※ ICE=Internal Combustion Engin(内燃機関=エンジン車)
※ BEV=Battery Electric Vehicle(純電気自動車)
コンセプト「i4」はオンラインで発表
「Concept i4」の発表は、BMWの公式サイトをはじめ、Tech Crunch(2020年3月4日、リンク先は英語)やauto motor sport(リンク先はドイツ語)などが伝えています。おっと、Tech Crunchの日本語版にも情報が出ました。
世界的大流行の新型コロナウィルスのせいで「ジュネーブ国際モーターショー」が中止となったため、オンラインでの公開となりました。他社にもオンライン公開のクルマが多数出ていますね。
BMWの電動化ロードマップ
まずは、BMWが過去に発表したロードマップを見てみましょう。下図は、2019年9月に同社が投資家向けに行ったプレゼンテーションの中のロードマップです。
さて、すでに欧米では予約が始まってはいますが、MINIのBEVである「MINI Electric」は2019年内に描かれています。発表なのか予約開始なのかデリバリーなのか、いまひとつ曖昧ですが、とにかく2019年内に大きな動きがある予定でした。デリバリーがいつ始まるかによりますが、「半年から9ヶ月は遅れている」と考えて良さそうです。
また、人気のSUVである「X3」のBEV版「iX3」も、2020年初頭に予定されていましたが、今のところ動きが伝わって来ないので、遅れていると捉えて構わないでしょう。余談ですが、「X3」は最近の「Waymo」についての記事でお伝えしたように、Waymoへの投資に先頃参加を表明した「マグナ・インターナショナル」の子会社「マグナ・シュタイア(旧・シュタイア・プフ)」の製造ですし、あのジャガー初のBEV「I-PACE」も同社の製造なので、「iX3」もマグナ・シュタイアの製造になるだろうと筆者は予想しています。
比べてみよう〜Concept i4とiNEXT
ロードマップの中には、もう1台のBEVコンセプトが掲載されています。2018年に発表された「iNEXT」です。こちらも2020年末には大きな動きがあるはずですが、2020年初めの今は、まだ動静は伝わって来ていません。
iNEXTにはいくつもの特徴が有ります。たとえば5G回線常時接続で様々な機能(コネクティビティー)やサービス(エンターテインメント)を提供するとか、「レベル3(L3)自動運転」に対応するなどです。
さて、まずは今回発表されたConcept i4のコクピットです。
ステアリングは人が運転するのを基本とするような、従来通りのサイズですね。一体化された曲面ディスプレイが目を惹きます。ドライバーズシートとこ・ドライバーズシートとの間のコンソール上(従来車のシフトノブの位置)には、ダイアル式かノブ式のコマンド入力装置が見て取れます。
そして、下が、Concept i4より先に公開されていたiNEXTのコクピット画像です。似ているようですが、ステアリングの大きさや形、そしてディスプレイの数など、違いもあります。
L3自動運転を念頭に置いたiNEXTは、ステアリングが小さくて、しかも長方形です。L3発動時にはステアリングはテレスコピックして、ダッシュパネルに近い位置まで格納されるのでしょう。このイメージ写真が格納時のように見えます。
ただし、ディスプレイは2つ設置されていて、上のConcept i4よりも古くさい印象を受けます。(失礼!)
どうやら、未来のBEVの方向性を表したiNEXTが一足先に公開され、同じように一足先に名前が出たVision i4との要素のいくつかが、今回のConcept i4に取り入れられた、と考えてよさそうです。
曲面ディスプレイと広大なグラスルーフもiNEXTの中で提唱されていました。まずは今回発表されたConcept i4のグラスルーフと室内です。
そして、一足先に出ていたiNEXTのグラスルーフが下の画像です。よく似てますね。
どうやら、「iNEXT+Vision i4 = Concept i4」という式が成り立っていそうです。あくまで筆者の主観ですが……。
筆者などは「NEXT」と聞くと、ペプシコから社長にと呼んだジョン・スカリーに、自ら設立したAppleを追い出されたスティーブ・ジョブズが、直後に立ち上げた会社が作っていたワークステーション「NeXT」を思い出してしまいます。今のMac OSの原型は、このNeXTのOSですよね。おっと、話が逸れました。
Concept i4のスペック
Concept i4の性能諸元に関しては、以下のようなデータが発表されています。
・第5世代の「BMW eDrive」システム搭載
・電池容量は80kWh
・電池重量550kg
・270マイル(およそ434km)の航続距離
・530hp
・0-100km/h加速は4秒以内
航続距離が「WLTP」か「EPA」かは明らかにされていませんが、電池容量からすると、おそらくEPAと思われます。また、加速に関しては、このレベルを達成するのはM3やM4ということになります。「4秒以内」と発表しているので、M3の加速を超えることになりそうです。
大型化されて縦に伸びた巨大な「キドニー・グリル」は、エンジンの冷却のためではなく、各種のセンサーやカメラを設置するスペースとして活用されているそうです。それにしても、どんどん大きくなるので、ネット上では、フロントフードが全部グリルになっているギャグ画像も見られます。
さて、搭載される電池ですが、中国製か韓国製になるのでしょう。BMWグループは2019年11月21日に、中国の大手のひとつ「CATL(Contemporary Amperex Technology Co. Limited)」、そして韓国の「サムソンSDI」との関係強化につながる、「バッテリー供給契約の拡大」を発表したこともありましたね。
【関連記事】
BMWが電動化に向けて動きを加速~欧州が動き始めた2019年を振り返る
こうやって見てくると、BMWの向かう方向はやはり「BEVを主軸とした電動車両製造」、「コネクティビティーによる機能とサービスのフルタイム化」、「自動運転の進展」、そしてi3工場ですでに世界に向けて見せた「製造時環境負荷の低減」でしょう。
欧州にすでに進駐している「Model3」人気を跳ね返せるか?
欧州ではすでにテスラ・モデル3フリートの躍進が続いている事実は、読者の皆さんご存じの通りです。2019年9月時点での欧州のBEV販売実績では、「テスラ、BMW、フォルクスワーゲン」3社の販売台数が躍進し、40,700台を記録しました。
テスラは、モデル3に後押しされ、合計販売台数は19,500台に達し、欧州でのBEV市場のほぼ半分を占めるところまで成長しています。9月はテスラ モデル3にとって記録的な月となりました。17,500台を売り上げてBEV販売の首位となり、全モデル合計では11位となりました。欧州での自動車販売の10位圏内にBEVが肉薄したのは、これまでになかった現象でした。
そして、2021年に生産に入る予定とされるConcept i4ですが、好調なモデル3を超える魅力を兼ね備えているのでしょうか。クラス的にはモデル3よりやや上とされるのでしょうが、性能的には被ると思われます。
Concept i4の車両重量をBMWは明らかにしていませんが、バッテリー80kWhの重さは550kgとしています。これはモデル3の75kWhの478kgを「大人の乗員1人分」上回っています。エネルギー密度はauto motor sport(リンク先はドイツ語)によると、Concept i4の145Wh/kgに対して、モデル3は159Wh/kgとやや上回っています。
既存メディアがまず書く「動力性能」ですが、Concept i4の「0-100kmが4秒以内」に対して、モデル3のバッテリー75kWh搭載の「デュアルモーターAWDパフォーマンス」が「3.4秒」ですから、なかなか良い勝負でしょう。BMWは「530hp」という記述しか明らかにしていませんが、これはモデル3の2モーター前後搭載版「デュアルモーターAWDパフォーマンス」の「490ps(予測値、テスラはpsやhpをあまり意味が無いとして公表していないので)」を10%ほど上回っています。
こう見てくると、Concept i4を基にした市販車が2年後にモデル3に対抗するには、「自動運転の完成度」がキーになると考えられます。BMWは今後2年で、進化を続けるテスラの自動運転にどう追いつき追い越すか、なかなか見応えのある競争が繰り広げられることでしょう。
(文/箱守知己)
いつも拝見しておりましたがはじめてコメントさせていただきます。
スポーツカーが好きでずっとスポーツカーに乗っていますので、BMWやポルシェ等元々はスポーツカーを製造してきたメーカーがどのように個性を残しながらEV車を製造していくのか気になっています。
BMWもポルシェもシルキーシックスやフラットシックス等メーカーを象徴するエンジンがあり、このエンジンだからこそ購入してきたという層も多かったと思います。
モーターになってしまうとメーカーごとの差は小さくなってしまうのかなと考えています。
難しいテーマであるように思うのですが従来からのファンも納得ができ、環境にもやさしい夢のような車をぜひ作ってほしいなと思っています。