中国市場では2倍以上に
2023年1月10日、ドイツのフォルクスワーゲン本社が、2022年のグローバルでのall-electric vehicles(EV=電気自動車)販売台数が約33万台となり、前年比で23.6%増加したことを発表しました。この発表はフォルクスワーゲンブランド全体の販売台数をレポートするものではありましたが、EV販売台数の躍進をフォーカスする内容となっています。なかでも、急伸する中国市場では約14万3000台のEVを納車。前年比102.9%となる大きな伸び率を記録しています。
2022年はすべてのパワートレインの車種で納車台数がひっ迫し、ブランド全体では前年比-6.8%となる約456万台を納車。ブランド全体で、EVの納車台数比率は約7.2%となりました。
ベストセラーEVモデルは ID.4
電気自動車専用プラットフォームであるMEBを採用したIDシリーズが全世界で好評であり、車種別で最も多く納車されたのはミドルサイズSUVのID.4で約17万台。北米でも約2万3000台のID.4が販売されて、前年比27.7%であったことが報告されています。
また、EVシフトで先行するスウェーデンでは、約8900台のID.4を販売。2020年のID.3、2021年のID.4に続いて、全パワートレインの車種において3年連続でIDシリーズのEVがスウェーデンで最も売れたモデルとなっています。
2020年9月、ID.3を欧州で最初に納車して以来、わずか2年ちょっとで58万台を超えるIDシリーズのEVを顧客に引き渡してきたことを「フォルクスワーゲンは、そのe-モビリティ攻勢ですでに最初のマイルストーンに到達」していると誇らしく報告されているのが印象的でした。サプライチェーンの混乱にも関わらず「計画より1年早く到達」(ID.7ワールドプレミアのプレスリリースより引用)したそうです。
日産リーフがグローバルの販売台数で50万台を突破したのは2020年9月のこと。発売からおよそ10年掛かりました。IDシリーズは複数車種を展開していることもありますが、全世界でのEV販売が急激に伸びていることを示していると言えるでしょう。
2万ユーロ以下の大衆車EVも?
さらにフォルクスワーゲンは、1月4日にはラスベガスで開催されていたCES2023でIDシリーズのフラッグシップセダンとなるID.7をワールドプレミアしました。
まだ「インタラクティブなデジタルカモフラージュ」に覆われたコンセプトカーではありますが、2023年第2四半期には発売予定ということなのでもうすぐです。ただし、日本への導入予定はまだ発表されていません。
バッテリー容量など詳しいスペックも未発表ですが、一充電航続距離は最大700km(WLTP)を達成できるとされているので、上級グレードは100kWh前後のバッテリーを搭載した超高級EVになると思われます。50〜70kWh程度のグレードもラインナップされるのであれば、テスラモデル3やBYDのSEALなどと競合する高級EVセダンとなるでしょう。
思えば、フォルクスワーゲンがドイツ国内に大規模なバッテリー工場の建設を発表したのは2018年4月のことでした。早くから着々と準備を進めてきたからこそ「EVでも世界のリーダー」を狙える現状を築き上げることができているのです。
さらにさらに、興味深い報道もありました。フォルクスワーゲンではスモールカーセグメントの電気自動車である『ID. LIFE』を2万ユーロ(約280万円)程度〜で2025年までに発売することをすでに発表しています。最新のプレスリリースでは「目標価格が2万5000ユーロ未満のエントリーEV」と表現されていて、やや値段が上がっちゃったかな、という気配ではあったのですが。
1月5日の日経新聞の報道によると、ラスベガスでの取材に応じたフォルクスワーゲン乗用車部門のトップであるトーマス・シェーファー氏が「2025年以降に2万ユーロ以下の低価格帯の電気自動車を発売する方針」を示したということです。
かねて、EVsmartブログでお伝えしているように、日本でのEV普及が本格化するためには「300万円で300km」を実現してくれる大衆的な車種の登場が必要です。2023年にはBYDのドルフィンが発売される予定になっていて、58kWhで「300万円くらい」の実現に期待しているところです。
日本のメーカーが世界で支持されるEVをものにするためにも大衆車EVが不可欠と思うのですが……。どうやら、大衆車でもフォルクスワーゲンやBYDに先手を取られてしまいそうです。
サッカーW杯は終わってしまいましたけど。絶対に負けられない戦いがそこにはある、がんばれニッポン! とエールを贈っておきたいと思います。
文/寄本 好則