世界トップのCATLがEV用バッテリー交換事業に参入

中国で拡大している電気自動車用バッテリー交換ビジネスに、バッテリー会社としては世界でもトップのCATLが参入します。NIOなどが開拓してきた市場はどうなるのか、Lei Xing氏の英文記事を全文翻訳でお伝えします。

世界トップのCATLがEV用バッテリー交換事業に参入

元記事:CATL swaps into history with EVOGO: my takeaways by Lei Xing

EVOGOバッテリー交換ソリューション

約3カ月前に書いた「中国で進展するEVバッテリー交換方式の『ビッグ3』」では、中国で急成長するEVバッテリー交換ビジネスの中でも、最もアクティブな大手3社に関して報じました。

そしてここに4番目の企業が加わりました。おそらく最大手となる、CATLです。

世界をリードするEVバッテリーサプライヤーはEVOGO(エヴァゴ)バッテリースワップソリューションを1月18日にお披露目し、NIOなどのメーカー顧客がすでに作り上げた、自社製のセルも使われているバッテリー交換EV市場に進出しました。

これはCATLにとって大きな戦略転換で、EVオーナーとはEVOGOブランドを通じて、他企業にはB2Cモデルを介して直接繋がることができ、自動車メーカーにバッテリーセルを供給してきた今までのB2Bモデルから拡大することになります。

すでにとてつもなく多い生産量はさらに増えます。中国汽車動力電池産業創新連盟(CABIA)のデータによると、昨年中国でEVに使われたCATL製のバッテリーは80.51GWhで、国内全体で合計154.5GWhだったうちの52.1%を占めました。EVOGOローンチの前日、2025年には現在の世界合計生産量である295GWh分のバッテリーが不足するとCATLは深圳証券取引所に報告しました。

チョコ-SEB

CATLの完全子会社であるCAES(Contemporary Amperex Energy Service Technology Ltd.)は、チョコ-SEB(チョコレートバーのような形の交換可能な電気ブロック)、交換ステーション、EVOGOアプリから成るEVOGOバッテリー交換ソリューションのローンチを管理する団体になります。CAES代表のChen Weifeng氏によると、ソリューションはまず中国内の10の都市でローンチされ、EVOGOが使える初のモデルはFAW(中国第一汽車集団)の Bestune NAT(FAWのリリースにリンク)モジュラー・バッテリースワップ・エディションです。将来的には他メーカーからもソリューションが使えるモデルが出ます。

オンラインのローンチイベントで、Chen氏は「私達はバッテリーを個人使用のコンシューマー・プロダクトというよりは、シェアード・プロダクト(共有商品)として捉えています」と話しました。

チョコレートバーのようなデザインのチョコ-SEBは、バッテリーシェアリング・交換に特化した設計がされ、小型で高いエネルギー密度を持ち、柔軟な組み合わせが可能なミニマリストデザインとなっています。26.5kWh~のチョコ-SEBはCATLの最新のCTP(Cell to Pack)テクノロジーを活用し、重量エネルギー密度160Wh/kg超、体積エネルギー密度325Wh/Lを達成して航続距離200kmを可能にします。

チョコ-SEB

CATL はチョコ-SEBが現在世界市場にあるBEVプラットフォームベースの車両のうち80%、これから3年で出されるモデルではすべてに利用可能と言っています。ユーザーは必要な航続距離に応じてブロックを3つまで使えます。さらにワイヤレスBMS(Battery Management System)テクノロジーを備えたチョコ-SEBは高圧プラス/マイナス端子しか外側についておらず、プラグの信頼性を大幅に上げています。

一方でバッテリー交換ステーションの互換性はかなり高く、必要に応じて無料充電サービス付きのバッテリーレンタルを提供します。NIOのプレイブックには、各EVOGOバッテリー交換ステーションのサイズは平均的な駐車スペースの約3台分で、最大48ブロックのチョコ-SEBを納められ、バッテリーブロック1つを1分で交換できると書かれています。ステーションには小さなフロアスペース、急速換気、広い空間、そして様々な地域の気候にカスタマイズ可能という特徴があります。

専用のアプリは顧客と様々なEVOGOモジュールをリンクさせ、顧客、車両、ステーション、バッテリーを繋げる上に、他のサービスも提供可能です。

またNIOやGeelyが提供する既存バッテリー交換ソリューションが特定のブランド、モデル、サイズでのみ利用可能なのに対し、チョコ-SEBを使えばEVOGOは様々なメーカーの小~中型乗用車や商用車に使えると、CATLはローンチイベントで繰り返し言及していました。さらにEVOGOでは運転シーンや習慣により、顧客はバッテリーブロックをいくつレンタルするか選択できます。市内の通勤ならブロック1つで十分ですし、それより長い旅行ならばブロックを2つか3つ使い、帰ってきたらブロック1つに変えれば良いのです。

チョコ-SEBを搭載したEVの航続距離は、オーナーの選択により200km、400km、600kmと変わります。必要に応じた交換ソリューションにより、オーナーは最大のバッテリー容量分ではなく、欲しい航続距離分だけ交換・支払うようにできるのです。

初期チョコ-SEBはNMCを使っていますが、交換ステーションはLFPバッテリーもサポートしており、交換料金は時間、場所、地域の状況により競争力のある設定になるとCATL内部のソースは示しています。EVOGOが利用できる仕様のEVを購入したユーザーはCAESも参加している団体が管理する『バッテリー・バンク』にレンタル料金を払うことになります。EVOGOプラットフォームのバッテリー交換基準は中国の既存バッテリー交換基準に準じているので、自動車メーカーは車のシャーシを変形する必要がなく、チョコ-SEB用のバッテリー交換ブラケットを作るだけで良いのです。

解説

というわけで、2021年末までに1,300のステーションが存在するようになった中国の成熟しつつあるバッテリー交換エコシステムに、世界最大のバッテリーサプライヤーが鳴り物入りで参入しました。

発表に関しては、NIOとの関係や、自動車メーカーがCATLのソリューションを歓迎しているのかなど、答えよりも多くの疑問が生まれたようです。

CATLの動きは、NIOが6年に渡って広めてきた充電、交換、アップグレード可能なバッテリーを、サービス戦略としてより強固なものにします。またNIOのバッテリーサプライヤーおよびバッテリーアセットマネージメント会社の株主としてCATLはバッテリー交換の知識を得たはずです。自社のバッテリー開発のノウハウも携えて、エンドコンシューマーに向けたバッテリーサービスとソリューションへ舵を切り替えたのです。したがって、ある意味CATLはNIOと競争することにもなるのですが、広い視点で見ると、競争によりバッテリー交換開発がさらに普及するようになるので、NIOとCATLの間にも相互理解があるはずです。

CATLの挑戦は、さらに多くの自動車メーカーを巻き込み、バッテリー交換モデルを作るよう説得することです。始めは摩擦が起きるでしょうが、FAW Bestuneなどはすでに事業を始めていますし、時間が解決すると感じます。CATLは、NIO、Geely、Aultonのように、高額の初期投資、操業コスト、バッテリーアセットの最適利用、交換技術の標準化に向き合わねばなりません。CATLに資本とリソースはありますが、自動車メーカーの顧客やライバル会社は、その基準を受け入れるでしょうか。

バッテリー交換は万人向けではありませんが、CATLの参入によりその革命が加速するでしょう。

(翻訳・文/杉田 明子)

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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