見ながら待つことにします。

しばらくすると係の人たちが東園の門を開けて、J6が戻ってきました。今度はちゃんと乗れました。以前のモノレールとは違って、電気バスは無料で利用できます。

乗降時にエアサスペンションで車高を下げると、駅の階段の段差より低くなる感じがしました。ベビーカーがあっても乗りやすそうです。室内はフラットで、最後列だけが2段の段差を上がるようになっています。真新しい床や座席が新鮮です。車いすを固定する場所も確保されています。

これはいいバスだなあと思ってさっそく写真を撮ろうとしたのですが、ドライバーさんに「撮影はだめです」と言われてしまいました。他の乗客もまだ乗ってなかったのですが、それでもダメとのこと。車内は完全に撮影禁止だそうです。残念ですが仕方ありません。

有無を言わさぬ強い調子のダメ出しに少しビビりつつ、室内前方を見回してみました。と言っても、少し高くなっている運転席の横にエアコンのスイッチがあるのが見えたほかは、「D/N/R」のシンプルなシフト表示とメインスイッチが目に入っただけで、インパネは見えませんでした。

少し待つと、静かに、ゆっくり走り出し、東園と西園の間を通る公道に入りました。エンジンの振動がないのはもちろん、シフトチェンジのショックもありません。またエアサスペンションのおかげなのか、乗り心地はとても良好でした。ディーゼルエンジンのバスの後方に乗ったときに足元からくるエンジンの振動って、あんまり気持ちよくないですよね。

東門を出たバスは、ちょっとだけ公道を走り、すぐに西門に入りました。なにしろ走行距離は300m程度なので、ものの1~2分です。西園側のバス停で降りると、すぐ脇に充電設備がありました。充電器の詳細を確認することはできなかったのですが、形はK9やK7で使われているものとよく似ています。

【関連記事】
尾瀬に行って電気自動車のシャトルバス(BYD製)に乗ってみた(2019年8月5日)
富士急バスが導入したBYDの大型電気バス『K9』に緊急試乗(2020年3月31日)

今回はわずかな距離を乗っただけでした。できれば何往復かしたかったのですが、6人乗車制限の中では優先乗車の人がいると迷惑になるので、歩いて戻りました。またいずれ機会があれば、運転席の様子も詳しく見てみたいと思います。

西園のバス乗り場から出発する「J6」。

BYDの電気バスはこれまでに35台納入

ではJ6のスペックを見てみましょう。

「J6」の主なスペック

全長×全幅×全高(mm)6990×2080×3060
乗車定員25人〜31人
車両重量6220〜6300kg
最高速度70km/h
最大登坂度20%
航続距離最長150km
最大出力161kW
バッテリー容量105.6kWh
バッテリーの種類リン酸鉄リチウムイオン
充電出力40kW(AC)/CHAdeMO
充電時間3時間未満

乗車定員数(運転手含む)に幅があるのは、J6には4つのタイプがあるためです。

都市型Ⅰは乗車定員31人で座席数11+跳ね上げ席2、都市型Ⅱは定員29人で座席数9+跳ね上げ席2、などです。上野動物園のJ6は、都市型Ⅱになります。

ところでEVsmartブログではこれまでに、富士急バスが導入したBYDの「K9」や「K7」のリポートをしてきました。

BYDジャパンによれば、日本で採用されたBYDの電気バスは、9月18日時点で計35台です。内訳は、富士急バスでも採用しているK9が29台、尾瀬で走っているK7が3台、上野動物園のJ6が1台のほか、伊江島観光で送迎用に使用している大型のC9が2台になります。

このほか、2020年中にはJ6を含めて16台が納車される予定だそうです。

BYD電気バス日本導入事例
※2020年9月18日時点

事業者都道府県導入時期車種など
プリンセスライン京都府2015/2K9RA(大型)7台
会津バス福島県2019/1K7RA(中型) 3台
岩手県交通岩手県2019/2K9RA(大型)2台
伊江島観光バス
沖縄県2019/9K9RA(大型)10台、C9RA(大型送迎)2台
全日本空輸
東京都2020/1K9RA(大型)1台 ※羽田空港レベル3相当無人化バス実証事業
富士急行バス
山梨県2020/3K9RA(大型)3台
ハウステンボス
長崎県2020/3K9RA(大型)5台
協同バス
埼玉県2020/4K9RA(大型)1台
東京都建設局東京都2020/7J6(小型) 1台

上野動物園の他にもJ6を納入する予定があるというので、何か見つからないかとググってみたら、長野県東御市の実証実験で使われる計画があるようでした。東御市では今後の公共交通機関のあり方を検討するために、田中駅を起点とする周回ルートに電気バスを走らせる予定です(※アップデートあり)。

とはいえ、まだ正式に使用するバスが発表されていないので、正式発表があったら改めて確認してみたいと思います。

ルートを巡回するので走行距離は上野動物園よりずっと長くなります。これならしっかり乗れそうです。実証実験の期間は10月19日~12月28日の予定なので、お近くの方はぜひいちど、電気バスを体験してみてください。

さて、最後に個人的な感想をもう一度。電気バスですが、コストの問題はあるものの、ルートの決まっている路線バスは全部、EVでいいのではと思っています。あるいは燃料電池車(FCV)もいいかもしれません。走行距離はそれほど長くないし、車庫まで戻れば充電もできます。

空港や港湾などの特殊作業車、移動用のバスも、EVでいいのではないでしょうか。空港でゲートから飛行機まで行くバスで臭う排ガス臭が、少しは減るかもしれません。都市部のバスも排ガス対策で車両価格がかなり上がってることを考えると、電気バスのコストダウンが進めば転換点がくるのかもしれません。

この先10年の変化を合理的に考えて、少しずつでも電気バスを導入する動きが広まるといいなあと、秋雨の音を聞きながら考えております。

西園バス乗り場の横にいるアルパカ。

(取材・文/木野 龍逸)

※2020年10月29日追記
本文中、長野県東御市の公共交通の実証実験について、使用するバスが「J6」ではないかとの推測を記載しましたが、記事公開後に実証実験開始後に公表されたバスを確認したところ、BYDの別の小型電気バス「K6」であることがわかりました。関係者の皆さまにお詫びいたします。訂正し、記事をアップデートします。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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