【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
東名300km電費検証【INDEX】検証のルールと結果一覧
100km/h巡航での実用的航続距離は約363km
EX30は、本国(欧州)では最上級グレードの「ウルトラ」に加えて、装備やバッテリー容量などが異なる「プラス」や「コア」といったグレードがあるものの、現在日本に導入されているEX30は「ウルトラ」のみの1グレード。また、取材用に用意されている広報車は全車オプションの20インチタイヤを装着している。
カタログスペックの一充電走行距離(WLTC)は560kmで、これをバッテリー容量の69kWhで割った電費(目標電費)は8.12km/kWhになる。この数値を上回れば、一充電走行距離を実現できる計算だ。計測日の外気温は、日中は20度を超えていたが、電費検証に臨む深夜は9℃から13℃だった。
各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。なお、EX30の車載電費計の単位はkWh/100kmなので、km/kWhに換算している。
目標電費を超えたのはD区間の往路、BとC区間の復路の3区間だった。往復では80km/hが6km/kWh台、100km/hが5km/kWh台、120km/hが4km/kWh台と高速化に従い、段階的に電費は悪くなる。目標電費が8.12km/kWhだったこともあり、80km/hは7km/kWh台を期待したが、わずかに届かなかった。
120km/h巡航でも約320kmの航続距離性能
各巡航速度の電費は下記の表の通り。「航続可能距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、560kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率だ。
【巡航速度別電費】
巡航速度別の電費計測結果を示す。80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って求めている。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。
各巡航速度 の電費 (km/kWh) | 航続可能距離 (km) | 一充電走行距離 との比率 |
|
---|---|---|---|
80km/h | 6.86 | 473.0 | 84% |
100km/h | 5.26 | 363.1 | 65% |
120km/h | 4.64 | 320.5 | 57% |
総合 | 5.45 | 375.8 | 67% |
この表を見ると100km/hと120km/hの差が、航続距離で40kmほどの差でしかないことが分かる。それであれば新東名や東北道にある制限速度120km/h区間は、120km/hで駆け抜けてより早く目的地に到着する選択もありだろう。
各巡航速度の比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると23%電費が悪化する。120km/hから80km/hに下げると約1.5倍(148%)航続距離を伸長できることになる。
ベースの速度 | 比較する速度 | 比率 |
---|---|---|
80km/h | 100km/h | 77% |
120km/h | 68% | |
100km/h | 80km/h | 130% |
120km/h | 88% | |
120km/h | 80km/h | 148% |
100km/h | 113% |
LKAの性格はやや真面目すぎる印象も
EX30の高速道路走行はACC(アダプティブクルーズコントロール)をオンにすれば、速度調整はもちろん操舵もほぼ任せられるが、気になる点もあった。
ひとつ目は、ステアリングを持っているのに「ステアリングホイールから手を離さないでください」のメッセージが頻繁に出ること。これはドライバーがステアリングホイールを持っていることを、ホイール表面の触感センサーではなく、トルクセンサーで判断しているからだと思われる。個人的にはステアリングホイールに触感センサーを採用して欲しい。
ふたつ目は、左車線の少し前方にトラックが走っていて、自車が右車線を走っている場面で、右カーブに差し掛かると、自車の正面に(車線は違うが)トラックがくることになる。そうするとACCがアクセルを戻したり、軽くブレーキをかけたりすることがあった。ややストレスを感じるので、これはセンサーやカメラの精度向上で改善すべき点だと思う。
そして最も気になったのは、車線変更が完了し、ほぼ車線の真ん中にいて、もちろん車線を踏んだりしていないのに、LKA(レーンキープアシスト)がその車線の真ん中に来るように、ピッとステアリングに修正を入れることだ。その動作が過敏で、かつ最後の最後に修正が入るため、滑らかな車線変更の妨げにもなる。他のクルマでは経験したことのないLKAの真面目すぎる制御だと感じた。
とはいえ、LKAは東名下りの鮎沢PA手前などにある300Rのカーブを安心して曲がってくれる性能を持っている。
EX30は、ドライバーの目の前にドライバー用のディスプレイはないが、ドライバーを監視するカメラが設置されている。このカメラが優秀でドライバーがあくびをすると「集中力が低下しています。休憩しますか」の表示をコーヒーのイラストとともに出してくれる。高速道路走行中は、ナビが「次のPAを経由地に設定しますか」などと提案してくれるとさらに便利だと感じた。
ACCの設定方法
EX30は、ステアリングコラムの右側のシフトレバーを下に下げることでACC走行をスタートできる。速度調節はステアリング左スポークの+とーのボタンを、1クリックで5km/hごとに、押したままにすると1km/hずつ変わっていく。
先行車との車間距離は3段階で調整できるが、その設定はステアリングのスイッチではなく、センターディスプレイで設定画面を呼び出して変更する。
スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は下記表の通りで、3〜4km/hだった。実速度を100km/hにしたい場合は、メーター速度を103km/hに合わせる必要がある。
80km/h 巡航 | 100km/h 巡航 | 120km/h 巡航 |
|
---|---|---|---|
メーターの速度 (km/h) | 83 | 103 | 124 |
ACC走行中の 室内の静粛性 (db) | 70 | 70 | 67 |
巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hと100km/hで70dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hは67dBだった。最近計測したライバル車と同じような数値だったため、このクラスの平均的な静粛性と言えそうだ。「滑空間がすごい」と評した日産アリア(関連記事)はどの速度でも65dBだったので、このクラスではワンランク優れている。
過去最高の充電量(航続距離増加)を記録
充電結果
急速充電は3回行なった。1回目は150kW器、2回目は90kW器で、ともに最高出力は84kWだった。今年3月に参加したEX30のメディア向け試乗会の説明でも、ボルボ・カー・ジャパンの国内のテストで、85kW出力を確認しているとのことだったので、2回の充電はほぼ最高の性能を発揮したことになる。
1回目は駿河湾沼津SA下りで行い、9分間でSOC 18%、103km分をチャージし、航続距離表示は341kmとその後の走行に向けて十分すぎる数字になったので、30分を待たずに120km/h巡航に向かった。
2回目は駿河湾沼津SA上りで行い、30分でSOC 49%、280km分を充電できた。この「30分で280km」はこれまでの最高記録だったEQEセダンの279kmを超えて、筆者がCHAdeMO充電で体験した最高記録だ。
この2回の充電は外気温12度からの充電開始だった。これが真夏に外気温35度などの状況になった場合、充電によるバッテリー温度上昇もより早まる可能性がある。きっと上手に制御してくれると思うが、実際にどのような充電になるかが気になるところではある。
3回目の充電は50kW器で行った。充電開始時のバッテリー温度は29度で出力は45kW。時間の経過とともに温度と出力が連動して上がっていき、24分後に温度33度で最高出力48kWを記録、この時のSOCは77%。そしてその2分後にSOCが80%になると出力は45kWに下がったが、温度は33度のままだった。結果として30分でSOC 34%、190km分の充電になった。
面白いのは充電出力が低いためかバッテリー温度が38度に達しなかったので、安定して45kWから48kWと、ほぼ充電器の最高性能を維持したままの充電になったこと。もちろん150kW器や90kW器の充電器の方が、同じ時間でより多くの電力量をチャージできるが、温度が上がり過ぎて途中で出力が下がってしまう。50kW器だと温度は上がり切らないが、充電できる電力量は少なくなるというジレンマを確認できた。
充電器と車両が通信するCHAdeMOの特性を活かして充電のビッグデータを活用し、いつでもどのクルマでも最適な出力での充電を提供するCHAdeMOに進化すれば、EVの利便性がさらに向上する可能性があることを感じた。
航続可能距離表示はダイナミックモードがオススメ
EX30の航続可能距離表示は2種類から選択できる。外気温や直前の走行状況、エアコンの使用などにより航続距離を変化させる「ダイナミックモード」とカタログスペックの560kmをベースにする「認識モード」の2つだ。
今回の検証期間中は「認識モード」にしていたが、実際の走行距離に対して減少する航続距離表示に大きな差があった。今回の300km検証に当てはめると、80km/hと100km/h計測の100kmの実走行区間では航続距離表示は150kmの減少と50kmの差があった。同様に120km/h計測の96kmの実走行では194kmの減少と、2倍もの差になった。
その一方、3月のメディア向け試乗会の時は「ダイナミックモード」に設定されていて、SOC 97%時点での航続距離表示は370kmだった。100%だと381kmと算出できる。これは今回の電費検証で計測できた総合電費(5.45km/kWh)での航続距離の375.8kmとも近い数字だ。実用的にはダイナミックモードに設定しておくのがオススメだ。
20インチタイヤはオプション
前述のようにEX30の広報車は全車オプションの20インチタイヤ・ホイールを装着している。なお、このオプション価格は9万円なので、インチアップとしてはリーズナブルに感じる。タイヤ幅は245mmで変わらないが、標準の19インチは電費や乗り心地でどのような差があるのかも気になるところだ。
【装着タイヤ】
メーカー/GOODYEAR
ブランド(商品名)/EFFICIENT GRIP PERFORMANCE SUV
サイズ | 空気圧 | 製造週年 | ||
---|---|---|---|---|
左側 | 右側 | |||
フロント | 245/40R20 99V VOL | 290 | 3023 | 3023 |
リヤ | 245/40R20 99V VOL | 290 | 3023 | 3023 |
※製造週年は「3023」の場合、2023年の30週目に製造されたことを意味する。
2030年に向けた小さいけれど大きな一歩
EX30の総合電費5.45km/kWhは、69kWhのバッテリーとの組み合わせで、航続距離375.8kmと東京-名古屋間(約350km)を充電なしで走破できる性能だ。その移動中の食事やトイレ休憩の間に充電しておけば、最大出力90kW以上の充電器なら30分で200km近い走行分を充電できるので、ロングドライブも難なくこなせるだろう。
そしてEX30は0-100km/h加速5.3秒の性能を有し、RWDならではの運転の楽しさも持ち合わせている。ボルボといえば安全性を大事にするブランドというイメージが強いので、そこにイメージのギャップを覚えるかもしれない。
ただし、ボルボの歴史を少し振り返ると「フライングブリック(空飛ぶレンガ)」と言われたBTCCなどのレースシーンでの活躍、そして近年ではポールスター・シアン・レーシング・チームとしてWTCCへの参戦とシリーズチャンピオンの獲得が記憶に新しい。そのポールスターのDNAが注ぎ込まれたICEのスポーティなボルボたちも生まれた。
つまり、ボルボブランドにはレースやスポーツのDNAが確実に存在する。新機能のドア・オープニング・アラート(関連記事)をEX30に搭載するなど、ボルボは安全性の面では一切手を抜いていない、かつ「もうひとつのDNA」であるスポーティな面もEX30に盛り込んできたとも考えられる。0-100km/h加速3.6秒を誇るAWDモデルは、現代のフライングブリックとしてBEVレースでかなりの活躍を見せそうな予感もする。
EX30はボルボ史上最小のSUV電気自動車として登場し、好調な販売を記録している。2030年に同社がBEV 100%ブランドになって、過去を振り返った時に「EX30が明確な起点になった」と多くの人が思うのではないか。そんな予感がしている。
取材・文/烏山 大輔
ボルボ初のBEV専用モデルはC40では?
John Doe さま、コメントありがとうございます。
ご指摘の通りです!
記事本文、「ボルボ史上最小のSUV電気自動車」と修正しました。
m(_ _)m
チャデモのシステムについて詳しくないのですが、充電特性は個々の車種に合わせてクルマメーカーが決定していると認識しています。本文中の「150kW器や90kW器では温度が上がり過ぎてしまって途中で出力が下がってしまう」という特性もメーカーが、短時間でより多くの充電量を求めて決定したものと考えられます。
「いつでもどのクルマでも最適な出力での充電を提供するCHAdeMOに進化」というのが具体的にどのようなものなのかイメージしにくいのですが、教えていただければありがたいです。
hatusetudenn様、コメントありがとうございました。
ご指摘の部分は、記事掲載にあたり、編集部により内容が調整(削除)されたため、各急速充電の状態の説明が薄くなり、分かりづらい内容になっており、失礼しました。
以下に調整された内容を編集してお届けいたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
EX30での急速充電時はバッテリー温度や充電出力がリアルタイムでわかるスマートフォンアプリ「Car Scanner」を使用して充電経過を観察していた。すると、1回目の150kW器と2回目の90kW器では、バッテリー温度が38度を超えた時点で、急に出力が84kWから51kWに下がった。
1回目は充電を開始した時のバッテリー温度は28.5度、それから16分後に38度を超えて出力低下。つまり30分の充電の後半は、フルパワーを発揮できないままになっていた。最初の16分で178km分、後半の14分は102km分にとどまっているので惜しい。
出力はバッテリー温度とともに上がっていき、36.6度の時に83.1kW出力だった。人間の平熱くらいをキープできれば30分で300km以上の充電ができる可能性がある。
そのクルマの充電に関する特徴が分かり、ユーザーが充電の際に「90kW器だけど出力は70kWに抑える」などマニュアルで出力操作ができれば、バッテリー温度を上げ過ぎずに最も効率の良い出力をキープした充電が可能になるかもしれない。もっと言えば、そういう制御を自動でやってくれたらBEVの利便性がもっと上がると思う。充電器と車両が通信するCHAdeMOの特性を活かして、充電のビッグデータを活用し、いつでもどのクルマでも最適な充電を提供するCHAdeMOに進化して欲しい。
EX30オーナーです。
文中にある航続可能距離の表示のダイナミックモードやバッテリーの温度表示など、
所有している車両にはその表示、もしくは選択を設定出来る項目がありません。
テスト車両の車両ソフトのバージョンは1.2.1以上なのか気になります。
ksrfp001 さま、コメントありがとうございます。
バッテリー温度はアプリで確認したのだと思います。要確認&注記が必要ですね。
烏山さん、いかがでしょう。
ksrfp001様、コメントありがとうございます。
バッテリー温度は、スマートフォンアプリ「Car Scanner」を使用して確認しました。
航続可能距離表示のモード切替は、デフォルトの機能で、3月のメディア向け試乗会の時点でも説明がありましたので、日本に入ってきている分には全て搭載されていると思います。
切替はセンターディスプレイで操作するのですが、3から4階層くらい潜る必要がありますので、ちょっと見つけにくいのは事実です。
操作はセンターディスプレイ右下の車のマーク→設定と進んで、9つ表示されるメニューの中で、航続可能距離表示の切替をできる、のような操作だったと思います。
もしご不明でしたら、販売店などにご確認頂けますでしょうか。よろしくお願い致します。
興味深い検証レポートありがとうございます。
最後のまとめの章に「最大出力90kW以上の充電器なら30分で250km以上の走行分を充電できるので」と記述があるのですが、このレポートの中では「今回の電費検証で計測できた総合電費(5.45km/kWh)」と書かれており、駿河湾沼津SA上りの150W機での充電量は表を見ると約34kWhとなっています。レポートの中でダイナミックモードがおすすめと書かれており実際に90kW以上の充電器で30分充電して走れる距離は5.45km/kWh x 34kWh = 約185km程度になるため、まとめで30分で250km以上の走行分を充電できるとするのは、このブログを読まれるこれからEX30の購入を検討されている方の期待値を若干上げすぎのような気がします。
masayasui さま、コメントありがとうございます。
ご指摘の通りです。
「30分で200km近い走行分」に修正しました。
QC結果のメーター表示航続距離増加分の記述についても、筆者に確認の上、表現など検討します。