朗報か? トヨタがアメリカで電気自動車2車種とPHEV1車種を2021年中に導入すると発表

2021年2月10日(現地時間)、トヨタモーターノースアメリカが米国市場に電気自動車2車種とPHEV1車種を今年中に導入する計画を発表しました。具体的な車種名や販売計画台数などの詳細はまだ明らかになっていません。

朗報か? トヨタがアメリカで電気自動車2車種とPHEV1車種を2021年中に導入すると発表

※冒頭画像はニュースリリースより引用。

ついにトヨタが本格的な電動化をスタートか?

GMやフォードといったアメリカ大手自動車メーカーが相次いで2兆円を超える電気自動車への投資を発表する中、現地時間の2月10日、トヨタモーターノースアメリカ(TMNA)が今年中に電動車3車種を導入するというニュースリリースを発信しました。

【ニュースリリース】(英語)
Toyota to Debut Three New Electrified Vehicles for U.S. Market

【関連記事】
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2019年6月に開催された『トヨタのチャレンジ〜EVの普及を目指して』資料より引用。

導入されるのは、2車種のバッテリー式電気自動車(BEV)と、1車種のプラグインハイブリッド車(PHEV)であるとしていますが、具体的な車種名や価格などのスペック、年間の販売計画台数といった詳細は発表されていません。

とはいえ、発表の中では開発中の電気自動車用プラットフォームである『e-TNGA』への言及もありました。トヨタではスバルと共同開発するe-TNGAを使ったSUVを近日中に欧州などで発表する計画であることがすでに報道されており、アメリカで導入されるのもまずはRAV4のようなミッドサイズSUVになるのではないかという予測が報じられています。

『トヨタのチャレンジ〜EVの普及を目指して』資料より引用。

トヨタでは、かねてからガソリンのみをエネルギー源とする「ハイブリッド車(HEV)」も「電動車」であるという見方を強調してきました。今回の発表は、BEVとPHEVという外部からの充電ができる「プラグイン車」を拡充し、本来の意味での「電動化」を大きく前進させるものであり、電気自動車普及の観点から歓迎すべきニュースです。

BEVシフト本格化への警戒感も

ただし、ニュースリリースの全文を読むと「ついにトヨタが電気自動車に本腰を入れるのか!」とばかりは思えない点が散見できます。

リリースはまず、営業担当副社長であるBob Carter氏の「私たちはおよそ25年前に先駆者としてプリウスを導入して以来、電動化のリーダーであり続ける。トヨタの新しい電動車は、顧客のニーズに最適なパワートレインの選択肢を提供するものだ」という言葉から始まります。

あくまでもハイブリッド車が電動車の先駆けである(つまり電動車である)という見方を示すとともに、電動車は顧客の選択肢のひとつに過ぎない点を強調したのでしょう。

続いて強調されているのが、「BEVとPHEVの温室効果ガス(GHG)排出量は、アメリカの発電によって排出される汚染物質を考慮するとほぼ同等」であり、「ドライバーのニーズに合った低炭素の選択肢を提供することが運輸部門でGHGを削減する最速の方法」であり、「あらゆる価格帯で、複数のパワートレインを使用することで、北米全体でより多くの人々がよりクリーンな自動車を利用することができ、短期的には総炭素排出量に最大の影響をもたらす」という点です。

さらに、5年間の総所有コストを比較すると、大容量バッテリーを搭載するBEVはPHEVよりも「はるかに高価」になることが示されています。

あらゆる価格帯で、複数のパワートレインを提供するのがモビリティを低炭素化するための近道であるという指摘は正しいでしょう。短期間で内燃機関を捨て去るのは社会へのインパクトが大き過ぎます。世界が「脱炭素」を実現するにはBEVへのシフトが重要ではありますが、発電の脱炭素化など、BEVシフトによって生じる課題を解決しながら、着実に進んでいくための時間や段階が必要だからです。

その上で、詳細な試算は示されていないので推測ですが、「BEVはPHEVよりもはるかに高価」としているのは、BEVの販売価格が高価になる最大の要因である大容量バッテリーのコストダウンが進まず、初期コスト=車両価格が高価であるのが理由でしょう。

でも、EVsmartブログでは繰り返しお伝えしているように、テスラはバッテリーのコストダウンや総合的なパフォーマンス向上に大きな投資と進化を続けているし、中国や欧州では低価格の電気自動車がいくつも登場し、電気自動車の大衆化が始まろうとしています。

日本人ユーザーとしてトヨタに期待したいのは、電気自動車の心臓部ともいえるバッテリー開発や製造における前向きなニュースであり、安価で魅力的な電気自動車を提供してくれること。その意味では「BEVってそんなにいいものじゃないよ」という示唆が繰り返された今回の発表は、やや期待外れではありました。

リリースの中では、今回のアメリカ市場への電気自動車導入は、2015年に発表された『トヨタ環境チャレンジ2050』を達成するためのステップであることにも言及しています。

グローバル企業として、トヨタが持続可能な社会実現に向けた目標を早くから定め、着実に前進しているのは間違いありません。とはいえ、今回のニュースの舞台であるアメリカでは新しく政権を握ったバイデン大統領が、約65万台の公用車をメイドインUSAの電気自動車に置き換えることを発表するなど、BEVを中心にした電動化が2015年には想像できなかったほど急速に進みつつあるのが現実です。

折しも日本市場では、Honda e、レクサスUX300e、マツダMX-30 EVなど、極端に販売計画台数が少なくメーカーとして普及させようという意欲が乏しく感じる「売らない」電気自動車のデビューが相次いでいます。アメリカでデビューする電気自動車が、テスラ モデルYやフォード マスタング マッハE、GMのシボレー ボルトEVなどと正面切って闘える、魅力的なモデルであることを期待しています。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)7件

  1. 初めてコメントします。
    トヨタのEVに対するスタンスには殆どのメディアが批判的ですが、私はこの件に関しては徹底的に後出しで対応するべきだと考えています。現状でもトヨタの欧州CAFE規制対応は、他社の排出枠を買う事も無く、EV優遇の排出量特別計算の恩恵を受ける事も無く、クリアしていますからね。
    これまでの環境規制の流れを振り返ると、カリフォルニアを始め、中国、欧州などは、悉くトヨタが有利にならないようにルールを作って来た節がありますから、もしもトヨタが先頭を走ろうとしたなら、また都合よくルールを変えられて「もう一度行列の後ろに並べ」みたいな扱いを受けるのは目に見えていますよ。

    ところで、ここのサイトはEVユーザーやEVファンの為の情報交換の場なのかと思っていましたけど、最近はニュース検索に度々ヒットするようになりましたので、ここのサイトも報道機関、ニュースメディアに格上げされたと考えてよろしいのでしょうか?広告収入で運営されているようには見えませんが、公的機関の支援でもあるのでしょうか?

    1. EV宣教師様、コメントありがとうございます。トヨタさんの戦略はおっしゃる通り準備をしながら最後尾をついていくものだと思います。それが正しいかどうかは私には分かりませんが、一点だけ否定的な課題があるとすれば、電池の供給です。現在トヨタさんは電池はサプライヤーに依存していますが、これからの急速な立ち上げ期、JVに頼らず、複数国の複数ベンダーの複数工場から調達し、それら特性の違うセルをバランスよく使える技術開発をすべきと思います。特定のJVしか使わないようにすると、そこが何らかの原因で被災したり、価格競争力で負けたり、様々な要因により生産量が不足する事態に対処できないと思います。私はトヨタの戦略は確実なサプライチェーンを組むことだと思っていたのですが、こと電池に関してはそれが実現していないことに、「なぜなのかな?」という疑問を抱いています。

      >ここのサイトも報道機関、ニュースメディアに格上げされたと考えてよろしいのでしょうか?

      格上げと言っていただけるとありがたいのですが、以下のように考えています。
      https://evsmart.net/ 充電スタンドの情報をご提供し、ユーザー様の口コミをプラスすることで、最新の充電スタンド情報を得ていただくサイト。
      EVsmartアプリ 上記Webサイトの機能に加え、「経路検索」など電気自動車ユーザーが航続距離を超える旅行をされる際のシミュレーターなどをご提供。
      https://blog.evsmart.net/ ご指摘のように、こちらはニュースとして運営しています。複数のプロフェッショナルの著者陣、時折その分野の研究では第一人者の方を招いて記事を寄稿いただいています。またコメント欄はモデレーションを行い、読者の方に有益な情報元となるよう努力します。
      https://evsmart-forums.net/ こちらは完全にEVユーザーやEVファンの方々のための情報交換の場です。まだまだこれからですが、ぜひご活用ください。
      また当サービスは、アユダンテ株式会社により運営されており、EVsmart充電器情報は複数の自動車メーカー様を始め複数の企業様に提供させていただいています。

  2. 始めてコメントします。いつも最新情報を取り上げて解説して下さりありがとうございます。本件、TMNAのリリースに「トヨタはGHG排出量と総所有コストの間のトレードオフを示すツールを作成しました。このツールのソースコードはcarghg.orgで公開されており、他の人がさまざまな入力パラメータを試して、GHGとコストプロットでBEVとPHEVの動きを確認できます」(Google自動翻訳)とあります。carghg.orgのURLはですが、小生にはチンプンカンプンです。
    多分この中にBEVとPHEVを比較する数式(ロジック)が含まれていると思います。
    どなたか、解析して下さる方はおられませんでしょうか?

  3. 本気で「エンジン」を捨て「モーター」にシフトする覚悟が有るのか?「バッテリー」開発にも本気で取り組む意欲のかけらも見られない。時間稼ぎ先送りの言い訳に終始しているとしか評価できない。

  4. EV専用プラットフォーム(日本だとあまり議論されない)を使うのか、どこの車載電池なのか、どの出力水準までの急速充電が可能なのか、そこが1番見たいですね。

  5. 科学的,合理的な是非はともかく,世界つまりヨーロッパも中国も直近では米国もEVにシフトしました。
    日本はトヨタがHVで世界の覇権を握りましたが,もはや世界のルールが変わろうとしています。
    昔スキージャンプで日の丸飛行体が表彰台を独占した時代がありましたが,その後すぐにルールが変更されて状況が一変しました。
    スキーもそうですが,自動車についても,素早くルール変更に付いていくしか生き残りの道はないと思うのですが。
    あるいは江戸時代の鎖国政策に戻ってガラパゴスで頑張りますか。

    1. ルールに追いつこうとしてる時点でダメなんだよ
      日本の自称先進的な人はいつもこれだ
      最初からルールを作る側に回らないと勝てない。
      その時点で戦略的に負けている

      EV疑問派がドヤ顔で出してきたシーポッドは中国のEVに価格も性能もボロ負けしています。

      それでも「車好き」な方々が一方的にエンジン車の肩を持ち
      EVを腐すのは要するに日本ではもう自動車を買えるようなのは老人、とまではいかなくても旧世代に属する人たちであって
      若い世代は自動車そのものを買うだけの経済的な能力がないのです

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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