小泉環境大臣がアピールする『配送に使用するEV導入補助』の謎を解明

環境省による『配送拠点等エネルギーステーション化による地域貢献型脱炭素物流等構築事業』の公募が始まりました。配送事業でバッテリー交換式の電動車両を使い、拠点をバッテリーステーションとして災害時の電力供給などに貢献するのが目的とのこと。でも、いくつか大きな「謎」があったので、環境省に確認してみました。

小泉環境大臣がアピールする『配送に使用するEV導入補助』の謎を解明

太陽光発電&バッテリーステーション導入のチャンス!

2020年5月22日、小泉進次郎環境大臣が自身のブログで『デリバリーやeコマースの配送に使用するバイクや電気自動車(EV)の導入補助について』(公式ブログにリンク)という記事を公開しました。小泉大臣のブログでも紹介されていますが、環境省による概要説明の資料がこちらです。

まず、ポイントは大きく2つ。

●配送車両にバッテリー交換式の電動車両を導入する。
●再生可能エネルギーによる充放電機能を備えたバッテリーステーションを設けて、防災拠点として地域貢献する。

補助金の総額は10億円を予定しています。執行団体である公益財団法人北海道環境財団のウェブサイトで詳細を確認してみました。

【関連サイト】
令和2年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(配送拠点等エネルギーステーション化による地域貢献型脱炭素物流等構築事業) 公募のお知らせ

まず補助対象となる事業にも2つの想定があります。

①物流×エネルギーセクターカップリング型ビジネスモデル検討を行う事業(マスタープラン策定事業)
補助金交付額=2000万円を上限として実際にかかった経費の全額。

②地域貢献型脱炭素物流モデル構築支援事業(モデル構築支援事業)
補助金交付額=補助対象経費の1/2。

①マスタープラン策定事業と、②モデル構築支援事業の明確な違いは、「マスタープラン策定事業」の対象事業としての条件に「構築する脱炭素型物流モデルの事業性・収益性についての検討を行い、将来性も含めた新たなビジネスモデルとして提案を行うものであること」がある点です。提出物や判断基準の詳細などについては、この記事では主題ではないので割愛します。応募に当たっては公募情報を熟読してください。

10億円という補助金額は、この2つの事業の総額で、①と②にどのような割合で配分するかは定めていないということです。

率直な感想として、まず、電動車両や再生可能エネルギーとバッテリーステーションの導入促進に対して、具体的な施策である点は素晴らしいと思います。配送に関わっている事業者にとっては、車両の電動化や再生可能エネルギー、つまりは太陽光発電によるバッテリー充電設備を導入する大きな支えになることでしょう。

ちなみに、執行団体は「北海道環境財団」ですが、もちろん全国から応募できます。

事業の根本に関わる大きな2つの「謎」とは?

とはいえ、小泉大臣のブログ記事を読んで即座に感じた、大きな「謎」があります。それは……

●バッテリー交換式の電動車両って、ホンダ『BENLY e:(ベンリィ イー)』しかないじゃん?
●交換バッテリーの充放電システムって、ホンダのプロトタイプしかないじゃん?

という2点です。わからないことは聞いてみるしかありません。ということで、環境省の水・大気環境局自動車環境対策課で、この施策の立案に関わったという河田陽平課長補佐に直接電話で話を伺いました。2つの謎についても明確な答えをいただけたので、端的に解説します。

謎「その1」への回答〜バッテリー交換式電動車両の登場に期待したい

まず、現実的に今の日本市場で形式認定をとっている「バッテリー交換式の電動車」は、ホンダ『BENLY e:』くらいしかないんじゃないですか? という疑問には「その通りです」との回答でした。

補助対象の車両として規定されているのは「配送や配達等の用途に利用するバッテリー交換式の電動車両(トラック、バイク等)であり、日本で車両認可を取得したもの」とあります。そもそもバッテリー交換式の四輪市販車は存在していません。電動バイクには出川さんの『充電させてもらえませんか?』でおなじみのヤマハ『e-VINO』がありますが、交換式バッテリーの容量はわずか0.5kWh(500Wh)で、非常用電源としては心許ないし、バッテリーステーションといった構想には対応していません。

ホンダの『BENLY e:』については、「日本郵便が配達用にホンダの電気バイク『BENLY e:』導入〜社会の電動化が加速するか」と題した記事で紹介したように、国内の主要バイクメーカー4社が「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を創設し、交換式バッテリーとそのバッテリー交換システム標準化の検討を進め、全国の郵便局を中心にバッテリー交換ステーションを展開することが視野に入っていることが伝えられていました。

でも、環境省の構想として、「ホンダ『BENLY e:』が広がればいい」ということではありません。

河田氏によると「バイクメーカーによるコンソーシアムの進展を含め、バッテリー交換式電動車両の車種拡充への契機になればという思いがある」とのこと。そうはいっても、バイクはともかく四輪の配送車両にバッテリー交換式を導入するのは無理があるのでは? と投げかけてみると、川崎市がパッカー車(ゴミ収集車)にバッテリー交換式のEVを開発して採用(川崎市ウェブサイトにリンク)。ごみバイオマス発電の電力で充電し、約40kWhの電池をまるごと交換するシステムを運用している事例を挙げて、まずは「改造EVでも承認する方向で考えています。数年前までは日本が世界をリードしていた電動車シフトが、今は世界の後塵を拝する状態になっています。このまま、座して日本のEV衰退を待っていていいのか。今回の事業でバッテリー交換式配送車両という可能性を示すことで、将来的に多彩な電動車両が発展していくことに期待しています」(河田氏)という、熱い言葉が返ってきました。
※川崎市の事例が補助対象事業ということではありません。

バッテリー交換式パッカー車。キャビンの後ろ、荷室との間に交換式のバッテリーが搭載されています。(写真提供:川崎市)
川崎市のゴミ発電&バッテリー交換式パッカー車活用のイメージ(川崎市ウェブサイトより引用)

川崎市のバッテリー交換式パッカー車については、機会を改めて取材してみたいと思います。

【関連記事(後日取材分)】
川崎市で活躍するEVゴミ収集車のバッテリー交換シーンを見てみたい!

謎「その2」への回答~充放電可能なステーションは今後の課題でもある

もうひとつの謎は、再生可能エネルギーの自家発電と組み合わせて、充放電可能なバッテリーステーションを設置するということです。

たとえば、ホンダ『BENLY e:』が使う容量1kWhのバッテリーなら、ホンダがアメリカのラスベガスで開催されたCES2018に出展した『Honda Mobile Power Pack Exchanger Concept』や『Honda Mobile Power Pack Charge & Supply- Portable Concept』を使えば、バッテリーステーションを非常時などの電力ターミナルとして活用することは可能でしょうが、まだ市販されていません。念のため、ホンダ広報部に確認してみましたが、現在のところとくに市販の計画はないとのことでした。

『Honda Mobile Power Pack Exchanger Concept』

とはいえ、こうした機器をオーダーメイドで製作するとなると、開発や製作にかかる費用も、技術的な信頼性などを担保するのも大変です。要するに、普通の人や事業者にとって、現時点で「充放電」に対応するのは困難です。

ただし、この点については「この事業は5カ年計画が立ち上がったばかりで、今年の応募案件について、すでに給電に対応していることは必須ではない」とのこと。対象事業の要件を確認してみると「災害発生時には配送拠点や交換式バッテリーが、地域のエネルギーステーションや防災拠点、非常用電源などとして機能するなど、地域貢献が図られる事業であること」という一文の後に、「もしくは、将来的にそうした機能を有する拡張性を持った事業であること」とありました。

数年後、そのための機器が市販されたら対応可能、ということでもまずはOK。「充放電への対応は近い将来の対応としても、現時点では、より多くの交換式バッテリーや電動車両の導入を進めておくことに意義がある。なぜなら再生可能エネルギーの導入拡大に必要なストレージインフラと成り得るから」(河田氏)ということです。

バッテリー交換ができない(日常的には)電気自動車でもそうですが、満充電放置はリチウムイオン電池の劣化(容量低下)を早めます。ことにホンダには、バッテリーステーションを司る機器として合理的な機能を備えた製品の開発と市販を期待、しておきたいと思います。

さらに言うと、前述の記事で取り上げた日本郵便とコラボした電動バイク導入とバッテリーステーションの設置には「コスト負担などの課題がある」と聞いていましたが、まさに、この補助事業を活用すればドンピシャリ。来年あたりから、全国の郵便局に電動バイク用のバッテリーステーションが登場してくる、のかも知れません。

たとえば、地方の小売店などが数台の電動車両(バイク)や太陽光発電&充電設備を整えるために、この補助事業に申請して採択される可能性はあるのか確認してみると「もちろん、要件を満たしてきちんと応募していただければ大歓迎」(河田氏)とのことでした。

バッテリー交換式軽トラとかを改造で作ってしまうのはハードル高すぎですが、1/2の補助金を得て『BENLY e:』を導入できるのであれば、いろいろ可能性が広がるのではないかと思います。公募期間は、マスタープラン策定業務の第1次公募は令和2年5月19日(火)~令和2年6月26日(金)まで、モデル構築支援事業は令和2年5月19日(火)~令和2年12月25日(金)まで。ただし、補助金予算の上限額に達したら公募受付は終了です。

YouTubeに説明動画がアップされていたので貼っておきます。

(取材・文/寄本 好則)

11 thoughts on “小泉環境大臣がアピールする『配送に使用するEV導入補助』の謎を解明”

  1. 『BENLY e:』が使う容量1kWhのバッテリーを10個載せた改造EVなら、三菱の旧アイミーブと同じ容量でできそうな気がしますが(^O^)

    1. Eddy さん、コメントありがとうございます。

      河田さんへのインタビュー中に、ミニキャブMiEVのアディショナルバッテリーとして5kWhくらい交換式で積みませると増せると面白いですね、と思いつきました、が、改造はなかなか大変ですね。w

  2. 着脱式バッテリースタンド構想はホンダ電動バイクとトヨタの超小型EVの普及を国が支援しているのではないでしょうか?

  3. バッテリー交換式?

    あのEVメーカーのテスラ社は、EVの可能性を全て試したそうです!
    それで、バッテリー交換式は見送ったと!(泣)
    やはり、日本はEVから立ち遅れましたね!(汗)

    EVの代わる他の産業を起こすしか無いか?(汗)

    1. 羽柴様、コメントありがとうございます。そうですね、バッテリー交換式は乗用車では一社も成功してはいないです。中国で現在唯一、NIOが頑張っています。
      https://www.nio.com/nio-power
      動画見ていただけると分かりますが、クーラントコネクターが見当たらないと思います。私見です。
      なので、恐らく水冷ではあるが、バッテリーパック下部がラジエーターになっているのではないでしょうか?つまり、クーラントの冷却システムもバッテリーパック内に入れ込んであると考えるのが妥当なのかなと。。これで充分な冷却ができるかどうかは問題かなと思います。

      さて、今回のEVバイクですが、実は二輪ではバッテリー交換の成功例が存在しています。
      https://www.gogoro.com/
      バッテリーが軽くて済む、超急速充電は行わないため水冷不要、都市部ならインフラを容易に整備できる、などから、都市部でのスクーターやデリバリーバイクには最適なソリューションと考えられています。

  4. みなさま、コメントありがとうございます。

    記事本文でも紹介し、安川さんも触れていますが、二輪メーカーが議論しているはずのコンソーシアムが実現して、電気二輪や超小型EVのバッテリー規格を統一、全国の郵便局を中心にバッテリーステーションが拡がる、というシナリオはアリかな、と感じます。
    ヤマハを中心に策定が進んでいるという「二輪チャデモ(DC充電)」と併せて拡がれば、「配送用二輪はEV」が常識になっていくのではないでしょうか。早朝の新聞配達バイクが静かになるといいのにな、と。

    また、乗用車に交換式が普及するのは非現実的ですが、川崎市のパッカー車のように、比較的大きな拠点がある配送などのフリートで、それなりに大容量のバッテリーを交換して運用する仕組みには可能性があるようにも思います。
    それが自動車メーカーのビジネスとして成立するのかどうかはわかりませんが、電動車両のバリエーションを広げることが大事、と、個人的には感じています。

  5. 3年ほど前、車雑誌(EVではない)の記事だと記憶していますが、バッテリー交換式はトヨタが発案していたようです。
    EVが充電に30分かかるなら、15分で交換作業が終了すれば満充電で客に渡せられると。
    単純計算で二倍のバッテリー本体が市場に必要そうですが、ディーラーの数も多いし、トヨタの考えそうなことだと思って読みました。
    背景には、EVが普及するとガソリン等の税金納付額が減ることから、運輸業界から走行税を定着させようとの魂胆があるのでは?
    と勘ぐってしまいます。

    1. 大倉様、コメントありがとうございます。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/battery-swap/
      乗用車に関してはバッテリー取り外し式は随分前からあります。

      さてトヨタさんの目論見ですが、これは確かに分からないですね。おっしゃる通り、ディーラーに対し、「電気自動車になったらディーラーで電池取り外して交換するからな」というアピールに過ぎないのではないでしょうか?実際にはディーラーに電池たくさん配置できるほどスペースないですし、自宅より高くなる電池交換は誰も使わないと思います。
      今後、集合住宅での充電がどうなるかで、諸外国では普及しなかった電池交換型の電気自動車が必要になるかどうか、影響があるかもしれませんね。本記事のようにバイクなら充分あり得ると思います。台湾のgogoroのような成功例もあります。

  6. 携帯できるポータブル電池パックの話題ですか、最近アマゾン等で「電気自動車も充電できる」大型ポータブルバッテリーが数社から発売されていますがいずれも容量1.2kWh前後で100V/1時間が限度で価格も10万円以上。あくまで万一の電欠への備えですよね!?
    個人的には3kWh程度で200V/15Aの出力があればと思います。100V/15Aと切り替えが出来れば家庭用ポータブル電源としても使えますが…重さと値段的にはまだ考えられないんじゃないですか!?といっても真にバッテリー交換式を進めたいならAC100/200Vで充放電可能じゃないと厳しい気がしますが。
    容量が問題なら5C放電対応1kWhの東芝SCiBポータブル電池を出せばいいです。とにかくEV充電可能+100Vポータブル電源+USB使用可で10万切ればバカ売れ普及すると見てますので。

    1. 自己レスですが…もう電動バイクの世界はスペアバッテリーを有効活用してますよ!!
      ヤマハe-Vinoはシート下にスペアバッテリーを搭載できますが、よりによって「ヤバイよ!ヤバイよ!」で有名な「出川哲郎の充電させて下さい!」ロケ使用車両じゃないですか!!(笑)一充電で20km程度しか走れなくても二つあれば40km走れることになりますよ。

      この際バイクメーカー同士で電圧電流蓄電容量などを規格統一してもらい汎用性を高め、それもポータブルバッテリーと共通化できれば生産こうすと安上がりですが。
      おそらくこの機会を奪ったのは高校生にバイクを使わせなくなった教育機関の仕業!!(爆)3ない運動が元凶でバイクが売れなくなり日本市場を衰退させたのは明白です!!だかすらこれは官製バイク叩きとしかいえません。
      ※それに反発した尾崎豊が「この支配からの卒業」と歌っていたのも覚えてます。ヒントは過去の音楽にもあるものさ!!

      「エネルギー補充は数分で満タン」にという燃料車の既成概念にとらわれないことこそが電気自動車発展の基礎だとラジコンミニ四駆から学んだ僕はバッテリー交換式は正直おすすめしません。そもそも機械工学的に100kgオーバーの電池を数分で安全かつ簡単に交換できないし、法的に電池の所有権も複雑になるし(物流のパレットにも同じことが言える)…まずは人間の意識や法体系など変えるべき点はいくらでもあるんじゃないですか!?

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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