老いていく街のためのワン・マイル〜「ストックホルムの自動運転バスに乗ってきた」現地レポート

北欧スウェーデンの首都ストックホルムでは、電気自動車の自動運転バスがすでに運用されています。現地で研究者として活躍している友人の片山慎太郎さんがFacebookで「自動運転バスに乗ってきた」とコメントしていたので、早速「どんな感じだったの?」とレポートを依頼。臨場感あふれるレポートが届きました。

老いていく街のためのワン・マイル〜「ストックホルムの自動運転バスに乗ってきた」現地レポート

私(寄本)と慎太郎さんは、彼が筑波大学の学生時代、電気自動車普及に取り組む市民団体である日本EVクラブの活動で知り合いました。2001年には電気自動車にコンバートしたメルセデスAクラスで日本一周した『2001年充電の旅』の際、旅するAクラスを追いかけて屋久島へ行き、一緒に島を一周したことがあります。

今、慎太郎さんは医療系プログラミングの研究者。彼が構築を手がけた『2001年充電の旅』のウェブサイトでは、まだワードプレスなどのCMSなんてない当時、ドライバーが携帯で投稿すると自動的に更新される掲示板や、「うちで充電(原則AC100Vでの普通充電でした)していいよ」という『コンセントサポーター』が地図上の位置を指定すると自動的にプロットされる、今でいえばGoogleマップのようなシステムを手作りで仕上げてくれちゃいました。

慎太郎さんらしい優しく深い視線で切り取った、そして研究者らしく注釈付きのレポートをお楽しみください!

※冒頭写真はストーラ・トーゲットの片隅で発車を待つ EZ10(自動運転バス)。

「自動運転バスに乗ってきました」レポート

ストックホルムで、赤くて小さな電気で動く自動運転バスに乗ってきました。

場所は、ストックホルム中央駅から通勤電車で17分のニュータウン、バルカルビュー。既にIKEAなどの郊外型大型店やアウトレットモールが軒を並べ、週末には沢山の買い物客が電車やバス、そして街に沿って走る高速道を使い自家用車でやってきます。地下鉄の乗り入れも予定されていて、今はその商業地を囲むようにアパートが続々と建てられているところです。

自動運転バスは、そんな商業区域と居住区域の間にあるストーラ・トーゲット(「大きな広場」の意)を起点とし、路線番号 549、全長約2 km の区間を担当。ここに導入されたのは EasyMile 製の EZ10。最大15人の旅客を運べてオン・デマンド運用(*1)も可能な自動運転バスですが、筆者が訪れたときは(運転士ではなく)車掌が1人搭乗し、通常の路線バスと同様の運用をしていました。

広場には沢山の木陰付きベンチと、手作り感満載の花壇や畑があって、いわゆるそこに住む人々の憩いの場。他の路線バスとお揃いのデザインに仕立てられた EZ10 は、まるでおもちゃのクルマのようにそこにあって、いい雰囲気を醸し出しています。

平日は朝6時半から、土曜日は昼11時半から、どちらも夜7時まで15分に1本という頻度で運行。筆者が訪れた日は、ストックホルムにしては珍しく汗ばむ陽気。夏日の車内の蒸し風呂状態というと一昔前の「電気自動車あるある」ですが、EZ10 はエアコンが効いていて一安心。

すぐに車掌から「どこから来たの? 日本から来たの? 日本のラジオ聞く? どれか選んでくれる?」と、よくわからない歓待を受けました。彼の差し出したスマホアプリには、見たこともない世界のネットラジオ局がズラリ。小学校低学年ぐらいの子供も3人乗ってきて、皆しゃべるしゃべる……。車内はスキー場のゴンドラや居酒屋のボックス席的な対面レイアウトなので、皆で話をするのも楽だし、真ん中のスペースに車椅子やベビーカーが入っても大丈夫。

公園内から歩道をまたぎ公道へ出るまでは、車掌がちょっとだけスティックで操作。公道へ出てから、いよいよ自動運転のスタートです。

約2km の行程は、途中2箇所の停留所をはさみ、商業地ではなく住宅地を走ります。幹線道路ではないので走っている車の数は多くありませんが、おしゃれなマンションの間を縫うように走るうち、子供を含む歩行者と自転車がそこそこ、公道でラジコンを走らせる大人、そして(ストックホルムの住宅地では見慣れた光景ですが)路上駐車している車が沢山!

EZ10 が右折してすぐ、右折前に目の前を通り過ぎた車が路上駐車しようとしている所。この時 EZ10 は時速10km未満で徐行を選択。右手のスクリーンに速度表示と停止ボタンがあり、さらにメインスイッチが右上に見切れているボックスの中にある。ここからしばらく、車掌が喋らなくなった。

路上駐車した車の脇を通り抜けてすぐ、環状交差点の手前。左手から自転車が進行してきて、交差点内にはなぜかラジコンカーが走っている。ここでも EZ10 は時速10km未満で徐行を選択、しかし車掌の手は停止ボタンにかかっていた。

EZ10 は危険を察知すると停車し、車掌が安全を確認しボタンを押せば、自動運転を再開します。しかし電気自動車で静かなことを幸いに、知らないネットラジオ局から流れるアニメソングらしきものをBGMに、運行中も皆がこれまたしゃべるしゃべる……。

車掌が日本政府の打ち出した輸出規制を心配し始めたときは、果たして何と返事すべきか言葉に詰まってしまいました。多分、車掌兼エンジニアなのでしょうね。

結局約2km の行程はつつがなく、かつあっという間に走り抜け、(車掌が良くしゃべること以外)話のネタになるようなトラブルもなく、かといって大通りを走り抜けるような爽快感があったわけでもなく。

上の写真で見えた環状交差点を左折中、もう一台のEZ10と遭遇。EZ10は中央のバス専用道には侵入せず、一般車両同様、路側駐車帯のあるアパート寄りの道を走行する。ここから車掌はまたリラックス。

果たしてここで自動運転バスを運行することの意義は何なのでしょう?

EZ10 を降りてベンチに座り振り返ると、今度は手をとりあって EZ10 に乗ろうとする「この街ではめったにみかけなかった」老夫婦が一組。ふと思いついたのは、日本のかつてのニュータウンでも繰り返された不都合な真実 ーー 若い世代が一斉に新興住宅地へ引っ越してきて、そして一斉に老いを迎えること。

しかし老いてなお社会と繋がるためには、玄関を出て人の集まる場所へ出かけるファースト・ワン・マイルの支援が必要。既にヨーロッパ主要都市で普及した電動キックボードが若者のためのワン・マイルだとすれば、EZ10 はいずれ老いを迎えた住民のためのワン・マイルになるのかもしれません(*2)。

(Reported by KATAYAMA Shintaro )

【注釈】
(*1)オン・デマンド運用とは、スマートフォンのアプリや停留所に用意された端末で EZ10 を呼び出し、行き先を指定する使い方。運転手も車掌もおらず、SEA level 5 に準ずる。ちなみに運転士ではなく車掌が搭乗し安全に気を配っている状態が SEA level 3。車掌が安心してお客と話せる状態は SEA level 4。(地下鉄が開通するであろう)2025年頃にこの街でオン・デマンド運用の自動運転バスを提供するため、2018年から実証実験を進めている。
(*2)余談になるが、筆者が暮らすまた別の住宅地では、夏になると結構な数のお年寄りが結構なスピードの電動車椅子を使っていて、カップルでツーリングしていたりバーに集まって飲んでいたりする。飲酒運転はしていないと信じている。屋根・傘付きの電動車椅子は見たことがないので、実用的には暖かく雨が降らない日に限られるのだろう。

【参考資料】
●バルカルビューの開発プラン
●路線番号549
●EZ10

慎太郎さん、ありがとうございました!

(寄本好則)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 最高速度は30km/h程度なのでしょうかね?できれば、動画付で紹介されていれば、すごく参考になったのですが。動画ありません?
    一応、自動運転レベル4ですね。ただし、現状はレベル3扱い?レベル3.5といったところでしょうか?
    車掌が四六時中喋れるようになれば、レベル4は完成ですね。
    車掌が介入しなければいけない状況はどんなことで、どれだけの頻度があるのか?
    システムに任せてしまったら、どうなるのか?
    興味のあるところです。会社に製品の自動検査機があるのですが、現状では、すべての検査ができず、できる検査でも、誤判断があります。負荷は減りますが、人一人を削減することはできていません。
    今回の自動運転バス(有人)になっており、監視義務が必須のようですね。やっていることは、些細なことのようで、自動組み立て装置のオペレーターに近い感じですね。ちょっとしたトラブルやつまり?みたいなのを解除する作業だけど、いないと止まってしまうので、どうしても必須という感じ。この速度域であっても、なかなか無人や遠隔サポートでなんとかならないものなんだと、思いました。自動運転の道のりは遠いですね。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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