トヨタがヨーロッパの新車CO2排出を2035年までに100%削減と発表〜『Kenshiki』フォーラムをチェックしてみた

トヨタ・モーター・ヨーロッパはこのほど、メディア向けの『Kenshiki』フォーラムで、2035年までに西ヨーロッパでCO2をゼロにするための戦略を発表しました。2030年までに少なくとも50%をゼロエミッションの車にすることや、水素利用に関する考え方が示されています。フォーラムの概要をお伝えします。

トヨタがヨーロッパの新車CO2排出を2035年までに100%削減と発表〜『Kenshiki』フォーラムをチェックしてみた

新車をのCO2排出を2035年までに100%削減する

2021年12月2日にトヨタ・モーター・ヨーロッパ(TME)はオンラインで、メディア向けに今後の戦略を説明する『Kenshiki』フォーラムを行いました。今回で3回目の開催になります。『Kenshiki』は、日本語の「見識」そのままの意味です。

今回のフォーラムでTMEは、カーボンニュートラルへの取り組み、電動化の計画、水素利用の拡大の3点について、今後の方針を発表しました。

まずカーボンニュートラルについては、2035年までに西ヨーロッパで販売する新車からのCO2を100%削減することを目指します。電動化に関しては、2030年までに最低50%を排ガスゼロのZEV(ゼロエミッション・ビークル)にするそうです。そして水素については、ベルギーで燃料電池の生産を開始するなどにより水素経済の拡大を目指します。

一方で、EVを増やすにあたり必須と思われるバッテリーについては、どの程度の容量をどこからどのくらい調達するのかや、水素を利用する燃料電池車や水素エンジン車をいつ頃、どのように市場に投入するか、あるいはEVと水素利用の車の比率などについての時間軸を伴った見通し、ロードマップのようなものは示されませんでした。

では、もう少し詳しい中身を見ていきます。

『Fit for 55』を背景にZEV拡大方針が続々

TMEの発表の背景には、欧州委員会が発表した『Fit for 55』で示された、自動車からの排ガスの規制強化案があります。

欧州議会は2021年6月24日に欧州気候法を採択し、2030年に向けた温室効果ガスの削減目標を55%に引き上げることが確実視されています。これに対応するため、欧州委員会は7月14日、多くの環境施策を網羅した政策パッケージ案『Fit for 55』を発表しました。

【関連記事】
EUが2035年にガソリン新車販売禁止へ~HVはもちろんPHEVもダメ(2021年7月15日)

『Fit for 55』では、CO2の主要な排出源になっている自動車からの排出量を、2021年比で2030年までに55%、2035年には100%削減する必要があるとし、「2035年に登録される新車(乗用車とバン)はすべてゼロ排出車両」になるとしています。

これは欧州委員会の予測というよりも、実質的に内燃機関の車は販売禁止にするぞ、と言っているようなものです。55%削減のためにこのくらいのZEVミックスにならないといけない、そのために何が必要かという政策提案ですね。

目標達成のため、例えば充電設備や水素充填設備を高速道路上などに増設することも要求しています。誰に要求しているかというと、関係各国政府や関係機関です。

『Fit for 55』が出てすぐ、メルセデス・ベンツやステランティス、フォルクスワーゲンなどの欧州メーカーは電動化拡大を目指す方針を相次いで発表しました。今回のTMEのフォーラムは、それに続くものと言えそうです。

EUの規制案を考慮するとZEV拡大は不可避

そんなわけで、TMEのマット・ハリソン最高経営責任者(CEO)は、『Kenshiki』で次のように述べています。

「2030年までに、EUの「Fitfor 55」CO2削減計画を考慮に入れると、ZEVミックスは少なくとも50%に増加すると見込んでいます」

繰り返しですが、見込みというよりも、もし政策案が了承されれば「必須」になります。『Fit for 55』に関しては反発もあるのですんなり行くとも思いませんが、パリ協定の実効性を担保しなければならないという意識が欧州の中で強いことを考えると、傍観はできないでしょう。

さらにハリソンCEOは、2030年以降の動向について次のような見通しを示しました。

「2030年以降、私たちはZEVの需要がさらに加速すると予想しており、トヨタは2035年までに西ヨーロッパのすべての新車で100%のCO2削減を達成する準備ができています。それまでに十分な充電と水素燃料補給のインフラストラクチャが整っていると仮定すると、必要となる再生可能エネルギーの容量が増加します」

備えあれば憂いなしです。ただ、そのためには再生可能エネルギーの拡大が必須であるという考えも述べています。それは確かにそうです。けれども、再エネがないからやらない、ということではないようです。日本での豊田章夫社長の発言を聞いていると、そう聞こえることが多々あるので不安になりますが、TMEの発表は前向きなものと捉えて良いようです。

ただ、TMEの方針は西ヨーロッパに限ります。ハリソンCEOは「世界的な課題を見ると、インフラストラクチャとクリーンエネルギーソリューションへのアクセスが導入されるまでに2040年以降までかかる地域や国がたくさんある」とし、今回の方針が地域限定であることを強調しました。

西ヨーロッパ以外の市場については、ラインナップ全体に電動化技術を取り入れていくことでCO2の最小化に取り組むとしています。

他方、インフラの拡充が進んでいるノルウェーなど一部の市場では「2035年よりはるかに早い時期に100%ゼロエミッション車を販売する予定」だと話しました。

今から14年もあるので、とうぜん、新たなEVは発売するのでしょう。欲を言えばノルウェー以外でも、というより東欧諸国や世界でも、EVなどのZEVを売ってほしいなあと思います。地域によってはガソリンスタンドへのアクセスが極めて不便だったり、燃料が非常に高いために、内燃機関よりも電気の方が都合が良いケースはあると思うのです。

バイポーラ型の採用などでEVのバッテリーコスト半減

『Kenshiki』ではまた、EV(電気自動車)の『bZ4X』がヨーロッパで初めて発表されたほか、新しいバッテリーの話も出ていました。TME R&Dのジェラルド・キルマン副社長は、「リチウムイオンバッテリーのコストを短期的に30%以上削減できると確信している」と自信を見せたのです。

トヨタは、新型アクアなどにバイポーラ型ニッケル水素バッテリーを搭載しています。ギルマン副社長は、バイポーラ型ニッケル水素バッテリーは従来型に比べて出力密度が2倍になっていると述べています。並行してコストも下がります。

ギルマン副社長は、このバイポーラ型の技術をリチウムイオンバッテリーにも導入することで、30%のコスト削減が可能になると言います。加えて、車のエネルギー消費量を約30%削減することでバッテリー搭載量を減らし、1台あたりのバッテリーコストを50%減らせるとしています。

ところで『bZ4X』に関連する大きな話がひとつありました。ギル・プラット・チーフサイエンティストが『Kenshiki』で、こんな発言をしていたのです。

「トヨタはBEVとその炭素排出量削減能力を強く信じています。最近発表されたbZ4Xは、ヨーロッパ市場に導入された最新のBEVモデルであり、まもなく世界で年間数百万台のBEVを製造する予定です」

数百万台のEV?って思いました。「まもなく」がどのくらいの時間軸なのかはわかりませんが、炭素削減の必要性と効果に関連付けて話しているので時間制限があります。10年後とか15年後ではなさそうです。

『bZ4X』の企画台数は発表されていませんが、欧州、中国に導入するのなら半端な台数だとそっぽを向かれます。『bZ4X』の開発責任者は「ショッピングリストに載る」ような価格だと言ってましたし、ちょっと楽しみが増えた気がしました。

【関連記事】
トヨタ『bZ4X』とスバル『ソルテラ』開発主査に突発的突撃インタビュー(2021年12月2日)

多様性を確保し投資収益率も最大化

さて、最近のトヨタと言えば水素に関する話題がカーボンニュートラルとセットになってきましたが、『Kenshiki』でも水素の話が出ました。チーフサイエンティストのプラット氏が、EVだけでは課題解決は難しいこととともに、「CROI(Carbon Return on Investment)」という言葉を使って多様性の必要性を訴えました。CROIは、直訳すると「カーボン投資収益率」ですが、カーボン対策投資の費用対効果と言っていいと思います。

プラット氏の話を要約すると、こんな感じです。

バッテリーは、作ったあとに使われていない場合はCROIがゼロになる。使うほどに費用対効果が高くなる。例えばアメリカでは平均の往復通勤距離は約50kmなので、EVの航続距離が500kmあっても通勤に使うだけだとしたらバッテリーセルの90%のCROIはゼロになってしまう。それなら未使用のバッテリーはHEVやPHEVで使用した方が炭素の削減効果がある。

この考え方は、そうなんですよね、と思います。EV開発の関係者の間では、筆者が知る限り90年代からこの話は出ていました。大量のバッテリーを積んでいるのは、場合によっては重りを運んでいるだけだ、というものです。まったくその通りだと思います。

このところ、リチウムイオンバッテリーの搭載量がどんどん増えていて、利便性は確かに向上しています。ただ、EVが必要な本来の目的は、エネルギー効率の向上です。だとしたら、バッテリー容量を増やすのは逆効果になる場合もあります。トヨタの言葉を変えいれば、CROIが低くなるからです。

車には、使用条件に応じた最適な走行可能距離や大きさなどがあります。このあたりは、これからEVの車種や台数が増えていく中で整理されていくようにも思いますが、時期が遅れると不毛な議論を生み出す可能性もあるので注意が必要かもしれません。

話を戻すと、トヨタとしては、EVに大量のバッテリーを搭載するのはCROIを低下させることになったりするので、地域によっては他の燃料も考える必要があると考えているということです。

そこで出てくるのが、水素です。『Kenshiki』では、生産時のエネルギー消費が多いグレー水素ではなく、グリーンな水素が必要であること、水素はタンクを増やせばいいので貯蔵量を増やすのはEVに比べると容易であること、リチウムイオンバッテリーに比べると重量あたりのエネルギー量が多く、再充填が高速という利点があるとしていました。そのためトラックや電車や船などの大型車両、特に質量に敏感な航空機やロケットに適している可能性がある、などのメリットが紹介されていました。

そしてTMEは、2022年1月からベルギーで第2世代の燃料電池モジュールの生産を開始するそうです。

個人的にはこれらの話には疑問がいくつかあるのですが、それはまた別の機会にしたいと思います。簡単に言うと、水素タンクのサイズを考えると搭載量を増やすのは容易ではないこと、充填時間を短くしようとすれば大量に電力を消費すること、大型車には適用性があるかもしれませんが、現状では耐久性に難点があって、なかなかハードルは高そうなことなどです。課題と、解決までの時間を考えた最適解を考える必要があるでしょう。

『Kenshiki』フォーラムの最後に、TMEのハリソンCEOはこんな言葉を述べました。

「前例のない10年の変化が私たちの前にあることは間違いありません。しかし、恐れはなく、これらの課題についての懸念もありません。チャンスに満ちた未来が見えます」

規制は強化されますが、それによって生み出される技術もあります。ハリソンCEOの言葉通り、次の世界が見えてくるといいなと思います。日本ではこのあたり、なにも見えてこないので不安ですが。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 「見識フォーラム」というのが有ったんですね・・まず名前に驚きました。自信過剰とも受け取られかねないものを敢えて付けるセンスは凄いと思います。
    木野さまが引用されているプラット氏の発言はユニークですね。特にクルマの駆動方式を生物多様性に例えるのは面白いけれど無理があると思います。氏によればEV は「砂漠のキツネ」だそうです(違う環境には適応できないという意味)。
    本文中に触れられている「一定の条件下ではPHVはEV の8倍もCO2 排出削減効果がある」という説も本人が認めているように極端な例ですね。本来「EVの電池容量はどのようにすべきか?」という議論の中に無理にPHVを割り込ませています。そのため「PHVをEV モードで走らせる限りガソリン駆動系はただの重りでしかない」ということが無視されています。逆に、PHV をガソリンで走らせるとCROI は台無しになります。
    見識ばかり述べていないでトヨタらしいEV を一刻も早く出して欲しいです。

  2. いちおう、末席ながら関連業界に身を置く者なのですが。

    >年間数百万台のBEVを製造する予定です

    と言われると、木野さんと同じく「?」って思わざるを得ません。
    そんな数量のバッテリーを近々確保できるような動きなんてあったっけ?と。
    はっきりBEVって言い切っているので、(ニッケル水素電池の)HVとの合わせ技でとかって話ではないでしょうし。

    あと、発表時のリアルタイムでの「喋り」では記事中の様な発言だったのかもしれませんが、一次情報確認したくて探してみたものの、

    https://newsroom.toyota.eu/toyota-motor-europe-outlines-its-path-to-100-co2-reduction–by-2035/

    だと、Whilst Toyota is committed to making millions of Battery Electric Vehicles available to customers, って若干マイルドな表現になっていますかね。「まもなく製造を開始する予定」、とまでは読み解けないものと思えます。不都合があって編集されてしまったのでしょうか・・・

    1. もかさま
      ご覧いただいてありがとうございます。
      文中のコメントですが、リリースではなく、フォーラムの反訳にあった発言でした。確かにリリースの発言とは少しニュアンスが違うのですが(だいぶ?)、発言はあったと考えていいのでこちらを使いました。トヨタとしては、数百万台は言い過ぎだったと考えているのでしょう。
      反訳は、リリースのページにリンクがあります。生物学的な多様性の話なども出てきておもしろかったです。

  3. トヨタさん(汗)

    雲行きが怪しくなって来ましたね!(笑)
    もうハイブリッド車は、駄目だ(泣)

    この二酸化炭素のゼロ発言で、何とか自社の株価の低迷?落下を防ぐかな?

    トヨタさんの進める水素燃料自動車・FCVとは、単なる!電気自動車EVのひとつの形何ですね!

    欧米メーカーは、水素燃料自動車=EVとしてます!
    但し、面倒くさいかな?(汗)

    成功した!テスラ社の様に。世界中に水素燃料ステーションの設置を、ミライの発売と同時に行えば、何ら問題が無かった!

    テスラ社は、会社の儲けを世界中へ。急速充電器網の整備に費やした。
    その際で、会社の赤字決算が続いたが(汗)

    トヨタさんには、覚悟が足りないか?(汗)

    1. もうトヨタは大相撲で言う「死に体」て感じますー。もう机上の空論を出す前にミスリード多すぎ!!(爆)
      覚悟が足りないというのも戦国大名の事例からしたら堅城を築いて精神的に安住し時代が読めなくなった後北条家に似てますよ。それか桶狭間で打たれた今川義元かもしれませんが…日産は織田信長みたいに「機を見るに敏」て感じまへんか!?
      ※「信長の野望」の影響で戦国オタなんでこんな表現しますー

      資本力技術力以前に企業マインドの問題です!人間の心理は古来代々基本が変わらないから、戦国武将に親しむことで人格や人間心理、はたまたそこから見える戦術戦略まで変わってくるんですよ。
      それこそカルロスゴーン氏は織田信長なみの革新性があったし、益子修氏は徳川家康なみの忍耐精神があったというか。
      企業のトップを安土桃山時代の人間に当てはめてみるのも面白いと主まへんか!?

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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