京都市が集合住宅向けEV充電設備設置の説明会開催/基礎充電環境拡充への障壁とは?

2023年5月24日、京都市はマンション等への電気自動車用充電器設置を進めるため、マンション管理者対象の無料相談会を開催しました。相談会には充電器設置を手がける4社が協力し、各社の特徴や補助制度などについて説明を行いました。京都市では民間企業と連携して利用しやすい充電器の設置を進める方針です。

京都市が集合住宅向けEV充電設備設置の説明会開催/基礎充電環境拡充への障壁とは?

東京に続いて京都でも無料相談会を実施

京都市環境政策局は、初夏の陽気になった2023年5月24日に、マンションなどの集合住宅に電気自動車(EV)用充電器設置を拡充していくための無料相談会を実施しました。相談会の対象はマンション管理会社や管理組合などです。

自治体による集合住宅管理者向けの相談会は、2023年3月に東京都が実施し、約150の申込みがあったほか、当日は80の企業、団体、個人が参加するなど関心の高さが明らかになりました。

【関連記事】
東京都が集合住宅のEV用充電器設置のための相談会開催/補助金も増額(2023年3月23日)

それを受けて京都市でも、説明会を開催することになりました。それにしても、年度替わりですぐに開催というのは、かなり素早い対応でびっくりします。

説明会に70以上の管理組合や企業が参加

今回は平日開催でしたが、当日は34の組合、管理会社などが現地に集まったほか、オンラインでも40の企業、団体などが視聴。会場の椅子はほぼ埋まっていて、設置への関心は全国的に高そうなことが見てとれました。

また説明会でプレゼンテーションをした設置業者は、ユビ電、ユアスタンド、エネチェンジ、テラモーターズの4社です。当日の資料は、京都市のHPで公開されています。

説明会ではまず、京都市が現状について説明をし、続いて4社がそれぞれ特徴を説明していきました。式次第は東京都の説明会を踏襲したと言えそうです。

EVは本当に普及するかという疑問の解消は必要

京都市環境政策局の土井知信課長は今回の結果について、「当初、募集した時は、40名も集まるかどうかっていうのが不安だったが、案内文を送ったところ反応がすごい良く、順調に枠が埋まった。改めて、マンションでのEV充電設備について興味を示されている方が多いことがわかった」と話しています。

京都市環境政策局の土井知信課長。

とはいえ、日本のEV市場を見ると本当に普及するのかどうか、疑問が浮かぶのもやむを得ないこと。そのため相談会では、設置業者の説明に先立って京都市から、世界各国のEV普及状況など、現状についての説明がありました。土井課長はこう話しています。

「マンションの管理組合さんからは、EVが本当に普及するのかどうか教えてほしいという声をいただいたことがある。だから前半部分で、EVはこのように普及していく可能性があるということを説明させてもらった。これからも(EVの普及状況について)我々からもしっかり周知していかないといけないと思っている。今年はまず設置事例を作り、それをもとに周知啓発をしていきたい」
京都市では今のところ、今回のような説明会をすぐに重ねて開催する予定はないものの、検討はしたいとのこと。要望があれば今年度中に再度開催の可能性もあるかもしれません。関心のある方はぜひ、京都市に問い合わせをしてみてください。

説明会によって設置検討が進む可能性あり

ではこうした説明会はどの程度、今後の充電器設置にプラスになったのでしょうか。京都市が参加者に向けて実施したアンケートの概要が手元にあるので紹介したいと思います。

質問項目は、説明会の満足度、どのような点について理解が深まったか、充電設備の設置に向けて検討が始められそうか、具体的な要望などについてです。回答は組合関係とその他関係者で個別に出ていますが、ここでは参加者数が多かった組合関係、およびオンライン参加者からの回答を中心に見ていきます。

まず説明会の満足度については、会場参加、オンライン参加ともに、満足、やや満足が全体の8割を超えていました。

どのような点について理解が深まったかについては、国の補助金やサービス事業者を活用することで設置費用を低減できることが最も多く、次いで基礎充電の重要性などでした。

また、充電設備の設置に向けて検討が始められそうかどうかについては、これも8割前後の回答が、イエスでした。補助制度がもっと周知されれば、集合住宅への設置が進む可能性が高いことがわかります。

同様に、京都市の取り組みへの要望でも、補助金情報や充電サービス事業者等についての情報発信を続けてほしいという回答が多く、まだまだ情報の告知が必要であることが見えます。

また開催日については、土日や、総会議案書の作成の都合から年明け開催を望む声がありました。管理会社はともかく、管理組合は業務として行うものではないため、仕事の都合を考えると週末や休日が参加しやすいと思われます。

東京都や京都市の先例は、これからこうした説明会の開催を考えている自治体にとって有益な情報になりそうです。

写真左から、TerraMotors、ENECHANGE、ユアスタンド、ユビ電による無料相談会も盛況でした。

住民からの要望はまだまだ少数

参加者へのアンケートとは別に、京都市では今でも、管理組合などを対象にEV用充電器設置に関するアンケート(京都市公式サイト)を実施中です。アンケートの途中経過について情報提供を受けたので、少しだけ紹介したいと思います。

住民からの設置要請の有無については、約7割が「ない」そうです。これまでのEVの普及台数を考えると納得です。

けれども、まだ検討を始めてはいないが必要性を感じているという回答は約36%、設置に向けた検討を始めているは8.7%、すでに設置しているが4.4%でした。

さらに、設置を検討する予定が「ない」という回答は約4割と少数派でした。過半数の方がEV用充電設備の必要性は感じているようです。

設置のメリットについては、建物の資産価値向上という回答が55.1%、居住者が車を買い換える際の選択肢が増えるという回答が68.1%でした(複数回答)。

アンケート結果には、もうひとつ興味深い点がありました。回答者を分譲と賃貸に分けた場合、分譲タイプの場合は、住民からの問い合わせがあったという回答が70%なのに対して、賃貸では11社のうち1社だけでした。

また関心度や補助金の認知度についても分譲と賃貸では大きな開きがあり、補助金の認知度では分譲84%に対して賃貸38%となっています。設置に向けた検討状況でも、検討を始めている、または必要性を感じているという回答が、分譲では70%なのに対して、賃貸では45%でした。

この認識の差は、今後の集合住宅への設置拡大の中で課題になるかもしれないと感じました。とはいえ、賃貸集合住宅管理大手の大和リビングが全社用車をEVに切り替えて管理物件への充電設備設置にも積極的に取り組む(関連記事)といった動きが出てきています。今後はさらに、EVsmartブログでも「賃貸にも充電設備を!」という情報発信に力を入れていきたいところです。

設置に向けての課題では、合意形成(44.9%)もさることながら、初期費用、維持管理費用、電気料金負担という回答がいずれも70%前後で、コスト面での不安が大きいことがわかります。その他に目立ったところでは、EVとそれ以外の車の所有者間での公平性について、69.6%が課題と回答しています。

マンション管理に携わる方々からの直接の回答結果は貴重です。多くの自治体にとっても参考になる情報ではないでしょうか。

世界各国でEVの普及が進む中、日本でも2035年まで乗用車の新車販売を電動車(ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)を含む)100%にする目標が掲げられています。とはいえ、日本ではEV普及にとって不可欠な条件のひとつである集合住宅への基礎充電設備の設置が遅れているのが現状です。

EVsmartブログではこれまでも、基礎充電の重要性については繰り返し指摘してきましたが、自治体の説明会が広く開催されるようになれば、課題解決に向けて大きな一歩になると思います。今後の動きに注目したいと思います。

取材・文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 分譲マンションでEV充電器の設置が進まないのは、EV充電器が共用部に含まれるからです。そのため管理組合での議論や承認が必要になります。特に設置場所や費用負担、料金の決済方法は悩ましい問題です。全員がEV希望者なら問題ありませんが、現状EV希望者は一部であるため、解決に至らない場合が多いと思います。これに対して、充電器設置会社がありますが、補助金を利用して設置費用無料などメリットを謳っているものの、実際にはランニングコストが高かったり、使用予定がないのに充電器を設置するなど補助金の無駄使いになる場合も少なくありません。
    この問題を解決するためには、管理組合を通さず個人の判断でEV充電器設置ができるように法律を変えたほうがいいと思います。具体的には、EV充電専用の引き込み線から配電盤までを共用部として、そこからEV充電器までは個人の専有部分にする。充電コンセントを設置すれば場所も取らないでしょう。こうすれば、電気代は個人が支払えばよく、費用負担の問題は生じません。つまり、光回線を集合住宅に引くのと同じように充電器を設置できるようにする。国は引き込みや配電盤設置に補助金を出せば、充電器普及を効率的に進めることができると思います。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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