※冒頭写真は新東名浜松SAに設置されている150kW器。
最大350kWの次世代超急速充電器を共同開発
2024年5月23日、株式会社e-Mobility Power(以下eMP)が、CHAdeMO(チャデモ)規格で1口最大350kWの次世代超急速充電器を、株式会社東光高岳(とうこうたかおか)と共同開発することを発表しました。東光高岳はEV用急速充電器国内累計販売台数No.1(東光高岳調べ)の実績を持つ充電器メーカーです。今回の発表で両社は「あらゆる車種のEVユーザーに最高の充電体験をお届けすること」を目標に掲げ、2025年秋の設置開始を目指すとしています。
現状の日本で、高速道路SAPAなどに設置されている急速充電器のうち、1口あたりの最大出力は150kWで、欧州や北米、中国、韓国などで拡充が進む350kW器を要望する声が高まっていました。今回の発表は、eMPが充電サービス事業者として、また東光高岳が充電器メーカーとして、日本のチャデモ規格でもグローバル基準の超急速充電に対応する姿勢と意欲を示したもので、日本のEVユーザーとして歓迎すべきニュースです。
eMPは、4月19日に1口最大150kW対応の新型充電器「赤いマルチ」と、高速道路SAPAへの高出力複数口器設置拡大など意欲的な整備計画を発表したばかり(関連記事)です。EV普及のためのニーズをとらえ、EVユーザーの声を聞き届けたeMPのアクションが加速しているのは、素晴らしいことだと感じます。
開発コンセプトと気になるポイント
最大350kWの次世代超急速充電器がどんなものになるのか、4項目の開発コンセプトが示されました。いくつかEVユーザーとしての疑問点があったので、発表のあった週末eMPにメールで質問。週明け早々に回答をいただくことができました。コンセプトの内容(一部要約)と合わせて、順に解説していきます。
① より早く充電できる
●CHAdeMO規格一口最大350kW出力(世界初)
●10分で、航続距離約400km相当の充電が可能
●車両性能の進化を見据えた次世代対応の充電スペック
●高電圧バッテリー搭載車両および電動船舶への超急速充電の実現
ニュースリリースでは注釈が付いている部分でもある「10分で航続距離約400km相当の充電」というのは、「高電圧での急速充電に対応した車両が350kW出力で10分充電した場合、最大で58.3kWh充電することができ、車両電費が7km/kWhの場合、約400kmの走行が可能」となることが示されています。
つまり、「より早く=高出力化」のポイントは高電圧。新型充電器の定格電圧は「1000V」とすることが示されました。
今まで日本ではEV用急速充電器を含む設備の最大電圧に450Vの規制がありました。このままでは1000Vは無理なのですが、具体的コンセプトの4つ目、リリースでは「EV充電器に係る保安要件の解釈の明確化の動きを見据えた1000V仕様とすることで、高電圧バッテリー搭載車両および電動船舶への超急速充電の実現」となっています。
eMPに「規制緩和実現が前提?」と質問したところ「経済産業省は、充電器に係る保安要件の明確化を既に公表(PDF)しています。具体的な時期は言及されていませんが、見通しは立っているのだと思います」との回答でした。プロトタイプ公表予定とされている今年の秋頃まで、遅くともチャデモ認証取得予定の来年3月くらいまでには正式決定&施行されることを願います。
② 誰でも楽に操作できる
●現行製品比で約30%軽量化した新型充電コネクタの採用
●現行製品比で約10%細く、約20%軽量化した新型充電ケーブルの採用
●新型のケーブルマネジメントシステムの採用
(片手で楽に操作可能。また、ケーブルが地面に接することなく、高い収納性を実現)
●プラグ&チャージを視野に入れたセンサーの搭載
比較対象となっている「現行製品」を確認すると、浜松SAなどの「ABB150kW器などで採用されている200A用ケーブル」との比較ということでした。
また、スペックなどを見ても「水冷」や「液冷」という説明は見当たらず。「液冷ケーブルではない?」という質問には「その通り」との回答。
「液冷を採用しない理由」は「液冷却採用の際の、チラーと呼ばれる冷却装置を設置することに伴う大型化、その後のメンテナンス面(部品数増加)やコスト面を考慮しての判断となります。今回開発の充電器は、電圧を450Vから1000Vとして既存のコネクタケーブルの導体サイズを変えずに高出力を実現、さらに既存のコネクタケーブルの改修により操作性の向上を図るというアプローチをしています」という説明でした。
現物を使ってみないとわからないところもありますが、今までたくさんの急速充電器を手掛けてきたeMPや東光高岳の知見に基づく合理的なアプローチということなのでしょう。軽量化された新型ケーブルやコネクタが、このほかの90kW器や150kW器にも広がるのも期待したいところです。
さらに「プラグ&チャージ(PnC)を視野に入れたセンサーって?」という質問には「コネクタケーブル内の制御信号線を利用し、コネクタが車両に挿入された状態を確認します」との回答。とはいえ「挿入された状態を確認」するだけではテスラなどで可能なPnCを実現することはできません。
「PnC実現を明言できない障壁は?」と質問すると、「PnCのバックエンドのシステムは、充電器の対応だけではなく、自動車メーカーとの協調が必要となる」旨の回答でした。
③ 分かりやすくフレキシブルなサービスとタイムリーな情報提供
●高輝度で視認性が良く、ユーザーが欲しい情報などをタイムリーに表示できる大型液晶画面
●時間課金(分課金)と従量課金(kWh課金)の併用に対応
●充電終了後の放置車両対策(ペナルティ課金)に対応
●再エネの有効活用を促進するダイナミックプライシング(日・時間帯別料金)の導入も視野
コンセプトの3つ目は、おもに課金などに関する内容です。EVユーザーとしてとても気になるポイントであり、「従量課金やペナルティ課金導入、ダイナミックプライシング導入について、課金プロバイダやカード発行の自動車メーカーとの合意が必要と思いますが、協議はどのような段階ですか?」と質問しました。
eMPからいただいた回答は「kWh(従量)課金については、CHAdeMO協議会等で議論を始めていますが、ダイナミックプライシング、ペナルティ課金は、これから議論の段階」とのこと。
つまり、従量課金(時間課金併用)は実現間近。ペナルティ課金やダイナミックプライシング、また前述のPnC実現などは日本国内でEVを販売する自動車メーカーなどとの協調や協議次第の要素が多く「まだまだこれから」の現状だと理解できます。
④ 視認性が高くスタイリッシュなデザイン
●インダストリアルデザイナーを起用し充電器のユーザビリティを追求
●すべてのユーザーにとって使いやすいユニバーサルデザイン
●遠くからでも充電ステーションの存在が一目で把握できる未来的な外形とライティング
●ガソリン車ユーザーにも「ここにEV充電設備がある」と認知される存在感
4つ目のコンセプトの主題は「デザイン」です。「デザイン重視の方針はeMPが要望したものですか?」との質問には、以下の回答をいただきました。
「eMPの要望です。背景には、以下2点があります。 ①充電インフラの不安感の払しょくには、ガソリン車ユーザーにも「充電器がある」と、広く認知をしてもらえるような視認性が必要と考えています。 ②ニチコンマルチタイプ充電器は、使いやすさ、デザインの美しさに対して、ユーザー様から好意的な声を多数いただいています。本当の意味でのデザイン(美しく、かつ、工業製品としてとても使いやすいこと)が非常に重要だと考えています」
ニチコンマルチのデザインが使いやすいのは、多くのEVユーザーが共感できることでしょう。今回のニュースリリースで紹介されていた画像が、充電ステーションや充電器のイメージ図などではなく、なんと、デザイナー陣の顔写真だったことにも、デザイン重視の思い入れを感じます。次世代超高出力器もまた、日本のEVユーザーであることがちょっと自慢に思えるような魅力的なデザインになることを期待しています。
次世代超急速充電器の基本スペックなど
最大電圧 | 1,000V |
総出力 | 400kW(2口) |
最大出力 | 1台充電時:350kW/口 2台同時充電時:200kW/口 |
CHAdeMO規格 | CHAdeMO 2.0 |
通信プロトコル | OCPP2.0 |
<充電コネクタ> | |
電流 | 短時間350~400A(通電時間による) 連続200A |
サイズ | W300mm×H190mm |
概算重量 | 1kg |
<新型充電ケーブル> | |
概算外径 | 現状比約10%細径化 |
概算重量 | 現状比約20%軽量化 |
開発スケジュール | |
2024年秋 | プロトタイプ公表 |
2025年3月 | CHAdeMO認証取得 |
2025年秋 | 納品・設置開始 |
どこに設置されるのか?
さて、開発される350kW器がどこに設置されるのか。2025年秋に設置開始というスケジュールは示されたものの、具体的な設置場所についての示唆などはありませんでした。
そこで、eMPには「設置場所の候補地やイメージは?」とともに「既存マルチ器や150kW器との併設の可能性は?」と質問。「ユーザー様の充電時の行動とマッチする場所を、候補として社内で選定したうえで、設置パートナーの企業の皆様と協議を経て確定させていきます。準備が整いましたら、改めてアナウンスさせていただきますので、ご期待ください」という回答でした。
eMPは充電器の設置工事や運営を担うサービス事業者であり、充電器が設置される場所、たとえば高速道路SAPAの地権者ではありません。新型350kW器をその場所に設置するかどうかを決めるには、その設置施設運営者との協議が不可欠ということですね。
その上で「EVユーザーの充電時の行動とマッチする場所」ということは、すでにマルチプラグ器や150kW器で高出力複数口が進んでいる基幹SAPAや、海老名、談合坂といった「これから拡充」が予定されているSAPAであると期待します。つまり、すでに90kW以上が8口の浜松SAなどに、先だって発表された「赤いマルチ」と「350kW器」がさらに追加されていくならば、ひとりのEVユーザーとして望ましい光景だと考えます。
1年半後、はたしてどこに「初設置」のニュースが届くのか、楽しみに待ちましょう。
何はともあれいろいろと自動車メーカー次第
最後に肝心な点に言及しておきます。新開発器の350kWという最大出力は「最大電圧1000V×電流350〜400A(短時間)」を想定したものであり、市販EVに多いシステム電圧が400V基準のEVで充電する場合、理論値としても「400V×400A=160kW」程度が最大の出力(個人的に実用として十二分だと思うけど)になります。
リリースでも「高電圧バッテリー搭載車両」と注記されているように、新型器の恩恵をフル活用できるのは、いわゆる「800V基準」のEVで、日本で市販されている車種の中では、ポルシェ タイカン、アウディ e-tron GT、ヒョンデ IONIQ 5などに限られます。
とはいえ、現在の各市販モデルは日本仕様とする際に従来のチャデモ充電インフラの最大450Vに対応した配線やシステムに換装されていて、1000Vの恩恵を受けるためには車両側のプログラムアップデートに加えて、配線などの物理的なシステム交換が必要になるはず。今、どこかに新型チャデモ350kW器が設置されても、恩恵を十分に活かせる市販EVは日本国内に存在していないということです。
さらに、韓国でヒョンデが拡充を進める超急速充電ステーション「E-pit」のレポートでお伝えした(関連記事)ように、350kW器(規格はCCS)で350kW対応のIONIQ 5をSOC12%から充電した際に確認できた最大出力は223kWでした。EVユーザーとしては、急速充電では、必ずしも定格スペックの最大出力で充電できるわけではないということは理解しておきましょう。
ともあれ、eMPと東光高岳が設置開始まで1年半という猶予があるこのタイミングで350kW器の開発を発表したことをユーザー目線で考えると「たくさんのEVユーザーが高電圧(もしくは350〜400A)対応のEVを待ってるよ!」という、国内自動車メーカーへの強烈なメッセージであるとも思えてきます。
設置場所の選定や数の規模についても自動車メーカーへの期待を抱きます。350kW器は従来器に比べて、設置費や維持費は当然高額になります。恩恵を受けられるEVが限定的な中、補助金を使ってガンガン増やせばいいというものではありません。高電圧対応のEV車種を発売する自動車メーカーが、以前、自工会の豊田会長が「もう少し自動車業界を当てにしていただきたい」と言っていたように(関連記事)、適切な設置場所の選定や、一定のコスト負担をしていくことが必要になってくるはずだと思います。
多くのEVユーザーが求めてきた350kW器が、本当に日本でも広がって活用できる時代が来るのかどうか。明言すると、結局はトヨタや日産などの自動車(EV)メーカー次第ということですね。
eMPと東光高岳の意欲的な発表に賛辞を贈りつつ、日本のEVシフトに明るい未来が訪れることを祈っています。
取材・文/寄本 好則
①②③は、実現されれば仕様としてはもうこれで当面は充分かと思います。この次のステップと言うと、走行中充電とかになってくるのでしょうか。
④に関してはまだ不安です。
色々な日時に高速道路を走るBEVユーザーなら御存じかと思いますが、
・平日の深夜は仮眠トラックで充電スペースが塞がれる
・大型連休の日中は駐車マスに停められないガソリン車が仕方なく充電スペースに停める
という問題があります。
これらは、充電スペースであると分かっていて停めているケースも多々ありましたので、
・ポールを立てて物理的にトラックを停められない様にする
・大型連休は充電に関する知識のある警備員を配置する
・駐車違反、若しくは業務妨害として取り締まれる対象とする
などの対策を講じて欲しいと願っています。