第2回 チキチキ東京-大間キャノンボール対決〜Honda e で経路充電インフラの大切さを実感

YouTubeのEVsmartチャンネルで紹介した第1回チキチキ東京-大間キャノンボール対決ではIONIQ 5が勝利しました。はたして、バッテリー容量が小さなEVで同じルートを走破するとどうなのか? フィアット500e、Honda e、日産リーフ(30kWh)の3台でチャレンジしてみました。Honda e を衝動買いしてEVライフに足を踏み入れた、篠原さんのレポートです。

第2回「チキチキ東京-大間キャノンボール対決」〜Honda e で経路充電インフラの大切さを実感

【結果レポートまとめ記事】
第2回 チキチキ東京-大間キャノンボール対決〜バッテリーの小さなEV3台で競争してみた(2023年4月20日)

バッテリーが小さなEVで大間への超長距離に挑戦

東京から800キロ以上離れた本州最北端・大間崎までの到着時間を最新EV4台で競う企画「チキチキ東京-大間キャノンボール対決」が行われたのは2022年11月。動画も記事もすごく楽しませてもらって、ホンダe(バッテリー容量35.5kWh)ならどれぐらいかかるのか、試してみたくなった。

寄本編集長に話したところ、ご自身の日産リーフ(30kWh、でも現在は10セグで実質22kWh程度と推定)で一緒に来てくれることになり、さらにはEVsmartブログでおなじみのライター木野さんもフィアット500e(42kWh)を借りて参戦。晴れて第2回チキチキ東京-大間キャノンボール対決として実施されることになった。若者達が最新の大容量高級EVで臨んだ第1回に比べ、体力に欠けるオジサン3人とバッテリー容量に欠ける小型EVでの第2回。記録更新は期待できそうにないが、果たしてどんな道中になるのやら。

第一回の参加車「トヨタ bZ4X」「日産 アリア」「テスラ モデルY」「ヒョンデ IONIQ 5」は、いずれも60kWh以上の大容量バッテリー搭載車で、90〜150kWの高出力急速充電もできるなど充電性能も高い猛者ぞろい。一位でゴールしたIONIQ 5の記録は12時間23分。充電4回で大間まで行っちゃってる。ホンダeでは絶対無理な数字だ。でも、どれぐらい違ってくるのかに興味津々。小容量バッテリーならではの長距離走行術も探ってみたい。

事前に想定した急速充電回数は7回!

事前にGoogleマップで作成した充電プラン。

まずは充電プランから。ホンダeはバッテリー保護のために充電効率(受入可能出力)が低く設定されている。90kWの高出力充電器でも恩恵は受けられず、30kW程度でしか入ってくれない。しかも充電率(SOC)が70%近くなるとさらに効率が落ちる。30分間の充電だと期待値は総容量の半分程度。ただ逆に充電器の出力はあまり考慮しなくていい。25kW器だとさすがに効率が悪いが、SAPAで一般的な40kW器であれば十分なのだ。とにかく走れるだけ走って、なるべくバッテリーが減った状態でチャージする作戦で行くことにした。

EVでの東京〜大間アタックで鍵になるのは、下北半島で一般道に下りてから。急速充電器がある場所が限られているからだ。大間まで50キロほど手前のむつ市内で往復分をチャージする必要がある。そこから考えると、高速を降りたところの八戸市内でも充電したほうがよさそうだ。

最初に満充電からスタートすれば常磐道の中郷SAまで走れるはず。その先は30分充電での走行可能距離である120キロ前後で充電スポットが必要になる。高速道路はできれば下りたくない。そうやってプランニングしていったのだが、やはり7回の充電が必要になりそうだった。グーグルマップ上の表示では所要時間が13時間。プラス充電時間が3時間半として……16時間半はかかる見通しになる。

常磐道の通行止めでいきなりのプラン変更

満充電で有明をスタート!

4月12日午後8時に有明ガーデンで集合して、「交通ルールを守る」などの注意事項を確認してから8時10分にスタート! 近くの有明ICから首都高速に乗る。事前に共有していた充電プランでは、3台とも常磐道で仙台まで北上してから東北道を走る予定。航続距離が違うので、充電渋滞にはならないはずだが、充電器の間隔が空いている常磐道の南相馬鹿島SAは全員が選択。いきなりの天王山になりそう。

と思っていたら、中央環状線を小菅に向かっている途中で、木野さんから電話が入った。「常磐道が一部通行止めだって」。えっ! その直後に私も「南相馬-新地 工事通行止」という表示を確認。いやいやいや、ちょっと待って。南相馬鹿島SAの急速充電器は使えるのか。一回下りて充電スポットを探すのか。どうする……。

今回、走行中はGoogleマップでお互いの位置情報を共有していたので、それぞれのおおまかな現在地は確認できた。木野さんは小菅JCTから東北道へ進路変更。私も迷ったが、三郷JCTから外環道経由で東北道に向かうことにした。寄本編集長は予定通りに常磐道をセレクトしたようだ。

右下の青いプロットが寄本リーフ。左上の顔アイコンが木野500e、その少し下が篠原Honda eの位置。

東北道経由の方が少し距離は増えるのだが、私とホンダeには結果オーライだった。航続可能距離のギリギリまで走れたからだ。最初の充電場所に選んだ那須高原SAに到着した時のオドメーターは203.5km。この車に2年間乗っているが、1充電で走った距離の新記録だった。SOCは6%、いい具合に減っていたので充電効率も良い。69%まで回復。

充電している間に、プランを練り直した。ここから東北道のどのSAPAを使うか。最初に作ったプランでも仙台から先は東北道を使う。前沢SAでの充電を予定していたので、そのあとは同じように走ればいい。あれ? これはもしかしたら。

国見SAで10分ほどおかわり充電。

気づいたのは、充電が1回減らせるかもしれない、ということ。常磐道経由では南相馬鹿島SAのあと東北道に入って鶴巣PA、前沢SAと繋ぐ計画だった。でも那須高原SAから前沢SAは280キロ弱。次の国見SAでおかわり充電ができれば鶴巣PAを飛ばせるかもしれない。ただし、かなり気温が下がってきたので、電費の悪化も心配。走りながら様子を見ることにした。

ACCでトラックをペースメーカーにして電費を稼ぐ

国見SAには午前1時過ぎに到着。電費は8kWh/km程度をキープしている。そしてこんな時間なので後続EVはいない。よし、おかわりだ。10分だけ追加して、SOC12%から85%までチャージできた。計算上は前沢SAまで届くはず。とはいえ、あまり走ったことがない道路なので高低差によるロスも心配。時速78キロで走っているトラックの後ろに潜り込んで定速走行することにした。ACCで車間距離を最短にセットしてスリップストリーム効果も狙う。電費もじりじり良くなっていく。

この作戦が成功。SOC6%で前沢SAに到着できた。プラス10分程度のおかわり充電で、ひとつ先の充電スポットを目指すというのは、EVのロングドライブでは意外に使える手かもしれない。もちろん次に使う人が来なければ、という条件付きだけど。車を止めて、空が白んでいることに気づく。午前4時すぎ。夜通し走ってきたが、意外なほどに眠気を感じない。あれこれ作戦を考えたりしているからだろうか。

岩手山SAで寄本リーフと充電を交替してお先に失礼!

71%までチャージして、プラン通りの岩手山SAを目指す。グーグルマップで他の2台の現在地を確認すると、なんとこの区間では先行していた。岩手山SAにはSOC9%で到着。ほとんど充電が終わりかけた時に、寄本編集長の日産リーフがやってきた。初めてのダブリだったが重なったのは3分ほど。最後まで入れさせてもらって「お先に」。予想外のリードだ。あとの充電は、八戸市内とむつ市内で1回ずつのはず。あれれ、勝っちゃうかも。

と思ったのは束の間。ここからのドタバタであっさり逆転されてしまう。まずは八戸市内。充電スタンド検索で最寄りの日産ディーラーを目指したら、なんと土砂降りの雨。寒い中を電費向上のためにヒーターを使わずに走って冷え切った身体で、濡れながら充電作業をする気にならない。SOCに余裕があったので北上しながら充電スタンドを探すことにしたのだが、八戸市内は朝の通勤ラッシュでかなり混雑。天気だけでなく勝負にも暗雲が立ち込めてきた。局地的豪雨だったようで、三沢市に入る前に雨は上がる。最初から三沢を目指していれば……と思っても後の祭り。

青森日産三沢店で充電。さっきの雨はなんだったのか……という青空。

下北半島のルート選択で痛恨のタイムロス

三沢市内で充電を終えたあと、むつ湾側を指示するナビに逆らって太平洋側の道を目指したのもタイムロスになった。せっかくここまできたのだから、六ヶ所村とか、東通村とか、有名なエネルギー関連施設の立地自治体がどんなところなのか、通りすがりにでも見ておきたいと思ったのだった。距離はそんなに変わらないと踏んだのだが、むつ湾側なら野辺地から25キロほどは自動車専用の下北半島縦貫道路を走れたことをあとで知った。ルート選定のミス。

むつ市イベント広場で最後の充電。充電は無料で時間制限もない。

最後の充電、むつ市内に2カ所ある日産ディーラーの充電器にはリーフと500eが先に到着していて、万事休す。寄本編集長のアドバイスで、むつ市イベント広場という公共施設の無料充電器を使わせてもらった。利用時間は9時~17時半だが、急速充電器の少ないエリアではありがたい施設だ。これが時間制限のない充電器だと知らなくて、ふと気づけばSOC83%までチャージされていた。あれ? と思って終了。古い充電器で液晶表示が真っ白だったので経過時間も充電量もデータが読み取れない。たぶん30分ぐらいだったはず(表中の充電量はSOCから計算)。前述したようにここから大間までの地域に急速充電器はないので、しっかり往復分をチャージする必要があるが、これで十分だ(と思っていたら計算違いが翌日判明する)。

充電終了時にはもうお二人が先行していたので優勝は断念。そこからは雄大な下北半島の景色を楽しみながらのんびりゆっくりドライブ。午後1時すぎに大間崎に到着した。スタートから16時間52分。3台中3位だったのは悔しいが、「街なかベスト」の小容量バッテリーEVで無事にここまで来られただけで十分満足だ。「こゝ本州最北端の地」と書かれた碑を前に、はるばる来たなーという満足感に浸る。宿泊した民宿海峡荘で食べたマグロのうまかったこと。

実際に利用した充電スポット。

レース翌朝のおまけの話。今回の旅には、個人的にもうひとつ目的地があった。仏ヶ浦という景勝地での別件取材で、マサカリの形をした下北半島の刃の部分にある。東京にトンボ返りする2人と別れ、仏ヶ浦を目指してホンダeをスタートさせてすぐ、「むつ111キロ」という標識に愕然とした。「航続可能距離足らんし!」である。 来た道を戻れば余裕なのに、そんなに遠回りになるのかぁ。一度むつ市に戻ってから向かうしかないのか……と、車を止めてコースを再検討。EVsmartアプリを検索していると、すぐ近くにポツンと普通充電マークがあるのに気づいた。なんだこれ。「村林電機大間支店」って。

なんと、営業時間中なら200Vコンセントを無料で貸してくれるという。1時間半ほど注ぎ足しできれば届くはず。電話してみると「いいですよ」と快諾。充電中に支店長さんから少し話も聞けた。大間崎まで1キロ半ほどなので、充電している間に徒歩で岬を訪ねるEVユーザーが結構いるそうだ。本州最北端を訪ねる時には覚えておくといいかも。ほんとに地獄に仏。おかげで私も無事に仏ヶ浦経由でむつ市まで戻ることができた。村林電機さん、ありがとうございました!

村林電機のコンセントで普通充電。

一気に走ってみて分かったのは、EVドライブは走る距離が長くなればなるほど、クルマ自体の性能ではなく、充電インフラに左右される部分が増えていくということ。下北半島を走り抜くには、どうしたってむつ市の急速充電器に立ち寄るしかないとか。たくさん充電したいのに30分で制限されるとか。

私のように趣味で乗っていると、不自由もまた楽しみだし、予期せぬ出会いはラッキーなのだが、本気でEVを普及させていくには苦労の芽はなるべく摘み取っておいたほうがいい。高速道路のすべてのSAPAに複数の充電器が備わって、充電過疎地帯も解消されてきたら、遠かった大間崎も少し近く感じるだろうか。

走行&急速充電データ

急速充電
回数
場所充電器メーカー
最大出力
区間走行距離
(km)
充電開始時間充電時間開始時SOC
(%)
終了時SOC
(%)
充電電力量
(kWh)
スタート04/12
20:10
100
1那須高原SA下り東光高岳
40kW
20423:1230分66915.6
2国見SA下り東光高岳
40kW
1224/13
01:22
41分128518.7
3前沢SA下り東光高岳
50kW
15704:1730分67115.8
4岩手山SA下り東光高岳
50kW
10106:0730分97215.7
5青森日産三沢店東光高岳
50kW
12208:4930分157314.8
6むつ市イベント広場ハセテック
40kW
9511:2830分348314.7
ゴール大間崎5913:02
トータル86016時間52分3時間11分95.3

取材・文/篠原知存

この記事のコメント(新着順)6件

  1.  深夜をまたぐ長距離ドライブお疲れ様でした。
     私自身同じHonda eを所有し、季節毎に四国から関西までの往復約800km位を移動していますので今回のレポートは大いに参考になりました。
     四国の高速道路のSAPAは高速充電器が1台あるはないかと言う状況ですので最悪の場合一般道で充電することも考えのんびりと移動しています。
     Honda eの充電特性も改めて確信できました。メーカが言っている「約30分で80%程度まで充電」は絶対に出来ない事。
     シティR、初代オデッセイのオーナーでしたが、昨日メールで届いた「Honda Charging Service2025年3月で終了」「アプリサービス2023年3月で終了」等最近のHONDAはオーナーのことをのことを本当に考えているのかと思ってしまいます。
     Honda eは本当に良い車ですので乗り続けられるために自身でも色々工夫していきますし、EV smartブログでEV車の情報提供、EV車の整備に問題を提起し続けていただければと思います。

    1. 泉 慎一 さま、 コメントありがとうございます。

      「Honda Charging Service2025年3月で終了」の件。先週末、石川温さんからのLINEで嘆きの通報で知り驚きました。自動車メーカーとeMPの提携制度に、大きな変更があるのでは、とも推察しつつ、取材を進めたく思っているところです。充電カードに特典を付与する(おもに日本メーカーの)仕組みが限界を迎えつつあるのかも、とも思います。

      ホンダは今後さらなるEVシフトを明言してますし、新たな制度を準備しているのではないかとも思いますが。。 インフラ拡充を含めて、より賢明な方法が提示されることに期待しています。

      ともあれ、24kWhリーフやアイミーブを想定して構築された現状の経路充電の仕組みがもう実用性を失いつつあるのは間違いのないところです。

      EVsmartブログへの応援メッセージも、ありがとうございます。
      EVを楽しく乗り続けられるよう、情報発信や問題提起を続けていきたいと思います。ともに、EVライフを楽しみましょう!

  2. 充電設備の充実?
    賛成しますね!( ᴖ ·̫ ᴖ )

    欧州では、充電インスラの充実で?
    航続距離が百キロ?の、某マツダMX30-EVすら、そこそこ売れてるそうです( ᴖ ·̫ ᴖ )

    1. 羽柴健一さま
      コメントありがとうございます。今後さらにEVは増えるでしょうし、充電インフラも負けずに進化・拡充してもらいたいです。ちなみにHonda eも販売台数の9割程度はヨーロッパのようです。

  3.  お疲れ様でした。
    編集作業並びに執筆?(とい言っても、
    下書きぐらいか?)作業が待っているので、体を休めて下さいね♪
     後、余談ですが、モーター関連でいえば、酸化ガリウム半導体ができないと、
    チキチキクラスの充電回数は、減らないかな?^_^

    1. 西村 紀郎さま
      コメント&お気遣いありがとうございます。じつは充電回数については、それほど不満には感じていないんですよ。たしかに(今回の仏ヶ浦経由のように)もう少し距離が走れたらと思うこともありますが、大容量バッテリーはHonda eっぽくないですし、体力が落ちてきた身には休憩も大事なのでした(笑)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

執筆した記事