世界のトップ自動車メーカーとEVプラン

世界的に徐々に電気自動車マーケットが拡大してきていますが、各自動車メーカーはどのような戦略を練っているのでしょうか。Zachary Shahan氏が、自動車メーカー世界大手トップ10の電気自動車プランの分析をしています。

世界のトップ自動車メーカーとEVプラン

元記事:Zachary Shahan『World’s 10 Biggest Automakers & Their EV Plans』on CleanTechnica

※トップ10に入る日産及びルノーに関しては、現在のルノー・日産・三菱アライアンスの先行きが不透明な為本記事では割愛しました。

テスラがリードするEVマーケットは爆発的に大きくなってきています。現在アメリカで年に約1700万台、世界で約1億台の自家用車が売られていますが、2030年までにテスラだけでこの台数を生産できるようになるというのは到底無理な話です。ご存知のように、中国の自動車メーカーは電気自動車生産においてアメリカやヨーロッパよりもかなりスピードを上げているのですが、それでも世界を席巻するのにはまだまだ時間がかかりそうです。

例えテスラが次の10年ちょっとで、年間1000万台を生産できるようになったとしても、他メーカーが電動化しなければならない車両の数は年9000万台に上ります。

急速な電気自動車へのシフト(と、それに伴うクリーンテクノロジー)が求められており、これに失敗すると私たちは大変な危機に瀕します。そういう訳で、言いたいことは1つ「大手自動車メーカーにテスラの後を追ってもらう必要」があります。

ここに世界の大手自動車メーカートップ10のEVプランをまとめておきます。

1.トヨタ(売り上げ1千10万台、時価総額1700億ドル)

2017年の終わりに明らかにしたところによると、2020年代初頭までに10以上の純電気自動車モデルを世界で売る計画です。最低でも約1兆5千億円(130億ドル)を2030年までにバッテリー技術に投資する予定です。

より最近の2018年4月の発表では、2020年の終わりまでに10の電動化モデルを出す目標を掲げました。「電動化」の意味としては、純電気自動車、プラグインハイブリッド、その他従来のハイブリッドモデルも含まれています。トヨタはプラグインモデルもここに含んでいるようです。

現時点で、トヨタは純電気自動車を売り出していません。トヨタ車の中で一番大きなバッテリーを積んでいるのはたった一つのプラグインモデルであるプリウスPHVになります。

次にトヨタが出す3つの車両は中国で2019年に発売されるカローラとレビンのPHEVバージョン、続いて2020年にC-HR又はIZOAをベースにした純電気コンパクトSUV車になります。

トヨタからの発表内容に矛盾が多いため、次の3~5年の間にいくつの純電気自動車やプラグインハイブリッド車が市場に出てくるのかは今の所不透明です。更に中国の外(北アメリカ、ヨーロッパ、南アメリカ、アフリカ、オーストラリア)でいくつの純電気モデルが売られるのかもはっきりしません。分かっているのは、中国が強いEV政策を打ち出したことによるアジア重視の姿勢です。トヨタの最初の純電気自動車は中国で売られ、次いで日本、インド、アメリカそしてヨーロッパと拡大されていくでしょう。

さて2020年、2025年、その先までにトヨタはどの位のバッテリーを供給できるのでしょう?答えはまだ分かっていません。予測では、電気自動車生産に無理やり直面させられたすべての自動車メーカーが今までできなかったように、しばらくは需要に応え得る量は供給できないと思われます。追記: トヨタは2030年までに年間100万台の純電気自動車(BEVとFCEV)を売る目標を掲げました。

結論として、トヨタが数年で年間100万台の電気自動車を売るようになりはしないでしょう。もしそうなったとしても、100万台の車両に供給するバッテリーがありません。トヨタには頑張ってもらいたいですね。

2. フォルクスワーゲン(売り上げ1千10万台, 時価総額 780億ドル)

純電気自動車に一番積極的に取り組んでいるように見えます。このドイツの巨大企業は2025年までに50の純電気自動車モデルを生産予定です。そのため、2022年までに350億ユーロ(400億ドル)を電気自動車技術、主にバッテリーに投資する意向です。

2025年までに年間約200~300万台の電気自動車を売る予定で、これは企業の売り上げの20~25%に当たります。

これらの目標を念頭に置くと、2025年までにテスラを追い抜くのはフォルクスワーゲンが最有力に見えます。しかしながら、2025年までにテスラが年間300万台を売るようになっているケースも現実味をもって考えられます。言い換えると、高い確率でどの自動車メーカーもテスラを追い抜くことはできないかもしれないという事です。

フォルクスワーゲンに関して1つポジティブに考えられるところは、彼らがプラグインハイブリッドで時間を浪費せず、純電気自動車に一足飛びに踏み込もうとしている点です。これもフォルクスワーゲンが電気自動車を未来だと考えており、数年でその未来のリーダーになりたがっていると見られるポイントです。

フォルクスワーゲングループが現在売っているプラグイン車は、6つのプラグインハイブリッドと、ヨーロッパでそこそこ売れており他の地域ではかなり販促数が少ない2つの純電気自動車となります。年100万台を売るにはまだまだ長い道のりを行かねばなりませんが、1年後、2年後にどうなっているか見ものです。

※追記: 2018年12月4日のこの記事によると、フォルクスワーゲングループに属するアウディは2023年末までに、新たにEモビリティ、デジタル化、自動運転技術へ単体で140億ユーロ(160億ドル)の投資を行うプランを発表しました。

2025年までに約20の電動化モデルを生産し、そのうちの半分が純電気自動車になる予定です。初めにリリースされるのがアウディ e-トロン SUV、次にそのスポーツバックバージョンそしてe-トロン GTと続きます。

3. ヒュンダイ/キア(売り上げ790万台、 時価総額300億ドル)

3位にランクインするとは意外かもしれませんが、ヒュンダイ/キアグループはハイブリッド、プラグインハイブリッド、純電気モデルを作っています。純電気自動車が、会社自身の予想を大幅に上回った人気を得たのですが、バッテリーが足りずに思うようにセールスができていません。世界中どこでも、ヒュンダイかキアの純電気自動車を手に入れるのは非常に難しくなっています。

他の会社の様に2017年末に長期計画の大きなアナウンスがありました。8年以内で38の「グリーンカー」モデル(そのうち7つは5年以内)を市場に投入する予定です。これが意味するところは、38モデル中31は6~8年以内に作られるという事で、ヒュンダイ/キアはスタートラインを丁度出た所という事です。

あるレポートによれば、これらのモデルの大半が純電気モデルになるようです。2017年前半に出た別のレポートによると、当時の目標の31モデル中8つが純電気モデルになる予定でした。このレポートには、ヒュンダイ/キアはグリーンカーセールスにおいて2020年までにトヨタに次いで2位を目指すとも書いてありました。しかし、売り上げの何割をプラグイン車や純電気自動車のターゲットにするのかが不明であり、更に既存のハイブリッドカーはもはやグリーンカーとして考慮されなくなってきています。

ヒュンダイ/キアがどのくらいの投資額を電気自動車開発やバッテリーに投入するのかも分からず、先数年の、全体の売り上げの何割をプラグインモデルから得ようとしているのかもはっきりしていません。

4.GM(売り上げ780万台、 時価総額460億ドル)

GMはアメリカ国内でEVの20万台販売を達成するであろう2番目の企業で、これによりEVに対する連邦税額控除撤廃の引き金を引くことになります。そうは言っても、シェビーボルトEVとシェビーボルトPHEVの今年の売れ行きは大不振に終わりました。

GMは2020年までに10のEVモデル、2021年から2023年までに更に10のモデルを中国で出す予定です。これらのEVのいくつかはアメリカとヨーロッパで販売されると思われますが、まだその情報は入ってきていません。

注目しておきたいのは、これら20のモデルは全て純電気自動車(「電動化された」ハイブリッドではない)で、更にそのうちのいくつかは燃料電池自動車(FCEV)になる予定です。FCEVに関しては個人的にお金と時間の無駄に思えますが、現時点ではそういうプランです。

GMのCEOであるメアリー・T・バッラ氏は、GMが2021年までにバッテリーのコストを100ドル/kWhにまで下げる事を目標にしていると発表しましたが、テスラは既にこの数値を今年のうちに達成しています。

GMのバッテリー技術への大きな投資に関しては、2800万ドルをバッテリー開発及び試験の為にデトロイトの研究所に予算を分配したことは分かっていますが、それ以外は特に情報が入ってきておらず、GMが最終的にバッテリーに大きな投資をしてコストダウンを目指すのか、LG Chemのような第三者機関に頼るつもりなのかははっきりしません。

これに関連してバッラ氏は更に、GMが「利益の出る」EVを2021年までに生産する事を目標にしていると示唆しました。これもテスラを追随する動きで、テスラは四半期利益報告書を出したばかりでこれを達成しており、これからも半永久的に利益を出し続けると見られます。

以上を踏まえると、GMの2020ないし2023年までの目標はそこまで高くないと思われます。恐らく2023年までに年間100万台というところでしょうか。

【関連記事】
『GMが「ハイブリッド車は終わり」と明言。20車種以上のEVを発売へ!』

5. フォード(売り上げ640万台、 時価総額360億ドル)

フォードは自社の象徴的な車種マスタングを除き、アメリカ国内での自家用車から撤退することになりました。テスラがほぼ全体を飲み込み始めた市場から撤退して、効率の悪いトラックやSUVに専念する事にしています。

フォードからの大きなアナウンスが2018年1月にありましたが、それによるとフォードは2025年までに40の電動化モデルを売り出す予定です。しかし問題がいくつかあり、1. 多くのモデルが中国のみで販売予定、 2. 「電動化」は既存の、時代遅れでプラグインではないハイブリッドモデルを指していて、実際は40のうち16種だけが電動化モデルになります。現在2つのプラグインを含む3つしか無い電動化モデルより数は増えますが。

これらのモデルの1つがSUV車になるようですが、他の車種と同様価格、グレード、生産量等何1つ分かっていません。フォードのEV部門がまったく上手くいっていないことを考慮に入れると、2025年まで、2023年のみで見てもあまり期待はできないでしょう。実際、フォードのかなり遅いEV参入スピードを見ると、2023年までに財政状況を悪化させないでいられるのか疑問に思います。

フォードがミラクルを起こして電動ピックアップトラック部門のリーダーになる期待もありましたが、電動化されたフォードF-150はただのハイブリッド車になるようで、電動化されたマスタングに関しても同様です。率直に言って、マスタングはテスラ Model3と競合できるレベルに無さそうで、明るい未来は見えません。

フォードの電動化モデルへの投資は2022年までに110億ドルに達し、2015年に約束した2020年までに45億ドルという数値より遥かに大きいものになっています。他の自動車大企業と同レベルの投資額ですが、2025年までに400億ドルを投資するとしたフォルクスワーゲンよりはかなり低い数値になっています。2022年から2025年の間に更に290億ドルを投資すればその限りではないですが。

フォードがテスラと肩を並べて年100万台の電気自動車を2020年、または2030年までに売れるようになることはないでしょう。2025年でもあやしいところです。

6. ホンダ(売り上げ500万台, 時価総額470億ドル)

あまりここでコメントできる事はありません。2020年までにコンパクトEVを生産する予定で、中国を念頭にいくつかの電気自動車モデルを出す必要に迫られるとも思います。

2017年に、ホンダは2030年までの展望のようなものを明らかにしましたが、これが意味するところはホンダは電気自動車の動きに対し非常に動きが鈍かったという事です。電気モデルの2020年、2023年、2025年までのビジョンが見えてきません。

ホンダは2019年の始めに,その年の後半に生産開始するアーバンEVの受注を始める予定です。更に中国がターゲットのホンダ Everus EVがありますがその先のプランは不明です。

ホンダがビジネスから撤退しないとして、この企業からの注目に値するEV車を見るには2030年まで待たなければならないでしょう。その見通しも悪いのですが。

7. フィアット・クライスラー(売り上げ470万台、時価総額250億ドル)

最近亡くなったフィアット・クライスラーのCEOセルジオ・マルキオンネ氏は車両電動化に強力に反対していました。500eはカリフォルニアでとても人気がありましたが、他の場所ではほとんど売られていませんでした。更に会社は、崖っぷちに追い詰められるまで、電動化には手を付けないのがベストなアプローチだとしていました。

クライスラーはその後プラグインハイブリッドのパシフィックミニバンを発売し、他のバージョンのパシフィックにも負けない人気を獲得しました(EVモデルの方がオプションが良いので、正直何故他のバージョンが売れているのが分からないのですが)。

車業界に残りたかったら電動化を真剣に進めなければならないのが明らかになり、Steve Hanley氏の記事によるとフィアット・クライスラーは今年「電動モーターを使う車を生産する」ことに90億ドルを投資すると発表しました。企業イメージを良くするために、2020年までにある程度の電動化された30のモデルを生産するようですが、これらの2、3のプラグインハイブリッドを含め、ほとんどが既存のハイブリッド路線を行くようです。中国とヨーロッパの交通政策が動きを左右するでしょう。

8. グループPSA (売り上げ320万台、時価総額210億ドル)

GMからオペルを買い入れた後、電動パワートレインやモデルに期待していたような価値を見出せず、電気自動車生産に関しては後塵を拝したPSAですが、現在どうしているのでしょうか?

プジョー、シトロエン、DS、オペル、ボクスホールを擁するグループPSAは、2019年から2年以内に15の電動化された新しい車両を発売すると発表しました。そのうち8つはDS 7 クロスバックE-テンス 4×4、プジョー3008、プジョー508、508 SW、シトロエン C5 エアクロス、ボクスホール グランドランド X、オペル グランドランド Xで、これに7つの別のモデルが加わる事になります。そのうちの1つが最近発表されたDS 3 クロスバック E-テンスで、新世代の電気モデルとなります。更にエレクトリック シトロエン C4が2020年に出るようです。

これらのモデルが果たして市場競争力があるのか、バッテリーの供給は十分にできるのか、そもそもグループのターゲットは何万台なのか等、EV課が4月に急拵えで作られた事を考えると楽観視はできませんが、今後に期待しましょう。

(翻訳と文:杉田明子)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. リーフオーナーですが、現在の航続距離について電池容量には限界を感じています。思うに全く新しい素材を使った新型電池か、モーターの効率化、若しくはトランスミッションの搭載が考えられます。現実的には、モーター出力は十分あるので、トランスミッションを付け回転数の制御をして航続距離を伸ばす事が必要と私は思っています。

  2. カローラとレビンのPHEVバージョン
    とありますが、レビンが復活するのですか。

  3. EVに搭載されるモーターの動向はどうなるでしょうか?
    昨年のロスのモーターショーのプリュウスは磁石レスを出品したと報道されています。
    また、アウディのEVはIMと言われています。
    日本電産が販売するモーターは磁石レスと報道されています。
    世界の流れは磁石レスの流れでしょうか?

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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