フォルクスワーゲンが2028年までに2200万台の電気自動車生産プランを発表

2019年3月12日、フォルクスワーゲングループは今後10年間(2028年まで)に発売する電気自動車(EV)の車種を従来計画していた50車種から約70車種に増やし、IDと呼ばれるグループのEV専用プラットフォームを採用した車両の生産台数を、以前発表していた1500万台から2200万台に増やすことを発表しました。

フォルクスワーゲンが2028年までに2200万台の電気自動車生産プランを発表

また、グループ全体として、2050年までに車両そのもの、またその生産工程において、完全にCO2ニュートラルを達成することを目的とした包括的な脱炭素化プログラムを策定し、パリ協定が定める気候目標の達成に全力で取り組んでいくことを表明しています。

Photo: Friso Gentsch/Volkswagen

改めて説明するまでもないことですが、フォルクスワーゲングループは世界トップクラスの自動車メーカーです。フォルクスワーゲンのほか、アウディやポルシェなどドイツを代表する名車ブランド、さらにベントレーやブガティなど10以上のブランドを展開し、年間に1000万台以上の自動車を生産、販売しています。2028年までに2200万台という数字は、少なくとも生産台数の1/5=20%を、完全な電気自動車にすると宣言したことになります。

販売車両の電動化については、次のように説明されています。

「2025年の目標は、2015年と比較して、ライフサイクル全体でCO2排出量を30%削減することです。そのため、フォルクスワーゲンは2023年までに300億ユーロ以上を投資して、商品ポートフォリオの電動化を進めており、グループの販売台数におけるEVの割合を2030年までに40%以上に増やす予定です。年内に生産開始される新世代のEVモデルは、アウディ「e-tron(e-トロン)」に続いて、ポルシェ「Taycan(タイカン)」があり、これら各モデルの先行予約は、すでに合計2万台に達しています。
そして、フォルクスワーゲン「ID.(アイディ.)」がラインオフを開始することにより、電気自動車の普及が本格化するでしょう。最初の商品攻勢におけるその他のモデルとしては、「ID. CROZZ(アイディ. クロス)」、セアト「el-born(エルボーン)」、シュコダ「Vision E(ビジョンE)」、「ID. BUZZ(アイディ. バズ)」、「ID. VIZZION(アイディ. ビジョン)」が挙げられます」

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フォルクスワーゲンの発表が示唆するのは「これから本当に電気自動車が増えるんだ」ということだけではありません。

グループのCEOであるDr. ヘルベルト ディース氏のは次のように述べています。

「私たちは将来の重要な社会動向、特に気候変動防止に関する責任を果たしていきます。パリ協定の目標が私たちの基準となっています。今後数年間で、生産工程やその他のバリューチェーンの各段階をCO2ニュートラルなものにしていきます。それによって、地球温暖化防止に貢献することができます。フォルクスワーゲンは、この先何年も何百万もの人々にパーソナル モビリティを提供したいと考えています。それらのパーソナル モビリティは、より安全で、よりクリーンで、そして完全なコネクテッド機能を備えたものとなるでしょう。電動化攻勢に必要な投資を確保するために、あらゆる分野で効率性と業績をさらに向上させる必要があります」

今回の発表はタイトルこそ「2200万台」が強調されていますが、内容を確認するとむしろ「脱炭素」がポイントです。

フォルクスワーゲングループは、2050年までに完全に脱炭素化するために、全ての分野において今後数年間で達成すべき目標を設定し、「効果的で持続的なCO2の削減」「電力供給の再生可能エネルギーへの切り替え」「そして不可避のCO2排出量の相殺」という3つのポイントを重視して目標の実現を目指すとしています。

発表ではさらに、すべての工場におけるCO2排出量を、2025年までに2010年比で50%削減する計画を示し、たとえばウォルフスブルグの発電所では燃料を石炭からガスに転換することにより、2023年以降に年間150万トンのCO2排出量削減を達成できる見通しであることや、ブリュッセル工場におけるアウディの生産工程はすでに完全にCO2ニュートラルになっていることを挙げています。

ツヴィッカウ工場は、MEB (モジュラー エレクトリック ドライブ ツールキット)の主力工場になるだけではなく、そこで生産される「ID.」もCO2ニュートラルを実現して納車されることも明言。グループが生産するEVの共通プラットフォームとなるMEBは、フォルクスワーゲンの電動化攻勢において中心的な役割を果たし、 車種電動化のコストパフォーマンスを高め、多くの人々が「手頃な価格で利用可能」になるとしています。

電力システムの変革にも積極的に関与

加えて、「フォルクスワーゲンは、e-モビリティ化をさらに推進するため、2020年までにヨーロッパの幹線道路や高速道路沿いに400の急速充電ステーションを、IONITY(イオニティ)に参加している業界パートナーと共同で設置する予定です。この内の100カ所は、ドイツに設置されます。これにより、120km毎に充電ステーションが設置されることとなります。加えて、フォルクスワーゲンは新しい子会社であるElli(Electric Life)を通じて、グリーン電力を使用できる自宅用充電ウォールボックスなどを提供する計画です(当初はドイツ国内で提供)。さらに、すべての生産拠点で、従業員用駐車場にて合計3,500カ所の充電ステーションを設置し、ディーラーにも充電ステーションを整備していきます」と、充電インフラ構築はもとより、再生可能エネルギーを有効活用するためのV2H、V2Gの構築に積極的に関与していくことが示されています。

「脱酸素」がポイントと強調しても、??? という方が多いかも知れません。「脱」炭素とは、少なくとも自動車の動力エネルギーとして、化石燃料と決別することを意味します。ハイブリッド技術が目指してきたのは燃費向上という「低炭素」。低炭素と脱炭素は、まったく次元が違う目標です。最近、欧州や中国で電気自動車シフトへの気運が本気モードになっているのは、モビリティの脱炭素という目標を実現するためには、自動車の完全な電動化が不可欠だからといえるでしょう。全ての日本人、地球人が、真摯に受け止めるべきニュースだと感じます。

(寄本好則)

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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