愛車のHonda eを走らせつつEV関連の話題をレポートする連載の第30回。以前から気になっていた米国製EVバイク「ライブワイヤーワン」に試乗できることになって、愛知まで行ってきました。ハーレーらしさ満点で、思わず衝動買いしそうになりました。
※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!
EVバイク「ライブワイヤーワン」とは?
まずはライブワイヤーワン(LiveWire One)の説明から。オリジナルは米国のハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)が初めて開発した電動スポーツバイク「ライブワイヤー」です。2019年にアメリカで市販モデルの販売が始まりました。
2020年12月に、CHAdeMO急速充電に対応させた日本仕様がお披露目され、ハーレーダビッドソンジャパンの一部店舗で予約受付がスタート。「価格は349万3,600円(税込)で2021年2~3月に納車予定」とアナウンスされたのですが、日本導入を目前にして生産中止になってしまいました。
その後、電動バイク部門は分社化されて「ライブワイヤー」はモデル名から会社名となります。そしてバイク自体は「One(ワン)」と名付けられました。米国や欧州では販売されていて、スクランブラータイプの「S2(エスツー)」というモデルもラインアップに加わっています。ただし、いずれも日本上陸については正式アナウンスされていません。
知らないうちに日本でも販売されていた?
筆者はかつてハーレーのスポーツモデル、XL1200スポーツスターを愛車にしていたこともあって、「ライブワイヤー」には興味津々でした。でも日本導入について音沙汰のないまま何年も過ぎて、もう発売されないものとあきらめていたのでした。ところが、先日取材させてもらった「電動カタナ」(関連記事)の岩渕さんが「MIRAIの岸本さんのところで売ってますよ」と教えてくれたのです。
売ってる? どういうことですか?? と戸惑いつつ、教えてもらったXアカウントを確かめてみると、ほんとにライブワイヤーワンの写真が。しかも「LiveWire One売れました。残り1台です」という投稿も。
LiveWire one 売れました。
残り1台です。 pic.twitter.com/a76q3gEbJU— 電動バイクのみらい(XEAM愛知一宮) (@evmotomirai) July 6, 2025
さっそく投稿主の「電動バイクのみらい(XEAM愛知一宮)」に連絡を取ってみると、株式会社MIRAI代表の岸本ヨシヒロさんが、顧客のリクエストで並行輸入したと説明してくれました。残っている1台は「自分でも乗って試してみたかったので」ナンバーを取得したのだとか。興味があることを伝えると、取材を兼ねて試乗させてもらえることになり、早速Honda eで東京の自宅から愛知県一宮市を目指しました。
初対面の印象は私の好みのど真ん中!

今回、一宮で出会ったライブワイヤーワン。
初対面となったライブワイヤーワン、デザインは私好み、それもど真ん中です。フレームに抱かれた15.4kWhの駆動用バッテリーと最大出力100馬力(75kW)を発揮する車体底部のモーターが、バイクっぽいイメージを踏襲しながらも、新しいプロダクトであることをアピールしています。
ハーレーというと、映画「イージーライダー」のようなチョッパーや、ゆったり系のクルーザーのイメージを抱くかもしれませんが、スポーツモデルも展開しています。目の前にするとやはり、スポーツスターを連想しました。

モニター表示は日本語対応。
車両重量が約255kgと聞いて身構えていましたが、足つき性が悪くないこともあって、取り回しに苦労することはありませんでした。「スポーツ」「ロード」「レイン」といったモードの切り替え方や、回生ブレーキの調整法など、試乗前に取り扱い方を説明してもらったのですが、モニターが日本語対応されている(!)のも好印象です。
「好きなだけどうぞ」と言ってもらい、近くの一般道で試乗しました。ステップが後方に位置していて、乗車ポジションはネイキッドスポーツといった感じ。乗り味もスポーティーです。ゆるやかなカーブや交差点の右左折での印象だけですが、軽やかに走ってくれます。ワインディングロードも楽しめそう。
強烈な加速とともに感じた三拍子の「鼓動」
度肝を抜かれたのは加速。ラフに右手をひねると、体が置いていかれそうになります。停止状態から60mph(96.6km/h)に達するまで3秒だそうです。「爆発的」というのがぴったり。EVなのでクラッチ操作もギアチェンジも不要で、いつでもどこでも約114Nmの最大トルクを右手のひとひねりで引き出せます。気持ちいいのですが、私のようなへっぽこライダーは、調子に乗らない方が良さそうです。
音の演出も特徴的です。アクセルを開けると「ヒュイーン」という高周波音を響かせます。減速して回生するときは「カラカラ」という感じのメカニカルな音もします。かすかな作動音と風切り音だけ、というのがEVバイクの魅力と思っているので、しばらくは「無音でもいいのになー」と感じていました。
だけど、街中でゴーストップを繰り返すうちに、考え方が変わりました。あることに気づいたからです。それは「鼓動」の演出でした。
最初に覚えたのは違和感。停車時に、車体が微妙に震えるのを感じるのです。アクセルを触ってもいないのに動き出しそうで戸惑ったのですが、何度目かの赤信号で「そういうことか!」と気づきました。
ライブワイヤーワンは、かつてのビッグツインの特徴であるアイドリング時の鼓動(通称・三拍子)を振動によって再現しています。45度Vツインエンジンが起こす不均等爆発に似た揺れが、シートから伝わってきます。友人のビッグツイン乗りが、「ドッドットッ」というリズムを追求してアイドリング回転数を調整していたのを思い出しました。そんな振動、ハイテクEVバイクに必要なわけがありません。でも、「めっちゃハーレーやん」と思わせてくれる演出です。
そうなってくると「ヒュイーン」とか「カラカラ」とか音を立てているのも、なんだか生き物みたいで親近感がわいてくるのでした。多少騒々しくても、車両接近通報装置の代わり、と思えばいいのかもしれません。
気になるのは最大3kWの普通充電性能
短い試乗でしたが、惚れ込んでしまいました。もう少しで「買います!」と口走りそうでしたが、購入は保留。気になったのは充電性能です。ライブワイヤーワンの充電は、普通充電用のJ1772プラグと急速充電用のピンを組み合わせたCCS1(コンボ)規格で、そのままで日本でもJ1772コネクターの普通充電器が利用できます。AC普通充電の最大出力は3kW。私の自宅マンションにもJ1772コネクターの共用充電器があるので、基礎充電は問題なし。街乗りだけなら、バッテリーシェアリングサービスのGachaco(ガチャコ)で運用している原付一種のEM-1 e:よりも使い勝手が良いはずです。

給油口の位置が充電口に。
ただし、経路充電が課題です。駆動用バッテリーは15.4kWhでカタログ上の一充電航続距離は152~234km(モードによる)。CCS1の急速充電は「0%から40分で80%、60分で100%までチャージできる」そうですが、CHAdeMOには対応していないので、欧米のように出先で急速充電することができません。日本で乗るなら普通充電だけが頼り。日帰りならカッ飛ばさない限り75~100km圏までいけそうですが、それ以上のロングツーリングは厳しそうです。普通充電の最大3kWで1時間充電して走れるのは20km程度。うーん、せめて倍速の6kW充電が可能だったら……。
唸っている私に、岸本さんは「リコールやアップデートなどがあった時に、並行輸入したバイクにもハーレーダビッドソンジャパンが対応してくれるかどうかはちょっとわかりません。不安なら正規の販売開始を待つ方がいいと思います」とアドバイスしてくれました。
いやほんと、迷っています。マシンそのものは、そのまま乗って帰りたいぐらい気に入りました。アーリーアダプターならではの人柱的なトラブルやチャレンジも好物ではあります。とはいうものの……いやあ。もうちょっと悩んでみます。
ちなみに販売価格は応相談とのことです。我こそはオーナーに! という方はMIRAIに問い合わせてみてください。
電動バイクレースへのチャレンジを続けてきた岸本さん

開発してきたEVレーサーと岸本さん。
さて、遅くなりましたが、岸本さんの紹介です。もともとは国内外の2輪レースを転戦していたプロレーサー。電動レーシングバイクチーム「TEAM Prozza」のプロジェクトリーダーに就いて、2011年に英国・マン島TTレースの電動クラスに日本から初参戦しました。その後、電動バイクレースへのチャレンジを続けるために、独立してMIRAIを創業。ゼロから開発した電動レーサー「TT零」「韋駄天」シリーズで、マン島TTレースやアメリカのパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムに参戦してきました。
「ものづくりベンチャーの火を消したくないという思いでやってきました。無限(株式会社M-TEC)さんも『神電』でマン島TTにチャレンジしていましたが、大手メーカーにしかできないというのは寂しいじゃないですか。経営が大変ですが、さまざまな皆さんとの出会いや助けがあり、車両系ベンチャーとして続けてこられています」
2015年にはパイクスピークの電動バイククラスで優勝も果たしました。ただ、コロナ禍の影響などもあって参戦できる大会がなくなり、いまはレース活動はお休み中。電動バイク関連事業を幅広く手掛けていて、電動バイクブランド「XEAM(ジーム)」の正規代理店や老舗の米国「Zero Motorcycles(ゼロモーターサイクルズ)」の正規メインテナンス代理店としての活動も行なっています。
【関連記事】
大型電気バイク『ZERO SR/F』に鈴鹿8耐チャンプの生見氏が試乗(2020年4月15日)
※記事中で岸本さんを紹介しています。
店内には、多種多様、新旧さまざまな電動バイクが並んでいました。企業から電動バイクの開発や検証を依頼されることも多いそうで、シートを被せられた「見学不可」の物体もあちこちに。
電動レーシングマシンも見せてもらいました。初音ミクとコラボレーションした「痛単車」は、ゼッケン39(ミク)。うまいね、と思わず拍手。レギュレーションが変更されるので、毎年マシンを作り直してきたそうですが、3台比べてみると、微妙にサイズが違っています。
「大容量バッテリーを積んだ方が有利ですが、小さなマシンで小さなエネルギーで速く走るというのが、社会課題の解決を視野に入れたベンチャー企業としては、理にかなっていて、やりがいもある。そこで知恵を絞ってきました。レースで培ったものは技術だけでなく、考え方なども含めて市販車にフィードバックできますし、なにより、ゼロからイチを生み出すのは面白いです」
EVシフトの「正解」とは?

ZEROの大型EVバイク「SR/F」も試させてもらいました。
MIRAIとして、EVシフトの未来像をどう描いているのか、お聞きしました。「まだ過渡期で、正解は見つかっていない」と言いつつも、EVバイクには新しい可能性を感じているそうです。
「特性としては二輪車なんですが、新しいカテゴリーの乗り物ですね。排気ガスを出さないというのは魅力ですし、エンストしないので極低速でもコントロールしやすい。それにこのライブワイヤーワンのように、回生ブレーキの効かせ具合をライダーが調整できる車種も面白い。バイクはブレーキが乗り味に大きく影響します。つまり回生の多寡を調整することで味変ができる。キャラクターが大きく変えられるというのは、エンジンではなかなかできないことです。
ただ、内燃車も無くす必要はないと思っています。いろいろな乗り物が共存する『モビリティミックス』がいい。方向性を限定しないで、道路づくり街づくりから考えて、再構築する必要があります。環境負荷のことも含めて、みんなが安心して気持ちよく移動できる社会を作っていきたいですね」
EVか内燃車か、あるいは2輪か4輪か、といった二択志向ではなく、それぞれの長所を生かせる交通社会のイメージには、とても共感できます。大型バイクについては、EVシフトはほとんど進んでいないのが現状ですが、ライブワイヤーワンのような魅力的な車両がどんどん市販されれば、そのうちにEVバイカーも増えていくはず。
それにしても刺激的な出会いが続きました。ジャパンEVラリー白馬で自作「電動カタナ」の岩渕さんに出会ったことをきっかけに、折り畳めるEV2輪「タタメルバイク」を作っている生駒さんを紹介してもらい、こうして岸本さんともお近づきになれて、待望のライブワイヤーワンにも試乗。EV6輪ユーザーとしては大満足の2025年夏でした。
私のHonda e(2021/4/29~2025/8/16)
総走行距離 7万4096km
平均電費 9.0km/kWh
累計充電回数 急速504回、普通141回
取材・文/篠原 知存
コメント