プリウスのPHEVモデル公道試乗/俊敏な走りも楽しめる劇的進化【諸星陽一】

先日、袖ヶ浦フォレストレースウェイのレーシングコースで試乗したプリウスのPHEVモデル(Zグレード)に、いよいよ公道で試乗する機会を得ました。場所は横浜港周辺で、一般道と高速道路を走りました。アクセルを踏み込むと、大きく進化した走りが楽しめます。

プリウスのPHEVモデル公道試乗/俊敏な走りも楽しめる劇的進化【諸星陽一】

バッテリー容量は1.5倍の13.6kWh

1997年に登場した初代モデルはややもっさりとした4ドアセダンでしたが、それに比べると今回の新型プリウスはじつにスタイリッシュでスポーティなスタイリングとなりました。ワイド&ローのフォルムは多くの人がカッコイイと感じるポイントでしょう。今までのプリウスは、営業車としても、普段使いの自家用車としても使えるような無難なスタイリングでしたが、今回のモデルからはちょっとスタイリッシュすぎて、日本のようにクルマに対して保守的な国では、広く選ばれることが難しくなるかもしれません。

EVsmartブログを読んでいる方は「なんだPHEVか」、「エンジン載っているよね」とか思うかも知れませんが、自宅に充電設備がない方がEVに向かって一歩踏み出すきっかけとなるのがPHEVだと思います。なかでもプリウスは世界初のハイブリッド車として登場したモデルで、燃料を節約したいというユーザーには大きなインパクトを持ったネーミングのクルマです。

駆動用バッテリーはリアシート下に搭載。

プリウスPHEVに搭載されるバッテリーはリチウムイオンで容量は13.6kWh。先代モデルに比べると1.8倍の容量が与えられています。バッテリーの搭載位置はリヤシート下で、従来のラゲッジルーム下から移設したことでラゲッジルーム容量は十分に確保できるようになり、重心位置も低くすることが可能となりました。HEVのプリウスはもっと小さなバッテリーを使うため、リヤにもモーターの搭載が可能となり、FFだけでなく4WDも用意されますが、PHEVは大容量バッテリーのためにリヤにはモーターが積めずFFのみとなります。

力強く俊敏な走りを実感できました

PHEVのシステム出力は223馬力で、その走りはかなり力強いものです。カタログデータでは先代プリウスPHEVの0→100km/hが11.1秒なのに対し、新型は6.7秒となっています。アクセルを床まで踏み込むと、まさにその俊敏さを体感できます。ハイトルクのEVのように脳みその血液が全部後頭部に持っていかれるような加速ではありませんが、あのプリウスがこんな加速をするのか! という劇的な進化です。

ハンドリングもシャープでクイック、そして正確なので、コーナリングを楽しむような走りもできます。走行モードをBレンジにすれば、アクセルを緩めたときに減速度が大きくなるので、ブレーキを使う頻度を減らしながら走ることができます。

さらに、強い減速度が欲しい場合は「回生ブースト」というモードにすればいいのですが、この回生ブーストモードが選びにくいのが難点です。たとえばアウトランダーPHEVのようにパドルで回生量を調整できるようにはなっておらず、あくまでクルマに乗る前の設定として、これくらいのアクセルペダルの操作に対してこれくらいの回生量というように決めることができるというものです。トヨタが回生量の調整を手元でできなくしたのは、中途半端に変えられるのは危険が伴う可能性があると判断したからだといいます。

回生量の調整ができなくても十分に効率よく回生できている、との説明も受けましたが、運転は効率だけではありません。自分であれこれと試しながら、よりいい解答を見つけ、スキルを高めることは運転の楽しさの根本にあるものですから、クルマに任せておけばオッケーではファンは増えないでしょう。

先にも書きましたがプリウスPHEVはバッテリーが大きいため4WDは設定されません。いろいろ事情はあるのでしょうが、バッテリーを床下に搭載できればこのPHEVでもリヤにモーターが搭載できたと思うのです。バッテリーを床下に入れるとその分車高が高くなり、今回のようなスタイリングを完成することができなかったのかも知れませんが、これはちょっと残念な部分と感じます。

エンジンが必要なのでICE車ベースでHEVを作ることになるのでしょうが、EVベースとしてHEVを作ればバッテリーは床下に入ったのではないかと思います。そうすればリヤにモーターを搭載することも可能だったでしょう。HEVのプリウスも動力バランスとしては4WDのほうがフィーリングがいいので、PHEVでもリヤにモーターは欲しいところです。そして、EVモードで走るときはリヤモーターだけで走れれば、ハンドリングなどもより良い仕上がりになることでしょう。

充電口からAC100Vを取り出すヴィークルパワーコネクターは標準装備。

今回試乗したのは19インチタイヤ装着車で、いろいろ試しながら1時間程度の試乗を行った際の電費は6.1km/kWh。バッテリー容量は13.6kWhなので、この走り方で83km程度は走れる(WLTCモードのEV走行距離は19インチタイヤ装着車で87km、17インチタイヤ装着車で105km)ことになります。電費に配慮して上手に走れば90km程度は電気のみで走れそうで、EVとしての性能もけっこう確保されていると判断できます。普段の通勤はEV走行で、週末の遠出や出張などはハイブリッドで、というPHEV本来の使い勝手がいいクルマに仕上がっています。

取材・文/諸星 陽一

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 新しいプリウスかなり格好いいですね
    モデル3もこれぐらいのデザインにして欲しかった
    エントリーモデルだからってあそこまで露骨にファミリーカーデザインしなくてもいいのに・・

  2.  バージョンは不明ですが、新しいこのプリウスのデザインをすでに街中で見かけます。最新EVにインスパイアされたであろうデザインが(新型のクラウンも同様です)、逆にトヨタにモノの哀れを感じてしまいます。
     ここ数日の報道では、テスラは車体の販売以上に革新的な自動運転ソフトウエアの販売で利益を上げる戦略ではないかと言われています。かつてFun To Driveというキャッチコピーはトヨタのものでしたが、自動車は単に移動手段であるという原点に螺旋的に回帰しているテスラが目指す地平は、トヨタ初め多くのレガシーメイカーの異次元的存在です。もちろん、テスラにバラ色の未来が保証されている訳はありませんが。

  3. 自宅に充電設備がない方がEVに向かって一歩踏み出すきっかけとなるのがPHEVだと思います。

    上記部分に違和感があります。
    自宅で充電出来るので普段の通勤等はEVとして使えるけど、帰省やレジャーで長距離走行する際に充電の事をあれこれ考えたり、充電待ちで同乗者の顰蹙は買いたくないという方向けでは無いですか?
    自宅で充電設備が無いのであればHVの方が充電の手間も無くよっぽど幸せだと思いますが。PHEVの方が加速が良いから買う方もいるかもしれませんけどね。

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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