トヨタ『bZ4X』とスバル『ソルテラ』開発主査に突発的突撃インタビュー

岡山国際サーキットで開催されたスーパー耐久シリーズ第6戦の会場で、発表直後のトヨタ『bZ4X』とスバル『SOLTERRA(ソルテラ)』が展示されているのに遭遇しました。現地を訪れていた両車の開発主査への突発的インタビューをお送りします。

トヨタ『bZ4X』とスバル『ソルテラ』開発主査に突発的突撃インタビュー

トヨタの水素エンジンを見に行ったら新型EV展示に遭遇

2021年11月13~14日、岡山県の岡山国際サーキットでスーパー耐久シリーズ第6戦が開催されました。トヨタの水素エンジン車が参戦するので見に行ったのですが、なんと現地にトヨタ『bZ4X』とスバル『ソルテラ』が並んで展示されていただけでなく、両車の開発主査も訪れていたのです。もちろん、突撃インタビューを敢行しました。

最近、なにかと発言が注目されているトヨタの豊田章夫社長が、「モリゾウ」というニックネームでドライバーを務めて水素エンジン車で参戦しているのが、市販車ベースのレース『スーパー耐久シリーズ』です。

カローラに1.6L3気筒ターボの水素エンジンを搭載した先行開発車両は、5月に行われた富士スピードウェイの24時間レースに初登場した後、大分県のオートポリス、三重県の鈴鹿サーキットにも参戦し、今回の岡山国際サーキットが4戦目でした。

豊田社長の発言についてはEVsmartブログでも何度か取り上げてきましたが、水素エンジン車のレースがどのようなものなのか、一度は見ておこうと思って現地に行ってみたのでした。レースそのものよりも、どんな状況で水素の充填をしているのかや、豊田社長の記者会見の様子が気になったのです。

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そんなレースが開催される中、観客席近くの催し物会場ではカーボンニュートラルをテーマにした展示イベントが開催されていました。そこに、想定外に登場していたのが、発表されたばかりの電気自動車(EV)、トヨタの『bZ4X』とスバルの『ソルテラ』だったのです。

この展示はまったく予告がなく、ほんとうのサプライズ企画でした。しかも2台が同じテントに並んで展示されていたのです。

さらに驚いたことに、トヨタ、スバルともに開発責任者の主査の方が現地に来ていました。しかも自ら、見学の人たちに車の説明までしていました。モーターショーも中止になったので、その代わりのようなものでしょうか。

スバルはEVでもAWD制御を重視

こんな機会はめったにないので、その場で突撃インタビュー(立ち話ですけど)を敢行してきました。というわけで、まずはスバル『ソルテラ』の開発主査、小野大輔さんのお話しです。あんまりびっくりしたので、小野さん単独の写真を撮り忘れたことは、気にしないでくださいませ。

まず聞いてみたのは、スバルとトヨタの共同開発で作ったEVで、スバルらしさを表現できるのかどうかでした。小野さんの答えは明快でした。

「(ソルテラでも)スバルの考えるオフロードのSUVをしっかり体現できていると思います。まだみなさん、経験されていないのですが、乗っていただければ間違いなくスバルの走りだと感じていただけるものに仕上がっています。共同開発ですが、自信を持ってスバルが開発したと言えます」

スバルと言えば水平対向エンジンですが、それがEVになって何か変わったのでしょうか。小野さんは、EVになることで「車がすごく進化する」と指摘しました。

「EVになっても基本的には変わりませんが、モーターには走り出しがスムーズ、つまり高応答、シームレスという特性があります。これによって、今まで内燃機関の自動車が苦労して打ち消そうとしていたところを一瞬で飛び越えることができるんです。すごく車が進化します」

「四駆でスタビリティを安定させるときに高応答はすごく相性が良いんです。内燃機関は空気を吸って混ぜて火を付けて、初めてトルクが出ます。でもEVは、電気を流せばすぐに反応してくれる。その時間差はスタビリティを保つ上では圧倒的な差で、それこそ滑ってから機能するVDC(ビークルダイナミクスコントロール)に対して、滑る前に修正されている、高応答ゆえに運転者が気づく前に対応しているみたいなこともできるはずだと思います」

「だから低ミュー路でも砂利登坂とか難しい道でも、スイスイ登っていけます。そういったところを大事にしているスバルにとっては、EVはすごく親和性が高いと思っています」

小野さんは一気にそんな説明をしてくれました。改めてスバルの開発責任者からこういう話を聞くと、EVのメリットがよく理解できます。

こうしたEVの特性は、もちろん開発者なら事前にわかっていたことではあります。それでも、「実際に乗ってみると、確かにその通りだった。(頭で)わかっていたことが実感できた」と、小野さんは言います。その上で、「さらにどこが伸ばせるか、どこを生かせるか、四駆の制御を高めて、お客様により安心、安全なドライビングをしていただくところに注力しています」と強調しました。

安心で楽しいスバルの車をEVでワンランクアップ

小野さんはさらに、安心して運転できることや運転する楽しみ、それらとEVの関係性について話してくれました。

「根底にあるのは、お客様に安心に運転していただきたいということです。そのための四駆なので。今まではドッカンターボで、そういった気持ちも消えていないのですが、日常的に楽しい運転は安心とか安全に裏打ちされて初めて成り立つので、そういったところがしっかりボトムアップできたのがよかったかなと思っています」

「スバルは常に、『安全と愉しさ』を言ってきました。危険で楽しいのは市販車ではあり得ません。安心なドライビングがあって初めて、愉しさがあると思います。ではどうやって安心を確保するかというと、僕らは四駆にしてしっかり制御するっていうやり方をしているんです」

「EVは、そこによりマッチしたものでした。今までよりも、ひと皮もふた皮もむくことができたと思っています。地面を蹴るという意味ではやることは変わっていなくて、デバイスが変わっただけです。EVになって難しいことはたくさんやっていますけど、アプローチは今までと変わってないと思います」

いやはやなんというか、「とりあえず乗ってみたい!」と思えるようなお話だったのでした。

ちなみに開発は、スバルのチームがトヨタの開発部署に出ていって作業をしたそうです。開発当初はホイールベースを巡って基本的な考え方の違いなどもあり、怒鳴りあいになる場面もあったそうです。

また小野さんによれば、協業をする前の技術交流の段階で、スバル側はドライブシャフトが左右等長じゃないと絶対にダメという考え方があったのに対し、トヨタが提示したものはデフが少しオフセットしていたので「いや、ないでしょ」と思ったそうです。この部分は結局、デフを真ん中に置くような設計にしたとのことです。小野さんはこれで、「電動車になっても、モーターが横置きでもシンメトリカルAWDって言えると思っています。(表では)言ってないですけどね」と話していました。なんともスバルらしいお話ではありました。

ショッピングリストに載る価格のEV

続いては、トヨタ『bZ4X』の開発主査、井戸大介さんへの直撃インタビューです。直撃と言っても、すぐ横にいたのでそれほど劇的なものではなく、普通にお話を聞けました。ラッキーです。書いていて気がついたのですが、トヨタもスバルも、開発主査は「だいすけ」さんなんですね。

余計な話はともかく、井戸さんにもまずは、共同開発の中でのトヨタらしさを聞いてみました。

「トヨタブランドの車は、非常に幅広いお客様に選んでいただいていると思います。トヨタと言った時には、どんな方が乗っても安全安心に乗れる、素直に操れるといったことが基本の考え方になってきます。言い方は悪いですが、お金持ちの方が楽しみで乗るような車ではなく、普通のハイブリッドやガソリンエンジンから乗り換えても自然な感覚で乗っていただける、そういったことにこだわって、性能とか仕様を決めてきました」

のっけから出てきたこの言葉は、いかにもトヨタらしいと思いました。「どんなに環境に良くても売れなければなんにもならない」という話を、かつて、『プリウス』の開発経緯をまとめたときに何度も耳にしたからです。
編集部注※木野さんは2009年に『ハイブリッド』(文春新書)を書いています。

井戸さんは続けます。

「トヨタは、フルラインナップにしてお客様に選んでもらうということでやってきています。そこに今回、BEV(バッテリーEV)もラインナップに入ってきた。お客様にBEVの良さを感じてもらえるのなら、ぜひ買っていただきたいなって思いますし、内燃機関の音がいいんだよって言う人もいるので、その方にはべつの車を選んでもらえると思います」

「そういう意味では、『bZ4X』がトヨタブランドのラインナップに入れたのは非常に大きいと思います。特別の枠ではなく、ICE(内燃機関)と、ハイブリッド、そして今回のBEVと、これだけ幅広くやっているのはトヨタだけだと思いますし、それが強みでもあると思います。ある種、同じ土俵で選んでいただける車になったんじゃないかと思っています」

ここまで、井戸さんは何度も「ラインナップに入った」という話をしました。つまり『bZ4X』は特別な車ではなく、競合するのはICE車ということになるのでしょう。今のところ価格は発表されていませんが、もしかして安かったりするのでしょうか。

もし挑戦的な価格設定になっているとしたら、それはもしかしてEVに消極的だと言われてきたことへの反論になるのかなとも思いました。思い浮かんだそのことを、そのまま聞いてみると、「反論したいわけではないんです。もともとやってないわけでもなくて、やっているつもりなんですけども」と言い、次のように続けました。

「これまでは、どうしてもバッテリーが高かったのでお客様がお求めやすい価格で出せなかったということがあると思います。でも最近、時代が来たと言ったらあれですが、ようやく、車をぱっと見たときにいくらくらいかなって思っていただける値段に近いところまでもってこれたと思います。そういう意味で、(bZ4Xは)オールラインナップに入れたのかなって思っています」

「それでも、当然、高いとか安いとかはあるとは思うんですけども、ある種のショッピングリストに入れていただけるところまでは来たのではないかなと思います」

おお、ショッピングリストに載るEVですか。楽しみがマシマシです。極端に安い必要はないと思いますが、同クラスのEVやICEと競争できる価格で、手に入りやすい台数を作ってほしいですね。月に数百台という哀しい販売目標にならないことを切に願うのです。

同じプラットフォームでも違う色合いの車に

ということを思ってしまったので、思いつくまま、ダメ元で台数のことを聞いてみました。予想通り、井戸さんは「言えないことになってるんですよ、残念ながらね」と苦笑いしていました。ということは発表の時にわかるのかなとも思ったのですが、発表するかどうかも決まっていないとのことです。

「もちろん社内的には企画台数があります。たいていは発表の時に言いますが、この車は、言うかどうかはまだ……」

一方で、生産は混流のラインにも対応しているとのことでした。『bZ4X』は、トヨタとスバルで共同開発したEV専用のプラットフォーム『e-TNGA』を採用しています。そのため、幅や長さが入るラインがあれば、他の車種と混流で流せるそうです。ただ、今のところ専用ラインになるのか、混流になるのかは非公表とのことでした。

ここまで聞いたので、ついでに、スバルと比べてトヨタの方がいいぞ、という部分はどんなところなのかを聞いてみました。井戸さんは、「(スバルの)小野さんの前では言いにくいなあ」と笑いつつ、「たぶんですけども」と前置きして話してくれました。

「スバルに乗る人は比較的ロイヤリティが高いというか、ここがいいんだっていう嗜好を持ってお乗りになっている方が多いと思うんですよね。だからスバル側はお客様を裏切らないように、同じプラットフォーム使いながらも努力されたと思いますし、逆にトヨタは、まずはショッピングリストに載せてもらわないといけないので、(スバルとは)違った努力というか、工夫が必要だと思っています」

さらに気になったのは、バッテリーです。欧米各社は今、バッテリーの確保に躍起になっています。テスラはもちろん、フォルクスワーゲンなどのように自前でバッテリー工場を建設したり、BMWのようにバッテリーの原材料確保を進めたりしています。

この点について小野さんは、トヨタはすでにBYDなどと協力していることや、トヨタグループの総合商社である豊田通商はもともと金属系に強く、リチウムの確保に動いていることなどから、問題はないという認識を示しました。

豊田通商の発表によれば、アルゼンチンで2012年にリチウムを産出する塩湖の権益の一部を確保し、2014年には生産を始めています。もちろん、必要な資源はリチウムだけではありませんが、トヨタグループの奥の深さを感じます。

もうひとつ気になるのは、発表されている『bZ4X』の仕様の中で、モーターが「交流同期電動機」と記載されていることです。これまでトヨタは、HEVでもPHEVでも、モーターは永久磁石を使用していました。でも、『bZ4X』の仕様に「永久磁石」の文字はありません。

もしかしてこれは、磁石を使わない、いわゆるACモーターなのかなと思って井戸さんに聞いてみたのですが、答えはいただけませんでした。まだ未発表のようです。それはそうですね。

でも、普通に考えて、永久磁石式同期モーターならそう記載するはずなので、ACモーターの可能性は高いように思います。永久磁石式だと、使用量が減っているとは言えネオジムのようなレアアースは必須です。つまり、資源量やコストの問題がつきまといます。

トヨタ(&スバル)がここで、量産EVに磁石不要のモーターを選択したとしたら、大きな注目ポイントになるように思います。詳細な発表を待つしかありません。

そんなわけで、考えれば考えるほど、『bZ4X』と『ソルテラ』に早く乗ってみたいという思いが募ります。発売予定は2022年の年央なので、5月か6月か7月あたりでしょうか。あと半年、指折り数えて待ちたいと思います。

(取材・文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. せっかく150kWの充電最大出力なので、ぜひトヨタ、スバル系ディーラーすべてに、150kWの充電器を設置してほしいですね。利用できるのは、トヨタ・スバル車限定でいいです。そうすれば混雑もないでしょう。それで価格が400万円台(補助金ありで300万円台)なら、かなり売れると思います。

  2. youtubeにいくつか上がっている両社の開発主査の方のインタビューも聞くと、この記事にあるようにやっぱり事あるごとに「安全」とか、日常的に乗っている車の延長線でのEVというニュアンスが強いなぁと感じる。
    そもそも内燃機関よりも、ずっとEVは安全だと思うし、消費者に新しい商品を買ってもらう立場なのに、日常の延長線ぐらいの設計思想でいいのかな?

    1. 国産メーカーのEVは火災事故が起きていないので、やはり自動車メーカーとして「安全」を重視している結果だと思います。国の安全基準も内燃機関をベースとしているので、これからEVに対し見直されていく(個人的にはバッテリー串刺しテストを追加すべきと考えている)と思います。現状では各自動車メーカー技術者の「良心」に頼ざるを得ないのが実情ではないか?と思っています。

  3. 素晴らしいレポートですね!スバルとトヨタの開発主査のお話は大変興味深いです。EVをこよなく愛している方が開発責任者で本当に良かったです。多分素晴らしいクルマに仕上がっていると思います。約5年程三菱i-Mievを愛用していますが、もうガソリン車には戻れないです。特に冬場、凍結した路面で後輪が滑った時に瞬時にトラクションコントロールが働きます。滑ったと思う前に修正してくれます。物凄い安心感です。

  4. スバル(笑)

    EV開発者が、もうガソリン車は駄目ですね!(汗)

    嫌、とても不味いんでは?(笑)

    でも、これがスバルさんの真意か?
    トヨタさん?スバルさんは、最早ガソリン車を見放してますよ!(笑)

    1. もと重症スバリスト(富士重症)の蘊蓄話をしますか。
      スバルが初の小型乗用車スバル1000(開発コード:A-5)を開発した時、本来電気自動車を作る予定だったそうです。たださすがに時期尚早で蓄電技術も未熟だったからその代わりに水平対向エンジンが採用されたという…かなり変わった経緯があります。その水平対向エンジンもクルマのバランスを考慮し左右対称にしたかったから。さらに当時珍しい前輪駆動(FF)を実現するために等速ジョイントを採用したのも日本では富士重工(SUBARU)が最初。コダワリは昔からハンパやないですよ。
      スバル車を買うカスタマーもコダワリがあり、東北電力などジープに変わる作業車としてスバル1000の4WD化を要望、採用されて見事にシンメトリー4WDになりましたよ。これがなければ乗用車の全輪駆動普及はもっと遅れてたと思いませんか!?
      このように富士重工というかスバルは自動車メーカーでもパイオニアといっていい自負があり、トヨタの合理主義に真っ向から対立してモノが言えるんですよ。「Active driving,Active safety」思想が今も生きててよかった。
      もちろん富士重工といえば航空機メーカーでもあり、スバル360のモノコック(外皮張り)ボディで著しい軽量化を実現し日本のモータリゼーションを牽引した事実もありますよ。富士重工の技術は奥が深い!

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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