テスラが「S&P500」構成銘柄採用へ〜株価も急騰

S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス(S&P DJI)は現地時間の2020年11月16日に、四半期ベースで5期連続の黒字を達成したテスラ社を、S&P500に加えることを発表しました。実際に登録されるのは現地時間の12月21日の取引開始時間前になる予定です。

テスラが「S&P500」構成銘柄採用へ〜株価も急騰

S&P 500に追加されたテスラの株価は短時間に12%上昇

S&P DJIは11月16日に、テスラ社を同社の基幹指標のS&P500に追加することを発表しました。この発表を受けた後、ナスダックの時間外取引(After-Hours Trading)でテスラ社の株価は急騰。時間内取引の終値で408.5ドルだったのが460.88ドルになっています。

テスラ社は10月21日に発表した2020年度の第3四半期決算(7~9月)で5期連続の黒字を達成しています。その前からS&P500に追加されるのではないかという期待を込めた見方は出ていて、EVsmartブログではニューヨークタイムズのコラムニストが「テスラほどの市場価値、約2900億ドルの価値がある企業が S&P500 に含まれないのは珍しいことだ」と評価していることなどをお伝えしてきました。

【関連記事】
【テスラ2020年第2四半期決算報告】4四半期連続黒字達成~EV&自然エネルギー企業としての強みを示す(2020年7月23日)

ただ、S&P500に追加登録されるためにはさまざまな条件を加味しながら、S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス株価指数委員会がガイドラインに基づいて決定するため、そう簡単ではないだろうとも書いていました。

S&P500にこれほど巨額な時価総額の銘柄が追加されるのは異例

S&P DJIによれば、米国株式市場を評価するための最も重要な指標とされるS&P500は、米国経済の主要産業を代表する500銘柄が含まれていて、この500銘柄で株式市場の時価総額の約80%を占めています。S&P500をベンチマークとする運用資産の総額は11.2兆ドル以上になります。

構成銘柄に採用されるための基準は、S&P DJIが公表している「指数ハンドブック2020」によれば、米国の会計基準(GAAP)で純利益が4四半期連続で黒字になっていること、時価総額が61億米ドル以上であること、十分な流動性と合理的な株価であることなどがあります。

これらの基準をもとに、四半期ごとに開催されるS&P ダウ・ジョーンズ・インデックス株価指数委員会が銘柄の検討をして決定します。テスラ社の場合は、S&P500の基準を満たした2020年度の第2四半期決算の際には、構成銘柄に追加されませんでした。

その後、テスラ社は第3四半期決算で過去最高益を記録したほか、生産台数、納車台数も過去最高になりました。テスラ社がS&P500に追加されたことを報じたCNBCによれば、委員会の議論は厳重に機密が保護されていて、インデックスに追加されるにせよ、逆に削除されるにせよ、当該企業が事前に通告を受けることはないそうです。

ところで、テスラ社がS&P500の構成銘柄になることは決まったものの、S&P DJIは、テスラ社を実際に構成銘柄に追加するにあたり、どのような手段にすべきかについて市場関係者からのフィードバックを募集しています。

理由は、株式の時価総額が巨額なためです。11月16日付のCNBCによれば、テスラ社の株式の時価総額は3800億ドルを超えています。これほど巨額な銘柄を追加すると市場に与える影響が大きいため、かなり慎重に対応していることがわかります。

なにはともあれ、イーロン・マスク氏自身が、GMやクライスラーのように破綻しかけていた時期があったとTwitterに投稿したように、これまでさまざまな紆余曲折があったテスラ社がS&P500に追加されるのは歴史的な出来事だと思います。

指数ハンドブック2020によれば、S&P500の構成銘柄のトップ10にはアップル、マイクロソフト、フェイスブック、アルファベット(グーグルの持ち株会社)などIT関連の企業が名を連ねています。テスラ社が追加されると、これらGAFAの巨人に並んでトップ10に入るのは間違いありません。

21世紀のスタートアップ企業の中でも、自動車メーカーでここまで大きく成長したのはテスラ社だけです。アメリカの自動車産業が次々に傾いていた中で、自動車メーカーとしては電気自動車(EV)専業の会社が生き残り、なおかつS&P500に名を連ねるというのはアメリカンドリームとしか言いようがありません。

そういえば、先週は、トヨタ自動車の豊田章男社長が珍しく四半期決算の記者会見に登場し、テスラに関する評価の中でトヨタの方に分があるという趣旨のコメントをしたことに対して、まるで違うものを比べるても意味がないしお門違いだと『CleanTechnica』が噛みついたという出来事がありました。

その直後に発表されたテスラ社のS&P500入りのニュースを、豊田社長はどのように感じているのでしょうか。立ち位置も、最終的に目指す世界も違うのだからそれほど気にすることはないと言ってしまえばそれまでですが、それでも経営者としてどのように見ているのかは、聞いてみたいところではあります。

もちろんそれよりもイーロン・マスク氏のコメントが気になるのですが、Twitterを見てみると、『SpaceX』によるロケットの打ち上げと、国際宇宙ステーションとのドッキング成功の投稿が続いていたのでした。

【関連記事】
トヨタ中間決算での豊田章男社長の発言に「テスラを理解していない」という指摘(2020年11月13日)

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 金融市場からの観点では、とても大きな出来事ですね。
    「主要なインデックス」に組み込まれたら、株式だろうが債券だろうが商品(穀物や金属や石油など)だろうが、世界中の「インデックスファンド」が「買って保有し続けざるを得ない」ことになるので、金融市場では大きなプレゼンスを得ることになります。
    これでトヨタも「焦ってはいるけど見て見ぬふり」を続けるのがだんだん難しくなってくることでしょう。
    そのトヨタの反応よりも、「SP500という世界を代表するインデックスに電気自動車メーカーの代名詞と言える会社の株式が採用された」という事実が大きいです。
    このことは、世界のマネーが見る「産業構造」が変化していたことを意味しますので。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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