電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART3】テスラ『モデル3』の衝撃

日本国内で11年目を迎えた電気自動車だけのレースである『JEVRA』シリーズの魅力をジャーナリストの青山義明氏が読み解く連続企画。ひとまず最終回のパート3では、2019年最終戦で起きた「衝撃の事件」からご紹介します。

電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART3】テスラ『モデル3』の衝撃

まさに黒船来航! これまでとは異次元のレースに進化

JEVRA(Jpan Electric Vehicle Race Association)シリーズ2019シーズン最終戦に、これまでのセオリーが通用しないレースに大きく変わる出来事が発生しました。それは、テスラ『モデル3』の参戦です。モデル3の登場によって、JEVRAのレースはそれまでとは異次元のレースに生まれ変わったのです。

ここまで10年間、レースを引っ張ってきたのは、テスラロードスター、そして打倒テスラを掲げてトヨタ86登場と同時にその86をコンバートEVへと改造した大阪・繁原製作所の「FT86EV」、そしてテスラモデルSといった参戦マシンでした。

また、レースをリードする車両は入れ替わりながら、そのいずれもが、レース途中でペースを落とし、後続のペースを見ながらそのマージンを測りながら総合優勝を重ねる戦術が確立されつつありました。

ところが、テスラモデル3は容赦ない走りでそのレース展開を大きく変えたのです。端的にいって、これまでのEVとは比較にならない速さと強さを持っているのです。

2019シーズン最終戦に突然1台が参戦しデビューウィンを果たすと、2020年開幕戦には2台、第2戦には3台といった具合に毎戦複数台が参戦。テスラモデル3同士のガチガチのバトルを展開しながら、後続の動向などどこ吹く風といった具合で、全く別世界のレースを展開しています。

その後塵を拝す形となった日産リーフe+は、6月に開催された第2戦筑波50kmレースでまさかの3周遅れ(それでも3台のテスラモデル3に次ぐ4位でフィニッシュ)というとんでもない速さの違いを見せつけられたのです。

さすがに、8月9日に開催となったJEVRA第4戦では、同じ筑波でもレース距離が伸びて55kmレース(周回数)となり、非常に暑い中でのレースで、レース後半にはバッテリー温度の上昇もあってペースが下がり、日産リーフe+との差は2周遅れに留まりましたが…。

過去10年でここまで差が付く展開はありませんでした。1周遅れ、2周遅れといったところで計算を重ね、周回ペースを作ってきた参加者たちも舌を巻く速さで、「これまでのレースがいかに平和だったのか」と思わずつぶやく選手がいるほどです。

テスラ車のなかでもモデル3の速さは圧巻!

その速さは、これまでのテスラの車両と比べても圧巻。このモデル3から刷新されたモーターや、バッテリーを含めた駆動ユニットの冷却などのアップデートによるところが大きいようです。他にも、汎用性を高めた足回りなど、数多く存在するアフターパーツが使いやすくなったこともあります。

現在2020シーズン開幕4連勝している地頭所光選手のテスラモデル3(#1 TAISAN 東大 UP TESLA 3/EV-1クラス)は「アンプラグド・パフォーマンス」というアメリカのチューナーの車高調やスタビライザー、ブレーキパッドなどを採用しています。

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ホイールはエンケイのGTC01RRに履き替えてもいます。他には前席2座ともにブリッドのフルバケットシートにしていますが、内装をはがしたりといった過度な軽量化は行っていないようです。熱対策ということでラジエターに水を直接噴霧する装置(タイサン製)も追加しています。毎戦車両のセットアップは進化し車両にも慣れてきているようで、高温でタイムの出にくいはずの第4戦では、同じ筑波サーキットで開催された第2戦の予選タイムを上回るベストタイム、1分3秒138を記録しています。

JEVRAシリーズも歴史を積み上げていくなかで、参戦車両の進化にも要注目です。

意外と気軽に参戦できる!

2014年の第5戦は雨中の激戦。

さて、以前も紹介した通り、このJEVRAシリーズは、実はとても敷居の低いレースシリーズでもあります。最低限必要なものは、参戦する車両とヘルメット、有効な免許証とエントリーフィ(お金)でOK。サーキットライセンスも不要ですし(もちろん、レースで使用されるフラッグ類の意味を理解していることは必須)、長そで長ズボンでグローブ(軍手でも可)をして肌を露出しなければOK。競技に有効な保険に入る必要がありますが、これはJEVRA共済保険(1000円/1口)に入ればOK。

エントリーフィも、エコエントリーという早割制度があるので、それを利用すれば正規エントリーフィの半額となる5万5000円(税込)で参戦が可能なのでこれを利用するのがお得。逆にエントリー期間を過ぎた遅延エントリーとなると正規フィ(税込11万円)の1.5倍に跳ね上がるので注意が必要です。他には自走でサーキット入りするなら充電設備使用料1万1000円も用意しておくのがよいでしょう。

車両も、特別な準備は必要ありません。市販車クラスに参戦の場合は、基本的には車検が通る状態で、車検証に準ずることとなります(車両重量は車検証上の重量の98%以上なければならないし、シートの座席数もロールバーを装着しない限り変更できない)。逆にいろいろやりすぎて、元に戻す羽目になったチームもあるくらいです。ただ、サーキットの路面は通常の公道の舗装とはちょっと違っていますので、タイヤは準備したほうが良いかもしれませんね。

レース自体は、毎戦ダイジェストの動画がYouTubeに上がっていますので、それを見てもらえば雰囲気がわかると思います。レース中は、ドライバーからですと全体の動きがわかりませんので、状況把握のため、できればピットクルーを用意しておくといいでしょう。過去にはピットクルーを息子に託していたというドライバーさんもいましたから、家族で参戦というのもいいかもしれません(ピットクルーは満18歳以上という条件があるので注意)。

2020 ALL JAPAN EV-GP Series Round.2 筑波 EV50kmレース JEVRA(YouTube)

レースは予選と決勝を1日で行うワンデー・レースです。レース当日の流れとしては、車検とブリーフィング(今季は新型コロナウィルス感染症拡大の影響で事前の配布資料による形式で行っており実際に顔を合わせてのブリーフィングは実施していません)の後、15分間の予選セッションでグリッドを決定します。そして充電時間を経て、決勝レースとなります。

決勝レースも30分と掛からないので、実際の走行時間は短いのですが、レースとしては丸一日つぶれます。なんと言っても充電時間がしっかり取られていますから。だいたい朝8時ごろに参加受け付け、その後車検があって、午前10時台に予選。その後長い充電時間があって、夕方3時過ぎに決勝レースという流れです(サーキットのスケジュールによって多少変動がありますがだいたいこのイメージです)。

遠方からの参戦ですと、ちょっときついですが、この長い休息時間ともいえる充電時間が、各エントラントのコミュニケーション時間となっているのも事実です。他のレースでもそうですが、同じシリーズに参戦しているエントラントというのは概して仲が良くなるものですが、なんと言っても毎戦毎戦4時間以上何もすることない時間があって、JEVRAシリーズの参戦者は特に仲が良いかもしれません。レース戦略や車両の扱いまで、ここでさまざまな情報交換が行われています。

電池残量のマネジメントが重要。

わずか30分足らずの、いわゆるスプリントレースですが、それぞれが限られたエネルギーで如何にその消費電力を抑えるか? 制限のある発熱をどうやって抑え込むのか? トップのペースを見ながら自身の周回数を計算しながらどこでライバルに仕掛け、最後に逃げ切れるのか? ここには意図せずして耐久レースの要素もしっかり盛り込まれており、さまざまなノウハウがあるのです。

レース中の走行モードの選択や回生ブレーキの有無(回生ブレーキでエネルギーの出し入れをするとバッテリーの熱アラートが出てしまうということで回生を切るエントラントもいました)、そしてレースのポジション取り(以前は「最初に前に出たら負け」と言われていました)、そしてもちろんエネルギー消費を考えたコースでのライン取り、と実はそうとう奥が深いレースでもあります。奥深い戦略を駆使して戦う面白さ、こればかりは実際にレースに出てみないとわからないですね。

【シリーズ記事一覧】
電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART1】シリーズが続いてきた理由(2020年8月5日)
電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART2】EVならではの勝負どころ(2020年8月11日)
電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART3】テスラ『モデル3』の衝撃(2020年8月19日)

2020年 今後のレース日程

第5戦 9月12日(土) 全日本袖ケ浦EV55kmレース(袖ケ浦フォレストレースウェイ/千葉県)
第6戦 10月4日(日) 全日本筑波EV60Kmレース(筑波サーキット/茨城県)
第7戦 11月14日(土) 全日本富士EV50kmレース(富士スピードウェイ/静岡県)
詳しくはJEVRAの公式ホームページをご参照ください。

(文・写真/青山 義明)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. モータースポーツは見るのも走るのも好きです。テスラのモデル3のスポーツセダンとしての性能の高さに期待して購入し、納車間近で楽しみにしています。 

     ただ、モータースポーツは事故を起こさなくても、車のボディーや足回りにダメージを与え、メーカーの保証もなくなってしまう(テスラの場合)ので、サーキットには持ち込まない予定です。
    昔サーキット走行をしていたのですが、ボディーすら消耗品という事に気が付いて引退しました。

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					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

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