タイカン VS モデル3 に注目『JEVRAシリーズ第2戦』電気自動車レースレポート

4月に開幕した『JEVRA』のEVレースが、5月5日(水・祝)、千葉県・袖ケ浦フォレストレースウェイで第2戦を開催しました。今季の目玉はポルシェ『タイカン』の参戦で、昨シーズン圧巻の強さを見せたテスラ『モデル3』とのバトルに要注目です。

タイカン VS モデル3 に注目『JEVRAシリーズ第2戦』電気自動車レースレポート

10年以上の歴史がある電気自動車レース

『JEVRA』シリーズは、2010年に設立された日本電気自動車レース協会(JEVRA)が開催する電気自動車レースです。これまでに、三菱i-MiEVや日産リーフ、テスラ ロードスター、モデルS、さらにはBMW i3、テスラ モデル3そしてジャガーI-PACEといった市販EVに加え、トヨタ ミライや日産ノートe-Powerなど、BEV(ピュアEV)以外にも、FCVやレンジエクステンダーEVなどの電動化車両も参戦が可能。さらにはさまざまなコンバートEVも参戦しています。

レース自体は、できるだけ敷居を下げたいとして、JAFの公式戦とは異なり、EVオーナーが気軽に参加できるレースとなっています。それでもシリーズの初代チャンピオンは飯田章選手ですし、過去には松田次生選手、佐々木大樹選手、片山右京選手や中野信治選手、井出有治選手などの国内トップドライバーが参戦しています。

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昨シーズンはモデル3が圧勝

昨シーズンのチャンピオンである地頭所選手(TEAM TAISAN)は今シーズンもモデル3で参戦。

昨シーズンはテスラモデル3が圧勝でした。モデル3は2019年の最終戦でこのJEVRAシリーズにデビュー。以後参戦エントラント各車がそれぞれに毎戦ごとにバージョンアップを果たしており、レースでのバトルもどんどん激しいものとなり、モデル3の参戦台数も増えてきています。そんなモデル3が主役の座についているところに、今季はポルシェ『タイカン(ターボS)』が殴り込みをかけてきたという感じですね。はたして、モデル3に勝てるのか? 4月の初戦から注目されました。

12シーズン目を迎えた2021年の開幕戦は、4月10日(土)に富士スピードウェイで開催されました。開幕戦は、このポルシェ・タイカンのデビューレースでした。このタイカンを持ち込んだのはガルフ・レーシングのチームオーナーであるKUNI(国江 仙嗣)選手。同チームの監督でもあるKIMI(八代公博)選手はモデル3で参戦という2台体制でシーズンを通して参戦予定です。

開幕戦のタイカンは制御モードで失速

今シーズンも年間チャンプを目指す地頭所光選手。

開幕戦の予選では、KUNI選手のタイカンが、2018年〜2020年のJEVRAシリーズ・チャンピオンである地頭所光選手のテスラモデル3を1秒近く離して堂々のポールポジションを獲得(1分54秒882)。決勝レースでも段違いの加速で一時は後続を5秒以上離すというまさに横綱相撲という印象のレース展開となりました。しかし、レース後半を待たずして、車両の制御モードが入ってしまって失速。結果は5位と厳しいレース・デビューとなってしまっていました。

そして今回、第2戦の舞台は千葉県の袖ケ浦フォレストレースウェイ。全長2.463kmと開幕戦の富士スピードウェイ(4.563km)とはコース長は短く、高低差も少ない富士とは条件が異なるコースでのレースとなるため、その実力を確認するのに格好の舞台ともいえます。ライバルチームもタイカンを警戒していました。

レース開始前、テスラ モデル3で参戦しているTAKAさんは「大きなサーキットではあの加速とか勝負になりません。でもコーナーは苦手みたいですし、この袖ケ浦みたいなショートコースでの実力はどうなのか? もしかしたら拮抗したバトルになるかもしれませんね」とコメントしてくれました。

第2戦も開幕戦同様に55kmレースということで、この袖ケ浦ではコース23周で争われることとなります。今回は15台のエントリーを集めたのですが、実際には10台が参戦となりました。その内訳は、テスラ・モデル3が5台。タイカンが1台(以上、EV-1クラス)。最近参戦台数の少ない日産リーフ(EV-2クラス)は今回もレーサー鹿島選手の1台のみ。EV-Rクラスとなる日産ノートe-Powerはクラス成立となる3台が参戦となりました。

タイカンは抑えた走りで予選5位

この日の袖ケ浦周辺は朝から曇の多い一日。夕方には雨になる予報でした。曇り空の下、午前10時5分から15分間で行われた予選セッションでは、3年連続JEVRAチャンピオンの地頭所光選手(#1 TEAM TAISAN東大UNテスラ)が1分13秒085でトップタイム。これに続くのがTAKAさん(#33 適当LifeアトリエModel3/1分13秒539)、アニー選手(#35 スエヒロModel3/1分14秒901)。そしてガルフレーシングのKIMI選手(#8 GULF.RACING.Model3/1分15秒076)。

4台のモデル3に続いてタイカンのKUNI選手(#36 GULF RACING TAYCAN/1分15秒095)が5番グリッドとなりました。制御モードで失速した初戦の反省から、抑えた走りで余力を残した、というところでしょう。

これに、FIA-F4やKYOJOで活躍し、今回EVレース初参戦となった今橋彩佳選手(#2 ガーデンクリニックTAISANアキラR ※モデル3/1分15秒301)が続きました。

リーフe+のレーサー鹿島選手は1分22秒387で7番グリッド。

そして長い充電時間を挟み、今にも雨が落ちそうな天候となった午後4時、決勝レースがスタートとなりました。フロントロウ・イン側2番グリッドからスタートのTAKAさんが一気に前に出て真っ先に1コーナーへ。ポールスタートの地頭所選手が続き、さらに5番グリッドのKUNI選手が一気に加速してその後を追います。

一方4番グリッドに着いていたKIMI選手はスタートでエラーが出て、発進することができず。再起動するまでに時間がかかり、ほぼ1周の遅れを取り戻す走りを強いられるるという厳しいスタートになってしまいました。KIMI選手の真後ろのグリッドにいた今橋選手はあおりを受けて出遅れ気味のスタートとなりました。

オープニングラップでタイカンが先頭に

オープニングラップは、タイカンの36号車がトップで帰ってきて、それに33号車、1号車の順で僅差で追いかけていきます。トップ集団に少し遅れて35号車、2号車のモデル3。そしてリーフとノートが続きます。

タイカンとモデル3のトップグループは、ストレートが速いタイカンをコーナーで詰めるモデル3といった感じで、ガチガチのバトルを展開していきます。タイカンを追う2台のモデル3同士も激しいバトルを繰り広げ、という見どころたっぷりのレース展開。しかし、そのバトルは突然流れが変わってしまいました。

激しいバトルを展開したが……。

レース半ばの11周目、またしてもタイカンに制御モードが掛かったのです。といってもペース自体は1分16秒前後での走行が、ラップタイムで1分23秒程度になるペースダウンです。ペースが落ちたといってもリーフの決勝ベストとほぼ同等のタイムであることを考えると「制御が掛かっても存分に速い」ということではあるのですが……。

冷静なレース運びで地頭所選手が勝利!

11周目のタイカンのペースダウンによって、トップが入れ変わりました。2番手でタイカンを執拗に追い回していたのはTAKAさんですが、トップに立ったのは地頭所選手でした。

地頭所選手は「スタートからトップでレースを引っ張るつもりでした。とくにミスをしたわけではないのですが3番手になってしまいました。これはまずいなと思っていたのですが、前の2台がやり合っていたので、これはチャンスと思いなおして、冷静に見ることができて、まさに漁夫の利、でしたね。ただ前に出た後も楽だったかといえばそうでもなくて、ガマン比べみたいな感じでした。でも運よくクルマが持ってくれて勝つことができました」とコメント。

TAKAさんも「袖ケ浦はコース幅が狭いから前に行きたかったのでタイカンをコーナーで攻め立てて、でもストレートで離されてっていう感じでした。でもその間に地頭所選手はバッテリーを温存していたんですね。だからタイカンを抜いた後は、地頭所選手に持ってかれちゃって完全にやられました。次回こそ勝ちたいです」とレースを振り返ります。レース後半はこのポジションが崩れることなく1号車、33号車の順でチェッカーを受けました。

36号車は、その後もモデル3のペースに追いつくことができないまま、ずるずるとポジションを下げていき、最終的には5位フィニッシュとなりました。

レースを終えてタイカンを降りてきたKUNI選手は「冷却についても準備を進めてきましたし、今日のレースでは多少ペースは抑えました。でも前回と全く同じ距離(富士では12周のうちの6周目、袖ケ浦では23周のうちの11周目)で制御モードに入ってしまった。次戦までに原因を調べて対策したい」とのことでした。

スタートで出遅れた今橋選手は、徐々にペースをつかみ、最後は3番手を走行していたアニー選手を捉えて3位に入りました。今橋選手は、初参戦となった電気自動車レースについて「ペース配分を間違えたかな〜。予想していたより皆さんが2割り増しくらいに速くて、だからといってこちらも無理して車両に負荷をかけて勝負ができなかったらマズいと思ってジリジリと詰めていって、前を行く車両がタレるのを待っていました」とレースを振り返りました。

国内トップレーシングチームのひとつであるチーム・タイサンは今回でチーム97勝目を挙げたこととなりました。今回もモデル3の2台体制で臨んだわけですが、その2台目のモデル3をこのJEVRAシリーズ初代チャンピオンでもある飯田章氏が監督を務める形でかかわることとなりました。

飯田監督はこれからの時代に合わせたレースの姿を模索するとしており、その検証という意味も含め、次戦ではこのモデル3以外に新型ミライの参戦も予定しており、現在ドライバーを模索中とのこと。ドライバー候補に打診中ではあるものの「もしかしたら自分が乗るかもしれない」とも。過去にも旧ミライでの参戦もあっただけに、新型ミライの実力も気になるところです。

続くJEVRAシリーズ第3戦は、6月6日(日)に茨城県・筑波サーキットでの開催。今回と同じ55kmレース(27周)でのレースが行われます。

RESULT(EV-1クラス)

1位●地頭所 光(#1 TEAM TAISAN東大 UN テスラ)
2位●TAKAさん(#33 適当LifeアトリエModel3)
3位●今橋彩佳(#2 ガーデンクリニック TAISANアキラR)
4位●アニー(#35 スエヒロ Model3)
5位●KUNI(#5 GULF RACING TAYCAN)
6位●KIMI(#6 GULF RACING Model3)

(取材・文/青山 義明)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. テスラとは違う!何度も加速できる!
    って豪語してたのに結構冷却厳しいんですかね。

  2. JEVRAのEV-1は面白いですね!オフィシャルビデオが楽しみです。
    タイカンがレースモードで25kmしか走れないのは設定でしょうか?また、コーナーが遅い原因はサスだけでなく車重が効いているのでしょうね。
    そうすると一般道(峠)最速はモデル3 SR+(車重1.6t)かもしれません。興味深いです。

    1. hatusetudenn様、コメントありがとうございます!
      shibata様もコメントされておられましたが、レーシングカーとして開発されたタイカンがポテンシャルを発揮できていないのは、少し意外でもあります。そろそろポルシェ本社も気づいて、サポートをして欲しいものですね。ニュルブルクリンクでは走れているわけですから、、
      何かの設定や、ソフトウェアですぐ勝てそうな感じもしなくはないです。

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					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

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