東名300km電費検証【19】BYD『DOLPHIN』/冬より最大27%増! 100台限定のBaselineは299.2万円〜

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第19回はBYD『DOLPHIN』(ドルフィン)スタンダードグレードで実施しました。冬の記録よりも良好な電費を記録。300万円を切った100台限定グレードがお買い得です。

東名300km電費検証【19】BYD『DOLPHIN』/冬より最大27%増! 100台限定のBaselineは299.2万円〜

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

100km/h巡航で約285kmの航続距離性能

『DOLPHIN』(ドルフィン)のグレードは、ロングレンジと今回の検証に使用したスタンダードの2つがあります(正式にはドルフィン ロングレンジとドルフィンですが、ロングレンジとスタンダードとします)。ボディサイズは同じで、搭載するモーターやバッテリーが異なります。一充電走行距離と価格などをまとめた表が下記です。

全長
全幅
全高
mm
最高出力
kW(PS)
最大トルク
Nm(kgm)
バッテリー
kWh
航続距離
(WLTC)
km
車重
kg
スタンダード4290
1770
1550
70(95)180(18.4)44.94001520
ロングレンジ150(204)310(31.6)58.564761680

BEVは外気温が低いと電費が悪くなります。前回のドルフィンの検証(関連記事)は、今年の1月に外気温8℃と相当条件が悪い中での実施でした。今夏に行った他車種の検証においても、20℃前後の好条件のもとでは良い数値を記録していますので、ドルフィンはどうなるのかがとても気になっていました。つまり、今回の注目点は真冬と真夏の外気温でどれだけ電費が変わってくるかです。

カタログスペックである一充電走行距離400kmを、バッテリー容量の44.9kWhで割った目標電費は8.91km/kWhです。8月某日、計測日の外気温は最高35℃、電費検証に臨んだ深夜は24〜28℃でした。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしています。

【今回の計測結果】

BYDの電費表示は、直近50km走行データをもとにして100km走行した場合の数値という独特の算出方式のため、各区間の電費はその区間の走行距離を消費電力で割って求めています。往復の電費は、各区間の往復距離を、その区間の往路と復路で消費した電力の合計で割って求めています。

目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路のBとC区間の計3区間でした。冬季は復路のC区間だけでしたので、1区間から3区間に増えました。往復では80km/hが8km/kWh台、100km/hが6km/kWh台、120km/hが4km/kWh台と、Cd値が0.301と少し大きめなこともあってか高速化に伴う電費の悪化が顕著です。

【巡航速度別電費】

各巡航速度の電費は下表の通り。「航続距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、400kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率です。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h8.33374.294%
100km/h6.36285.571%
120km/h4.60206.452%
総合6.10274.169%

(注)80km/hの電費は、80km/hの全走行距離をその区間に消費した電力の合計で割って算出。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めています。

総合電費の6.10km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続距離は約274kmになります。100km/h巡航はそれよりも少し長い約285km。80km/h巡航であれば、カタログスペック(WLTC)の一充電走行距離までもう少しの約374kmを走り切れる結果になりました。

「東名300km電費検証」企画において、この表の100km/h巡航と総合の達成率が90%台だと優秀、100%を超えると相当優秀な電費性能であることが見えてきました。今回のドルフィンスタンダードは71%と69%でしたので、90%までは20%の開きがあります。なお冬季の記録は60%と61%でしたので、どちらも10%ほどは伸びています。

巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると24%電費が悪化し、さらに120km/h上げると45%減とほぼ半分になります。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.8倍(181%)に伸ばすことができる計算になります。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h76%
120km/h55%
100km/h80km/h131%
120km/h72%
120km/h80km/h181%

ここで冬季の記録と比較してみます。

電費差
km/kWh
航続距離の差
km
比率
80km/h電費8.336.581.75127%
航続距離374.2295.378.9
100km/h電費6.365.380.98118%
航続距離285.5241.444.1
120km/h電費4.604.63-0.0399%
航続距離206.4207.9-1.5
総合電費6.105.40.68113%
航続距離274.1243.430.7

数値の差は、80km/hで電費は1.75km/kWh、航続距離は78.9kmですが、100km/hでその差は半分ほどになり、120km/hになると差がなくなっています。この結果から100km/hまでは外気温による電費の差があり、夏の方が有利だが、120km/hになると速度上昇による電費の悪化の影響の方が大きく、外気温はさほど関係ないという意外な結果になりました。

レーンサポートシステムが良くなった

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航するため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用します。さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意しています。

ドルフィンのACC設定は、ステアリングホイール左側のスポークにあるスイッチで行い、速度調整は5km/hごとにスイッチで設定でき、先行車との車間距離は4段階で調整できます。詳細はこちらの記事の「ACCは5km/hごとに設定速度を変更できる」の項をご覧ください。

今回最も感銘を受けたのは、ドルフィンの試乗記で指摘していたレーンサポートシステムが改善されていたことです。指摘内容とは、後続車と十分な距離を空けているのに車両が車線変更を拒み、もとの車線に戻すようにステアリングにかなり強いアシストを入れてくるというものです。

そのアシストが入る距離が他社と同じような常識的な範囲になっていました。BYD auto japanも当時からこの問題を認識しており、早急に中国の開発部と連携して改善するとしていました。今回、きちんと改善が完了していることを確認でき、自信を持って多くの人におすすめできるクルマになりました。

30分で27kWh充電〜冬季より5kWhアップ

ドルフィンに150kW器はtoo muchなので、充電中は車内に待機し、他の利用者が来ればすぐに隣の90kW器に移動できるようにしていました。

電費に続き、急速充電でも冬季よりも良好な結果が得られました。冬季は30分で21.6kWhの充電量でしたが、今回は27kWhと5.4kWh多くチャージできました。

これは駿河湾沼津SA上りの150kW器で記録したものです。車両側の充電性能である65kWに肉薄する64kWで充電を開始、OBD2用のツール(アプリ)で計測したところこの時のバッテリー温度は36℃でした。その3分後に出力は64kWのまま、バッテリー温度38℃の時になり「注意:駆動用バッテリー温度制御が作動中」の表示がドライバーディスプレイに出ますが、その後も10分間にわたり出力64kWをキープします。この間にバッテリー温度は43℃まで上昇します。

そしてバッテリー温度が44℃に達した時に、35.9kWに出力が落ちます。しかしドルフィンの充電制御が優秀なのはここからでした。出力を下げたことでバッテリー温度も低下していき41℃になると再度出力を64kWに。その後も42℃で56kWに出力を落とすなど、上手に温度と出力をコントロールします。

これは「バッテリー温度はきちんと上限を守りつつ、なるべく多くの充電量を確保しよう」というユーザーメリットを最大化する制御だと思います。急速充電中に一度下げた出力を再び最高値付近まで上昇させたのは初めての経験でした。バッテリーメーカーを出自とするBYDの面目躍如と感じました。

この充電により検証結果の総合電費である6.10km/kWhでは約165km分、80km/hの8.33km/kWhであれば約225km分を補給できたことになります。なお、50kW器では30分でSOC 40%分、航続距離165km分を充電しました。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。表示がない場合は不明としています。
充電中のドライバーディスプレイ。左下に64kWの出力表示、下段に「注意」の表示が出ています。

タイヤ・ホイールは16インチ

タイヤサイズは前後ともに205/55R16、メーカーはブリヂストン、商品名はECOPIA EP150、空気圧も4輪ともに250kpaでした。

100台限定のBaselineが圧倒的にお買い得

ドルフィンは前述のようにレーンサポートシステムによる「ステアリング戻し」の癖がなくなりました。立体駐車場にも入る1.55mの全高、全長は4.3mと取り回しの良いボディサイズです。エンジンもトランスミッションもないBEVならではの静かでスムーズな走りを実現しています。

そしてBYD auto japanは11月1日に、ドルフィン導入1周年を記念した限定車「Baseline」を299.2万円、100台限定で発売すると発表しました。

これはスタンダードグレード(363万円)がベースで、NFCカードキーなどの装備がありませんが、63.8万円も安くなっていることが最大の魅力です。国のCEV補助金35万円を活用すれば実質264.2万円と、国産のコンパクトハイブリッド車と同等の価格になりますので、「EVは高い」とは言えないレベルになってきました。

260〜300万円ほどの軽EVである日産・サクラと三菱・ekクロスEV(バッテリー20kWh、一充電走行距離180km)、ホンダ・N-VAN e:(同29.6kWh、同245km)と比較しても、ドルフィン・スタンダード(同44.9kWh、同400km)は圧倒的にコスパに優れています。この価格を実現できるのもバッテリーを自社開発するBYDの大きな強みです。

またBYDが日本に導入しているATTO 3、ドルフィン、SEAL(シール)の全車種がV2H対応している点も見逃せません。ドルフィンBaselineは44.9kWhのバッテリーを搭載しているため、1kWhあたりのバッテリーコストは約6.7万円になります(スタンダードだと約8.1万円)。これは一般的な家庭用据え置き型蓄電池相場の半額程度です。筆者が把握している「1kWhあたりコスト」は、これまでヒョンデ アイオニック5のボヤージュグレード(約7.2万円)とBYD ATTO 3(約7.7万円)が7万円台。ヒョンデ コナのボヤージュグレードが約7万円と最安でしたがこれも超えてきました。

BYDのブランドビジョンは「地球の温度を1℃下げる」です。自宅が卒FITになり、蓄電池導入を検討されている方、移動もできる蓄電池はいかがでしょうか。「そろそろ電気自動車デビューをしてみようかな」または「家のセカンドカーを電気自動車にしようか」と考えている方にも、コスパに優れ航続距離にも余裕のあるドルフィンはおすすめです。

気になる方は全国に58店舗まで拡大したBYDの店舗(正規ディーラーは33店舗)を訪れてみてください。

BYD
ドルフィン
(スタンダード)
BYD
ドルフィン
ロングレンジ
全長(mm)4290
全幅(mm)1770
全高(mm)1550
ホイールベース(mm)2700
トレッド(前、mm)1530
トレッド(後、mm)1530
車両重量(kg)15201680
前軸重(kg)860-
後軸重(kg)660-
前後重量配分57:43-
乗車定員(人)5
最小回転半径(m)5.2
プラットフォームe-Platform 3.0
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)129138
一充電走行距離(WLTC、km)400476
EPA換算推計値(km)320381
電費(目標電費)8.918.13
モーター数1
モーター型式、フロントTZ180XSFTZ200XSQ
モーター種類、フロント交流同期電動機
最高出力(kW/ps)70/95150/204
最大トルク(Nm/kgm)180/18.4310/31.6
バッテリー総電力量(kWh)44.958.56
急速充電性能(kW)6585
普通充電性能(kW)6
V2X対応V2H、V2L
駆動方式FWD(前輪駆動)
フロントサスペンションマクファーソンストラット
リアサスペンショントーションビームマルチリンク
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキディスク
タイヤサイズ(前後)205/55R16
タイヤメーカー・銘柄ブリヂストン ECOPIA EP150
荷室容量(L)345
フランク(L)なし
Cd値(空気抵抗係数)0.301
車両本体価格 (万円、A)363407
CEV補助金 (万円、B)3535
実質価格(万円、A - B)328372

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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