2022年、中国は記録的なNEVの販売台数を達成。はたして2023年はどんな1年になるのか?

新エネルギー車(NEV)の所有が当たり前となりつつある中国では、年間販売台数1,000万台、普及率33%も夢ではありません。中国市場でのNEVの販売台数は、2022年、680万台に達する見込みです。

2022年、中国は記録的なNEVの販売台数を達成。はたして2023年はどんな1年になるのか?

【元記事】 China crushed NEV sales records in 2022, what can we expect in 2023? by Lei Xing

予測を超えて販売台数記録を更新

昨年11月上旬に中国自動車工業協会(CAAM)が2022年10月の自動車の生産および販売台数を発表した頃、私はある予測を立てました。それは、年末に向けて車がよく売れる事に加えてNEVの補助金も打ち切られるため、第4四半期のNEV販売台数は200万台を超えてくるだろうというものでした。さらに、通年で680万台が売れ、普及率も25%に達するのは間違いないとも予測しました。

もう少し遡った7月には、「2022年に中国ではNEV販売台数が600万台を突破するだろう」とも予測しています(『電気自動車普及は止まらない! 中国では2022年末までにNEV年間販売台数600万台を達成か』を参照してください)。

CAAMは1月12日、公式な通年データを発表したのですが、蓋を開けてみればなんとNEV販売台数は合計で688.7万台、昨年比で93.4%の成長率、普及率にして25.64%と驚異的な数字を叩き出しました。第四四半期だけ見ても、四半期記録を大きく塗り替える213.4万台で、10月、11月、12月の内訳が714,000台、786,000台、814,000台となっています。上海のロックダウンのあと、4月からほぼ毎月販売記録が更新され続けてきました。

2020年の137万台弱から2021年の352万台強へ、さらに2022年には690万台弱と、中国のNEV市場は3年連続でほぼ倍増しており、目覚ましい成長を遂げています。しかも世界的なパンデミック、サプライチェーンの逼迫、半導体不足、バッテリー原材料価格の上昇、地政学的リスクの悪化という最悪な条件での記録です。特に2022年は上海のロックダウンや様々な地方での新型コロナウイルスの蔓延、電力不足によるエネルギー危機など、中国があらゆる想定外の事象に直面した年でした。そのような状況でも販売台数が毎年2倍近く伸びたのは、控えめに言っても前代未聞の出来事でした。

数字だけ並べてもイメージが湧かないのでアメリカと比較してみましょう。

Motor Intelligenceによると、2022年、アメリカでは807,180台の完全電気自動車が販売されました。2021年比で成長率は2/3近く、普及率にして全乗用車の販売台数1,370万台の5.8%を占めます。同年、中国では約2倍(2,686.4万台)の乗用車が販売されています。

つまり、中国ではアメリカで1年間に販売されるBEVと同じ台数のNEVをたった1ヶ月で販売し、普及率もアメリカの4倍以上です。中国では12月だけで814,000台のNEVが販売され、これは2017年の中国の年間販売台数、777,000台を上回っています。更に、第四四半期に231.4万台のNEVが販売されましたが、これは2020年の年間販売台数より100万台近くも多いのです。2022年だけで、2010年~2020年の10年間の販売台数を130万台も上回っているのです。

もちろん、注意しないといけないのはCAAMの数字は総販売台数を表しており、これには輸出や在庫車も含まれるため、純粋に中国国内の販売台数と一致するわけではありません。そこで中国公安部の資料に目を向けてみましょう。公安部の交通管理局(MPS)発行の1月11日付けのデータを見ると、昨年、535万台のNEVが新規登録されました。これは昨年比81.48%の上昇で、年間新規登録台数2,323万台の23.05%を占めます。さらに、中国国税庁発表の資料を見ると、自動車の売上請求書ベースでNEVが568.1万台に達し、昨年比で70.6%上昇、構成比23.5%となっています。このデータは新規登録台数より少し多いのですが、おそらく登録台数ベースのデータには年をまたいで2023年に登録される車がカウントされていないからでしょう。

いずれにせよ、中国政府の「新車販売台数の20%をNEVにする」目標は予定よりも3年早く達成され、2030年に40%にする目標も、2023年に達成できる可能性が十分にあります。これが中国のスピード、そして中国のNEVのスピードです。

補助金が終了しても成長を続ける中国のNEV市場

私はこの3年間、遠く離れたところから中国のNEV市場を観測し、見解を述べてきましたが、この間に市場が達成してきたことを振り返ってみると、「怒涛の勢い」と「社会問題からの回復の速さ」という2つのキーワードに集約されると思います。

2020年1月13日まで記憶を遡ってみましょう。コロナ禍によりアメリカに長期滞在を余儀なくされるとも知らずに、私が家族を連れてアメリカの親戚を訪ねるため出発する前夜です。

この日、CAAMは2019年における中国のNEV販売台数が4%下がり、120万台にとどまったと発表しました。NEVの販売データが公表され始めた2010年から初めて下降に転じた年でした。当時はパンデミックが起きるなんて予想していませんでしたが、その数日後に世界を一変する出来事が武漢で起きたのは誰もが知るところです。

では過去3年でどのような力が働いて中国のNEV市場は大きく成長したのでしょう?起きるべくして起きたことなのか、それとも偶然の産物なのか?

その答えを知るには、もう少し時間を遡る必要があります。過去20年、中国の自動車市場が「大成長」を遂げた背景には何かしらの理由がありました。初めての大成長は2002~2003年に起きました。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟し、政府が自家用車の購入を推奨した時です。2度目の大成長は2009~2010年に、世界的な金融危機のさなかに起きました。政府は経済を刺激する目的で、自動車の購入にまつわる消費税を減免したり、オンボロの下取り車の買取価格を引き上げるなど、大きな補助をした時です。そうしたこともあり、新車販売台数はすぐに2,000万台を突破し2017年のピークに向かって徐々に市場は成熟していったため、このような大成長は起きなくなってきました。

しかしそれは従来の車の話であり、大成長の波はNEV市場に推移したのでした。最初の波は2014~2015年のもので、NEV市場を発展させるため補助金が出され、わずか数年で年間販売台数が数万台から数十万台に拡大しました。その後、2016~2018年にかけて緩やかに、でも着実に市場は成長を続け、年間販売台数は100万台の大台を突破します。そこからはパンデミックの発生に伴い市場全体が冷え込んだため2019~2020年は100万台強から横ばいを続け、2021~2022年は誰もが予想していなかった2度目の成長の波が訪れたのです。

個人的には過去3年間、毎年NEV市場の成長を大きく後押しする要因があったと思っています。2020年はテスラの「ギガ上海」製モデル3の生産および納車が始まり、2021年夏には超小型EVセグメントを席巻した五菱宏光MINIEVのローンチがあり、そして2022年3月にはBYDがエンジン車の生産を中止し、今後はNEVのみを生産すると発表しました。このような事情もあり、この3社は過去3年間常にNEV販売台数のトップ3を占めてきました。

忘れてはならないのが、中国ではNEV関連のインフラやサービスの拡充、商品の品質やデザインの向上、そして顧客ニーズの変化に応じた機能の追加により、NEV市場は10年以上成長をしてきたという背景です。そして市場の成長と共に競争も激化し、スマートなEVのスタートアップ起業を含む中国メーカーがブランド・エクイティや技術革新の面で業界をリードし、その進化の速さと容赦のない戦略で、これまで市場を支配してきた従来の大手輸入車メーカーに対して同じ土俵で打ち勝っているのです。

昨年末、NEVへの補助金は確かに終了してしまいました。しかし分水嶺はとうの昔に越えているので、NEVのさらなる成長を止めることは誰にもできません。中国のNEVメーカーは、これから黄金期を迎え、その中から何社かはグローバルブランドへと上り詰めるでしょう。当然、途中でふるい落とされる会社もあるでしょうが、それは輸入車の大手メーカーも同じ立場です。補助金が打ち切られた中国NEV市場は、会社が生きるか死ぬかの過酷な競争に発展するのは火を見るより明らかです。

すでに2023年も1ヶ月が経とうとしていますが、現時点ではまだ今年の流れを決める出来事が何なのかは予測が付きません。もしかしたら1月6日に発表されたテスラモデル3およびYの大幅値下げかもしれません(それぞれ新車価格が23万元と26万元以下に引き下げられました)。熾烈な価格競争の火蓋はすでに切られています(この記事の執筆時点ですでに、AITO、Xpeng、そしてLeapMotorがすでに直接または間接的に値下げを発表しています)。

2023年を予測するには、まだまだ不明な点がたくさんあります。NEVの販売台数は1,000万台を突破するのか?BYDは再び販売台数を倍増させ、400万台近く売る事ができるのか?スマートEVのスタートアップ企業のうち、「生産地獄」のフェーズを乗り越えて、毎月まとまった数の車を安定して納車できるのは誰か? これまでエンジン車の販売で幅を利かせてきた輸入車の大手メーカーは、そもそもNEV市場で強い地位を確立できるのか?

今月上旬に、中国電気自動車百人会の張永偉事務局長は、2023年にNEV販売台数は昨対比で40%成長して1,000万台の大台に乗り、普及率は40%に達するだろうと予測しています。私も張氏の意見には概ね同意ですし、それほど突拍子もない予想だと思いません。私の予想は1,000万台、35%です。

今年の販売台数の予測を左右するワイルドカードは2つあります。政府のコロナ規制の緩和と、NEVの購入や利用を促進する非補助金型の経済刺激策の噂です。旧正月の数日前に工業情報化部(MITT)と商務部の高官らが公式に、NEV促進施策の追加を現在検討しており、近日中に詳細を発表すると述べています。旧正月が明け、3月初旬に行われる全人代と中国人民政治協議会の頃にもう少し具体的な話が見えてくると思われます。一方でコロナ規制の緩和は、国民の消費意識が海外旅行など車以外のことに分散しうるため、NEVの売上にはマイナスの影響があるかもしれません。

とにかく今言えるのは、2023年も間違いなく中国NEV市場は、人々の予測を越えてくるということです。

翻訳/翻訳アトリエ(池田 篤史)

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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