電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART1】シリーズが続いてきた理由

電気自動車の大きな意義のひとつが、持続可能なモータースポーツを実現できることです。世界選手権となった『フォーミュラE』が次第に盛り上がってきていますが、日本国内でも電気自動車だけのレースである『JEVRA』シリーズが開催されています。ジャーナリストの青山義明氏がその魅力を読み解く連続企画。パート1をお届けします。

電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART1】シリーズが続いてきた理由

※冒頭写真はSUPER GT岡山線の前座レースとして開催された2011年のJEVRA開幕戦。詰めかけた多くのGTファンの前で静かなレースが展開された。

初開催は2010年7月

国内にEVだけのレースシリーズが存在します。全日本電気自動車レース協会(JEVRA=ジェヴラ)が主催するEVレースで、そのスタートは2010年と、すでに10年以上の歴史を持っています。

2010年といえば、三菱アイ・ミーブが個人向けに発売され、テスラモーターズがその最初のモデルであるテスラロードスターの日本での販売を開始した年です。そして年末には、日産リーフも発売が開始され、まさに日本の市販EVにとって歴史的な年と言えるでしょう。

このJEVRAシリーズは、発足当初から完全にコンペティティブなレースシリーズとして開催されてきています。レース距離は毎戦50km(当時)となっており、これをいかに速く駆け抜けるか、という単純明快なレースです。そのJEVRA初代理事長は、元トヨタワークスドライバーで国内名門レースチームの「トムス」を引っ張ってきた舘信秀氏(現在は元横浜ゴムの水野雅男氏がJEVRA理事長で、舘氏は理事となっています)で、そのあたりからも競技志向であることが類推できると思います。

記念すべきJEVRAシリーズの開幕戦には、参戦9台中、テスラロードスターが2台(ともに米国仕様車)、三菱アイ・ミーブが4台参戦しました。そして初優勝を飾ったのは、国内外で活躍していたトップドライバーである飯田章選手でした。

他にも有名どころでいえば、元F1ドライバーである片山右京選手、日産ワークスドライバーの松田次生選手をはじめ、青木孝行選手、植田正幸選手、岡田秀樹選手、桂伸一選手、黒澤翼選手、佐々木大樹選手、砂子塾長選手、中谷明彦選手、松田秀士選手、密山祥吾選手、故・山路慎一選手などなど、有名ドライバーが参戦をしています。

こう書いてしまうと、一般EVユーザーとは程遠いレースシリーズのように思えてしまうかもしれませんが、その逆で、参戦への敷居は非常に低いものになっています。

日本EVクラブが主催するEVフェスティバルに出場していた車両たちもコンバートEVクラスに出場している。が、なかには、その実体がわからない実に怪しい車両も……。

安全には配慮しながら参戦への敷居を低く設定

実はJEVRAシリーズはJAF(日本自動車連盟)の公認を取っていない、のです。当初はJAFの公認競技としての開催を模索していたようですが、「EVレース創成期である」という認識のJEVRA側と、JAFの出すエントラントの負担を強いるレギュレーション条件があまりに多く、相容れないということから、「日本の四輪モータースポーツ統轄団体であるJAFの公認は不要」と判断。参戦最低条件という最初の敷居を低く設定をした独自のレギュレーションを設け、極力義務化をさけるような配慮も行なっています。

もちろん安全に越したことはないということで、エントラントにはそれぞれの環境下でより安全な装備を推奨するというスタンスを取っています。ですので、レースでありながら、車両は競技用の4点式以上のシートベルトを強いることなく、純正の3点式のシートベルトでの参戦が可能。ドライバーの装備も不燃性のレーシングスーツ類を推奨としながらも、ヘルメットとグローブを持っていれば参戦が可能となっています。

ドライバーが運転免許証を保有していることは必要ですが、サーキットでのフラッグの意味や競技規則をきちんと理解していれば、サーキット用やレース用のライセンスは不要です。

【関連サイト】
日本電気自動車レース協会ウェブサイト

そのため、社用車で参戦する選手や、奥さんの買い物用で活躍している自家用EVで参戦、という気軽さもあります。過去には、自社取り扱い製品の性能をアピールするとして、メルセデスベンツ日本の上野金太郎社長とマーク・ボデルゲ副社長が一緒にスマートで参戦したこともあります。また、最近自動車メディアで活躍する中の女性レーシングドライバー、猪爪杏奈選手も4輪レースデビューはこのJEVRAシリーズであったりします。

三菱自動車が製作したパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム参戦車両である米国仕様のアイ・ミーブ(現地名はMITSUBISHI i)も参戦した。

まさに、一般のEVオーナーから、モータージャーナリスト、そしてSUPER GTなどに参戦するトップドライバーまでが玉石混淆で同じレースを行うという非常に珍しいシリーズともいえます。そして、その魅力はトップドライバーを投入しても勝てない、これまでの自動車レースの経験だけでは通用しない、という「電気自動車レースならではの勝負のポイント」にあると言えます。

そのポイントとは何か。続きはパート2をお楽しみに!

【シリーズ記事一覧】
電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART1】シリーズが続いてきた理由(2020年8月5日)
電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART2】EVならではの勝負どころ(2020年8月11日)
電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART3】テスラ『モデル3』の衝撃(2020年8月19日)

2020年 今後のレース日程

第4戦 8月9日(日) 全日本筑波EV55Kmレース(筑波サーキット/茨城県)
第5戦 9月12日(日) 全日本袖ケ浦EV55kmレース(袖ケ浦フォレストレースウェイ/千葉県)
第6戦 10月4日(日) 全日本筑波EV60Kmレース(筑波サーキット/茨城県)
第7戦 11月14日(土) 全日本富士EV50kmレース(富士スピードウェイ/静岡県)

詳しくはJEVRAの公式ホームページをご参照ください。

(文・写真/青山 義明)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

執筆した記事