デルタ電子から高出力100kWの電気自動車用急速充電器が登場~日本は黒船で変化する?

2020年7月15日、デルタ電子株式会社からチャデモ1.2規格に準拠した最大100kWの高出力DC充電器(急速充電器)の発売が発表されました。日本国内で設置可能な高出力急速充電器としては4機種目の登場となります。

デルタ電子から高出力100kWの電気自動車用急速充電器が登場~日本は黒船で変化する?

高出力チャデモ規格の策定は進んでいるものの……

デルタ電子から発売された『EVHJ104』シリーズは、最大100kWの高出力を発揮する電気自動車(EV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)用の急速充電器です。

デルタ電子から高出力100kWの電気自動車用急速充電器が登場~日本は黒船で変化する?
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基礎知識から簡単に整理しておくと、電気自動車の充電にはおもに3~6kWの交流電源で行う「普通充電」と、おおむね20kW以上の高出力な直流電源で行う「急速充電」があります。

急速充電には日本発の規格である『CHAdeMO=チャデモ』のほか、欧米で整備が進んでいる『CCS=Combo=コンボ』があり、中国はまた独自に『GB/T』と呼ばれる規格で充電インフラの整備を進めています。

日本国内の急速充電器はもちろんチャデモ規格でインフラ整備が進んでいます。先だって『チャデモの進化~』という記事でもご紹介したように、2012年ごろから急速に増えてきた日本の急速充電器は、「チャデモ1.0」規格で最大出力50kW未満のものがほとんど。実情としては高速道路SA/PAなどの主要充電スポットにさえ40~44kW程度の出力の充電器が多く、道の駅やコンビニなど一般道沿線では20~30kWの出力で「中速充電器」と呼ばれる機種がたくさん設置されてきました。

ところが、ここ数年、欧米メーカーから100kWhクラスの大容量電池を搭載した電気自動車が日本にも導入され始め、62kWhの電池を搭載した日産リーフ e+ は実質最大70kW程度での急速充電が可能になるなど、より高出力な急速充電器へのニーズが高まることが予想されています。

そうした状況の中、2018年12月には新電元工業株式会社が最大90kWの出力を発揮する『SDQC2F90』シリーズを発表。先日、東名高速の海老名SA上下線にも設置されるなど、全国の日産ディーラーを中心に高出力の充電インフラが広がり始めてきていました。

また、『タイカン』を発売したポルシェジャパンでは、最大出力150kWの急速充電インフラを独自に整備することを発表し、準備を進めています。150kW出力の場合、チャデモ規格では充電ケーブルを液冷にする必要があり、現在は共同開発を進めているABBで液冷ケーブルの開発中。当面は90kW出力で運用されることになりそうですが、急速充電の高出力化は、日本国内でも着々と前進しているところではあります。

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今回発表されたデルタ電子の『EVHJ104』シリーズは、高出力器として発表されているSIGNET(韓国メーカー)や新電元、ポルシェの急速充電器(ABBと共同開発)と同様に「チャデモ1.2」規格に準拠しており、最大100kWまで対応可能となっています。日本国内で4機種目となる51kW超の高出力急速充電器ということになります。

チャデモ規格としては最大400kWに対応可能な「2.0」はすでに発行済みであり、2020年5月には将来的な高出力規格として中国と共同開発を進めている最大900kWの「チャデモ3.0」=「チャオジ」が発行されました。

欧米ではすでに350kWなど超高出力に対応した急速充電インフラ網の整備が始まっていますが、日本では大容量電池搭載の輸入EVもチャデモ充電は最大50kW対応ばかり。事実上、高出力の恩恵を受けられる市販車が日産リーフ e+だけしかないという事情もあって、なかなか高出力充電インフラ網の整備が進まない、というのも実情です。

市場性を考慮して100kWを選択

前置きが長くなりました。『EVHJ104』シリーズについていくつか気になることもあったので、デルタ電子のご担当者にお話しを伺ってきました。

デルタ電子の『EVHJ104』シリーズは最大出力100kWで、ケーブルを2本出すデュアルポート対応が可能であることが特長になっています。また、チャデモだけでなく欧米で主流のCombo(CCS1=アメリカ、CCS2=欧州)規格にも対応が可能になっています。

デルタ電子の本拠は台湾。電源機器では世界のトップメーカーです。そもそも、日本市場だけを見て開発された充電器ではない、ということですね。たしかに、これから欧州などにも電池容量50kWh前後のEV車種が増えてくるとしたら、最大出力100kWの急速充電器はちょうどいい感じかと思われます。

とはいえ、世界を視野に入れているからこそ、最大出力は150kWとか200kWでもよかったのでは? とご担当者に尋ねると「まずは市場性として、150kWを超えるような超急速充電は一部のニーズなので、100kWで十分であると判断」したとのこと。

日本の事情を眺めてみると、チャデモ規格で150kW超級の急速充電に必要とされる液冷ケーブルの開発がまだ進んでいないという課題もあるのではないかと推察します。

ともあれ、最大100kW出力の急速充電器が増えるのはEVユーザーとしては大歓迎。すでに設置される予定などがあるかどうかを確認してみましたが「すでにたくさんお問い合わせをいただいて、商談やプランを進めているところはありますが、まだ公表する段階ではない」という回答でした。どこかに設置されたら、お試し充電に行ってみたいと思います。

スマホアプリで認証&課金ができる『EZQC』に対応!

もうひとつ、『EVHJ104』シリーズ発売のニュースリリースで気になったのが、『決済・クーポン発行サービス「EZQC」対応』という項目です。

『EZQC』とは、デルタ電子がリリースしているEV充電のサービスプラットフォームです。アプリをインストールしたスマホを持って対応の充電器に近づくと、自動で充電器を認識、簡単な操作で認証などの手続きを済ませて充電をスタートすることができます。定額の会費などは不要。クレジットカード情報を登録して課金まで手軽に処理されます。さらに、充電料金は設置者が設定できて、充電したユーザーに対してクーポンや優待券を発行することも可能です。

EZQC紹介動画(YouTube)

取材時に、少しだけデモを体感させていただきました。クレジットカード情報などを扱うのでサービスの提供側としてセキュリティへの十分な対策や配慮は必要でしょうが、ユーザーとしては、まずは「便利!」しかありません。

日産の充電カード会員システムである『ZESP』でいわゆる旅ホーダイが廃止になったことがいろいろと言われていますが、『EZQC』での手続きのシンプルさを体感すると、そもそも、有象無象の会員カードが発行されて混沌としている日本の充電課金システムがなんとも「いびつ」に思えてきます。

『EZQC』のシステムがリリースされたのは2016年のことだったようです。迂闊にも、まったく知りませんでした。すでに日本国内に広がっているNCS認証の課金システムを置換するのはいろいろ難関があるのでしょう。でも、さまざまな事業者が急速充電器を設置して認証課金システムを導入したいという場合は、EZQCを検討してみる価値はありそうです。

実は今、私は漏れ伝わってきた『Honda e』の日本発売価格(詳細は未発表なのでまだメディアで公言はできないけど)を知って、深い絶望感を噛みしめています。世界で渦巻く電動化の流れの中で、日本の自動車産業が茹でガエルになってしまう近未来が見えてしまう気がして、今日は自分でも驚くくらい落ち込んでいます。今さらニッポンがんばれ! と叫ぶのも空しいですが、いわば台湾からの「黒船」ともいえるデルタ電子の意欲的なチャレンジが、ニッポンのカンフル剤になってくれるといいのにな、と。

これからEV用急速充電器の設置を計画している施設の関係者のみなさん、ぜひ、デルタの100kWもご検討ください!

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. デルタ電子の充電器、よぅ見ると新電元90kWに酷似してるやないですかっwwこれはOEMかもしれまへんで?
    その新電元90kW充電器もAC400V受電で柱上変圧器からの低圧100/200V引込はできず、高圧受電設備や電気主任技術者選任は必須です。そもそも電気事業法で50kW以上は高圧受電になりますからね。
    現在電気管理技術者として高圧受電設備に従事しているから判るのですが、受電キュービクル設置も含めると設置費込一千万円コースの可能性大ですがな。需要が見込める(混雑する)場所でない限り設置の可能性は薄いんやないですか!?
    とはいえi-MiEV(M)10.5kWhユーザーとしては50kWでも急速充電のメリットは大いにあります。何しろ吸収の早いSCiB搭載で電力消費が多い日も安心ですんで(オイオイ)

  2. 150kW出力の場合、チャデモ規格では充電ケーブルを液冷にする必要がありとありますがTesla の急速充電器 Super Charger Ver.3は250kwでの充電が可能となっていますが熱問題についてどの様な技術対策をしているのか知りたいところですね。

    1. Kozot様、コメントありがとうございます!
      テスラのスーパーチャージャーでは、V2までは空冷ケーブルを使用していました。またチャデモやCCSは連続で最高出力が出る前提で規格が設計されていましたが、スーパーチャージャーでは電池や充電器本体だけでなく、ケーブルやコネクターの過熱も計測して暑くなりすぎないような充電電力制御が行われています。そのため、空冷でも120-150kW程度の充電が可能になっていました。V3では水冷ケーブル使用とのことです。

  3. ケーブル2本出しで、かつ充電負荷に応じて供給電力を制御してくれる機能もあるとの事で、チャデモ対応PHVのユーザーとしてはありがたい機種ですね。導入してくれる事業者にはぜひ2本のケーブルを効率よく利用できる様、駐車/待機スペースと設備の設置方法を検討していただきたいところです。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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