トヨタ『ハリアー』PHEVモデル試乗レポート/EV走行の質の良さが印象的

2022年10月に登場したトヨタ『ハリアー』のプラグインハイブリッドモデルは、「E-Four」と呼ばれる4WDシステムを搭載しています。その走りはどうなのか。モータージャーナリストの諸星陽一氏による試乗レポートをお届けします。

トヨタ『ハリアー』PHEVモデル試乗レポート/EV走行の質の良さが印象的

3種のパワーユニットのなかでもPHEVの走りが秀逸

1997年に初代モデルが登場したハリアーは、2003年のフルモデルチェンジで2代目に移行、2005年にハイブリッドモデルが設定されました。この2005年のハイブリッドモデル設定時に、E-Fourと呼ばれる電動の4WDシステムも採用になっています。

ハリアーは一時期消滅の危機があったのですが、それを乗り切り2013年のフルモデルチェンジで3代目に、2020年に4代目と代を重ねました。2代目以降の各世代にハイブリッドモデルとICEモデルが存在しますが、プラグインハイブリッド(PHEV)モデルの設定は2022年に行われた現行4代目の一部改良時に初登場となりました。

『ハリアー Z(PHEVモデル)』は130kW/219Nmのスペックを持つ2.5リットル4気筒エンジンに、134kW/270Nmのフロントモーターと、40kW/121Nmのリヤモーターを組み合わせ、システム出力225kWを得ています。搭載するバッテリーはリチウムイオンで、18.1kWhとなっています。充電方法は普通充電のみで、200V(16A)で約5時30分、100V(6A)で約33時間となっています。200V充電に関しては、車内の設定で8Aに変更することも可能です。

ハリアーはICE、ハイブリッド、そして今回のPHEVの3種のパワーユニットをもつわけですが、このうちでもっとも秀逸なドライブフィールを楽しめるのがPHEVです。EVsmartブログの読者の方ならば、モーター駆動から得られる快適性は十分理解していることでしょう。PHEVのよさはそのモーターの出力が高く、使用領域が広いことが快適性を生み出す最大の要因です。

ハイブリッドモデルもリヤモーターの出力は40kWでPHEVと同一ですが、フロントモーターはハイブリッドが88kW、PHEVが134kWとPHEVのほうが44kWも多くなっています。

EV走行可能距離は93km(WLTCモード)とかなり長い距離となっています。マイカー通勤者の平均通勤距離は10km程度とされているので、多くの人が毎日のように充電しなくてもほぼEVとして通勤に使うことが可能だということになります。

あえて急速充電には非対応

充電口は普通充電のみ。

ある程度以上の容量のバッテリーを積んでいればEVでも十分に通勤に使えるのは当たり前だという意見は多いと思いますが、週末に長距離ドライブをしたいとなるとちょっと様子が変わってきます。急速充電での30分の充電時間は受け入れられても、急速充電器待ちはイヤだという人も多いでしょう。そろそろ充電をと思って、SAに入ったら2台待ち……という状況だとうんざりです。タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する人も増えてきています。

しかも並んでいるクルマのなかにPHEVがいたりしたら……なおさらです。トヨタは『RAV4 PHV』からPHEVモデルの急速充電を廃止していて、このハリアーPHEVも急速充電には対応していません。今後、トヨタの販売力でPHEVが増え、そのPHEVが急速充電を頻繁に行うようになったら、とんでもない状況になりますので、PHEVの急速充電廃止は意味あることでしょう。

EVらしい快適さを満喫できるドライブフィール

さてハリアーPHEVの走りです。フロントモーターとバッテリーが大きくなったおかげで、走りの質はぐっとアップしました。とくにEV走行の質のよさは特筆ものです。ハイブリッドモデルでもEV走行はできますが、ハイブリッドのEV走行はせいぜい1km程度で、自宅近くの住宅地でエンジンを停止して走りたい、といった用途程度しか使えません。ところがPHEVの場合は、93kmもの航続距離があるので、普通に乗っていればほぼEVで走行できてしまいます。

そしてEV走行可能な最高速度にも興味がわきます。いったい何km/hまでEV走行可能なのか? アクセルをゆっくり踏んでいきますが、80km/hを超えてもエンジンは始動しません。もちろん、アクセルペダルを一気に床まで踏み込むような操作をすればエンジンは始動しますが、ゆっくり踏んでいく限りはエンジンは始動しません。試乗中の速度ではエンジン始動しなかったので取扱説明書で確認するとエンジン始動は135km/hとのこと。試乗中にエンジンが始動しなかったことにも納得です。

走行モードをAUTO EV/HVにするとEVモードを基本としながら、充電量がある程度確保できるようにハイブリッドモードに切り替わり、充電しつつ走るとのことなのですが、このモードでもあまりエンジンは始動しません。おそらくは試乗車がしっかり充電されていたことなどが要因なのでしょう。通勤などで使う方は、曜日を決めてAUTO EV/HVモードを使うといった工夫で、ある程度エンジンが動くようになるでしょう。エンジンの健康状態を保つためは、ある程度のエンジン始動も必要です。

静粛性の高い走りを披露するハリアーPHEVですが、ハンドリングのよさも見逃せません。リヤにモーターをもつことで、発進はしっかりとしたトルクが得られていますし、コーナリングやレーンチェンジでの安定性も高くなっています。ドライの舗装路ではその恩恵は少ないですが、雪道や凍結路面ではより心強いものとなるでしょう。

今回の試乗はプリウスPHEV(試乗記はこちら)と同じ日程だったのですが、プリウスPHEVはバッテリー配置の問題でFFしか設定がありません。E-Fourと呼ばれる4WDシステムのよさを感じるだけに、プリウスPHEVに4WDがなかったのは残念です。降雪地域で乗るPHEVならば、迷わずプリウスPHEVではなく、ハリアーPHEVが候補。もちろん同じシステムを採用するRAV4 PHVや三菱のアウトランダーPHEVなどの4WDシステムを有するモデルも候補となるでしょう。

取材・文/諸星 陽一

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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