テスラが10年以内に自動車産業の世界的リーダーになるかもしれない

電気自動車分野を牽引するテスラについてのサマリー記事を、フランス人起業家の Thomas Jestin 氏が公開しています。テスラにかなり寄った内容にはなっていますが、現時点での事実を体系的にまとめたものになっておりますので、日本語訳でお届けします。

始めに

テスラは自動車産業の中ではまだ小さい存在かもしれません。しかしその魅力と技術的なリード、生産数を伸ばすためのこれからのポテンシャルを考えると、10年以内に産業のトップになる器を持っているように見えます。

舞台は整った

現在世界では約20億台の自家用車とトラックが走っており、毎年約1億台が工場から出荷され、8000万台が売られていますが、この数値は長年の間安定してほぼ同じでした。

2018年、一番車両を売ったのはトヨタで、800万台以上を売り上げました。一方25位の Baojun(上汽通用五菱汽車の傘下)は90万台弱しか売っていません。

テスラは2018年に24万5千台を売りました。この若いブランドは市場の中では小さい存在です。しかしこれは表層的な数字で、その実テスラ車への需要は大きく、テスラは生産量を増やすために多大な投資をしています。具体的に見てみると、2018年、第2四半期から第3四半期の間にテスラの出荷台数は100%増加しました。多くの満足した顧客の口コミにより、テスラのこの努力は報われてさらに規模が大きくなっていくでしょう。

テスラ モデル3の最近の快挙の例

• 2018年: USでの小型・中型ラグジュアリー車両カテゴリーで売り上げ1位
• 2018年: USでの電気自動車カテゴリーで売り上げ1位
• 2018年第3、第4四半期: カリフォルニアで全ての車種カテゴリーの中で売り上げ1位
• 2018年第3、第4四半期: 全てのUSブランドの中で売り上げ1位
• 2018年第4四半期: 全てのUS内での車両売り上げで収益1位
• 2019第1四半期: USでのラグジュアリー車両カテゴリーで売り上げ1位
• 2019第1四半期: USでの電気自動車部門で売り上げ1位
• 2019年3月期: ノルウェー、オランダ、スイスそれぞれの国内全ての車両売り上げの中で1位(ノルウェーでは2位につけたフォルクスワーゲン e―ゴルフの6倍、オランダでは2位のフォード フォーカスの1.8倍)
• 2019年2月から3月: ドイツでの売り上げ成長453%

イーロン・マスク氏は2019年2月に、テスラが2013年に23,000台の車両を生産したのに比べ、その数は5年後の2018年に10倍の245,000台になっており、さらに2018年から2023年の5年間で同じ位の生産台数アップになると発言しています。=「私は、車両生産は2021年に110万台、2023年に300万台になると予想しています」

マスク氏が中国とヨーロッパに車を届けることはまさに悪夢のようで、「今までで最も難しい物流計画だった」と話しており、その困難の後のヨーロッパでの成功はとにかく素晴らしいものです。テスラが世界的な競争で負けるとしたら、とくにマスク氏が生産台数を大幅に増やし価格を下げる計画をしていることを考えると、このデリバリーの問題(注文された車両の出荷が大幅に遅れる事態が起こった)ではないと想像します。現在のベースモデル最低44,500ユーロという価格でも、上記のランキング記録のようにテスラには十分な競争力があります。

テスラのギガファクトリーは有名ですが、その第一号であるネバダにある施設は、世界で一番大きい面積を擁する建物になっています(容積の場合、ボーイング工場が一番になります)。各ギガファクトリーは年間50万台の車を生産できるように設計されています。2019年始めには中国で2つ目のギガファクトリーの建設が開始され、年末には工事が終わる予定です。3つ目のヨーロッパでの工場はドイツになるかもしれない、と最近ニュースになりました。

GIGA FACTORY 1

2018年の時点で、自動車メーカーとして300万台を生産していれば、テスラは世界のトップ10に入ることになりますが、実際は110万台の車両生産で、21位にランクインしています。

2023年にテスラが200万台生産すると仮定し、2023年から2028年の間にその数が5倍になるとすると、テスラは年間1000万台を生産することになり、世界でトップに躍り出ます(これはもしも車両への需要と他の自動車メーカーの生産台数が横ばいであれば、の話ですが、ここ数年の傾向を見ると妥当な予測と言えます)。

この予測には特に次の条件が必須です。

1. テスラ車への需要が増え続ける事
2. テスラが生産台数増加に成功する事

2つ目のポイントに対処するのは簡単でしょう。上で説明したように、ギガファクトリーの建設の方が今は重要です。テスラは既に一つ建設しており、後続のファクトリーはさらに良いものになるでしょう。障害があるとすればバッテリーの生産ですが、これは他の自動車メーカーにも影響を及ぼします。

現時点で、ギガファクトリーでパナソニックとの協力体制があるため、テスラはこのバッテリー供給問題を解決するには業界内で一番良いポジションにいます。他の自動車メーカーにはその豊富な経験と企業サイズという大きな利点がありますが、その見事な生産工場はすべて内燃機関エンジン車用に設計されており、純電気自動車体制に完全に移行するのは想像するよりも遥かに大変です。例えばアウディはe-トロンで問題を抱えています。(ちなみにe-トロンの充電時間はテスラ モデル3の倍かかります)

テスラ車には売れ続ける力があるのか?

さて、テスラ車への需要はどうなっているのでしょうか? マスク氏は2019年4月22日の Tesla Autonomy Day のこの動画で「今現在、7年前の2012年に発売されたテスラ モデルSと競争できる車は市場にありません!」と力強くアピールしました。ここでドイツのエンジニア、Alex Voigt 氏の2018年8月の記事からの引用です。

「そろそろどのドイツの自動車メーカーも、ガソリン車であろうが電気自動車であろうがテスラと競争できる立場にない、という認識を持つべきです。BMW、ダイムラー、ポルシェ、フォルクスワーゲン、アウディ、現在生産されているどの車も、さらに開発データに関しても、もしテスラと同等の車があるのならば、少なくともプロトタイプとしてお目見えしているはずです。

アメリカで起こった事が、ヨーロッパやアジアで起こらないとどうして考えられるのでしょう? すでに発表された未来のコンセプトカーやモデルの航続距離や充電ネットワークは、2012年から存在するテスラと同じ土俵に立てていません。

テスラが今までと同じように(自動車産業の常識を)革新し続けると考えて良いでしょう。現在のモデル3、S、Xがドイツメーカーの未来のプロトタイプよりもよほど優れているとしたら、5年、10年以内にこの産業を支配するのは誰になると思いますか?」

ウォールストリートの最も有名な金融ファームである Bernstein 氏はさらにはっきりと書いています。

「(テスラは)他に類を見ないブランドだ。ここではっきりしておきましょう、競争激化の時代は来ないでしょう。2022年までにUSで市場に出る電気自動車全ての総括をしましたが、それは厳しいものです。テスラには、目に見えた競争相手がいないのです。」

Citron Research 氏も金融分析ファームですが、長らくテスラに関しては懐疑的でした。しかし去年の10月に、この記事「テスラの物語は無視するには圧倒的すぎる」を書いて立場を改めました。

1月に、アメリカの非営利雑誌『Consumer Report』はテスラ モデル3を市場にある最も満足度の高い車として紹介しました。この記事ではテスラ車を運転する機会があった人達からの前向きなコメントを多く紹介し、テスラ車との変革的な経験と、未来へタイムトラベルしたような感覚、そしてその後で他の車を運転した後の「退行感」について書いています。

テスラはまったく広告を打たないたった一つの自動車メーカーという意味でも目立つ存在です。この点を鑑みると、テスラの成功はさらに素晴らしいものに見えます。

マスク氏はツイッターで「テスラは広告に費用を割きません。代わりにそのお金を、より良い商品を出すために使います。」と言っています。しかしテスラは最もポジティブな口コミが聞かれるブランドとなっています。それ故、車両そのものが改良され続けてさらに安くなり、需要が枯渇する事はないように見えるのです。

テスラの自動運転技術

そしてテスラをさらに魅力的にしているのはその自動運転技術で、小さな電気自動車マーケットだけでなく、自動車産業全体で勝ち組になれる大きなアドバンテージになるでしょう。

マスク氏は2月19日のインタビューで、自動運転技術に関して次のようにはっきりと述べています。

「今年中に自動運転の機能は完全なものになるでしょう。車はあなたを駐車場で見つけ、拾い、目的地まで勝手に連れて行ってくれるようになります。確信があります。”完全な機能”と言った時に、(無人の)完全自動運転とよくごちゃごちゃに考えられますが、車の中で眠りに落ちて目的地で起きることが可能な、完全自動運転が完成するのは2020年末になります」

そして Tesla Autonomy Day の後、『THE VERGE』のレポートで「それらの車がジオフェンス(バーチャルなフェンス)無しで、人間のドライバーがいないレベル5自動運転になるのか?」との問いに対して、マスク氏は「はい、ジオフェンスの制限があったらそれは本当の自動運転とは言えません」と答えています。さらに「2年以内に、テスラは恐らくハンドルとペダルが付いた車の生産を止めるだろう」とも発言しています。

彼の発言は自動車産業の他の会社のものとは一致しないので、しばしば観ている側を混乱させるものになります。

• Waymo:グーグル参加のこの企業は自動運転技術を牽引する存在の一つと見られています。CEOの John Krafcik 氏は、最近フェニックスでローンチする自動運転タクシーの数を最小限にしました。2018年11月の記事では、「この技術は本当に、本当に難しいのです。一般的になるには数十年かかるでしょう、運転者のいらない車両には常に制限があるのです。自動運転車にはこの先何年も人間のドライバーの助けが常に必要で、私にはどんな天候でも、ユーザーの関与が全くなく、テクノロジーのみで運転が行われる日が来るとは思えないのです」 と言っています。2013年から2016年にグーグルの自動運転車部門のディレクターだった Chris Urmson 氏も、2019年4月に「ドライバーのいない車両は次30年から50年をかけて道路に溶け込んでいくでしょう。」と発言しています。

• Cruise:2016年にゼネラルモーターズの傘下に入り、独自の自動運転タクシーを世に出そうとしていますが、どこで、いつになるかの具体的な計画は聞こえてきません。CEOの Kyle Vogt 氏は「自動運転技術は今世紀とは言わずとも次10年で最も難しいエンジニアリングの問題だ」と発言しています。

• Ford:CEOが2019年3月に、自動運転車の登場に関して簡単に考え過ぎていた、と発言しています。 フォードは自動運転車両の2021年のローンチの予定を変えてきていませんが、彼によると、「問題が複雑すぎるので、ジオフェンスと言うのですが、その範囲は狭いものになるでしょう」

• Uber:2018年の自車の死亡事故を受けて、試験運転を制限しています。Uberによる本当の自動運転車ローンチがいつになるのかとの問いには、チーフ・サイエンティストは「それは何十億ドルの質問ですね」と返し、「私が初めに学んだことは、タイムラインは無い、ということです」とも答えました。

• Nissan:人間が全く関与しない自動運転は不可能だ、という立場をとっています。日産シリコンバレー研究所の技術部門責任者は、「人間がまったく関わっていない自動運転システムを見せてください、そのお返しに役立たずの何らかのシステムを見せてあげますから」と発言しました。

実際問題、今までこの業界にここまで意見が分かれる問題が持ち上がった事はあるのでしょうか? マスク氏が正しいとすると、これは業界にとんでもない影響が出ます。

マスク氏は約束を達成してきた

さらにマスク氏は、約束をしたら遅れることはあってもそれを大概守ってきました。正直な所、彼の野心的な発言が正しいと証明されるのがほんの数年遅れたとしても、他の人々の発言を鑑みるにこれは非常に革命的なのではないでしょうか?

マスク氏が初期に約束した内容のいくつかをこちらで紹介してみます。

• ハイクオリティな電気スポーツカーを作る→ 達成(テスラ ロードスター)
• ハイクオリティでもう少し手が届きやすい値段の電気自動車を作る→ 達成(テスラ モデルS)
• ハイクオリティでさらに手が届きやすい値段の電気自動車を作る→ 達成(テスラ モデル3)
• 週5000台以上のモデル3を生産する→ 達成

さてここで、2019年4月22日に行われたTesla Autonomy Dayからの情報をまとめてみましょう。これを読めば、マスク氏の大胆な語録も腑に落ちるかもしれません。
※編集部注/EVsmartブログでも詳報しています。

ハードウェアについて

テスラは新しく自動運転用の車内搭載用コンピューターを開発。これはFSD(Full Self Driving)と呼ばれる2つの冗長性チップを組み込んでいます。冗長性とはセキュリティを保証するもので、「このコンピューターがエラーを起こす可能性は、誰かが意識を失うよりもよっぽど低いものになります。」とマスク氏は言います。

チップについて、マスク氏は「チップを今まで設計した事のないテスラがどうやって世界で一番の自動運転チップを設計したのでしょう? しかし客観的に見てもそれが起こったのです。しかも小さな規模での一番ではなく、大きな規模で、です。」と言っています。彼はこのために元アップルの Pete Bannon 氏率いるスターチームを雇い入れました。

新しい車内搭載コンピューターは現時点まで使われてきたコンピューターよりも21倍パワフルになる一方で(処理能力が110フレーム/秒から2300フレーム/秒になります)、新しいチップはNvidiaの技術をベースにした旧来のものよりも20%安くなります。

この新しいシステムはNvidiaの新しい競合ソリューション “Drive AGX Pegasus” よりも3倍エネルギー効率の良いものになります。(テスラの消費電力は1TOPSあたり0.49Wで、Nvidia の方は1.56Wになります。※TOPSとは trillion operations per second の略で、1秒間に1兆回の命令を処理できる能力を表します)

現在出荷される全てのテスラ車両にはFSDコンピューターが搭載され、2016年10月以降に購入した顧客もこれをインストールする事が出来ます。

このシステムは、その名の示す通り完全自動運転を可能にし、残りはソフトウェアを完璧にするのみです。(これについては後のソフトウェアに関する部分をご覧ください)

マスク氏は「素質のある誰かが私達がやっているのと同じ事を今日始めた場合、3年で私達のようになれるかもしれません。しかし私達は2年以内に、その3倍優れたものを手にしています」と話しました。

投資家で元ソフトウェア開発者の Steve Cheney 氏の文章を紹介させてください。

適切な半導体設計機能を作るには、甚大な努力を擁します。元々のニックネームがシリコンバレーであるにも関わらず、そこでは今日ベンチャー支援を受けたチップ会社は存在しません。才能のある設計者はQualcommやIntelのような、既存の保守的な企業に留まるのです。

チップ設計者が熱望するのは、彼らの設計が新しいタイプの問題を解決する事です。優秀なスタッフを集めてチームを作るのは、気が弱い彼らがしたい事ではないのです。

モデル3がまだ日の目を浴びていない時にテスラが実際に新しいチームを作り、資金繰りに走ったのは前代未聞の事でした。車の中にあるチップに関しては比較的パイが小さいので、他の自動車メーカーがこの市場に参入する事が出来ません。他メーカーのDNAには元々組み込まれておらず、市場の大きさ的にも参入する事が不可能だとすれば、他メーカーの方が全体の自動車数としては多いですが、それでも世にあるスマートフォンの数よりも二桁も少ないものなのです。

チップを開発するコストとリスクは高過ぎます。テスラが自分でこれをやってのけられたのは、“存在感を示す”戦略と共に、実際に夢を抱き挑戦する事を好む有能な開発者と設計者を雇用できた事の副産物によるものです。チップの製造は一般に語られていないテスラの戦略アドバンテージ(開発の秘訣、画像処理アルゴリズムの高度な最適化、データ・セキュリティ、予測分析AIなど)、を強固にするものになっています。そしてまだそれほど多くない車両は全て新しいチップとソフトウェアの “研究開発のリーダー世代” となり、テスラを2年以内にパワーアップするものとなります。

独自のシリコンバレー開発チームを擁する事により、マスク氏は自ら作成したソフトウェアによって出てくる新しい自動運転に関する諸問題にも果敢に取り組む事が出来るのです。

ソフトウェアについて

テスラは自動運転技術開発のためにディープラーニングを使っています。ここでテスラが非常に有利なのが、既に路上を走っている500,000台の車両全てにセンサーが装備されており、既にいくつかの自動運転機能が使われている、という点です。これらの車両が路上に出ている時のデータは全てこのディープラーニングアルゴリズムの学習に使用されています。

マスク氏によると、世界の自動運転走行の99%がテスラ車両によるもので、他の自動車メーカーすべてを合わせて残り1%となります。これは非常に大きなアドバンテージです。約500,000台のテスラ車はトータルで大体2500万キロメートルを毎日走っています。これは全てのWaymo車両が走行開始した日から全ての距離を足したものに匹敵します。テスラ車両が現在毎週5,000台ずつ増えていることを鑑みると、この数値は増え続けると言えます。

マスク氏は次のように説明しています。

「私達の強力で持続可能な武器は保有車両です。他の誰も私達のような車両群を持っていません。ニューラルネットワークは何十億マイルという自車の走行から得られたデータにより常にアップデート、改善されています。テスラは完全自動運転ハードウェアを備えた車両を、他の自動車メーカーすべて合わせたよりも100倍持っています。今の四半期終わりまでに、8台のカメラセットと超音波機能を備えた500,000台の車両を保有する事になります。そのうちのいくつかはまだハードウェアv2ベースになる予定ですが、それでもデータ収集能力はあります。

今から1年後、完全自動運転コンピューター、ハードウェアその他全てを搭載した100万台以上の車両を持つ事になります。これによりデータに関して非常に有利になります。これはグーグルが、多くの人が使用する事によって検索に関して大きなアドバンテージを得ている仕組みと同じです。グーグルはユーザーがクエリを入力し結果を見る事によって効果的にプログラミングされているのです。基本的に、各個人がネットワークに常にトレーニングを施している、という事になります。1マイル走る毎に、ハードウェアv2とそれ以降のハードウェアは自動的にトレーニングされるのです」

テスラを運転している人が自動運転モードを使っていなかったとしても、シャドーモードにより、実際の人間の運転行動と自動運転ソフトウェアがするであろう行動の比較や、実際に路上で起こる事とソフトウェアが「起こるであろう」と予測する事象の比較をする事により、自動運転機能を改善していきます。

テスラのAI部門責任者である Andrej Karpathy 氏は、産業内でもよく名の知られた人物です。テスラを含め全ての自動車メーカーはバーチャルエンジンを使ってシミュレーションを行っているのですが、完全自動運転を実現するための鍵となる実際のデータを、これだけ広くバラエティに富んだ内容で保有しているという点で、テスラは脚光を浴びる存在だと彼は指摘しています。マスク氏は言います。

「非常に良いシミュレーションも出来ます。しかし現実世界で起こるおかしな出来事から派生する事象全てを捉える事は出来ません。

現実の世界は本当に変でめちゃくちゃで、そんな場所を車は走るのです。シミュレーションでは、基本的に宿題の丸付け作業をします。自分が何をシミュレーションしているのか知っていれば、当然答えはあります。しかし現実世界は本当に変で、何百万もの想定外の出来事が起こるのです。もし現実を正確に再現してくれる自動運転シミュレーションを開発する人が出てきたら、それだけで歴史的な偉業達成となります。しかしそんな人はいません。出てくるはずがない」

想像出来得るすべてのシナリオをシミュレーションするのは不可能です。しかしテスラは競合他社よりも計り知れない程有利な立場に立っており、それは保有車両と現実世界で出くわしたすべての小さな出来事の積み重ねがあるからです。雨なのか雪なのか、路上で見つけたのはラクダか、カンガルーか、車輪のあるボートか、空中にある車か、上下に紐づけされたトラックか、この世のものには見えない工事現場か、などです。これらの一般的でない出来事を100%カバーするのは難しいですが、テスラは日を追うごとに99.999999%に近づく事ができ、競合他社を置いてきぼりにしていくのです。

マスク氏は、テスラのソフトウェアが使っている人工ニューラルネットワークの成長は飛躍的なものだと言います。それぞれの新しいソフトウェアの改善ポイントは、実際に運転されている保有車両に無線アップデートを通じて加えられます。マスク氏はこのような技術を提供できるがため、次のような発言をしています。

「消費者に今日伝えなければならない基本的なメッセージは、テスラ以外の車を買うというのは経済面から言って頭がおかしいという事です。3年以内に、それは馬を買う事と同等になると言えるでしょう。馬を買いたいと言うなら私は構いませんが、あなたが自分で予測できるそれなりの働きしかしない、という事です。テスラ車以外を買うのは正気の沙汰とは思えませんね」

テスラは現在、ディープラーニングアルゴリズム用に使う車両からの画像に、人工的に解説を加えていますが、これは “教師あり学習” と呼ばれています。しかしテスラはDojoと呼ばれるスーパーコンピューターの開発にも着手していて、これにより機械が自分自身で解説無しの画像内容を消化し、意味付けしてパフォーマンスの改善に役立てる事が可能になります(これはディープラーニング分野の権威である Yann Lecun 氏が “教師なし学習” と呼ぶものです)。

テスラがアルゴリズムとソフトウェアに関して持つ優位性について、Y Combinator(トータル800億米ドルの価値がある、Dropbox、Airbnb、Stripeを含む約1500の会社に投資したインキュベーター)の共同創立者である Paul Graham 氏のツイートをご紹介しましょう。

「古い自動車会社はテスラ車が電気で動くという点が自分達と違うと考えています。しかし違いはテスラ車がソフトウェアでもあるという事であり、古い会社は、それは橋を架けられない湾ほどの大きい隔たりだといつか気付くのです」

テスラのリードは競合他社が主要な技術的選択において袋小路に入り込んでしまったのが事実だとしたら、今見えているよりもよっぽど大きいものかもしれません。

テスラは主要メーカーの中で唯一LiDAR(レーザーを用いた障害物検出)を使っていない企業ですが、他社はすべて、これを技術的アプローチの屋台骨にしています。テスラは目に見えるものの解釈において視覚的なアプローチにフォーカスしており、これはもちろん私達人間が自分の目で行っているのと同じ事です。2016年10月以降に生産されたテスラ車はすべて8つのカメラ、12の超音波センサー、1つのレーダー(ラジオ派を使った障害物検知システム)を搭載していますがLiDARを使っていません。

マスク氏はLiDARを価格が高すぎる上に役立たずだと酷評しており、袋小路への近道だと言っています。

「LiDARは馬鹿な使いっぱしりで、それを使う人は全員破滅への一途をたどるでしょう。破滅です! 高価なセンサーで必要性のないものです。例えるなら多くの盲腸を抱えるようなものです。盲腸を一つ持つだけで充分悪いですが、それが複数? 見ていて下さい。全員がLiDARを投げ捨てるでしょう。これが私の予測です。私の言葉を覚えておいて下さい。車にそれを搭載するとはまったく馬鹿馬鹿しいことです、高すぎて不必要なんです。(テスラのAI責任者である)Andrej Karpathyが言っていたように、視覚に関する問題を解決したら、それに価値はありません」

LiDARは天気が悪い時には標識や信号機を読めず、上手く機能しません。完全自動運転の未来がどれだけ近付いているかに関する見解の相違は、この基本的な戦略と技術的な違いによって説明出来るかもしれません。

誰が正しいのでしょうか? もうすぐ時代が私達に教えてくれますが、マスク氏は自信に満ち溢れています。ヒントが欲しいですか? Waymoの共同創立者(退社済み)、Anthony Levandowski 氏は2019年5月に次のように発言しています。

「LiDARが答えだと確かに信じていました。しかし私より賢い人が、LiDARはただの松葉杖だと言ったんです…彼は正しい。そこに価値は無いのです」

マスク氏はLiDARの長所を知っています。スペースXのドラゴンカプセルには、マスク氏が直接監督してこれを埋め込みました。現在カプセルはロボットアームの助けなしに自分だけで国際宇宙ステーションにドッキングする事ができます。

テスラはまた高解像度地図にそれ程頼らないでおり、競合他社が地図を最新のものに常にしておこうと時間を割いているのと対照的です。環境はいつでも変わる可能性があり、地図を常に効率よくアップデートする事は出来ないので、マスク氏は目に見えるものに対するリアルタイムビジョンが一番重要で、高解像度地図はもう一つの袋小路であると考えています。

投資家で元エンジニアの Steve Cheney 氏の文章をここでまた引用させてください。これはマスク氏がテスラアルゴリズムの急激な進歩について話す理由についてで、LiDARに関連してきます。

テスラのデータ収集は一次関数的に増えていますが、人々が見落としている部分があります。全体のシステムの改善という面においては、その進捗は急激なカーブを描いていくもので、画像処理後の計算式とはそういうものなのです。

テスラにさえも語られていない部分というのは、データをより強固にするために、新しい数学的変換を彼らがどうしているのか、というものです。3D画像処理とは、データのフレームを繋げてその変換を新しいやり方で応用する、という事であり、現在この分野の研究はすべての分野に関わってくるため大きなウェイトを置かれています。

収集されたデータのマトリクス操作をより強固にするための複雑な変換数学のイノベーションは考えられない速さで進化しています。特に自動運転用には、画像の深度を検知するためのソフトウェアアルゴリズム用にフォーカスし、その進化は非常に速いです。先週アップされた、このコーネル大学からの疑似LiDAR深度予測がその内容を見せています。生の画像データから、疑似LiDAR平面図を作成し、その深度をモデル化します。その結果には彼ら自身も驚きました。

この補正を施した結果、これまでにない程高い水準で全ての方法に影響を与える改善が出来ました。この大躍進により、自動運転用の画像に準拠する3D検知機能は妥当なもので近い将来現実のものになると考えられます。この見通しから想像できる様々な可能性は大きなものです。現在、LiDARハードウェアはしっかりした自動運転のための追加オプションとしては最も高価なものです。これが無ければ、自動運転用の追加ハードウェアのコストは大きな問題ではなくなるでしょう。

Steve Cheney氏は次のように結論付けています。

マスク氏が自動運転用にLiDARを採用する事に懐疑的であるのは、ハードウェアレベルとして市場進出する際、半導体装置として誰かに商品化してもらい営利化してもらわないといけないからです。半導体サプライチェーンはLiDARハードウェアの値段を非常に高いまま据え置き、チップ会社が利益を得るのが経済学的に不可能な状態になってしまう、というのが真実です。LiDARの数は大きくなく、市場としては小さいものです。車産業の外で、誰がLiDARを必要としますか?ほぼ誰もいません。

LiDARのアプローチには欠陥があり、虚像に過ぎません。必要性が無く、3D画像処理数学が人間の目と同じくらい、収集されたデータで出来る事が増えてくると、廃れる技術となります。そしてLiDARの点・平面情報と実際目に見えるもののギャップは次3年間で埋まるでしょう。

テスラに好意的な最後のお話になりますが、2019年の5月中旬、世界で5番目に位置付ける日産AD/ADAS先行技術開発部の飯島徹也部長は次のように述べました。

「現在LiDARは最新のレーダーやカメラ技術能力を超えるものは持ち合わせていません。LiDAR技術が私達のシステム内で使えるレベルにあったら素晴らしかったのですが、そうではありません。そのコストと性能のバランスが悪いのです。」

100万台のロボタクシーが登場します!

最後に、今まで書いてきた事だけでは物足りない方向けにこれを書きますが、マスク氏は既に路上を走っている500,000台のテスラ車に加え、次の1年で500,000台がさらに売られ、これらの車が一晩で100万台の『ロボタクシー』と呼ばれる自動運転タクシー群になる事を約束しました。これは記事内前半で触れられた究極のアップデートによる完全自動運転を利用してのものです。

「1年後には完全自動運転、ソフトウェア、その他全てを兼ね備えた100万台の車両がお目見えします。この車両群は無線アップデートによってその目を覚ますでしょう」(イーロン・マスク氏の発言)

マスク氏が言うには全てのテスラオーナーは自分の車をタクシー群に加えるか抜けるか、テスラネットワークと呼ばれるシステムを通じて選ぶ事ができ、その操作はテスラアプリをタップするだけのものになります。オーナーは自分の車を使わない時に利益を生む事ができ、テスラも25%~30%の手数料を取ることによって収益を得ます。テスラはこれにより非常に収益性が高い企業になると、マスク氏は言います。

テスラ車両はテスラネットワーク内のみで稼働し、UberやLyftなどの他企業に使われる予定はありません。マスク氏は彼らに宣戦布告したのです!

ここまででマスク氏が言う事を真面目に聞く理由には事欠かないですが、この最新のニュースと時間軸に関しては疑わしいままであるかもしれません。特に、ロボタクシーで事故が起こった際に誰が責任を取るのか、という質問に対し、マスク氏がはっきりした態度を取らず、宿題をやってこなかったか生徒のように「恐らくテスラです」と答えた事を考えると……。

最後に

Tesla Autonomy Dayでは5〜6年以内に路上に1000万台という目標を宣言しました。

自動車産業は現在3つの課題を抱えています。

• 電動化への移り変わり
• 自動運転
• ビジネスモデルへの不安=人々は車を将来も所有するのでしょうか? もしくはタクシーを主に使うようになるのでしょうか?

テスラは明らかに1つ目に関してリードおり、2つ目に関しても技術的にかなり先を行っているように見えます(本当にすぐその実際のところが見られるでしょう)。そして3つ目に関しても確かなビジョンを持っています。

テスラ モデル3がヨーロッパで売られ始めましたが、多くの国で既に最も売れたモデルとなっています。需要があり、絶賛を集めています。テスラがしなければならないのは、ギガファクトリーの建設のように見えますが、それも既に計画されています。

マスク氏はよくTwitter上での不適切発言で注目を集め、テスラも更に資金を調達しなければならないかもしれませんが、一番難しいパートは既にクリアしているように見えます。現在のペースで加速していけば、10年でテスラは世界のトップになると思われますし、もしかしたらその時期はもっと早いかもしれません。

2011年、Mosaicの共同設立者である Marc Andreessen 氏はウォールストリートジャーナルに「何故ソフトウェアは世界を食い物にしているのか」という記事を寄稿し、物議を醸しました。この記事ではソフトウェアが必然的、根源的にすべての産業を次々にどうやって変えていくのか論じられています。

現在まで、一般の人々の目にはソフトウェアは「一貫性のない」エンターテインメントでありコミュニケーションでした。Microsoftを通じてコンピューターにアクセスし、Googleで情報を検索し、親戚とはFacebook、Skype、Whatsapp等を通じて連絡を取ってきました。

リテールはAmazonの波に乗っています。しかしこれだけ時間が経って、Jeff Bezos 氏のファームがeコマースを支配しても、そのシェアは大きく見積もって10%に過ぎません。

自動車セクターは、オフライン経済としては完全にソフトウェアに影響された、最初のBtoC産業になるかもしれません。

テスラが10年以内にトップになる確率は更に高いものになります。テスラが検索においてのGoogleやeコマースにおいてのAmazonのようになり、市場を独占する可能性は高いと言えます(消費者にとって最悪の事態になるとは限りません。Amazonは市場を独占しましたが低価格、広いセレクション、迅速な速達を提供しそれを証明しました。)

1世紀に渡る、自動車メーカー同士の苛烈な競争を見てきた私達にとって、これは中々受け入れ難いものかもしれません。しかし自動運転は産業内の新しい水平線のようであり、もしテスラがベストなソフトウェアと莫大でバラエティに富むデータベースを他の追随を許さない規模で持っているとしたら、そして他の誰よりも速いスピードでさらにそれを進化させていけるとしたら、ギガファクトリーと共に(上海工場は今年末までに完成)、生産量も大幅にアップできるとしたら…世界がひっくり返るかもしれません。

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元記事著者プロフィール

Thomas Jestin

シンガポール在住のデジタル起業家。テクノロジー分に精通しており、Live With Al think tank(http://livewithai.org/)の役員

Twitterアカウントは

https://twitter.com/thomasjestin

ウェブサイトは

https://www.thomasjestin.com/

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(翻訳・文/杉田 明子)


2 thoughts on “テスラが10年以内に自動車産業の世界的リーダーになるかもしれない”

  1. なんか、イーロンマスク氏の予言が随分現実味を帯びてきましたね!
    テスラに勝てる会社を探すのが難しい気がします。辛うじて日産が対抗馬として上げられる程度ですが、社長交代でどうなるやら?ですか。
    過去とのしがらみが少ない自動車製造会社が生き残るのであれば、カルロスゴーン氏がもう少し日産に居れば可能性があったかもしれませんが。
    EVを実際に製造し、充電網を整備拡大しつつ自動運転に前向きに取り組んできた会社はテスラと日産以外にあまり思いつきません。ただその日産もまだ完全自動運転にはしないと思いますが。

    パソコンで言うならIBM・デル・HPなどのDOS/V勢が日本のNEC(PC-9800シリーズ)の牙城を崩した過去の逸話を彷彿とさせませんか!?漢字ROM必須といわれた日本語の障壁すらDOS/Vはソフトで克服したのですから!

    モノにはハードとソフトがあり、いくら優れたハードでもソフト(操作)が伴わなければただの箱。パソコンに続き自動車の世界もそうなっていくんでしょうかねぇ!?

    結論:テスラは自動車メーカー界の「黒船」だ!ww

  2. テスラは、BEVと自動運転という「今までと全く違うもの」として成功している。モデルS/Xは高額だけど、この特殊な部分に興味を持った人が買うから他社と競合しない。質感がとか、ボディのチリがとか、うるさい事を言う輩もいない。 「キワモノ」という絶対的なプレミアムの前では、他の評価基準は意味を失うのだ。

    でも、既にジャガーがI-PACEを発売し、アウディ、ポルシェ、ベンツ、BMWと高級BEVの発売が続くと、BEVと自動運転は「特殊な」ものではなくなってくる。 テスラに知見、経験のアドバンテージがあるのは確かだが、消費者から見ると、製品の区分としては一緒の「普通の自動車」になる。 そこから先は、他社との競合が始まる。 質感など、テスラにも不得意分野があるのは明らかだ。

    今までのようなプレミアムを維持するためには、第三の矢となる「他社にない先進性」が欲しいところで、自動タクシーになりますはその一つの試みなのかも知れない。

    けど、これはどうだろう? 決して低価格車でないテスラを購入する所有者層が、誰がどう使うか判らないような危険を犯して、自動タクシーで小銭を稼ぎたいと思うのだろうか? あるいは、もっと低価格車を出して、そこで実現するつもりなのだろうか?

    何となく、必死に次の何かを探しているが、なかなか厳しいのではないかと心配になる。この報告のように、テスラの将来は簡単なものとは思わないけど、だからこそ頑張って欲しいなと思う。 一応、私もテスラファンなので。

    推理小説の書き出しでは、飼い犬が散歩道で屍体の一部を咥えて帰って来るなんてのがあるが、近い将来、小銭を稼ぎに行った自家用車が屍体を乗せて帰ってきた、なんて小説が出る時代が来るのかも知れない。

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