往路の約270kmは無充電で余裕の完走
先日レポートした『ジャパンEVラリー白馬2024』。主催した日本EVクラブの事務局スタッフでもある私は、マイカーのKONA Casual(車両価格は399万3000円)で白馬村を訪れました。購入時のレポートでもお伝えしたように、バッテリー容量は日常を軽快に過ごせる48.6kWhで十分。「300万円で300km」を実現できる新車EVとして選んだ一台です。
KONA Casualのカタログスペックで一充電走行距離(WLTCモード)は456kmで、8掛けだと約365kmですが、最近のメーター表示などでは、満充電で420〜430kmくらいの航続距離が表示されます。
東京の自宅から白馬村(目安として道の駅白馬)までの距離は約270km。白馬村は標高が約800mという全体として上りのルートだからWLTCの8掛け見込みとして、「365―270=95km」。「まあ、20%くらいは残して到着できるだろう」と予測して、東京の自宅をスタートしました。
結果は、事細かにレポートするまでもなく……。須玉あたりで中央道の集中工事渋滞があり、順調な区間はいつもよりちょっとペースを上げて走ったものの、ほぼ、予測通りにSOC21%で道の駅白馬の90kW器(しかも2口!)に到着することができました。
道の駅から近いエイブル白馬五竜での会場設営準備の集合時間まで1時間ちょっと余裕があったのと、宿泊する「あぜくら山荘」という宿では3kWコンセントで充電する予定だった(20%以下から約40kWhも充電するには12時間以上かかってしまう)ので、道の駅のレストランで「はくばの豚カレー」を食べながら急速充電器を利用しました。
冒頭写真のように、道の駅白馬の急速充電器は今年1月、最大90kWの2口器にe-Mobility Powerがリプレイスしてくれました。以前は25kW器が1口だけ。I-MiEVが発売されたばかりの頃、今は亡き友人が尽力して設置された三菱のロゴ入り急速充電器には思い入れもありましたが、高出力複数口化は時代の流れ。適切なリプレイスに感謝しつつ、29分で約22kWh充電して、SOCは64%まで回復しました。
村内を少し走って、50%であぜくら山荘(村内でも標高が高い森の中にある)に到着すると、一晩で約25kWhを充電することになります。1泊充電料金の1500円をお支払いすれば「1500÷25=60円/kWh」。25kWhの充電には8時間半くらい掛かるはずなので、まあ9時間として「150×9=1350円」ということになります。
結局、54%で宿に到着。道の駅で注ぎ足し充電したおかげで宿での充電量を抑制できて、負い目を感じることなく、感謝の気持ちを込めて一泊料金の1500円で満充電にさせていただきました。設置コストが安い(しかも村独自の助成制度がある)200Vコンセントで、白馬村オリジナルの「自己申告課金」制。利用するEVユーザーにとっても、宿にとっても「これでいいじゃん!」って感じで、合理的な仕組みだと思います。
経路充電は以前ほど必要としなくなる
マイカーの48.6kWhは、今どきの市販EVとしては大きなバッテリーではなく、吊るしで400万円を切る新車価格は、大衆EVといっていい範疇です。それでも、東京→白馬の約270km程度は無充電で走りきることが可能です。
私の場合、プライベートのマイカーによるドライブ旅行で、これ以上遠い場所へ行くなら新幹線や飛行機とレンタカーを使いたいから、四捨五入して300kmは仕事抜きドライブ最長レベルの距離といえます。
今回は時間に余裕があってランチタイムに重なったのと、宿充電の量をコントロールするために道の駅で急速充電しましたが、まったく無充電で宿に到着することも可能でした。つまり、自宅で充電できて、宿泊する宿、もしくは今回のケースでいうとエイブル白馬五竜の駐車場といった「目的地」に3〜8kWくらいで充電できる設備があれば、経路の急速充電器はあまり必要ではなくなるということになります。
先だってグローバルで発表されて、次期日本導入モデルとなる可能性が高いヒョンデの『インスター』は、全長3825mm、全幅1610mmというコンパクトなボディに、42kWhと49kWhのバッテリーを搭載します。日本の公共EV充電インフラは、24kWhの初期型日産リーフや、16kWhの三菱i-MiEVを基準に構築されてきました。今でも、20kWhの日産サクラや三菱eKクロスEVのような電池容量の小さなEVはありますが、秋に発売されるHonda N-VAN e: が30kWhを積むように、より使いやすい、適切な大容量化(大衆車的には40〜50kWhくらいが中心になるのではないかと予測しています)は進んでいくでしょう。
日本の自動車メーカーからも、早く「適切なバッテリー容量の大衆的EV」が続々と登場することを期待しています。
適切な場所に高出力複数口の急速充電器を!
基礎と目的地の充電があれば無充電で完走可能だったとはいえ、残量ギリギリまで攻めて走るのは精神衛生上よくないので、高速道路SAPAや道の駅、コンビニといった場所の急速充電器で「休憩がてらちょっと充電しておくか」って感じで注ぎ足しておくのがオススメです。
安心してください! 高速道路SAPAや、経路充電に適した道の駅やコンビニについては、道の駅白馬が90kW 2口にリプレイスされたように、e-Mobility Power(以下、eMP)が着々と拡充と増強を展開してくれています。今回の往路で走った中央道でも、双葉SA、諏訪湖SA、そして長野道の梓川SAなどに、いわゆる「青いマルチ」などによる高出力複数口化が進んでいます。
まとめると、市販EVの航続距離性能が底上げされて、これからますますEVの台数が増えていく中、充電インフラ拡充&整備の重要なポイントは、おもに以下の3点に整理できるのではないかと思っています。
●集合住宅などを含めた基礎充電環境の拡充。
●目的地充電設備の拡充。
●適切で利便性の高い経路充電設備の配置。
基礎充電や目的地充電については「あって当たり前」(私はしばしば、お尻洗浄付きトイレに喩えています)が広がることが大切。「適切で利便性の高い経路充電設備」というのは、端的にいって「高出力複数口化」ということです。また、ただ数が増えればいいというものではなく、長距離ドライブの休憩地点となり得る「適切な場所」に、充電待ちの不安を少なくしつつ、充電中にトイレが利用できるなど利便性が高い充電ステーションが増えるのを望みたいところです。
従量課金やシンプルな認証に向けた前進を
eMPでは、2023年度末で640口だった高速道路SAPAの急速充電器の設置口数を、2025年度末までに約1100(1073)口まで拡大することや、最大150kWの「赤いマルチ」を設置したり(関連記事)、CHAdeMO規格で世界初となる最大350kW器の開発を進めることを発表(関連記事)しています。
高速SAPAだけでなく、道の駅やコンビニ駐車場の急速充電器も、利用ニーズが高い場所には着々とリプレイスが進められています。さらに、ENEOS Charge Plus(エネオスチャージプラス)やPower X(パワーエックス)をはじめとする民間の充電サービス事業者が、意欲的な経路充電施設拡充へのチャレンジを進めています。
高出力複数口を中心とした急速充電ステーションの数や、充電ケーブルの口数については、市場原理による淘汰は起こりながらも、10年後、20年後に向けて着実な進化の流れができているように感じています。
ただし、高出力な充電器を利用する際のユーザーへの公平性を確保するためにも必要な従量課金制の導入は必要で、2025年をメドに検討が進められているものの、まだ実現していません。また、普通充電を含めて充電サービス事業者が増えることで、EVユーザーには複数の専用スマホアプリをインストールして登録しておかなければいけないといった「面倒」が課せられています。
出力や口数はもちろん大切ですが、EVユーザーの立場からすると料金システムの合理性やシンプルな認証といった使い勝手はとても大切。一日も早い従量課金制(おそらく時間課金併用の制度が検討されているはずです)の実現とともに、サービス会社の垣根を越えて認証できるローミングや一本化など、ユーザー本位で使いやすい充電サービスの実現を期待したいところです。
もちろん、日本でEVを発売する自動車メーカーにも一致団結していただいて、テスラ車がスーパーチャージャーで充電する時のように、充電プラグを挿すだけで認証や課金をやってくれるプラグアンドチャージ(PnC)が実現すれば最高です。
いろんな現状を見ていると、日本のEV充電サービスは「ガソリンスタンドのように」といった「エンジン車の常識」から抜け出せず、初期型日産リーフなど「航続距離が短いEVの呪い」に縛られたままという印象もあります。
充電サービスを提供する事業者のみなさまはもちろん、ユーザー(ことに、まだEVを選びきれない方々)の側も、進化し続けるEVの「新しい常識」から発想していくことが必要なのかも知れません。
世界から大きく遅れてしまったニッポンで、今後ますます、ユーザーにとって望ましい充電インフラが広がっていくことを願っています。
文/寄本 好則