EV用充電インフラ拡充で「稼働率」が大切な理由とは〜eMP「充電実績データ」からの考察

日本のEV充電インフラ拡充に取り組むe-Mobility Powerから、2023年度第四四半期(2024年1月〜3月)の「充電実績データ」が公表されました。設置した充電器がどのくらい利用されるかを示す「稼働率」に注目して、今後の充電器拡充のあるべきカタチを考えてみます。

EV用充電インフラ拡充で「稼働率」が大切な理由とは〜eMP「充電実績データ」からの考察

※冒頭写真は東名足柄SA(上り)の6口に増強されたEV急速充電スポット。

2023年3月から公表している充電実績データ

日本国内のEV用充電ネットワークでシェア率91.8%(2023年1月末※同社調べ)を誇る株式会社e-Mobility Power(eMP)が、2023年度第四四半期の「充電実績データ」を公表しています。

充電実績データの公表は、設置した充電器の利用実績に応じてeMPネットワークに加盟する提携先に支払われる提携料の改訂に伴い、2023年3月(2023年度第一四半期分)から実施されることになったもので、公開する項目としては、以下の内容が挙げられています。

① 充電ネットワーク全体の急速充電器・普通充電器の口数
② 充電ネットワーク全体の急速充電器・普通充電器別の総利用回数、総充電時間、月平均利用回数、1回あたり平均充電時間
③ 急速充電器・普通充電器設置場所カテゴリ別の充電口数、総利用回数、総充電時間、月平均利用回数、1回あたり平均充電時間

今回、第四四半期分が発表されたことで、2023年通年のデータ(発表されたPDFはこちら)を一覧することができるようになりました。

急速の口数は増加も普通が減少の原因は?

eMP公式サイトから引用。

まず「充電器口数の推移」に注目してみましょう。口数推移については2021年度からのデータが、急速充電器、普通充電器それぞれに紹介されています。急速充電器は、2021年6月末(第一四半期)に7,029口だったのが、2023年3月末(第四四半期)には9,109口に増加しています。

ところが、普通充電器のデータでは、2023年第四四半期が13,061口。前四半期の12,982口より79口増加してはいるものの、2021年第一四半期の14,403口と比べて1,342口、10%近く減少しています。

普通充電器の口数は、2023年第二四半期(9月末)に12,322口と最も少なくなっています。減少した要因として指摘されているのが、2013年~2016年頃にかけて交付された補助金で設置された普通充電器が、8〜10年程度とされる耐用年数を迎えたものの、リプレイスされることなく撤去されるケースが多くなったことでした。

たとえば、当時の補助金で3kW普通充電器を設置して、充電器の老朽化や課金システムの変更に伴いリプレイスが必要になった宿のご主人から「約10年間、ほとんど使われなかったから、もうEV充電器はいらない」というぼやきに似た声を聞いたことがあります。

普通充電器の口数が減少したことには、普通充電器を設置する充電サービス事業者の数が増え、eMPネットワーク以外の普通充電器に移行したという側面もあるでしょう。とはいえ、設置数を伸ばしているEV充電エネチェンジの充電器の多くはeMPネットワークと連携しているので、エネチェンジの普通充電器増加がなければ、eMPの普通充電器口数はさらに減少していたことになります。

健全な充電インフラにとって重要な「稼働率」

急速か普通かに関わらず、設置されたEV充電器が健全に運用されて、必要に応じて更新されていくために重要な指標となるのが「一口当たりの月平均利用時間(稼働率)」です。充電サービスは利用者が支払う充電料金で成り立つビジネスですから、利用時間が少ないと成り立たないのは自明の理。

充電インフラ補助金を管轄する経済産業省からも、3月に発表された充電インフラ補助金の「令和6年度募集要項」で、目的地充電の普通充電器を増設する条件として「一口当たりの月平均稼働率(時間)が60時間以上」とすることともに、充電サービス事業者に対して「稼働率の公表やユーザーへの情報提供の改善」を目指すことが明示されました。

改めてeMPの充電実績データを確認します。まず、急速充電器では、2023年1〜3月期の総充電時間が「815.6(千時間)/四半期(48,936,000分)」、急速充電器の口数は9,103口なので、「48,936,000÷9,103÷3=約1791.9分/月」となり、月間の平均稼働時間は約29.9時間となります。

普通充電器の総充電時間は「395.5(千時間)/四半期」で口数は13,061口ですから、同様に月間の平均稼働時間が約10.1時間(約606分)であることがわかります。

また、経産省の方針明示やeMPの実績データ公表の動きを受けて、EV充電エネチェンジを運営するENECHANGEと、既築集合住宅の基礎充電設備拡充に注力するユアスタンドが、ともに稼働実績の公表を始めたのは既報の通りです。

【関連記事】
エネチェンジが運営する公共用EV充電器稼働実績を公表〜健全な充電インフラ拡充へ(2024年4月19日)
ユアスタンドがEV充電設備の稼働率を公表〜基礎充電中心でも「使われる充電器」を実現(2024年5月12日)

両社が発表した「1口1カ月の充電時間」を確認すると、EV充電エネチェンジが888分(約14.8時間※2024年第一四半期)、ユアスタンドが2,030分(約33.8時間※2024年1〜4月平均値)となっています。

ともにeMPの実績を上回る稼働率を達成していることがわかります。その理由として思い当たるのが、EV充電への理念です。たとえば、EV充電エネチェンジでは稼働率向上のために充電区画であることを示してエンジン車の駐車を防ぐコーン設置を進めています。また、ユアスタンドでは集合住宅の共用部に予約可能など利便性の高い充電器を設置するなど、ともに、使われる充電器を増やし、設置した充電器の稼働率を高めることに尽力しています。

一方で、今、日本では「2030年に30万口」への大幅なEV充電インフラ拡充を目標に掲げて潤沢な補助金制度が施行されています。機器代や工事費用は補助金を活用してEV充電器を設置できるため、補助金争奪戦的な様相になっているのが現実です。

とはいえ、補助金を使ってやみくもに「数を増やす」だけでは、eMPの普通充電口数減少の前例が教えてくれている「EVユーザーにとっての不幸」の繰り返しになってしまうことが懸念されます。

EVユーザーがちゃんと使ってくれる設置場所はどこか。どのようなサービスを提供すれば利便性を高めることができるのか。稼働率を上げるためにどうすればいいか。EV充電サービス事業者のみなさんには、ぜひ、こうしたEVユーザーの視点を重視しつつ、健全な充電インフラ拡充を進めてくれるようお願いします。

自社設置充電器の稼働率公表は、EV充電サービス事業者のそうした理念や覚悟を示す動きといえるでしょう。eMP、EV充電エネチェンジ、ユアスタンドに続き、より多くの充電サービス事業者が稼働率公表に動いてくれることを期待しています。

文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 目的地充電用途の普通充電に関しては、高稼働率を求めてもEVユーザーの利便性低下はそれほど問題視されないと思います。
    経路充電用途急速充電に関しては、高稼働率ばかりを求められるとEVユーザーは困ります。やはり、いつでも即座に充電開始できる状態でなければ。
    SA/PAの平日夜間と大型連休日中の急速充電の稼働率の数字はあてになりません。トラックやガソリン車が停まってしまっていますので。

  2. ビジネスとしてEV充電サービスがなり立つ価格体系の確立が求められている。
    30分20kwhの充電器で1回2000円なら年間1000回の利用で年間200万円の売上、何とか経営できそうだ。
    ガソリン10リットルより高くて走行距離は半分だがこれが適正価格だ。

  3. 稼働率?!
    未来商品の話してるのに、焼き鳥屋レベルの話してたんじゃ、業界関係者もゲンナリかもよ。
    この2年くらいの高速道路の口数増加は目覚ましいものがあって、ev時代到来を感じさせますよ。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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