ベントレーのPHEV『ベンテイガ』に感じる電動化の激流

ベントレーがSUVモデルの『BENTAYGA(ベンテイガ)』にプラグインハイブリッド車(PHEV)を追加。量産第1号車がデリバリーされたことを発表したのは、2019年10月1日のことでした。庶民には縁遠いブランドではありますが、このニュースには欧州を中心に広がる「電動化」への本気を感じます。

ベントレーのPHEV『ベンテイガ』で読み解く電動化の潮流

ベントレーで初となる電動車

2019年10月1日、英国の高級車ブランドとして知られるBENTLEY(ベントレー)が、ブランドとして初めてとなる電動モデルとなる『BENTAYGA Hybrid(ベンテイガ・ハイブリッド)』を、英国、Crewe(クルー)の本社工場から出荷。ユーザーへのデリバリーが開始されたことを発表しました。

「ハイブリッド」と命名されていますが、外部から充電可能なプラグインハイブリッド車(PHEV)です。デリバリー開始を伝えるニュースリリースの中で、同社幹部の Peter Bosch氏は「ベントレーにとって最初のハイブリッドモデル提供は歴史的な瞬間であり、真に持続可能な高級モビリティソリューションの展開に一歩近づきました」と言及。高級車ブランドだからこそ電動化を必須の課題と考えていること、また、欧州の認識では「持続可能なハイブリッド車=外部充電可能なPHEV」であることがうかがえます。

日本への導入はどうなのか? ベントレーモーターズジャパンに問い合わせてみましたが「検討中ですが、導入時期などはまだ未定」とのことでした。

ベンテイガ・ハイブリッドはどんなPHEVなのか

日本では当面正規輸入はされないベンテイガ・ハイブリッドですが、どんなPHEVなのか。概要を紹介しておきましょう。

価格は13万3100ポンド(約1900万円)から。新開発の3.0リットルV6ガソリンターボエンジンと「Eモーター」を組み合わせ、最高出力は330kW(449PS)、最大トルクは700Nmを発揮。0-100km/h加速が5.5秒、最高速254km/hのパワフルな走りを楽しめます。もちろん、完全にEVモードでの走行も可能で、Eモーターのみの出力は94kW(128PS)、トルクは350Nmとなっています。

搭載するリチウムイオン電池は17.3kWh。EVモードでの一充電航続距離は39km(WLTP ※EPA値推定約35km)と発表されています。17.3kWhの電池で39kmということは約2.25km/kWhでいくら何でも電費が悪すぎないか? と、イギリス向けのウェブサイトを確認してみたのですが、たしかに「Electric All Equivalent Range: 24.2 miles, 39 km」「Electric All Equivalent Range (City): 26.7 miles, 43 km」と記載されています。うまく探し出せませんでしたが、何かエクスキューズがあるのかも知れません。

ともあれ、走行中のCO2排出量が「79g/km」、燃費が「3.5ℓ/100km=約28.5km/ℓ」というのは、ベントレー史上、最もエコロジーな性能を達成しています。

2018年3月に発表されたリリースによると、家庭での充電用には著名なインダストリアルデザイナーである Philippe Starck氏と協力して「Power Dock」という家庭用充電器を提供するとしています。テスラ、ポルシェ、メルセデス、ジャガーなどに加えて、世界に名だたる名車ブランドのデザインによる家庭用充電器が出てくるわけですね。汎用性がなんとかなるなら、中古リーフユーザーの私も充電器だけはベントレーで、なんてことを選択できるようになるといいなと、ちょっと妄想しました。

同じリリースの中で、ベンテイガ・ハイブリッドには低出力用と高出力用、2種類の充電ケーブルが付属すること、また「家庭用コンセントからの充電に7.5時間」「産業用電源(industrial connection)を導入していれば2.5時間」という充電時間が示されています。イギリスの一般家庭の電圧は240Vだと思うので、15A、約3kWの出力で充電しても17.3kWhは約6時間程度で満充電になるはずなので、ちょっと謎です。まあ、このあたりは日本導入時に日本でどうなのかをしっかり確認したいと思います。

【追記】記事公開後、EVsmartBLOGチームリーダーの安川さんから「イギリスは230V、そしてコンセントはBS1363規格で、13Aまで。すなわち10A連続なので2.3kWです」という指摘をもらいました。17.3/2.3=約7.5。なるほどですね。

名車ブランドのラインアップにPHEVやEVが続々と登場

くしくも、2019年はベントレーが創立して100周年という記念すべき年。ベントレーでは「次の100年」に向け、完全電気自動車のコンセプトカー『EXP 100 GT』を発表するなど、電動化への本気を示しています。

電気自動車『EXP 100 GT』(コンセプトカー)

ベンテイガ・ハイブリッドがデリバリー開始というニュースに接して感じるのは、ことに欧州メーカーを中心にして、あれよあれよという間に高級車&名車ブランドにPHEVやEVのラインアップが整ってきたことです。

電動化への大胆なシフトを発表したフォルクスワーゲンはもちろん、メルセデス・ベンツやBMW、ボルボなどでも、フラッグシップをはじめとした多様なモデルにPHEVという選択肢が用意されるようになりました。

●電気自動車メーカー一覧(EVsmart)

ポルシェが『カイエン』のPHEVに続いて電気自動車の『タイカン』を発売。『フェラーリ初のPHEV「SF90ストラダーレ」ウルトラマンカラーで日本初公開!』で紹介したように、あのフェラーリのフラッグシップともいえるモデルまでが電動化されました。

また、メルセデス・ベンツは『EQ』、BMWは『i』や『BMW PHEV』と差別化したカテゴリーを設けて、電動車の価値や魅力を訴求しています。そして、こうした「流れ」には、充電できない、ただの「ハイブリッド」は含まれていません。

ITとの合流で、どんどん流れが速くなっている自動車の世界。当然といえば当然ですが「21世紀に間に合った」ハイブリッド技術では、「脱炭素」を掲げて猛進する世界の中で、すでに時代遅れになっているのかも知れません。

先日、COP25で今でも石炭火力発電所を建設し輸出している日本への批判が高まっている中、梶山経済産業大臣が記者会見で「石炭火力発電など化石燃料の発電所は選択肢として残していきたい。エネルギーのベストミックスに向けて、すべての選択肢を考えることは重要だ」と発言してニュースになっていました。もちろん間違ってはいないのでしょうが、正直「生ぬるさ」を感じます。

脱炭素という目標に対して、世界、ことに欧州は「もっと本気なんだよなぁ」と、そんなことを考えさせてくれるベンテイガ・ハイブリッドのデリバリー開始なのでした。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 安川さん、こんにちは。EV確かに支持しますけど、充電インフラもっとしっかりしないと、高速のSAに40kw一台では話しに成りません!きょうも、三菱のchademo 14kwしか出てないし、SAは土日充電待ちで並んでるし、このままだとエクステンダーの小型発電機タイプのロータリーエンジンが必要。ディスプレイ上には走り切れる距離でも、渋滞が長引く恐怖。登りが続く道。普及すればするほど今すぐ解決できない問題に直面します。BMWのIの考え方は間違ってない。今から5年でインフラも充電速度も解決は難しいと思いますが。SAに170kw を8台設置しないと今のガソリンと比例しない。その現実より自車発電のが現実的ではないか。7、80キロ走れればなんとかなる。PHVはEV走行が短すぎてco2抑制貢献できないし。ガソリンのロータリーエンジンでなくエタノールで混合でどうでしょうか。兎に角充電がボトルネックになるのは間違いない。車としてはおっしゃる通りいい機械です。パワーサプライはスーパートルクフルで、低重心。静かさ、スムーズ。このままだと、PHVもEVも所有しててるがもう一度ガソリンに戻るかIにするか、AMGは疲れる。

  2. 規制や法律もありますが、結局ev,phevが普及するかは市場が決めることのように思いますね。現在の技術ではガソリン車以上に消費者にとってコスパが良い(=トータルコストが安い)evは作れないので、evは普及しないのでしょう。

    ただそれでも環境問題をなんとかしなきゃという中で日本政府がやる気ないのはいただけませんね。日系自動車会社もトヨタ以外はもはや日本市場を重視していないので法整備に積極的に関与しないと思いますし、悲しいことに遅れているよいうよりもはや放置されている感が強いです。。。

    1. いつも読んでます 様、コメントありがとうございます。
      プラグインハイブリッドはコスト高いのは当たり前だと思いますが、電気自動車はコストはガソリンより確実に安くなると考えています。こういう予測もありますし、
      https://blog.evsmart.net/ev-news/electric-vehicles-cost-parity-in-2022/
      普通に考えて、部品点数が1/3で、またソフトウェアによっていろいろ物理的な部品を代替できるのも大きいかと。例えば回生ブレーキのソフトウェア制御により、ブレーキパッドやディスクの減りはほぼ無くせましたし、結果発生する錆もソフトウェアでちょっとブレーキングさせて除去できています。厳寒時にバッテリーを温めるためのバッテリーヒーターも、インバーターに、モーターは動かず、最も損失の大きい波形を送ることにより、熱を発生させることで部品を代替できています。トラクションコントロールも電気自動車ではほぼソフトウェアのコードで実装されているようなものです。
      今まで機械部分の組み合わせで作られていた繊細なハードウェアが、繊細なソフトウェアにより置き換えられています。これによるコストダウンは劇的なはず。自動車メーカーは今すぐ考え方を変えて、スピードを上げないと、あと数年で発生する逆転現象に頭を悩まされることになるのではないかと危惧します。

      ベントレーももっと電池が改良されれば、完全電気自動車にシフトしたいに間違いありません。そっちのほうが明らかに静粛で、スムースで、長距離を快適に移動でき、かつ暴力的な加速も提供できるからです。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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