アウディジャパンが独自急速充電ネットワーク拡充宣言〜EVシフトへの本当の本気

アウディジャパンが年頭記者会見を開催し、最大出力150kWの急速充電ネットワークを2023年の年内に全国102店舗に拡大するなど、電気自動車シフトに向けた環境作りを進めることを宣言しました。アウディのEVを購入したオーナーを祝福したいニュースです。

アウディジャパンが独自急速充電ネットワーク拡充宣言〜EVシフトへの本当の本気

世界でも例のないアライアンスが日本で機能している

2023年1月20日、アウディジャパンが東京都内で年頭記者会見を開催しました。ICE車を含むアウディブランドとしての会見ではあったのですが、壇上に立ったアウディジャパンのブランドディレクター、マティアス・シェーパース氏(フォルクスワーゲングループジャパン株式会社代表取締役社長を兼務)のプレゼンテーションは電気自動車シフトと、ディーラー網を中心とした独自の急速充電ネットワーク拡充を宣言する内容などEVへの本気を示すものでした。

まず、刮目すべきひとつ目のポイントは、最大出力150kWの急速充電ネットワークを、2023年の年内に日本国内の102店舗に拡大すると宣言したことです。

アウディジャパンでは、すでに国内ディーラー網への高出力急速充電器設置を進めており、2022年度末の時点で150kWを52店舗、90kWが8店舗、50kWを42店舗に設置して、102店舗の急速充電ネットワーク構築という目標を達成しています。さらに今年は、50kWと90kWを設置している計50店舗にも150kW器を設置(発表では「置き換え」とされています)して、102店舗全てに「150kW急速充電ネットワーク」を拡げることを示したのです。

2022年4月には、アウディとポルシェが共同で独自の150kW急速充電ネットワークを共有する「プレミアム チャージング アライアンス(PCA)」を発表。11月のID.4発売と同時に、フォルクスワーゲンもPCAに参加して、フォルクスワーゲングループ(VWG)3ブランドのEVオーナー限定で利用できる高出力急速充電ネットワークを拡げています。シェーパース氏は説明の中で、すでに3ブランド合計で約210拠点、222基の90kW以上の急速充電器が構築されており、24時間365日運用されていることを強調しました。

EVメーカーによる独自急速充電ネットワークといえば、テスラのスーパーチャージャー網が先駆けであり、日本国内にもすでに60カ所近い拠点におおむね4基以上のスーパージャージャー(SC)が設置されています。拠点数だけで言えば、アウディ単独でもテスラSC網の倍以上。VWG全体では、圧巻と評するべきネットワークができあがっていることになります。

充電器や拠点の数で言えば日産ディーラーの方が多いですが、150kWはまだごくわずかです。また、テスラSCは複数台設置がデフォルトであるのに対してPCAの各拠点に設置されるのはおおむね1基だけですが、アウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェと3ブランドのEV限定なので、当面は充電待ちなどの心配は少ないでしょう。日産リーフユーザーの私としては、ポルシェのタイカンはもちろん、アウディのe-tronシリーズ、そしてVWのID.4を購入したオーナーの方がうらやましいと同時に、祝福したいニュースなのでした。

欧州に続き東京にAudi charging hubを設置

Audi charging hub

急速充電ネットワーク拡大を示す発表はこれだけではありません。アウディではドイツのニュルンベルクとスイスのチューリッヒに都市型充電ステーションである「Audi charging hub」を設置して実証実験を進めており、欧州以外で世界初として、東京に設置する計画が本国の承認を得たことも発表されました。

Audi charging hub は、廃棄された開発テスト車両から取り出したバッテリーをリサイクルした大容量バッテリーに蓄電。欧州の場合、最大320kW出力の予約可能な充電器を6基備え、オーナー専用ラウンジやケータリング、コンシェルジュサービスを提供する施設です。

ニュルンベルクのステーションでは、約2.45MWhの大容量蓄電池を備えており、グリーン電力契約を結んだ200kWの低電圧ネットワーク(これも、欧州では、ですね。200kWは日本では高圧契約になります)に接続しているので、持続可能な再生可能エネルギーだけで充電できるとされています。

蓄電式超急速充電器のパワーエックスと事業提携へ

シェーパース氏は、EVによるカーボンニュートラル実現のために、再生可能エネルギーによる充電をEVシフトとともに進めることが重要であることを強調。大容量バッテリーを活用した再生可能エネルギー普及を目標に掲げ、蓄電池搭載型超急速EV充電器「Hypercharger」を開発し、量産に向けた準備を進めている株式会社パワーエックスと、充電に関する事業提携の基本合意書を締結したことも発表しました。

具体的には、「Hypercharger」を日本国内のアウディe-tron店へ導入することと、両社が共同で日本国内の「Audi charging hub」の設置運営に関して協議、具体検討を進めることとなっています。

パワーエックスでは、昨年10月に蓄電式EV用超急速充電器事業の開始を発表したばかり。「2030年までに日本国内7000カ所」を目標に「2023年夏のサービスローンチに向けて都内を中心に10カ所」の「パワーエックスチャージングステーション」開設準備を進めているところです。

パワーエックスのサービスにはEVsmartブログでもかねて注目(関連記事)はしていましたが。まだサービスローンチに向けて準備中であるプロダクトの導入に向けた事業提携締結は、アウディジャパン、シェーパース氏の英断であると感じます。

EVシフト&脱炭素社会への思いを語る対談

会見の後半では、シェーパース氏とパワーエックス社長の伊藤正裕氏が対談。「BEV」「チャージング」「グリーンエネルギー」という3つのテーマで、お二人の熱い思いが語られました。

詳しい内容を紹介すると長くなり過ぎるので割愛しますが。「次世代に受け渡す地球環境を犠牲にして今の生活を享受する怖さ」とか「世界はもうEVシフトにフォーカスしている。もう議論している時間はなくて、行動すべき時」(シェーパース氏)、「永遠にエネルギーに困らない地球を実現するため」とか「超急速充電が実現すれば、さほど生活習慣を変えなくてもEVを選べる時代になる」(伊藤氏)という言葉が印象的でした。

こうしたお二人の思いと共感が、今回の事業提携に結びついたのでしょう。

シェーパース氏は、「Future is an attitude(未来は考え方ひとつ)」というアウディブランドの理念を挙げて、激変する世界の環境を守るために何をすればいいのか。「まずは否定的に考えるのではなく、ポジティブに、未来に対して貢献するというマインドセットが重要。みなさまにとって、素敵な一年になりますように」という言葉でプレゼンテーションを締めくくりました。対談とともに、私自身とても共感できる内容でした。

ちなみに、シェーパース氏のプレゼンの中で示された「新車のEV比率」というスライドは、出典がなんとEVsmartブログでした。

また、内閣府の規制改革タスクフォースと意見交換をしたり、すでに検討が進められている「高速道路の全ICにおいて、無料で一時退出ができるようにする」施策に期待しているという話があったのですが、その内閣府タスクフォースで高速道路無料退出などのEV充電改革を提案したのはEVsmartブログ(というか、以前の運営会社社長である安川洋氏)です。

なんというか、思いはひとつ。今回の発表に深く共感できたのは、EVsmartブログ(というか、私)と、シェーパース氏や伊藤氏の思いの根っこが繋がっているからなのか、とも感じたのでした。

最後に、シェーパース氏が「電気自動車の楽しさを伝えるために作った」と紹介した動画を、コンデジで撮影してきたのでサクッとYouTubeにアップしてみたので(すが、コピーライツの教育的指導が来たので、会場で見たのと同じ動画のロングバージョンに)リンクしておきます。激走しているのは、今回の会見会場にも展示されていた Audi S1 Hoonitron 。ドライバーのケン・ブロック氏は、今年1月2日、スノーモービルの事故で亡くなり、シェーパース氏のプレゼン冒頭でも哀悼の意が表されました。ご冥福をお祈りします。

Ken Block’s ELECTRIKHANA: High Stakes Playground; Las Vegas, in the Audi S1 HOONITRON

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. ニューオオタニホテルの地下2階駐車場の
    急速充電器のチャージシステムはゼプス2とかゼプス3は使えるのですか?

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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