リニューアルされたボルボ XC40 Recharge 試乗〜「BEV100%は目標ではなく手段」への気付き

2024年モデルで前輪駆動から後輪駆動に変更されたボルボ「C40 Recharge」と「XC40 Recharge」のメディア向け試乗会が7月下旬に東京で開催されました。モーターが自社製となり、航続距離も伸びて、リファインされています。

リニューアルされたボルボ XC40 Recharge 試乗〜「BEV100%は目標ではなく手段」への気付き

補助金活用などで価格はエンジンモデル同等

ボルボ「C40/XC40 Recharge」は、今後日本で販売される2024年モデルから、仕様と価格が大きく変更されました。今まではシングルモーターの前輪駆動とツインモーターのAWDモデルが選べましたが、両車ともにシングルモーターの後輪駆動のみになります。

ICEの「XC40 B3 Plus」が529万円であるのに対して、EVの「XC40 Recharge Plus」は679万円。高いな、と思われるかもしれませんが、東京都ならCEV補助金や都の補助金、減税などによって実質価格は539万4000円になるとのこと。現時点での参考例ですが、普及促進措置によってICE車とほとんど変わらない価格で入手できます。自宅に充電設備をつけられるのかどうかなど、車両価格以外にも検討要件はあるものの、どちらにしようかな、と選べるのはいいですね。

BEV100%は目標ではなく手段

試乗会は、ボルボ・カー・ジャパンが東京・南青山で運営しているEVに特化したブランドスペース「Volvo Studio Tokyo」を起点に行われました。試乗前のレクチャーで印象的だったのは、ボルボの描く自動車メーカーとしての未来図です。

「BEV100%は目標ではなく手段です」

そう話してくれたのはボルボ・カー・ジャパン広報室の赤堀淳さん。2030年にBEV専業メーカーになることを宣言しているボルボ。それだけでもインパクト抜群なのですが、それも、2040年に企業グループとして「クライメート・ニュートラル」(温室効果ガスを実質ゼロにすること)を達成するための通過点に過ぎない、とアピールしていました。

環境問題への取り組みについていろいろと説明があり、おおっと思わされたのが、バッテリー製造工程のカーボンニュートラル化です。世界で最もグリーンなリチウムイオン電池を提供することを目指すスタートアップ企業「ノースボルト」と提携して、100%クリーンエネルギーで稼働するギガファクトリーをスウェーデンに建設。2025年に操業を開始するそうです。

走行時はカーボンフリーのEVですが、製造時に排出される温室効果ガスの排出量はガソリン車よりも多くなってしまうと指摘されています。材料の精製など、リチウムイオン電池の製造工程に使われる莫大な電力が原因。ノースボルトは、再生可能エネルギー由来の電力を使って工場を稼働し、さらに原材料もカーボンフットプリントをチェックするなどして、トータルでCO2の排出量を最小限に抑えたグリーンバッテリーを量産することを計画しているそうです。

2025年以降の生産車両には「ノースボルト×ボルボ」のグリーンバッテリーが順次搭載されるとのこと。これは注目しなくちゃいけません。BEV専業メーカーへの転換とクライメート・ニュートラルの達成に向けて、着々と準備していることが伝わってきました。そう考えると、モーターを自社製にしたというのも、将来に向けての布石なのかもしれません。

ヒット車種にBEVをラインナップ

私が試乗したのはXC40 Rechargeでした。XC40はボルボの大ヒットSUV。ICE時代の2018年に欧州と日本でカー・オブ・ザ・イヤーを受賞。今、日本でボルボと言ったら思い浮かべるのはこの車かも。モデルチェンジを重ねて、22年からピュアEVのRechargeが国内でもラインナップされています。乗っている人も多い車なので、一目でEVだとわかるグリルレスのデザインはいいですね。逆に後ろからだと「RECHARGE」のバッジぐらいでしか見分けられません。

実は先日、23年モデルのC40 Rechargeを試乗したばかりでしたが、XC40 Rechargeは初体験。変更前のフロントモーターにも乗ったことがないので、モデルチェンジ前後の違いについてはお手上げです。いや、いい格好をするのはやめましょう。仮に乗ったことがあったとしても、違いをお伝えできるかどうか自信はありません。

説明通りだと、リアモーター・リアドライブ(RR)になって、ステアリングがより鋭く、アンダーステアが少なくなり、応答性の高い走行体験が得られる、はず。

ゆったりクルージングが楽しい高級車

乗り心地は文句なしです。普段はHonda eに乗っているので、うっかり入り込んでしまった狭い路地では、車体の大きさを少し不安に感じました。でも慣れれば快適そのもの。車重は約2トンありますが、モーターは175kW/238psを発生。十分にパワフルです。とはいえコーナーを攻めたりするよりも、ゆったりクルージングするのが楽しい印象でした。

今回の変更点の一つがワンペダルオート機能の追加。「オン」「オフ」以外に「オート」という設定が加わりました。 アクセルを離したらコースティング(惰性走行) して、前方に別の車を検知すると回生ブレーキがかかるというもの。

ただし、追従する車がなかったら減速にはブレーキを踏む必要があります。「オン」にしておけば、アクセルオフだけで完全停止までしてくれます。EVのワンペダルは車種によって完全停止したりしなかったりしますが、個人的には完全停止が使いやすいと思います。「オート」は少し試しただけで「オン」に戻しました。

せっかくなので首都高速で横浜まで足を伸ばしました。中速域でのドライブは、静粛性も高くてスムーズそのもの。足回りにも余裕があるのを感じます。強めにアクセルを踏めば間髪を入れず、背中をシートに押しつけられるような高出力EVらしい加速を味わえます。

パイロットアシスト(先進運転支援システム)はハンドルのボタンひとつで作動。ごく自然に車の流れに合わせて走行してくれます。道中、停止寸前の徐行から30~40km/hの間で頻繁に速度調節が必要な渋滞区間もありましたが、お任せで楽々。あと細かいことですが、クルーズコントロールが5キロ刻みで増減できるのはいい感じです。

73kWhの大容量バッテリー車をSOC(充電率)81%で貸してもらったので、ちょこっと試乗で経路充電なんて必要ないのですが、せっかくなので大黒PAに立ち寄って90kW充電器(6口)を試してみました。日産アリアが止まっていましたが、繋いではいなかったので、独り占め充電。車内ディスプレーによるとSOC71%からでも79kWで充電できました。SOC75%あたりで55kWまで出力が落ちたので充電終了。ほんの数分でしたが、充電性能の高さが確認できました。

インテリアは、引き続き本革を使用しないレザーフリーとなっていて、カーペットに100%リサイクル素材を使用するなど、ボルボの考える「エシカルでサステナブルなラグジュアリー」を推し進めたデザインです。助手席の前に組み込まれた地形図のようなデザインの装飾パネルが気に入りました。

環境やエネルギー問題への気付きを得られるEV

センターコンソールもあれこれ触ってみましたが、いいなぁと思ったのは「空気質」の表示。この車は空気清浄装置付きで、有害物質であるPM2.5微粒子を最大80%除去するそうです。試乗した時間帯にちょうど東京に光化学スモッグ注意報が発令されていて、PM2.5は中程度だったものの、NOx(窒素酸化物)は「不良」の赤灯が点りっぱなし。でも、車内の空気はいつも「良好」で、外気との違いが可視化されています。これは気分良し。

しかし、NOx、ひどいもんですね。先述した製造時の温室効果ガス排出量のように、EVについての意見はいろいろありますが、都心部を走る車が排気ガスを出さないEVに置き換われば、NOxは減少します。これは間違いなくEVシフトのメリットでしょう。

ボルボのようにビジネス全体でクライメート・ニュートラルを考える企業が日本にも増えてくれば、化石燃料中心の電源構成なども徐々に変わっていくかもしれません。エネルギーについてあれこれ気付きを得られた試乗会でした。

取材・文/篠原 知存

この記事のコメント(新着順)2件

  1. サブタイトルの「BEV100%は目標ではなく手段」、「環境やエネルギー問題への気付きを得られるEV」がなかなか良いと思いました。

    記事を読めば、ボルボはバッテリー製造過程(そしてその先には、EV製造全体)のカーボンニュートラルを目指しているとのことですね。(トヨタやテスラはどうなんでしょう?)

    EVジャーナリズムとしてのEVsmartは、EV各社が製造するEV1台当たりのカーボンフットプリントを比較提示して消費者の選択を誘導するような役割を果たしてほしいと願います。あるいは、そのような政策誘導を政府に働きかけてほしいと思います。

    過去に囚われたアンチEV派に批判されることの多い、EV(&バッテリー)製造時のCO2排出の多さやEV走行に必要な電力の日本における再エネ率の低さですが、

    前者については製造時と走行時を含めたガソリン車との総合比較、後者については到達すべき目標や到達可能性、目標達成のための政策誘導などを基にして、未来のモビリティに向けた総合的な議論が重要であると思います。

    1. Moody Blues さま、コメントありがとうございます。

      >EVジャーナリズムとしてのEVsmartは、EV各社が製造するEV1台当たりのカーボンフットプリントを比較提示して消費者の選択を誘導するような役割を果たしてほしい

      ご期待いただき、ありがとうございます。
      EVsmartブログでは、ご提案のような知見を紹介するアーカイブ記事、ニュース、試乗といったテーマをバランス良くご提供できるよう編集を進めています。
      その上で、EV車種(メーカー)ごとのカーボンフットプリントについては、今後とも注目すべき点だと思いますので、最新情報についてわかりやすくご紹介できる記事をお届けできればと思います。

      ひとまず、現状のアーカイブ記事として、以下のような記事がありますのでご参照ください。

      自動車の二酸化炭素排出量に関する研究結果~環境に良いのは圧倒的に電気自動車~
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/technische-universiteit-eindhoven-research-shows-electric-cars-are-greener/

      電気自動車のCO2排出量はトータルで見てもガソリン車より少ない
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/ev-global-life-cycle-co2-emissions-less-than-ice/

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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