電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART2】EVならではの勝負どころ

日本国内で11年目を迎えた電気自動車だけのレースである『JEVRA』シリーズの魅力をジャーナリストの青山義明氏が読み解く連続企画。パート2では、EVレースならではの「見どころ」や「勝負どころ」をご紹介します。

電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART2】EVならではの勝負どころ

クラス別の電動車が激戦を展開!

JEVRAシリーズは、レース距離50kmを基本とし(現在は、同一年に複数回開催するサーキットでは40km~60kmにレース距離を変えて開催)電動車両のみで行われています。参戦車両はピュアEV(BEV)だけでなく燃料電池車(FCV)、そしてエンジン出力が駆動に直接影響しないレンジエクステンダーEV(REX)も参戦が可能となっています。また市販EVだけでなく、エンジン車をベースに電動車に改造した「コンバートEV」も参戦が可能です。

BEVはモーターの出力によってクラス分けがなされており、それぞれのクラスで熾烈な争いが行われてきています。

わずか50kmのレースですが、シリーズ創設当初は搭載バッテリー容量の少なさもあって全開でアタックするのは無理でした。また、バッテリー搭載量が増えてきても熱対策などのアラートが出るため完全なフルアタックは難しいということが、電気自動車レースならではの特徴にもなっています。つまり、残電気量はもちろん、各所の温度をにらみながらのエコランをしながら他車との駆け引きをし、レース終盤で仕掛ける、といったEVレースならではの勝負の醍醐味が生まれているのです。

レースはさまざまな車両が混走しており、トップが規定周回数を終えた時点でチェッカーとなります。つまり周回遅れとなったら、規定周回数よりも1周少ない周回でチェッカーを受ければOKということになります。レース距離が1周分減算となるので、ペースを上げることが可能となるわけです。しかし、ポテンシャル的にトップを快走するはずの車両がトラブルでリタイアしてしまったりすれば、ラップダウンされた直後にいったん上げたペースを再び落とさなければならなかったり……。同クラス車両同士の戦いを繰り広げつつトップの動向にも気を配りながらの非常に難しいレースとなるのです。

サーキットで戦い方も変わる!

もちろん、シリーズは転戦します。必ずしもフラットで高低差の少ないサーキットばかりではありません。富士スピードウェイやスポーツランドSUGOのように1周の距離が長く、コース後半に上り勾配が続くサーキットは、電池容量の少ない電気自動車にとって攻略の難しいコースです。

レースはチェッカー優先(たとえ周回数が多くても、チェッカーを受けなかった場合、チェッカーを受けた車両が上位に入るルール)であるため、最後のゴールラインまで走り切れず途中で停車してしまうと、チェッカーを受けた完走車に続く順位のカウントになってしまいます。電欠=未チェッカーで最後尾に順位を落とすなんてことになる可能性もあるので、「フィニッシュライン目前でスピードを落としてトップの車両がチェッカーを受けるのを待って自分もチェッカーを受ける」といった独特の作戦が生まれたりしています。

JEVRAシリーズには、実に様々な車両が参戦をしています。市販車でいえば、テスラの各種モデル(モデルXはまだ参戦なし)、日産リーフにノートe-Power、そして三菱アイ・ミーブにBMW i3。これら以外にもBMWの実証実験に使用されたMINI Eや、メルセデスのスマートEV、マツダのデミオEVやホンダのフィットEVといった市販されていないモデルも参戦しています。

さらにはリーフニスモRCも、ニスモのスタッフによって(それもSUPER GTに参戦している鈴木豊監督の指揮の下で)実際に参戦をしています。

ニスモのトップドライバーとしてリーフニスモRCで菅生戦に参戦した松田次生選手だったが、残念ながらこのレースで勝てず、JEVRA未勝利である。

なかでもこのシリーズ最多出場車といえば、やはり日産リーフとなります。2010年末に販売が開始されたこのEVは、翌年2011年のシリーズ開幕戦にはすでに4台が参戦するほどでした。同じ車両が参戦すれば、自ずとその中での差異化が進んでいきます。2011年の岡山開幕戦こそ、ツルシのままのリーフ同士の戦いでした(その当時はタイヤの空気圧が最大の関心事でした)が、すぐにエントラントはそれぞれに工夫を施していきます。

EVの基本的な動力性能に関しては完全にブラックボックス化されており、一般ユーザーが手を入れられる部分はありません。そこで各選手は、車両の軽量化やタイヤチョイス。そしてレースの戦い方にもそれぞれが考えを巡らせていくようになります。

具体的には、ヘッドライトユニットを交換したり(初代リーフではLEDタイプとハロゲンタイプの2種類のヘッドライトをラインナップしていますが、ハロゲンのほうがユニットとしては軽量なんだそうです)、シートを軽量なバケットシートに交換したり、といった具合です。

また、車両の重心を下げるために足回りの交換。そして、運動エネルギーの損失を避けるためにSタイヤを装着し、コーナリング時の車速をキープするといった工夫がなされていきます。また、結果このJEVRAシリーズ参戦の経験をもとに「トウレスキャンバープレート」や「軽量ブレーキローター」のようなパーツが開発され、実際に販売となるなど、パーツ開発の場になったりもしています。

サーキットでの充電サービスも

基本的にレースには充電サポートトラックが帯同し、給電施設のないサーキットでも充電が可能となっている。

車両の進化だけではありません。JEVRAでは急速充電サービスとして毎戦サービストラックがサーキットに用意していることもあって、自走でサーキットまで来て参戦するツワモノ選手もいましたが、本気で「勝ち」を狙うチームは積載車で満充電の車両を持ち込むようになっていきました。

さらに参戦直前の充電はせず、レース前々日までに充電を終え、一日以上車両をガレージ内に放置しバッテリー温度を下げる、予選アタックは最短の3周で終える(コースインとコースアウトも含むため、計測は1周のみ)という念の入れようです。また、夏のレースでは車両下部に水を掛けたり、送風機を回したり、レース前からレースデーまで車両の管理にも注意を払っていました。

これまで数多くのレースに参戦をしてきたチームで、このEVレースにも2011年シーズンから参戦を開始した某ブレーキ関連パーツ・メーカーのチームの関係者は「普通のガソリンエンジン車両であれば、一日サーキットでの走行を重ねることで走行データが得られるけれど、EVは充電の時間も必要だし、そのデータ取りから苦労する。で、ウチの車両はシビアな走行を重ねてきたこともあって、バッテリーの劣化も始まってて、走行するたびにいろいろと数値が変わってきちゃっててさらにデータが取れなくなってる」と苦労したと語ってくれたことがあります。でも、この参戦によって多くのEVに関する知見を得ることができた、とも言っておりました。

今までに前例がないEVレースだからこそ、参戦するチームもドライバーも手探り状態。だからこそエンジン車のレースにはない楽しさがあるのです。

次回、パート3では、直近のEVレース事情をご紹介します。

【シリーズ記事一覧】
電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART1】シリーズが続いてきた理由(2020年8月5日)
電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART2】EVならではの勝負どころ(2020年8月11日)
電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART3】テスラ『モデル3』の衝撃(2020年8月19日)

2020年 今後のレース日程

第4戦 8月9日(日) 全日本筑波EV55Kmレース(筑波サーキット/茨城県)
第5戦 9月12日(日) 全日本袖ケ浦EV55kmレース(袖ケ浦フォレストレースウェイ/千葉県)
第6戦 10月4日(日) 全日本筑波EV60Kmレース(筑波サーキット/茨城県)
第7戦 11月14日(土) 全日本富士EV50kmレース(富士スピードウェイ/静岡県)
詳しくはJEVRAの公式ホームページをご参照ください。

(文・写真/青山 義明)

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この記事の著者


					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

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