日産が「エンジン開発終了」の真相は? 〜決算発表会見に注目

日産自動車は2021年度第3四半期の決算発表会見の中で、ヨーロッパで新しい排ガス規制『ユーロ7』が導入されて以降は、ヨーロッパ向けのガソリンエンジンの開発はしないことを明らかにしました。その他の市場ではハイブリッド車も含めた電動化を進め、2030年までにグローバルでの電動化比率50%を目指します。

日産が「エンジン開発終了」の真相は? 〜決算発表会見に注目

日産がガソリンエンジンをやめる?

日産自動車は2022年2月8日、2021年度第3四半期の決算発表をオンラインで行いました。四半期の販売台数は90万4000台で、第2四半期に比べ業績は回復基調にありますが、半導体不足の影響もあって前年比ではマイナスでした。

そうした基本的な業績の発表とは別に、EVsmartブログとしては今後の電動化戦略がどうなるのかに注目していました。決算発表の前夜、つまり2月7日深夜に日経新聞電子版が、日産が日本、ヨーロッパ、中国向けのガソリンエンジンの新規開発をやめる方針を固めたと報じたからです。

これが事実なら一大事です。日産は2021年11月29日に発表した長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」の中で、今後5年間で約2兆円を投資して電動化を進めることや、15車種の電気自動車(EV)、8車種のe-POWER搭載車を投入して電動化比率をグローバルで50%にすることなどを発表していますが、ガソリンエンジンの開発をやめるとは言っていません。

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また2022年1月27日には、ルノー・日産・三菱自動車の3社が2030年に向けたアライアンスとしての計画「Alliance 2030」を発表。2030年までにグローバルで年間220GWhのバッテリー生産能力を確保することや、ゲームチェンジャーになると位置付けるコンパクトセグメント向けのEV用プラットフォーム「CMFB-EV」を含む5つのEV専用プラットフォームをベースに、2026年までに年間150万台のEV販売を目指す方針を示しています。

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これだけでもけっこう、お腹いっぱいの内容なのに「エンジン開発終了」となれば電動化に向けた大変革です。ちょっとドキドキしながら決算発表のオンライン会見を見ていました。

ヨーロッパではガソリンエンジンの新規開発はしない

オンライン会見では、アシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)が業績発表に続いて電動化戦略の概要をおさらいしました。

グプタCOOは、「『Nissan Ambition 2030』では、よりクリーンで、安全で、インクルーシブな世界を実現するために持続可能な未来に向けてギアをシフトしていく。その取り組みはすでに動き出している」と現状を紹介し、次のように話しました。

「電動化戦略をよりいっそう推進し、アリアと軽EVの販売開始により商品ラインナップを拡大していく。中国ではe-POWERの販売を拡大する(中略)。日産はこれまで蓄積してきた経験を生かしながら新たな電動化の時代において成長し続けるための付加価値を生み出し、長期的な収益性の向上に寄与するビジネスチャンスを追求することで会社を成長させていく」

つまり内燃機関を完全にやめるわけではなく、e-POWER を中心としたハイブリッド車がそれなりの数を占めることが示されました。

こうした発言に続いて行われた質疑応答では、もう少し詳しい説明がありました。まず注目の日経報道の事実確認を求められると、「私どもは商品の生産戦略の責任を負っているが、皆さんのご助言をいただければより確かな戦略ができると思う」とジョークを交えて、次のように明言しました。

「ガソリンエンジンを欧州向けには開発しない。なぜならユーロ7が入ってくるとお客様は、電動車両に比べてはるかに高い価格をガソリン車に支払わなければならないからだ。これは私たちが決めることではなくてお客様が決めること。お客様が、EVの方がガソリン車よりも価値が高いと思うと言うことだ」

そしてヨーロッパ市場での電動化比率は「76%ほどになる」という見方も示しました。

『Nissan Ambition 2030』説明資料より引用。

早ければ2020年代半ばの導入が予想されているユーロ7(2025年にEUで導入が予定されている排ガス規制。販売全車種の平均燃費を24.44km/ℓ以上にする必要があり、1台につき95ユーロの罰金が課せられる)では、リアルワールド(実用レベル)での排ガス測定や、厳しい粒子状物質の規制があるため、ディーゼル車はもちろん、ガソリン車でもクリアするのは至難と見られています。加えて一部地域では内燃機関そのものを規制する動きもあります。

また、日産の地域別販売台数を見ると、今四半期の総販売台数90万4000台のうち、ヨーロッパは9万台です。北米の26万2000台、中国の31万3000台に比べると差が歴然としてます。

日産として、ここにコストをかけてガソリン車を新規投入することのメリットは小さく、それなら市場の方向性に沿った電動化を進めるのが理にかなっていると言えます。

日本でもEVが人気になれば増やす可能性も

ではヨーロッパ以外の市場ではどうなるのでしょうか。この点についてグプタCOOは、次のように回答しました。

「しかしながら、市場によってはまだまだ異なるパワートレインを求めるお客様もいる。彼らのニーズに対応しなければならない」

グプタCOOは具体例として、アメリカで先行して生産モデルを発表している新型『Z』ではツインターボに9速ATと6速MTを搭載していることを紹介。「欧州ではユーロ7以降はガソリンエンジンはやらないが、市場のお客様やビジネスにとって理にかなっている限りは続けていく」という考え方を示しました。

では、お膝元の日本市場はどうなるのでしょう。グプタCOOは、「Nissan Ambition 2030」で掲げた日本の電動化比率は55%だったとし、「つまり45%はガソリン車のままという事だ」と述べました。この発言について、「ニーズに対応しなければならない」という前出の方針を踏まえて考えると、日本ではまだEVが求められていない、市場がない、と判断されていることになります。残念な感じです。

『Nissan Ambition 2030』説明資料より引用。

とはいえ、日産にとって国内市場は「極めて重要」という認識を示し、こう述べました。

「日本のお客様は明日から電動化車両を増やそうと言うかもしれない。当社は栃木で、ニッサン インテリジェント ファクトリーを発表した。バッテリー工場も国内にある。準備はできている」

当然、ここでの電動化車両はEVのことだと思います。インテリジェントファクトリーは2050年のカーボンニュートラルを目指した次世代工場です。今はまだ市場がないけれど、求められれば対応する準備は万端だ、ということでしょう。

ちなみに日本市場での販売台数は、この四半期は9万4000台でした。ガソリンエンジンをやめるヨーロッパの9万台とあまり違いません。これなら、いっそエンジン車をやめてしまっても影響は限定的かなと思うのですが、政策やユーザーの認識に大きな違いがあるので、すぐに動く選択肢はなさそうです。

関連して「中国市場はどうするのか」という質問もあったのですが、明確な回答はありませんでした。回答を忘れてスルーしてしまった感じです。会見では再質問を受け付けていなかったので、そのまま流れてしまいました。

この他、『インフィニティ』はどうなるかという質問も出ました。グプタCOOの答えは、「インフィニティはNissan Ambition 2030に含まれている。詳細は近々お話ししたい」というものでした。

レクサスは、昨年末のトヨタの電動化戦略発表の中で、「ラクジュアリーセグメントではお客様の先進技術、あるいはEVに対する期待値が急速に高まっている」という見方を示し、2035年までに完全にEVに移行する方針を示しました。

それならインフィニティもと思うのは自然でしょう。近々の発表を楽しみにしたいです。

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ガソリン車ユーザーの手が届くような電動化を目指す

2019年の東京モーターショーで『ARIYA』コンセプトともに軽EVの『IMk』が初披露されました。

最後に「テスラについてどう見ているか」という質問が飛び出しました。グプタCOOは、「テスラの素晴らしいところは、EVの認知度を上げたことだ。これはテスラだけでなく、当社の助けにもなった」とコメントした上で、日産のEV(電動化)への姿勢を説明しました。

「2010年に当社がEVのパイオニアとしてリーフを出したときには、お客様もいなかった、インフラもなかった、市場もなかった、政府も何も求めてなかった。それでも投入したのは、当社は、私たちの革新性を見せたかったからだ」

そしてEVの認知度が上がり市場に競争が生まれることを歓迎しつつ、重要なのは「日産のガソリン車を持っている人たちに、電動化が手の届くようにすること」だと述べています。だから国内市場の4割を占める軽自動車にEVを投入するということです。

グプタCOOのコメントを整理すると、こうなります。日産の今の年間販売台数は約500万台です。平均の保有期間を5年とすると、世界で2500万台の日産車が保有されていることになります。この2500万台を保有する日産ファンに向けて電動化した車を「どうやって提供するか」(グプタCOO)が大事になります。

数を出さなければ社会課題の解決にならないと言うことでしょう。軽EVはそのための一手です。意地の悪い見方をすると、いくら走行時のCO2排出はゼロであっても、多数のEVを生産すればするだけ環境負荷が高まるというジレンマがあるので、量産車メーカーの立ち位置は難しい所だなあと思います。

なにはともあれ、日産の方針はすでに示されていた通りで、「エンジン開発終了」ということではなかったのでした。「ここまで引っ張ってそれか!」と言われれば、そうなんですとしか言いようがありませんが、そう頻繁に長期戦略が更新されるのもどうかと思うので、よしとしてくださいませ。

まずは、軽EVの詳細に期待です。個人的には、先日のオートサロンに出ていた三菱の軽EVとはデザインとかまったく違っているといいなあと思っているのですが、どうなるでしょうか。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 日産三菱は軽EVのパイオニア、そして日本の自家用車新車登録の1/3は軽自動車。だから200万円の軽EVが発売されれば相当電動化が進むとみてます。
    そしてソーラー発電に目を向けても2019年以降住宅向けソーラー固定買取が終了、既に当家も2023年のFIT切れを前に蓄電池+i-MiEVのシステムを構築済。これからはソーラー発電とのセットがEV普及への道やないですか!?
    さらに2029年以降はソーラー発電所も固定買取終了物件が出てきます。しかもパワーコンディショナーのメーカーが新電元やニチコンなど急速充電器メーカーでもあり、それを利用して中古電気自動車を充放電システムとしても使い、電力安定化へ寄与すべきではないかと思ってます。そのころには電気自動車の配車バッテリーも潤沢になり導入費も安く抑えられリサイクル社会もうまく構築できるんやないですか!?
    一介の電気管理技術者として、日産三菱連合と電力問題の融合を考えていきますよ。自身もソーラー発電設備保守点検を受託する場合こういうビジョンを持った方と結びつきたいですね。

  2. 日産はルノーと三菱との連合があるから、まだエンジン開発をするorできると判断かな?
    一方ホンダは、その連合ほどの力がないためor選択と集中のため、エンジン開発をしないと判断かな?

  3.  日産期待のARIYAですが、ちょっと時間がかかりすぎでは?
    スペースジェットの二の舞になっちゃう? 『早く出してよ日産』

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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