ドイツの化学大手BASFが大規模な電池材料工場建設〜欧州は動いています!

2019年12月10日、ドイツの化学メーカーである『BASF』が、ドイツ国内に大規模な電池自動車用電池材料の工場を建設することが明らかになりました。さらに、EU(欧州連合)の委員会はリチウムイオン電池の開発に加盟7カ国が最大で総額32億ユーロを助成する計画を承認したことを発表しました。電気自動車時代に向けて、ヨーロッパが激しく動いています。

ドイツの化学大手BASFが大規模な電池材料工場建設〜欧州は動いています!

BASFが電池材料の工場建設を表明

まだ日本ではほとんど報じられていませんが、ドイツの化学メーカー大手「BASF」が、ドイツ東部のブランデンブルク州にあるシュワルツハイデ工場に、約5億ユーロ(約602億円)を投じてリチウムイオン電池用正極材(カソード)の大規模工場建設を計画していることが欧州メディアの報道を追認するかたちで明らかになりました。BASFは世界最大規模の総合化学メーカーです。BASFではすでにフィンランドに年間30万台分の電池材料を生産する工場建設を進めており、2020年には生産開始を予定しています。今回、ドイツ国内での新工場建設計画は、BASFがさらに本腰を入れて自動車用リチウムイオン電池の大量生産に乗り出すことを示しています。

ブランデンブルク州といえば、先だってテスラがギガファクトリーを建設すると発表した場所でもあります。今回、BASFの工場建設地は「年内、もしくは2020年初頭に決定する予定でまだ本決まりではない」とされてはいますが、相次ぐ大規模な投資が舞い込むことに対して、州の行政幹部が興奮気味に喜ぶコメントなどが伝えられています。

BASFのグローバルウェブサイト

欧州委員会が総額32億ユーロの助成を承認

BASFの新工場建設の報道とほぼ時を同じくして、EUの政策執行機関である「欧州委員会」が、電気自動車用電池開発に向けた欧州の企業コンソーシアムに対して、加盟7カ国が最大で総額32億ユーロ(約3856億円)を助成する計画を承認したことを発表しました。

このコンソーシアムでは、電解液を用いたリチウムイオン電池の技術開発とともに、固体電解質を使う全固体電池技術開発にも取り組むとされており、ドイツからBASFやBMWなどが参加。欧州全体で17社程度が参加し、70社以上が協業という形式で関与するとされています。

BASFが進めているフィンランドやドイツ国内での電池工場建設にも、この欧州委員会の助成金投入が承認されたことも発表されています。

電池供給をアジア企業に依存する現状の是正を目指す

欧州委員会の助成金承認を伝える報道では、EUが電池の生産や技術開発に力を入れる理由として「欧州が電気自動車用の電池をアジア企業に依存している現状を是正すること」を目指していることが示されています。

『フォルクスワーゲンの大規模電池工場 ~ 年間50万台分』『フォルクスワーゲンが「電気自動車は未来!」と宣言』でお伝えしたように、ドイツではすでにフォルクスワーゲンが電動化への明確な意欲とビジョンを示し、大規模な電池工場の建設を進めています。

数年のうちに、ドイツを中心とした欧州企業が、電気自動車用リチウムイオン電池生産でかなりのシェアを獲得するようになることは間違いないでしょう。

振り返って日本国内を見ると、2018年7月にエリーパワーという新興バッテリーメーカーが滋賀県に新工場建設を発表、また2018年10月に東芝が162億円を投じてリチウムイオン電池『SCiB』の工場を新設することを発表しました。とはいえ、すでに1年以上前のこと。エリーパワーの主力は定置型の蓄電システムですし、東芝の『SCiB』はとても優れた電池ではあるものの、エネルギー密度が低い(大きくて重くなる)短所があり、電気自動車用電池として主流とはいえません。

2019年1月には、トヨタ自動車とパナソニックが電気自動車用電池生産の合弁会社設立に合意したことを発表しましたが、工場については「兵庫県内や中国・大連などにある工場を傘下に収める(テスラ向けの電池工場は含まない)」とされており、大規模な生産能力拡大や、新工場建設といったニュースは聞こえてきません。

このあたり、欧州委員会が助成を決定したように、国としての意思が大切な鍵を握っていて、企業の経営判断を左右するのでしょう。1ユーザーの我々がやきもきして愚痴ってみてもどうにもならないこととわかってはいるのですが。。。

脱炭素、そしてモビリティの電動化に対して、欧州と日本の大きな温度差を感じざるを得ないニュースが連発しています。

頑張れ、ニッポン!

※ 1ユーロは120.65円(12/10現在)で換算。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 日本のLIB企業は技術で先頭を走りながら、業績は赤字。国の電動化方針も先細りのため、大規模投資も出来ないでいる。その間、優秀な電池技術者は海外に流出し、中国や欧州でのLIB電池工場立ち上げの主役になっている。地球規模で見れば好ましいことではあるが、国益にはなっていないことを政治はどう考えているのか。

    1. 僕も小関さんと同じこと考えてます。日本の電気自動車は世界に先行していましたが(世界初の量産電気自動車が三菱アイミーブ)リチウムイオン電池開発の遅れが元であまり売れず苦境に立たされているのは判らんでもないです。
      どうみても政財官の対応の遅れといか言いようがないですが、多くの日本人が望んでいるのは結果しにくい電池の開発でしょうか!?
      若者が電気自動車に乗らないのは価格もさることながらスマホタブレットの電池劣化の速さが元で警戒してるんです。日産リーフ初期型の電池劣化の速さが口コミで伝わって余計に売れにくくなったのもありますし。
      アイミーブMタイプのように劣化が遅い電池をもっと普及させるべきじゃないですか!?登録後7年半の実車もバンバン急速充電かけたところで容量は目減りしてませんし。
      もうひとつは基礎充電体制の遅れ。一戸建なら200V充電コンセントも廉価で取付可能だし賃貸アパートでも駐車場が隣にあれば速度は遅くとも長いケーブルで100V充電可能ですが、駐車場が敷地から離れている場合はそうはいかず基礎充電できないというのも痛手。電気自動車が売れないからリチウムイオン電池も売れず開発も滞る悪循環だと思います。
      それだから自宅充電環境の充実から国策で手を打つべきじゃないかと。今からでも遅くはないし、ある程度予算補助があれば工場融資投資よりも費用対効果も大きいんじゃないでしょうか!?(もうここに書かれていることでもありますが)。

      最近YouTuberとしてこれら問題を発信しています、興味がありましたらヒラタツで検索くださいませ。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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