川崎市で活躍するEVゴミ収集車のバッテリー交換シーンを見てみたい!

神奈川県川崎市では、電池(バッテリー)交換型のEV(電気自動車)ごみ収集車を、日本で初めて2019年2月から導入しています。どんな風に電池交換をしているのか、電池ステーションを訪ねて動画を撮影してきました。

川崎市で活躍するEVゴミ収集車のバッテリー交換シーンを見てみたい!

バッテリー交換式電動車両の可能性とは?

5月26日の記事で、環境省がバッテリー交換式の配送車両やバッテリーステーション導入への補助を行うプロジェクトを紹介しました。

電気自動車は充電に時間がかかる! とよく言われます。じゃあ、電池交換なら短時間でできるでしょ、というのもよく聞く話。でも、大容量の駆動用バッテリーは重量もヘビー級。ペンライトの単三電池を交換するようなわけにはいかず、乗用車などあちこち走り回るモビリティをバッテリー交換式とするのは非効率、かつ非現実的です。でも、拠点や走行ルートがある程度限定的な配送車や、川崎市の事例のようなごみ収集車(パッカー車)であれば、重い電池を交換するシステムを「拠点」に設置すれば大丈夫。川崎市では実際に1年以上、バッテリー交換式のEVパッカー車が活躍しているのです。

川崎市環境局生活環境部廃棄物政策担当のご担当者にアポイントを取り、まずはEVごみ収集車の運用状況などを伺ってきました。

川崎市のゴミ発電&バッテリー交換式パッカー車活用のイメージ(川崎市ウェブサイトより引用)

川崎市が日本で初めて導入したバッテリー交換式EVパッカー車。大切なポイントは「エネルギー循環型ごみ収集システム」であること。つまり、可燃ごみを燃料として発電し、その電気でEVパッカー車のバッテリーを充電して走らせているのです。電池ステーションが設置されている『浮島処理センター』のごみ焼却発電の出力は12,500kW。この電気をパッカー車用のバッテリーに蓄電し、ゼロエミッションでごみ収集を行うのとともに、災害対策拠点などで非常用電源としての活用も可能にする、というのがプロジェクトの概要です。

EVパッカー車の最大積載量(ごみ収集能力)は1.4トン。バッテリー容量は40kWh。電池パック1個で、ごみ収集作業をしながらの航続距離は60km程度とのこと。電池パックの重さは340kgあるそうです。電池ステーションには最大7個の電池パックを保管&充電可能。充電は出力5kWで、約8時間で残量0から満充電になります。

気になるそれぞれの値段は、EVパッカー車が1台約2000万円。電池ステーションが約3500万円で、電池パックが1個350万。予備を2個用意しているので、電池代は約700万円だったそうです。

運用開始当初は2台のEVパッカー車が活躍していましたが、1台はこのプロジェクトを川崎市と共同で実施したJFEエンジニアリングから1年間の貸与だったということで、現在は川崎市で購入した1台のみ。原則として月曜日から土曜日まで、市内のごみ収集にほかのハイブリッドごみ収集車などとともに活躍しています。

バッテリー交換の現場を直撃!

なにはともあれ、世界でも貴重な、実際にバッテリー交換で運用されている働くクルマ、その「バッテリー交換」シーンをぜひ見てみたい! できれば動画を撮ってご紹介したい! と、廃棄物政策担当のご担当者に相談してみたところ、日々の収集車運行を管理している収集計画課のご担当者を紹介いただくことができました。

電話で相談した結果、6月4日木曜日、午前中であれば10時30分~11時くらいの時間に、1回目の焼却場へのごみゴミ搬入時に電池ステーションに立ち寄るので、その際、収集員の方の仕事を邪魔しないよう配慮して、バッテリー交換シーンを撮影する、ということになりました。

EVパッカー車専用の電池ステーションは、川崎市内沿岸部の埋め立て地、『浮島処理センター』に設置されています。センター内には、川崎市の環境への取り組みを紹介する展示施設『かわさきエコ暮らし未来館』があり、その駐車場あたりから隣接する電池ステーションを見ることができるだろう、とのこと。事前にエコ暮らし未来館にも連絡を入れ、現地の状況を確認しておけるよう、少し早めに現地に到着しました。

エコ暮らし未来館に隣接して、ごみ焼却灰を活用した埋め立て地に、最大出力7MWのメガソーラー『浮島太陽光発電所』があります。EVパッカー車がやってくる予定の10時30分まで30分以上余裕があったので、エコ暮らし未来館が実施している「メガソーラーガイドツアー」のコースである『資源化処理施設』屋上から、メガソーラーの様子を拝見することもできました。

『エコ暮らし未来館』館内。聳え立っているのは、風力発電用風車の羽根の、先っぽ。館内の展示も興味深かったです。
『浮島太陽光発電所』。残念ながら靄がちな空模様。天気がいいと羽田の東京国際空港あたりまで見渡せるそうです。

ちなみに、このガイドツアーは予約制。土曜の14時からと、日・祝日は11時と14時からの1日2回実施されています。申し込みは1階の受付にて。詳しくはエコ暮らし未来館のウェブサイトをご確認ください。

【関連ページ】
かわさきエコ暮らし未来館

想定時間通りにEVパッカー車が登場!

念のため、10時15分くらいから、電池ステーション脇の歩道にビデオカメラをセットしてEVパッカー車の到着を待ちました。「10時30分から11時くらい」という想定だったので、1時間くらいは待つことも覚悟していたのですが、10時40分ごろ、エンジン音を響かせる収集車の車列の端に、黄色く輝く「EV」の文字を発見。ごみを下ろすのが先か充電が先かもわからなかったのですが、目の前を通り過ぎるEVパッカー車は左方向、電池ステーション入り口に向けてウインカーを点滅させています。というわけで、思ったよりもかなりスムーズに、電池交換シーンを見ることができました。

電池交換シーンを、どうぞ。

おそらくは電動のクレーンで、上からヒョイと持ち上げて交換するんですね。操作は運転席からリモコンで行うとのことで、作業員の方は車内に座ったままでした。ロックがはずれる「ガチャン!」みたいな音がするのかとも思いましたが、10mほど離れた場所で見ている限りはほぼ無音。とても静かで、ちょっとあっけないくらいのバッテリー交換でした。所要時間は、資料にあった通り約3分。バッテリー交換を終えたEVパッカー車は、勢いよく処理ラインへのゲートをくぐっていきました。

台数を増やす計画は、なし

急速充電に比べればなるほどスムーズ。再生可能エネルギーを蓄電するシステムとしても、大容量だけになかなか魅力的なのではないかと思います。

とはいえ、市の廃棄物政策担当で伺ったところによると、この先、同様のバッテリー交換式EVパッカー車を増やす予定はないとのこと。現在、川崎市では140〜150台程度のごみ収集車と、さらに同じくらいの台数の資源ごみ回収車を運用しているそうです。いきなり全車とはいわないまでも、10台、20台のEV収集車が、ごみ発電の電気で走るようになれば痛快だとは思うのですが。

まず、このEVパッカー車と同じようなサイズの収集車は、ハイブリッド車でも価格は700〜800万円程度なので、1台当たりの価格が2〜3倍になってしまうこと。また、電池重量の分だけ、収集できるごみの重さが少なくなってしまうために運用上の制約があることが、大量導入に踏み切ることができない理由のようです。

プロジェクトのプロデューサー的な立場でもあるJFEエンジニアリングの広報ご担当部署にも確認してみました。JFEでは川崎市以外にも、埼玉県所沢市や大阪市でも同様のバッテリー交換式パッカー車の実証実験を進めていましたが、現在はすべてのプロジェクトが完了しており、次に続くような具体的な計画はないとのことでした。

はたして、バッテリー交換式の「働くクルマ」に、もっともっと広がる可能性はないのでしょうか。たとえば配送車両でも、拠点の屋根で太陽光発電した電気で充電すれば、ゼロエミッションが実現できるはず。補助金ありきの限定的なプロジェクトや、実証実験止まりにしてしまうのはかなり残念な気がする、なかなかにスマートなバッテリー交換シーンなのでした。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 記事興味深く拝見させていただきました。
    45台のパッカー車を保有する廃棄物収集業者の者です。
    電池が重いので、重量がある=大型車 という免許制度や道交法からなかなか現時点では導入は厳しいと思います。
    しかし、排ガス規制や車両故障のメンテナンス費用を考えると、1日で100㌔走れれば十分なので、電気で走れて、積み込みも出来る車両を切望しています。
    佐川さんが中国メーカー車両導入を決めたそうですが、台数が出ないと日本社は作りたがらないでしょうね。

  2. 結局は以前東京のタクシー業者数社とベタープレイスとかいうヴェンチャー企業とタイアップして始めかけたEVタクシーと同じだ。バッテリーだけを交換するやり方は全く同じだけどその設備一軒につき数億掛かると言う理由で廃止になってしまった。多分これも数か月後には廃止と言う方向に変わって行くだろうと思う。川崎市以外に賛同する自治体が増えれば話は別だが。

    1. 豊田茂さま、コメントありがとうございます。
      バッテリー交換式EVタクシー、ありましたよね。
      ただ、タクシーは広範囲に移動する交通手段なので拠点だけでのバッテリー交換では心許ないですし、ステーションが数億円?(調べてないですけど)というのは謎の高額ですよね。
      川崎市のような電池ステーションでも、たとえば手動交換式にすれば、コストダウンが可能だし、もっと早く交換できる仕組みになりそうな気がします。実際に交換シーンを目の当たりにしてみて、近距離配送の拠点などに導入するのはアリだな、という印象が深まりました。

  3.  ディーゼルのデメリットの一つである停車/発進と低速走行を多用するパッカー車にはEV化は持ってこいですね。しかも回収したゴミを元に発電しているのもいい。後はスケールメリットを出す際のステーション側の課題(多くの電池パックを収納するスペースと充電設備をどうするか)をどう解決していくかにも興味があります。こういうのにこそ補助金を出してもらいたいものです。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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