マツダ『MX-30』が日本国内でも今年中に発売か〜EVに必要十分な性能とは

昨年の東京モーターショーで電気自動車『MX-30』を世界初公開したマツダ。2020年後半にも欧州で発売予定とされていましたが、1月6日、丸本明社長が年頭の記者会見で「今年度中に日本国内でも発売する」方針であることを明らかにしました。MX-30は、電気自動車に必要な航続距離やパワーについて「問いかけ」を投じる新型車です。

マツダ『MX-30』が日本国内でも今年中に発売か〜EVに必要十分な性能とは

東京モーターショーで世界初公開

マツダとして初の量産電気自動車となる『MX-30』は、2019年10月に開催された「第46回東京モーターショー」で世界初公開されました。ちなみに、社長記者会見での「今年中にも国内発売」の状況をマツダ広報部に確認してみたところ「まだ正式に発表できる段階ではない」というお答えでした。あくまでも、社長の方針、ということのようです。

竹内主査(左)と丸本社長(右)。

ともあれ、はたしてMX-30がどんな電気自動車なのか。まずは、東京モーターショーで発表された欧州仕様車の主要諸元をみておきましょう。

【MX-30 主要諸元】

ボディタイプステーションワゴン
乗車定員5名
全長×全幅×全高4395×1795×1570(mm)
バッテリー総電圧355V
総電力量35.5kWh
充電最大入力急速充電未公表(COMBO規格)
普通充電6.6kW

【MX-30 ローンチ映像 Mazda Official Web(YouTube)】

スタイルは最近流行りのクロスオーバーSUV。SUVといっても乗車定員は5人。『e-SKYACTIV』と名付けられた駆動系メカニズムのFWD方式となっているようです。

発表されたのは欧州仕様車なので急速充電はCOMBO規格ですが、日本仕様では当然CHAdeMOに対応するでしょう。急速充電の最大電力は未発表ですが、おそらく50kWになると思われます。とはいえ、搭載する電池容量が35.5kWhと控えめなので、50kW出力の急速充電でさほど「じれったさ」を感じることもないでしょう。

ボディサイズは「4,395mm × 1,795mm × 1,570mm」(全長×全幅×全高)で、先だって広州でお披露目されたレクサス『UX300e』が「4,495mm×1,840mm×1,540mm」なので、それよりもややコンパクトです。乗車定員が5人というのも、おそらく『UX300e』と同じ。ともにクロスオーバーSUVを標榜しています。

ジャガー「I-PACE」しかり、メルセデスベンツ「EQC」しかり、アウディ「e-tron」しかり、世界の各社から登場する電気自動車にはこうしたクロスオーバーSUVタイプの車種が目立ってきました。電池を搭載するスペースを捻出しやすかったり、ICEでもそれなりに値の張る車種が多いので、電気自動車になった際の高価格がハンディキャップになりにくいといった理由があるのでしょう。

マツダオランダのニュースルームでは、発表からの2ヶ月間で110台のMX-30を販売したことが報告されました。オランダでの価格は33,990ユーロ(約417万円)で、エンジン車のクロスオーバーSUVである『CX-30』とほぼ同程度の価格で提供していることが示されています。

「問いかけ」その1:電池容量35.5kWで航続距離は193km

魅力的だけど買えないよ! という電気自動車が続々と登場するなかで、MX-30はユニークな提案を携えて登場します。

まず、電池総容量が35.5kWhであること。これは、奇しくも『Honda e』と同じです。コンパクトな2boxスタイルである Honda e よりもやや航続距離は少なく、EPA基準で193km(WLTPでは210km)とされています。丸本社長の記者会見でも「セカンドカーとしての利用を想定」していることに言及されたようですが、SUVタイプの車種としては、かなり控えめな航続距離であることは否めません。

とはいえ、テスラ「モデルX」や I-PACE、EQCなどが軒並み1000万円オーバーの高級車であることを思えば、日本でもおそらくは新車価格420万円程度で買える電気SUVが登場することは、評価すべきポイントです。

私自身、各地でEV試乗会の開催などに関わり、試乗した方にお話しを伺う機会がありますが、よく聞かれる意見のひとつが「家族で便利に使えて買いやすい電気自動車があれば……」という声です。同じ5人乗りとはいえ、日産リーフよりも荷室が広く使い勝手がいい電気SUVには一定のニーズがあるでしょう。日本発売時には「ロータリーエンジンのレンジエクステンダーを搭載」という噂もありますが、欲を言えばAWDの設定があると、さらにターゲットが広がるのではないかと思います。

ともあれ、電池容量35.5kWhで航続距離193kmという性能をどう捉えるか。それが評価が分かれるポイントになるでしょう。

30kWhリーフが愛車である私の個人的な見解ですが、電池容量35.5kWhで航続距離193kmは、まあまあ及第点です。実際、30kWhリーフを使っていても、出先で急速充電をする機会は平均して月に2〜3回程度。東京から三浦半島へ釣りに出かける程度なら、無充電で往復が可能です。

高速道路SAの充電渋滞に遭遇するのはげんなりですが、急速充電のいろいろに慣れてしまえば、小さな電池で工夫して走り回る楽しさもあるのです。

でも、この「楽しさ」って、電気自動車を知らない人や、そもそも電気自動車に対して懐疑的な人には、まったく伝わらないんですよね(苦笑)。

ちなみに、レクサスUX300eの電池容量は54.3kWhとされています。車両価格はおそらく100万円以上UX300eの方が高くなるでしょうが、それでも1000万円級の高級車に比べれば買いやすい。今まで、電気自動車量産には消極的な姿勢だったマツダやトヨタ(レクサス)といった日本のメーカーが相次いで打ち出す「電池容量、これでいいじゃん」の提案が日本の市場でどういう評価を受けるのか、注目していきたいところです。

ちなみに、私がもしMX-30を買うとすれば、レンジエクステンダーはいらないけど、AWDだといいな、と思います。

「問いかけ」その2:EV特有の圧倒的な加速性能も封印?

東京モーターショーで発表されたリリースの一文を紹介しましょう。

「MX-30では電動化技術e-SKYACTIVを導入します。全方位の操作に対する車両応答の一貫性を高め、シームレスなGのつながりを実現したエレクトリック G-ベクタリング コントロール プラス(e-GVC Plus)。人間特性に基づいて造り込んだ高精度なトルクコントロールや、クルマの状態を適切に伝えるサウンドでの自然なフィードバック。滑らかな挙動などの特性を掛け合わせることで、マツダの「走る歓び」がさらなる深化を遂げました」

ちょっとわかりにくいかも知れません。「シームレスなGのつながりを実現」や「人間特性に基づいて造り込んだ高精度なトルクコントロール」ってあたりがポイントで、欧米のメディアではEV特有の発進時加速を生み出す「トルクを抑制している」ことが伝えられています。

私自身、まだ実車に試乗したことはないのでなんとも言えないところではありますが、リーフでいうところの「エコモード」がデフォルトで設定されているようなイメージです。リーフのエコモードは激しく「かったるい」ので、さすがに、最低限のキビキビ感は出しているとは思うのですが。

とはいえ、立ち上がりトルクの豊かさは電気自動車の大きな魅力のひとつ。電池容量が小さいので節電の目的でもあるのでしょうが、せっかくのEVの特性を今までのエンジン車のフィーリングに合わせてしまうのは、とてももったいないことだと思います。ま、こればっかりは、実際にハンドルを握ってみないと評価できないところではあります。

まだ初代リーフが発売されて間もないころ、リーフオーナーの方々に取材して、印象的だった言葉があります。それは「バカボタンが欲しい!」という要望でした。電池残量を気にする必要がない場面で、ボタンを押せばバカみたいに圧倒的な加速を楽しめるボタン=バカボタンです。

リリースにも明記された「走る歓び」をマツダがどう定義しているのかはわかりませんが、ポルシェ「タイカン」日本プレミアの記事でもお伝えしたように、「Guilt-free acceleration(フル加速で爆走しても後ろめたくない!)」感覚は電気自動車の素晴らしい「歓び」です。

最大のアピールポイントは、デザイン

デザインへのこだわりは最近のマツダの特徴でもあります。東京モーターショーにおける竹内都美子主査のプレゼンテーションでも、「Human Modern をコンセプトとしたデザイン」が魅力であることが強調されていました。

特徴的なのが、BMW「i3」や、同じマツダの「RX-8」などでも採用された観音開きの4ドアです。MX-30では「フリースタイルドア」と命名されています。車高があるので、開放感抜群ですね。

センターコンソールのトレイに環境負荷の小さいコルクを使ったり、ペットボトルをリサイクルした繊維素材を使っているのもアピールポイントのひとつです。

控えめにした電池容量を含めて、さまざまな点でエココンシャス(環境問題に寄り添った)コンセプトを身にまとって登場する、久々の国産新型電気自動車。

Honda e の2画面大型タッチパネルモニターや、テスラモデル3の高機能なオートパイロットのようなわかりやすい自慢ポイントがやや控えめなのがちょっと気がかりではありますが、日本の電気自動車ユーザー層を広げてくれることに期待しています。

あ、あとマツダへの期待です。全国のマツダディーラーにも、急速充電設備の設置、ひとつよろしくお願いします! といっても、ディーラーは日産もマツダも似たような立地にあるでしょうし、ここはいっそ、マツダ提供で高速道路のSAPAに急速充電器を増設、なんてのもいい(勝手な妄想)ですね。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. 200kmというのはあくまで平地でエアコンオフでしょう。
    自分はi3ですがエアコンオンで30%悪化します。加えて坂道なら50%悪化です。
    やはりEVの課題は外出先での充電時間が最大のネックです。
    セカンドカーうんぬんなんて所詮いいわけでしかないです。
    EV普及は容量と充電時間の両方を解決しないとレシプロ並み普及は無理でしょう。

  2. デザインもボディサイズも申し分ないのですが、東西に非常に広い高知県で業務で使うには航続距離200キロ以下は買うに買われないですね。PHEVバージョンを出してくれるなら、アウトランダーPHEVから乗り換えたいですね。

  3. そもそも100kwhバッテリーが大き過ぎないか?
    一般家庭の1週間分の容量⁈

    1. ふとさか 様、コメントありがとうございます。大きいかというと大きいと思うのですが、実際にはそれなりに100kWhモデルが売れていますし、モデル3もロングレンジの75kWh、スタンダードレンジプラスの55kWhがミックスして売られていますが、比率は正確にはわかりませんが半々くらいだったかと思います。

  4. セカンドカー目的に電池を少なくして値段を安くという狙いは理解できるんだけど、車の大きさとのチグハグ感が否めない。
    ホンダeぐらいの大きさならその狙いも分かるんだけど。
    もっと小さいe-208だって50kwh積んでるんだから、もっと電池積めるんじゃないかと思ってしまう。
    レンジエクステンダー用のエンジンを積むためにスペースを確保しているのかな?

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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