東京都が電気自動車への補助金増額&新築へのEV用充電設備義務化へ

東京都が電気自動車導入に向けて積極的な動きを見せています。EV購入時の補助金を従来の45万円から最大75万円に増額するほか、新築の建物にEV用充電設備の設置を義務付けることを含んだ条例改正の方針を打ち出しました。新たにわかった2022年度の東京都の補助金概要を紹介します。

東京都が電気自動車への補助金増額&新築へのEV用充電設備義務化へ

東京都がEV購入時の補助金を増額

東京都民や東京都に拠点を置く事業者などの地球温暖化防止の取り組みを支援している「地球温暖化防止推進センター」(クールネット東京)は、2022年5月27日に新たなお知らせを発表しました。

お知らせの内容は、自宅に太陽光発電設備を設置していたり、これから設置する予定がある場合に、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の購入時の補助金を増額するというものです。

【関連情報】
『補助額変更のお知らせ(一部増額になります)』(クールネット東京/2022年5月27日)※PDFファイルにリンク
【法人向け】EV充電器の購入・設置に使える東京都の補助金は?【23年最新版】(エネチェンジEV充電)

クールネット東京は4月に、2022年度の購入時補助金を発表しました。補助額は昨年度と同じで、東京都に住む個人の場合はEVやPHEVなら45万円が助成されます。また、再エネ100%電力メニューを契約していれば補助額は60万円になります。すでに受付は始まっています。

これに加えて東京都では、2022年度予算に補助金を増額する項目を加えました。対象は、太陽光発電設備をすでに設置しているか、これから設置する予定の個人や事業者です。既設でも補助対象になるのは、とてもいいですね。

補助額は、EVを購入する個人の場合は75万円、PHEVの場合は60万円です。大きいですね。経産省のCEV補助金が、EVは上限85万円、PHEVは55万円なので、EVなら最大160万円も補助金が出ることになります。

プロパイロット2.0装備の日産アリアなど「高度な安全運転支援技術」装備の条件に当てはまる場合、CEV補助金はさらに7万円加算されます。

すでに申請した人は要注意! 〜7/15までに連絡を

太陽光発電設備を導入している場合のEVなどへの補助金増額は、6月15日に閉会した東京都議会で予算が成立しました。東京都次世代エネルギー推進課によれば、7月の受付開始を目指して作業を進めているそうです。

現在は詳細を詰めているところなので、補助の対象になる太陽光発電の要件も6月21日時点では決まっていません。次世代エネルギー推進課は電話取材に対し、戸建て住宅の場合は出力3kWになるだろうが、集合住宅をどうするかなどは「検討中」と回答しました。

注意したいのは、4月に始まったEVなどの購入補助金をすでに申請していて、今回の増額の対象になっている人です。

補助金申請の窓口になっているクールネット東京では、補助金の交付手続きが完了した後に補助金の差額を交付することはできないとし、補助金を変更したい人は7月15日までにクールネット東京に連絡するように告知しています。

そうすると、車を買うのも補助金の詳細が決まってからの方がいいのかなと、一瞬思ったのですが、考えてみると今はEVの納車までに何か月もかかっているので、すぐに買っても補助金の申請はずっと後になります。なので、車の購入検討を待つ必要はなさそうです。

でも、今このタイミングで車が手元に届きそうな人たちは要注意。クールネット東京に手続きを確認してみてください。

軽EVでも補助金額は登録車と同額です。

なお今回増額になった補助金の上限台数について次世代エネルギー推進課は、「これが上限というのはない。かなり十分な規模を用意していると認識している」としています。増額に関する追加予算は5億円が計上されているので、EVで30万円増額だとすると約1700台分です。太陽光発電+EVの組み合わせは、今はまだそれほど多くなさそうですが、もし上限に達した場合は予算の増額があるといいなあと夢想しています。

なお東京都の補助金は以下のようになっています。現在、EVとPHEVを買う時の補助金の受付が始まっていますが、増額になる場合(表中に赤字表記)と、V2Hに関する補助金は2022年夏頃に受付が始まる予定です。

車両購入への補助金

補助対象補助額
個人事業者
EV通常45万円37.5万円
再エネ100%電力メニュー契約の場合60万円50万円
太陽光発電設備導入の場合
(すでに導入している場合を含む)
75万円62.5万円
PHEV通常45万円30万円
再エネ100%電力を導入。
または太陽光発電設備を導入
(導入済みを含む)
60万円40万円

※赤字の新規補助金は2022年夏頃受付開始。

V2H機器などへの補助金(2022年夏頃受付開始)

補助対象補助額
V2H
(戸建て住宅に設置)
通常機器代金および工事費の2分の1(上限50万円)
太陽光発電システムと
EVまたはPHEVが
そろう場合
機器代金および工事費(上限100万円)
V2Hとあわせて設置する
太陽光発電システム
(3kW以上50kWまで)
新築戸建て住宅3kW:36万円
3kW超:10万円/kW
既存戸建て住宅3kW:45万円
3kW超:12万円/kW

この他にも東京都では、電動バイクの補助金も交付しています。補助額は「車両本体価格から、当該車両と同種同格のガソリン内燃機関を搭載した車両の本体価格を減じた額」で、つまりは同種モデルとの差額分を全額補助します。

『電動バイクの普及促進事業』(クールネット東京)

まだ補助対象になる電動バイクの種類が少ないのがネックですが、購入へのハードルはとても低くなると思います。

【関連記事】
東京都主催『EVバイクコレクション in TOKYO 2021』で実感できた電動バイクの世界(2021年12月9日)

住宅などにEVの充電設備を義務化へ

EVなどへの補助金増額を決定した東京都ですが、気候変動対策のためのEV関連施策は他にもあります。新築の建物にEV用の充電器設置を義務化するよう、条例を改正する方向で動いているのです。

電気自動車(EV)普及のための大きな課題のひとつが、自宅や事業所での充電方法でした。すでに普通充電のためのコンセントなどが付いている集合住宅も一部にありますが、極めて限定的です。戸建て住宅に新たに配線をすると、安くても数万円、配線の長さによっては十万単位のお金がかかることもあります。

こうした問題を解消するため、東京都は大小にかかわらず建物を新築する場合、充電設備を必ず設置するよう、『都民の健康と安全を確保する環境に関する条例 (環境確保条例)』を改正する方向で動いています。充電器の種類は、基本的に普通充電器を想定しています。

東京都の資料によれば、都では2030年までに乗用車の新車販売台数のうち50%をZEVにする目標を設定していて、普及を後押しする施策を展開しています。

この目標の中では当然、将来的に多くの住宅に充電器を設置しなければいけません。それなら後工事にするよりは、今から環境整備をした方がコスト面でも環境面でも負担、負荷が減るという判断です。

なお一定以上の規模の集合住宅では充電設備の実装を義務化する方針ですが、戸建て住宅については、普通充電器を設置できるような配線を駐車場に整備することを求める方針です。

「カーボンハーフ」に向けて一歩前進

東京都環境審議会は2022年5月24日に、条例改正の方針を示した『都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)の改正について~カーボンハーフの実現に向けた実効性ある制度のあり方について~』の中間まとめを決定。これを受けて東京都環境局は、5月25日から6月24日までパブリックコメントを募集しています。

パブリックコメントをとりまとめて反映させた後、技術検討会を設置して具体的な基準を議論し、条例改正の手続きに入ります。周知期間もあるので新条例の施行はまだ少し先ですが、大型の建物を建てるのも一朝一夕にはできないので、事業者は今から、充電設備設置を前提にした対応が必要になりそうです。

東京都環境都市づくり課によれば、昨年(2021年)11月から、東京都環境審議会に設置した専門部会で新築住宅に太陽光パネルを義務化することなどを検討した中で、充電器設置の案が出てきたそうです。今年3月には、新たな仕組みを導入することが提案されています。

ただしこの時には、新築住宅への充電器設置は「標準装備」という表現になっていました。担当の東京都環境都市づくり課によれば、この提案があった後、4月に小池百合子東京都知事が記者会見で、充電器設置を義務化する方向で検討すると発言したそうです。

想像ですが、かなり大きな話なので知事がその場で発言したはずもなく、関係部署での議論の結果、環境審の表現を飛び越えさせたのだとは思います。

折しも国会では住宅の新たな断熱基準が、欧米先進国に遅れること20年ほどでようやく成立しました。一度建てたら何十年も使うことになる住宅の性能基準は、気候変動対策の中でも極めて大きな意味を持っています。

気候変動対策では欧米先進国に大きく遅れている日本、首都東京が、モビリティ変革に向けて住宅の新基準を打ち出したのはとても重要な動きだと思います。

先日、長野県で公共設備などへの充電器設置を努力義務とする条例改正が行われたことをお伝えしました。こうした動きが自治体でも連鎖反応的に進めば、日本も少しは工業国としての責任を果たすことができるかもしれません。

【関連記事】
長野県が宿泊施設などに充電設備設置を進める条例を制定(2022年6月12日)

大京が東京都に先行してマンションへの充電器整備を加速

大京のニュースリリースより引用。

東京都に先行して動き出しているのが、「ライオンズマンション」を手がける大手マンションデベロッパーの大京です。大京は2022年5月に、今後開発するマンションでは、将来的に全駐車区画でEVを充電できるようにすることを発表しました。

大京は2010年から、分譲マンションの駐車区画数の10%に充電コンセントを標準装備してきました。対象の駐車場は、平地式だけでなく昇降装置のある機械式なども含んでいます。

これに加えて今回は、充電用コンセントの設置率を50%に引き上げるとともに、残りの駐車区画にはコンセントを増設できるように空き配管を設置することを決定しました。充電コンセントの仕様は、200V/20Aになる予定です。

充電の電気料金は、ユビ電の『WeCharge』を導入して課金します。使用料金はユビ電が集めて、その後にユビ電から管理組合に支払われるため、管理組合の負担も軽減されます。料金体系は、ユビ電の料金プランが適用されます。

充電器を設置する時に最大のネックになるのは、配線の確保です。後付けにすると地面を剥がして舗装しなおしたり、手間もコストも大変なことになります。

東京都や大京の取り組みは、この壁を乗り越える大きな力になりそうです。自宅での充電がやりやすくなれば、EV普及にも弾みがつきます。

そして本格的な普及期になれば、駐車場だけでなく広範な場所での充電インフラが必要になります。いずれはEV先進国の北欧のように、充電ポールがポコポコとできるといいなあと思うのであります。

(文/木野 龍逸)

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木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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