ボルボ『XC60 Recharge』試乗レポート〜電動化加速への期待感【諸星陽一】

ボルボのプラグインハイブリッドモデル『XC60 Recharge』が、インフォテイメントシステムを中心にマイナーチェンジされました。試乗会での印象を、モータージャーナリストの諸星陽一氏がレポートします。

ボルボ『XC60 Recharge』試乗レポート〜電動化加速への期待感【諸星陽一】

ボルボという自動車メーカーの気質

ボルボのPHEV(プラグインハイブリッド)である『XC60 Recharge』が、ハイブリッドモデルの『XC60』とともにマイナーチェンジされた。日本でもっとも売れているボルボ車は、同社SUVシリーズのなかでもっともコンパクトな『XC40』となるが、世界的にもっとも売れているモデルはXC60で、まさにボルボを代表するモデルといっていい。今回のマイナーチェンジではパワーユニット系の変更は行われていないが、興味深い部分も多いのでそれらを中心にレポートしたい。まずはXC60の生い立ちと基本について触れておく。

ボルボのSUVはXC70からはじまり、フルサイズのXC90、コンパクトのXC60、さらに小さいXC40という順番で登場してくる。一方の電動化はエステート(ステーションワゴン)のV60からスタート。SUVではXC90のPHEVから、EVはピュアEVのXC40から(日本には未導入)となっている。駆動用バッテリーを積むには大きなボディが楽だが、大きすぎるボディは重量も重く効率が悪い、ボルボのなかではXC40から始めるのが正解だったのだろう。

V60のPHEVは2017年のデビューだが、これ以前にボルボは大きな岐路に立っている。ボルボはスウェーデンの自動車メーカーだが、1999年にはアメリカのフォード傘下となる。その後2010年には中国の浙江吉利控股集団(ジーリー)傘下へとグループが変わる。以降、急激に電動化を進めてきた経緯がある。

ボルボはクルマの持つネガティブな部分に対峙し解決していく気質が特長的なメーカーである。1959年に3点式シートベルトを実用化したのもボルボだ。面白いところでは1998年には触媒付きラジエータというというものを実用化した。このラジエータは、ラジエータを通過した有害オゾンを酸素に変換するという仕組みで、通過したオゾンの約70%を酸素にすることが可能だという。

今年9月には、今後展開していくEVを中心とした電動車のラインアップについては動物の皮を使用することを止める、いわゆる本革シートは使わないという方針を打ち出した。クルマの危険な部分をシートベルトで、環境破壊をラジエータで、動物へのインパクトを革シート廃止で…… というような部分に注力して実践しようとしているのだ。もっとも皮革は、食肉の副産物として生み出されるので、それを使うのは、正しい方向性だと筆者は思う。

さて、XC60だ。XC60は2009年に初代モデルが登場。2017年に現行型である2代目に移行した。プラグインハイブリッドはこの2代目で設定された。車名は『XC60リチャージ・プラグインハイブリッド・T8 AWD』となる。搭載されるモーターはフロントがT28と呼ばれる22kW/160Nm仕様、リヤがAD2と呼ばれる28kW/240Nm仕様。組み合わされるエンジンは2リットルの直4ターボで233kW/350Nmのスペック。フロントタイヤはエンジン&モーター、リヤタイヤはモーターのみで駆動される。今回はピュアエンジンモデルであるB5 AWDインスクリプションとの比較も行うことができた。

静粛性と滑らかな走りが印象的

走り出してまず第一に感じるのは乗り心地のよさと静粛性の高さだ。EV走行でのスタートなのでエンジンノイズが気にならないのはもちろんだが、タイヤノイズや風切り音も気にならない。

ピュアエンジンモデルはエンジンのノイズがタイヤノイズや風切り音をカバーするため、ある程度はノイズが発生しても気にならないことが多いのだが、XC60のようにピュアエンジンモデルとボディを共有する場合、どうしてもそうしたノイズが目立ちがちになることが多い。しかし、XC60リチャージ・プラグインハイブリッドは、そうしたノイズも上手に抑えられていて、じつに快適なのだ。

ガソリンモデルであるB5 AWDインスクリプションも十分に静かで快適なのだが、PHEVのほうがはるかに静かで快適。細かい振動もよく抑えられていて、まるで違う路面で乗っているかのような滑らかさである。試乗車のタイヤはPHEVが255/45R20で、B5が235/55R19とB5のほうがタイヤの厚みがあり乗り心地がよさそうな印象なのだが、PHEVはミシュランのプライマシー4、B5はコンチネンタルのエココンタクト6と銘柄が異なった。このタイヤブランドの差も乗り心地に大きく影響しているのだろう。

XC60にはいくつかの走行モードが用意されている。もっとも多用するモードは「ハイブリッド」で、これは電池の残量をみながらエンジンを駆動しつつモーターを利用する方式、「ピュア」はEVモード、「パワー」はエンジンとモーターを上手に使いながら力強い走りができるモードだ。EVらしさをチェックするために「ピュア」での走行を行うと、改めてその静かさと乗り心地のよさを実感した。以前に試乗した際よりもより静かさは増している印象。細かい部分を改良していったり、製造時の組み付け精度が上がったりして、同じ仕様であっても年式が新しくなるほど全体としての仕上がりがよくなるのは、欧州車にありがちなことで、XC60にもその傾向が見られる。

PHEVモデルのバッテリー容量は、350V 34Ah=約12kWhで変更はない。WLTCモードのEV走行換算距離(一充電航続距離)は39.4km。アメリカのEPA基準では19マイル(約30.1km)とされているように、実用的には片道10km程度の通勤や買い物程度なら、EVとして活用できるといったところだろう。

PHEVであることの外見的な主張は控えめだ。

しばらく走った後にハイブリッドモードを試したが、エンジンが駆動している状態でのノイズ感もB5よりずいぶんと上質で、一世代違うのではないかと思われるほどの快適性を持っていた。今後、EVへの移行を進めていくボルボとして、PHEVをやりながらEVに求められるものは何か? をしっかりと検証し、得られた知見を織り込んでクルマを作っているに違いないと感じることができた。

今回、マイナーチェンジのおもなトピックは、インフォテイメントのプラットフォームがGoogle(Android)に変更されたこと。使い方はスマートフォンと同じで「OKAY Google」がコミュニケーションを開始するためのキーワードとなる。

ナビゲーションの起動も「OKAY Google」がスイッチなのだが、今回はまだ日本語に対応してない状態なので、「OKAY Google」の後に日本語で話しかけても反応はない。しかし、私の稚拙な英語で「Destination Tokyo Tower」とすれば、Google Mapが立ち上がって道順を提示してくれた。

EVになるとインフォテイメントシステムはさらに重要になってくるだろう。充電器の満空情報や、充電器の出力、今まで起きたトラブルや相性の悪い充電器情報などを的確に、そしてスマートに入手するにはインフォテイメントシステムは重要な存在となる。

「今秋にもサブスクで予約受付開始」と伝えられている(この記事公開を先延ばししていたら、なんと、昨日発表がありました!)ピュアエレクトリックの『C40 Recharge』も、このGoogle連携のインフォテイメントシステムを搭載されることが発表されている。EVオーナーの満足度を高めるためには、Googleの搭載に加えて、ボルボとして独自にEVならではの利便性を提供できるアプリ開発なども必要になってくると思われる。そして、大容量バッテリー搭載の高級EVラインナップを展開するのであれば、高出力急速充電インフラへのコミットも不可欠だ。さらなるボルボからの提案を楽しみにしておきたい。

ボルボはシステム電圧48V仕様のマイルドハイブリッドやPHEVで、上手に次世代へのステップを試しているようだ。そして、そのステップには立ち止まる踊り場はなく、つねに登り続けている印象を受ける。もちろん、そうでなければ2030年までにすべての車種をEV化するという宣言は実現できないだろう。

(取材・文/諸星 陽一)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 試乗車のタイヤはPHEVが255/45R20で、B5が235/55R15とB5のほうがタイヤの厚みがあり乗り心地がよさそうな印象なのだが、

    後者のサイズですが、15インチはありえないと思います。
    R18ではないでしょうか。 

    1. 松井 正 さま、コメント&ご指摘ありがとうございます。

      B5のタイヤサイズ、ご指摘の通りタイポで、正しくは「19インチ」でした。記事本文も修正いたしました。
      ありがとうございました。

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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