フォルクスワーゲンが「電気自動車は未来!」と宣言

ドイツで開幕したフランクフルトモーターショーでフォルクスワーゲンの電気自動車『ID.3』が発表されました。それとは別に、グローバルのニュースサイトで『E-Mobility is the future』と題した気になる記事が公開されました。日本ではトヨタも6月に説明会を開いて電気自動車への向き合い方を示しましたが、フォルクスワーゲンはより具体的&現実的に、モビリティの電動化に取り組んでいる印象です。

フォルクスワーゲンが「電気自動車は未来!」と宣言

自動車の未来はe-モビリティにある!

『ID.3』(別記事で詳しく紹介しています)が発表されたその日、フォルクスワーゲンのウェブサイトに『E-Mobility is the future』と題した記事が公開されました。はたして、フォルクスワーゲンは電気自動車とどんな風に向き合っていくのかを示す内容です。そのポイントをご紹介します。

なぜ、e-モビリティが必要なのか?

この記事は「フォルクスワーゲンは他のどの自動車メーカーよりも一貫してeモビリティを推進し続けている」そして「ID.3 を発表したフランクフルトモーターショーはモビリティの新時代の幕開けであり、e-モビリティ大衆化の始まりだ」という力強い言葉で始まります。

なぜ、e-モビリティ(自動車の電動化)が必要なのか? 地球温暖化はますます深刻になっていて、全世界の温室効果ガス排出量の14%を占める輸送部門も問題となっている。CO2排出量を削減し、クリーンで効率的な方法が「e-モビリティ」であることを明言しています。

2025年までに年間最大300万台の電気自動車を販売

電気自動車はフォルクスワーゲングループが考えるe-モビリティの中核であり、2025年までに年間最大300万台の電気自動車を製造および販売する予定。50車種の純粋な電気自動車(BEV)と、PHEVを含めて70車種以上の新しい電動モデルを市場に投入します。

魅力的なモデルを手頃な価格で市場に提供することで「電気自動車市場に世界的なブレークスルーを起こす」ことを宣言しています。

モジュラー電気駆動マトリックス(MEB)が量産の鍵

フォルクスワーゲンでは、電気自動車用の共通プラットフォームとして「モジュラー電気駆動マトリックス(The modular electric drive matrix=MEB)」を開発。今回の ID.3 から使われています。コンパクトカーからSUVまで、多様な車種の電気自動車をコストパフォーマンス高く提供するために、このMEBが重要な役割を果たします。

また、プレミアムセグメントの車種のためには、アウディやポルシェブランドで開発された「Premium Platform Electric(PPE)」が使われます。

フォルクスワーゲンでは、2028年までにMEBをベースにした最大1500万台の電気自動車を世界中で生産することを目指しています。

全世界で電動化戦略を推進

MEBによる電動化戦略は2020年までに世界3大陸の8カ所の拠点で展開。グループ内のさまざまなブランドでも取り組みを進めていきます。アウディの『e-tron』(日本未発売)やこれから発表される12車種のBEV、また先日発表されたポルシェ『Taycan』も、フォルクスワーゲングループの電動化戦略のひとつです。

電気自動車のブレークスルーはいつ起きるのか?

はたして、電気自動車普及はいつブレイクするのか。その疑問に対して、この記事ではまず「電気自動車の価格」に言及。IDシリーズの最初のモデルが市場に投入される2020年には、手頃な価格で電気自動車が手に入るようになると指摘しています。

また、電気自動車普及には充電インフラが重要である点を指摘。フォルクスワーゲングループとして充電インフラの拡張を推進し、2025年までにヨーロッパ全体で合計3万6000カ所の充電施設を構築、うち1万1000カ所はフォルクスワーゲンブランドだけが使用できる施設になることを示しています。

フォルクスワーゲングループは、欧州の急速充電ネットワークを構築するBMWグループなどとの合弁事業「IONIYTY(アイオニティ)」にも参画しています。

ノースボルト社とバッテリー生産の合弁会社を設立

フォルクスワーゲンの動きが興味深いのは、モビリティ電動化への動きが「宣言」だけ先走っているのではなく、さまざまな具体的なアクションが同時進行的に起こっている点です。

ID.3 を発表し『E-Mobility is the future』を公開したのと同じ9月9日には、スウェーデンのノースボルト社とEV用バッテリー生産の合弁会社を設立したことも発表されました。

フォルクスワーゲンとノースボルトが50/50の出資で合弁会社を設立。2020年にドイツ中部のザルツギッター(ニーダーザクセン州)で工場建設を開始します。生産開始は2023年末〜2024年初頭になる計画で、稼働当初の年間出力は16GWhが予定されています。

ID.3のメイン車種のバッテリー容量が58kWhと発表されましたから、16GWhで約27万6000台分のバッテリーを生産できることになります。かなり大規模なバッテリー工場ですね。

とはいえ「2025年にはフォルクスワーゲングループだけでも150GWh以上の年間需要がある」ということで、今回の合弁会社設立はバッテリー調達がアジア(中国)に偏りすぎないようにするための一手なのでしょう。

フォルクスワーゲンは電気自動車に本気です。電気自動車普及のブレークスルーはいつ起きるのか? その答えは……「今でしょ」ということなのかも知れません。

(寄本好則)

この記事のコメント(新着順)10件

  1. BEVは「電力消費の最終段階でのCO2排出ゼロ」という特性があるので手段として有用なものだと思います。我が家では10kwの太陽光パネルでBEVを含む総消費電力の約3倍の発電をし、余剰電力は売電しています。今後はBEVを増やして充電電池として常時繋いで置けるようにしたいと考えています。売電は巡り巡ってCO2の排出や原発廃棄物の削減に繋がるのではとも思います。
    BEVもHVも手段であって目的ではありません。手段をどう生かすかは人間にかかっているのだと思います。火力依存が高く送電インフラが未整備な国などでは太陽光+BEVが有用な手段になるかもしれません。(太陽光パネルとBEVの製造・廃棄でのCO2はどうなるんだ?と言われるとちょっと困りますが)
    CO2削減を考えるなら節電や電気設備の高効率化に注力すべきでしょうし森林破壊やエネルギー依存の高い生活の見直しも必要だと思います。
    こちらのブログがEVの可能性を周知するのにご尽力されているという点で尊敬しながら拝読しています。

    1. Hatusetudenn様、コメントありがとうございます!いつもお読みいただき感謝いたします。

      >太陽光パネルとBEVの製造・廃棄でのCO2
      これ気になりますよね。パネルは結構長く使えるので何とかなるとして、BEVの製造・廃棄についてはあまり確実なデータがないように思っています。
      https://www.ucsusa.org/clean-vehicles/electric-vehicles/life-cycle-ev-emissions
      https://theicct.org/sites/default/files/publications/EV-life-cycle-GHG_ICCT-Briefing_09022018_vF.pdf
      一応このあたりが最も科学的な論文ではあるのですが、化石燃料チームからは電池を一回途中で交換したり、電力グリッドを火力発電のみにしたりして工夫した論文もいろいろ出ています(汗
      特にBEVはバッテリーのサイズにより、製造時CO2排出が結構あるのですが、この製造に使用する電力を再生可能エネルギーにすると、そもそもの製造時CO2は約半分になります。
      https://www.mdpi.com/2313-0105/5/1/23/pdf
      # スウェーデン工場と中国工場の比較を見てみてください
      これから再生可能エネルギーを使用した工場(純粋に自家発電じゃないとしても)が増えてくるのではないかと思いますし、特にテスラや欧州メーカーはこのあたりを気にしていると思います。
      逆に日本の自動車メーカーは中国バッテリーを気にしているようですが、製造時排出を考えなくていいのかな、、とも感じます。また新しい情報があれば、お知らせしたいと思います。

  2. 返信、ありがとうございます。

    発電ミックスの課題について
    >大事なのはここからです。……

    と言われますが、すみません、やはり詭弁に聞こえてしまいます。上市された製品の性能について、条件付きで実現する性能を前面に出して宣伝するなんて私には考えられません。しかも、その条件の達成時期が全く不明確であり具体的な流れも説明しない。顧客自身で脱炭素発電システムを構築しようとすれば、それに適した住環境が求められ、さらなるコスト負担も発生します。BEV導入のみに環境負荷軽減の命題を負わせるのは論理的とは言い難いです。何度も言うようで恐縮ですが、BEVを真にゼロエミッションとするには発電インフラの低炭素化がセットでなければいけません。

    ICE車(内燃機関)を売るときに燃費はセールストークとして常識になっていますが、BEVについても表示しないと、従来のセールストークであるBEVはゼロエミッションと、実際の環境負荷が矛盾します。ユーザーを恣意的に騙し、売らんかなの姿勢がありありです。騙すは言い過ぎとしても、その辺りを突っ込まれて、走行中のBEVの環境負荷が一体どれくらいになるのかを説明できる人はそう多くはないのではないですか?ディーラーの営業マンだって怪しいです。私の経験上そうした情報をプレゼンされたことも、発言も聞いたことがありません。
    聞かれない事は言わない、は確かに嘘は言っていないでしょうが、不誠実です。日産がBEVを販売しているのには、経営陣や生産現場における不正に現れているように、本質的な問題が通底しているのかも知れない、などと邪推してしまいます。

    やはり、BEVを推進され情報発信されている方々はその責任において、BEVの環境負荷は条件付きでゼロエミッションである、電源構成によってはICE車と同じになる場合がある、ということを合わせて周知すべきです。
    加えて、政府や自治体に提言をしないといけないと思います。再生可能エネルギーを電源とした低炭素グリッド構築をする政策を実現するための具体的行動を取らなければならないでしょう。
    挑発的な物言いになりますが…本当にBEVを環境負荷軽減の必要因子と考えるなら、原子力発電の再稼働も辞さず、という構えで情報発信されたらいかがですか?日本にはインフラはすでに整っています。化石燃料輸入による財政圧迫を解消し、低コスト低環境負荷の原子力発電を復活させて時を稼ぎ、浮いた財源を原資にして再生可能エネルギーの普及を進めていく、という政策青写真を描くことも可能ではないでしょうか。
    今のBEVの上市、普及状況を見ていると、日本の再生可能エネルギーの普及は全く間に合いません。速度的に原子力再稼働が現実的です。

    こちらのblogにはそうした記事があるようには思えません。本当に低炭素社会を実現したいと思うなら、電源構成の低炭素化を第一の課題もしくは、平行して取り組まなければ、BEV普及は本質を捉えた活動にはなり得ないのではないでしょうか。
    私の問題意識はそこにあります。BEVの新製品やバッテリー技術の発展についてのレポートを読むのは楽しいですが、それらの技術がもたらす未来が私たちの意図するものなのかの現在地と方向性の確認は絶えず必要です。

    御社は事業コンセプトをどこにおいていらっしゃいますか?BEVの普及ですか?低炭素社会の実現ですか?
    低炭素社会の実現とするなら、電源インフラの低炭素化をゆっくり進めているうちに、リッター15kmほどしかないBEVが、電動化ICE車に劣る電費のBEVが大量に普及した時、結局、日本(電源構成の質が悪い国インド中国マレーシアインドネシアオーストラリア)においてはPHVやHVの方が低炭素じゃないか!なんていう未来が来ませんか?

    反論ばかり言って申し訳ないのですが、BEVの環境負荷についてはやはり言わずにはおれません。特にBEVを推進する方は、BEVの良い点を言うことに重点を置いていることが多く、欠点については未来の技術発展やインフラ整備を待つという姿勢がほとんどです。意図的に言われない人すらいます。私も最初は欠点の解消には時間がかかるし、そういうものだよな、待つしかないと思っていましたが、実際のBEVの環境負荷と、推進派の現実を周知させようとしない態度を知ると、これまでのコメントに挙げたように黙っていられなくなりました。

    技術に対して謙虚であるというのは、ありのままに利点と欠点を見るということだと思います。(このblogを揶揄するわけではないです…)自らの利益のためにポジショントークを展開し現実を歪める評価を与え喧伝することは、結果、良い未来を得られるとは思えません。昔に原子力発電を夢の技術、と言っていた大阪万博が白々しく見えるのは、福島やチェルノブイリ、スリーマイルの惨状を知る現代人だからこそ持てる視点です。BEVがそうした技術にならないように、普及の進め方は間違ってはならないと思います。

    1. morita3様、コメントありがとうございます。将来、温室効果ガス排出削減が非常に難しい化石燃料車と、発電ミックス次第で削減が可能な電気自動車について、そもそも弊社はゼロエミッションとも申し上げておりませんし、実際に発電ミックスが現状の日本において、排出量の計算も行っています。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/electric-vehicle-eco/
      これをご覧いただいてもお分かりいただけるように、プリウスでやっとリーフとほぼ同等以上。軽自動車の大半はリーフよりも排出が多く、それより大きなカムリやクラウンクラスの大型車両、SUVなどにおいては電気自動車の排出は三分の一しかありません。

      そういう意味で、電気自動車が温室効果ガス削減の解であることは明らかですよね!

      販売にあたって正しい情報の伝え方をせよ、というのはメーカー様にお伝えいただくべき内容であり、当メディアは読者の方々に上記のような記事を通し、正しい事実に基づいた情報をお伝えしていくのが役割です。現時点で、morita3様の議論は当メディアとしても対処のしようのない課題ということはお分かりいただけると思いますし、今後当トピックについては、他の方に対して利益をもたらすものでもないため、これくらいにしていただけると助かります。

      もう一度、ご自身のご発言を読み返され、今後は事実とデータに基づいてご発言いただけますようお願い申し上げます。

  3. 返信ありがとうございます。さらに突っ込んだ質問させてください^_^

    石炭火力の比率が高い中国(7割)、インド(ほぼ9割)、オーストラリア(6割以上、天然ガス火力も含めると8割)で大容量BEVを走らせるとその電費は、従来のセダン ガソリン車でリッター11〜15km相当になることを先のコメントで挙げました。

    この事実は、当初から謳われていたBEVの環境性能(走行中はゼロエミッション)について恣意的な誘導があるとしか思えないのですが、EVを推進する方々はこの事を言われません。なぜでしょうか?BEVそのものが走行上環境負荷ゼロというのも、前提をすっ飛ばしている宣伝文句なので、誤解が生まれる余地があり考えものです。お立場上、不都合な事実ではありますが、現状のEVの環境負荷は電源の質という前提条件を踏まえると場合によっては限定的な事もある、ということを正直に話していただく方が信頼できます。

    環境に貢献できると思っていたのに、実はその地域では石炭火力によるいわゆる汚い電気が主に作られていて、その電気を使って自分のBEVが走った結果、むしろ化石燃料車と比べて燃費が悪い、環境に悪い、なんてことはユーザーからすれば裏切りに近い感覚なのではないでしょうか。また、原発による発電なら放射性廃棄物をどう処理するのか、という問題も見過ごせないと思います。フランスは8割以上が原発です。

    そこまで考えなしのBEVユーザーはいない、と言うならば、余計に地域別電源構成による環境負荷の数値を、電気自動車メーカーは出すべきだと思います。
    「BEVは走行中はゼロエミッション」と喧伝しておきながら、こうした事実が一方にあると、欺瞞を含んだ宣伝文句に聞こえます。ポジショントークが酷いです。走行中のゼロエミッションをことさらアピールするのはやめてもらって「BEVは再生可能エネルギーのきれいな電気を使ってこそゼロエミッションである」ということをもっと言ってもらいたいです。メーカー、ディーラー、EV推進の立場の方は、BEVユーザーに地域の電源構成を伝え電費により環境負荷がどれほどになるのかを伝えて欲しいです。PHVやHVと比べてどうかという話にもつながるので重要だと思います。

    すいません、最後にもう一点お聞きします。
    発電所から送られた電気がBEVの動力として消費されるまでに発生するロス、というのはどれくらいの割合なのかデータはありますか?発電後の「送電、変圧(充電のため昇圧)、充電、時間経過による自然放電、夏冬での温度コントロールと内部抵抗増大による出力減」これらのロスは直接電費に効いてくるBEV特有の現象であり、化石燃料車で言えば走っていないのにガソリンが勝手に目減りするようなものです。
    最低限のデータでも良いのでロス率を出して欲しいです。

    EVを推進する立場の人は未来の技術発展に大きな期待をかけています。私も低炭素発電による供給を受けれるならBEVはとても魅力的と思っています。現状の事実も踏まえて誠実に情報を提供していただけると公平に化石燃料車と比較ができます。車を選ぶのに有効な知見の提供を切に希望します。

    1. morita3様、コメントありがとうございます。
      二点、お答えしますね。まずは発電ミックスの課題です。ほとんどの化石燃料車の実質燃費は15km/l未満でして、仰るような石炭火力中心の発電ミックスの地域では、化石燃料車と電気自動車の排出は同等となります。
      大事なのはここからです。化石燃料車の排出は、自動車の燃費が改善するにつれ、「僅かずつ」改善します。しかし、電気自動車の排出はどうでしょう。発電ミックスは毎年、再生可能エネルギーの増加により改善されていますし、さらに改善させるポテンシャルがあるのです。絶対的に、排出は減らさなければなりません。その目的を達成する必要条件として、十分条件ではないけれども電気自動車という選択をせざるを得ない、のです。

      二点目は送電効率の問題ですね。恐らく10%とかではないでしょうか。
      ちなみにガソリンはロスがないのですか??それは違います。製油所でガソリンは作られますが、それは小分けにされタンクローリーに詰められます。その後タンクローリーは道路を走ってガソリンスタンドまで移動します。ガソリンはその後タンクに移されますが、必要に応じてポンプを通じて給油されて車のタンクに届きます。
      この間、タンクローリーの燃料、ガソリンスタンドの照明やポンプに使用する電力などがロスになるわけです。またタンクローリーは人が運転していますが、この人が運転している時間に排出される温室効果ガスもロスにカウントする必要があります。電気のように電線と変換ロスだけ計算すればいいわけじゃないのですよね。

  4. 以下は、F1に参戦しているチーム、トロロッソの代表フランツ・ トスト氏のインタビューからの抜粋です。
    トロロッソへはホンダがパワーユニット(エンジン、ハイブリッドシステム、ターボなどパワートレインとその周辺機器を含めた総称)を供給して、F1を戦っています。

    BEVについて興味深い発言をされています。

    以下、T:フランツ・トスト氏、F:フェルディナンド山口氏(モータージャーナリスト)
    インタビュー記事: https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00105/00059/?P=4

    抜粋ここから
    T:ホンダはレースのことを分かっています。Sakura(読み:さくら、@栃木、ホンダの研究施設、パワーユニットの開発を行っている)とMilton Keynes(ミルトンキーンズ@イギリス、F1に帯同しているホンダスタッフの本拠地)は非常にいいスタッフが揃っています。
    ですが足りない部分もある。それはホンダが長い間F1から離れていたことからきています。非常に大きな問題です。

    F:途中で何度もやめていますからね。今は俗に言う第4期ですか。

    T:F1は1年ごとの進歩がとても大きいレースです。そこから何年も抜けているのは、非常に大きなディスアドバンテージです。さらに今のF1の最先端テクノロジーは、以前ホンダがやっていた時とは何もかも違っています。単なる自然吸気のV8だったのが、今はターボエンジンに、2つのエナジー・リカバリー・システム(運動エネルギー回生システムと熱エネルギー回生システム。運動、熱エネルギーを元に発電しバッテリーに蓄える)があってバッテリーを積むシステムになっています。
    以前とは全く何もかも異なる技術になっているのです。
    そして今のF1の技術は、これから5年、10年先の自動車業界にとって、本当に「使える技術」になるのだと思っています。今のF1の技術は、これから先の自動車の主流であるべきシステムです。

    F:今のF1技術が、5年10年先の市販車の主流技術になると。特別なスポーツカーではなく?

    T:ええ。私はそう思います。なぜか。EVはエネルギーを調達するのが非常に難しいし、実はトータルで見るとエネルギーコストも高いからです。どこからどうやって電気を調達してくるかという問題もある。製造コストから見ても、エレクトリックカーは現実的ではないと考えます。

    F:おっしゃっているのは、BEVのことですね。Battery Electric Vehicle。

    今のF1技術は量産車につながっていく
    T:そうです。現在のF1の技術を5年先、10年先の量産車に適用できれば、コストに優れた、例えば1リッターで100キロ走った上にバッテリーも充電して家に帰って来られるようなクルマが開発できるようになるのです。ハイブリッドでF1に参戦する。それは量産車メーカーのホンダにとって、大変大きなベネフィットがあることだと思います。

    F:今のF1の技術が量産車にも転用されていくと。F1と量産車は完全に別物だと思っていました。

    T:現段階では完全に別物です。ですが一度うまく移植する方法を見つければ、確実に広がっていくものだと思います。パワーばかりが注目されますが、今のF1の技術は、本当に素晴らしいものなんです。
    抜粋ここまで

    今のF1のレギュレーションでは、レース中の給油が禁止されています。燃費と高出力そして信頼性、という相反する性能を高次元であわせ持たなければ勝つことは難しいレースの世界で、ホンダは今期、同じくパワーユニットを供給しているレッドブルで、2勝を挙げました。

    こうした技術の蓄積が市販車両に水平展開されていく未来を、レース現場の人たちは今、目の当たりにしているわけです。

    電気を作り出すエネルギー調達の難しさとそれら全体のコスト高。1台のBEVを動かすための環境負荷は化石燃料車のそれと比べて思いの外少なくないという現実。BEV自体の製造コストの高さ。
    これらBEVの課題を挙げられた後従来のPHVを想定した、ガソリン1Lで100km走る低コスト車、という未来についても言及されています。

    BEVが全盛になり化石燃料車は駆逐されるという、ビジネス上のカタストロフィを夢想するのはやはり軽率というものでしょう。1つの技術の発展が周辺技術の発展につながっていき、それぞれが補完し合う形で適技適所で利用されていくものと思います。

    1. morita3様、コメントありがとうございます。ただレースと、現実の市販車では全く経済原理も、理論的背景も違うと思います。関連性ありそうなところだけコメントしますね。

      >電気を作り出すエネルギー調達の難しさとそれら全体のコスト高
      電気は比較的ローコストで作り出せます。実際に、電気自動車とハイブリッド車では、電気自動車のほうがより少ない
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/electric-vehicle-eco/
      のです。排出量=CO2の量=より少ない化石燃料を使用しているのです。

      >1台のBEVを動かすための環境負荷は化石燃料車のそれと比べて思いの外少なくないという現実。
      具体的なソースを挙げていただけますでしょうか?上のURLを見ていただけるとお分かりいただけるように小型車でもほぼ同一か電気自動車のほうが環境負荷は低く、大型乗用車ではその差は3倍にも及びます。

      >BEV自体の製造コストの高さ。
      https://blog.evsmart.net/ev-news/electric-vehicles-cost-parity-in-2022/
      BNEFは、2022年にはBEVのほうがガソリン車より同等性能・サイズなら安くなると言っています。

    2. 両方とも記事を読ませていただきました。ありがとございます。

      でも、やはり釈然としないところがあります。
      私の現時点でのテスラに代表される大容量バッテリーを積んだBEVの評価は、適車適所で運用されるべき、というものです。
      BEVが今の化石燃料車並みに使用されるようになる為には、発電インフラの低炭素化、充電施設の充実、重量低減によるエネルギー効率改善、車両価格の低減、など越えるべきハードルが多いです。

      レポートで疑問に思った点は

      ⒈日本の電源構成を前提としている
      ⒉電気の発電、送電、充電時の変圧、バッテリーや大気温度によるロス
      ⒊原子力廃棄物のエミッション評価と処理

      ⒈は石炭発電の比率の高い国や地域の場合は、BEVの環境負荷は化石燃料車のそれと大差なくなるか、高くなるのではないですか。
      インドやオーストラリア、中国は石炭火力が主です。アメリカのカンザス州でも火力発電が主で、BEVはリッター11から15kmほどの化石燃料車と同じ環境負荷になります。

      ⒉はそのままです。発電所でのエミッションはそうですが、電気は、ガソリンと違いBEVが走るまでの各段階で損失が出ます。これを考慮に入れないのは疑問です。

      ⒊原子力発電を主とするフランスでの場合は、使用済み核燃料の処分についてもコストや環境負荷がかかりますが、この点についても考慮に入れないのは疑問です。

      私は、BEVはエンドユーザーのツールとしてだけの見方をしていると評価を誤ると思っています。化石燃料車と比べるということが非合理なのです。
      発電方法も含めたシステムとして評価しないと、問題が顕在化した時点で後悔することになるのでは?と思っています。

      BEVの性能と技術のモダンさは、素晴らしいと思います。その点に感動して、BEVを押す人たちは多いですし、私もそう思います。20年もすれば、BEVが街中を走り回る風景が日常になるでしょう。

      しかし、車として化石燃料車と比べては本質を見誤ると思うのです。発電インフラの構成や電気特性の問題は、BEV自身の改善が進んでも(コストが下がったり、バッテリーの改善、充電インフラの充実)依然として残ります。

      再生可能エネルギーを利用できる地域は限られているし、日本においては先日の千葉県の台風被害もありました。その度に発電インフラが停止、再投資ということになれば、結局はコスト高になってしまいます。

      発電インフラを含めてBEVの運用を考えて、総合的に低コスト、低エミッションが達成されないと、持続的に発展していく技術にならないのではと考えます。

    3. morita3様、コメントありがとうございます!おっしゃる点、これはもちろん正しいと思います。それを少しずつ改善する方向で業界は進んでいると認識しています。なぜなら、このままでは温室効果ガスの低減ができないからです。ガソリン車ベースではどうやっても、燃費を倍にする(=温室効果ガスを半減する、ってことです)のは難しいです。電気自動車と低炭素電源が必要というのが今の政府や各国の認識だと思います。

      >発電インフラの低炭素化
      これは当然進めるべきです。日本はかなり遅れていますが、他の各国は再生可能エネルギー比率を毎年高める努力をしています。

      >充電施設の充実
      これは日本国内ではだいぶん増えてきました。私は完全電気自動車で毎日通勤し、旅行や片道350km程度の出張などはすべて電気自動車で移動していますが、特に不便に感じることもなくなってきました。

      >重量低減によるエネルギー効率改善
      これ、化石燃料車を作ってきた方は常におっしゃるんですよね。実は電気自動車は重いのですが、エネルギー効率はすでに高いのです。もちろん軽いほうがストップアンドゴーの多い都市部での電費の改善ができますので軽くすべきで、その点合意です。

      >車両価格の低減
      これは、着々と進んでいます。日産リーフも価格を大きくは変更せずに24kWh-30kWh-40kWh-62kWhとバッテリーを増やしてきました。実質の値下げです。またテスラも2000万前後-1000万前後-500万前後、と下げてきています。フォルクスワーゲンはさらに低価格な電気自動車を示唆していますし、NKMVは軽自動車のEVを計画しています。
      https://blog.evsmart.net/ev-news/electric-vehicles-cost-parity-in-2022/
      こういう予測も発表されています。この会社、以前は2025年と予測していたのを、3年早めています。

      発電インフラのコストについても言及されていますね。
      誤解を恐れず発言するなら、コストはどうでもいいのです。温室効果ガスを削減するために、二酸化炭素をわざわざキャプチャーする技術まで開発しています。コスト増にどんどんつながります。
      それでも温室効果ガスは削減しなければならない、と識者は考えているようですよ。もちろん全然話にならないのではしょうがないですが、ある程度のインフラコストが、初期的にかかることは許容されていると考えています。継続的なコスト増になるのは良くないと思いますので、原子力については各国、少しネガティブな方向に行っていると思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事